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エッチな騎士の成り上がり
- 辺境乱乳編21 -

絶体絶命だった。

どうあがいても、言い逃れはできない。

アーボイン長官がにやりと笑った。

まるで地獄から舞い戻ったばかりのような、
不気味な笑みだった。

こうなることを待っていたのだと、
言わんばかりの悪辣な微笑みだった。

アーボイン「ふ……ふふふ……」

アーボイン長官は、ようやく手に入れたいものが
手に入ったといわんばかりの笑みを浮かべた。

アーボイン「わ、わ、わしは、見……」

わしは見たぞ。

おまえらが睦み合う現場をな。

そう言いたかったに違いない。

だが、そう言いかけたきり------

長官は倒れてしまった。

それっきり動かない。

おれもロクサーヌも息を呑んで見つめていたが、
うんともすんとも言わない。

そのうち、凍結の魔法がとけてきた。

なんだか、妙だなという気がする。

リュート「長官……?」

アーボイン「------」

返事はなかった。

いったいどうしたのか。

リュート「長官------」

近づいた途端、

マドワーズ「アーボイン様!」

茂みに潜んでいたマドワーズが飛び出してきた。

マドワーズ「アーボイン様!アーボイン様!しっかり!」

身体を揺らすが、
まるで人形みたいに腕も首もだらんとして反応がない。

マドワーズ「ひっ!ま、まさか、死------」

ロクサーヌ「早く城に運んで」

着替えを済ませたロクサーヌが、
動じている家令に命令を発した。

ロクサーヌ「何をしてるの、マドワーズ!早く!」

マドワーズ「は、はい、奥方様!」

ロクサーヌ「リュート殿!今からあなたが長官代理です。頼みます」

リュート「は、はい!」

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急遽、長官が寝室に運び込まれ、医者も呼び寄せられた。

城内は大騒ぎになった。

だが------医者は首を横に振っただけだった。

回復の見込みなし。

もはや、どうにもならなかった。

マドワーズは、終始ビクビクしていた。

長官の部屋にいる間も、しょっちゅうそこら中を見ていた。
時々、机の方を気にしている。

何を気にしているのか。

長官のことが心配ではないのか。

おれの胸も平穏ではなかった。

最大の危機を逃れたのはいいが、
果たして長官は大丈夫なのか。このまま死んでしまうのか。

いきなりロクサーヌから長官代理を言い渡されてしまったが、
果たしてうまくやっていけるのか。

不安な中、
ようやく落ち着いたのは夜になってからのことだった。

マドワーズ「あっ」

リュート「何?」

マドワーズ「い、いや……まだリュート殿いらっしゃったんですか」

リュート「うん……目を覚ますかなと思って」

マドワーズ「あっしが面倒を見やすよ」

リュート「うん……もう少しここにいるよ」

マドワーズ「お疲れになったでしょ。あっしがやりますよ」

リュート「いや……ここにいてあげたいんだ。
     倒れたの、おれの責任だから」

マドワーズ「い、いえ、そこまで背負わなくても……」

リュート「ありがとう」

マドワーズ「本当にあっしが------」

リュート「平気。その気持ちだけで充分だよ」

マドワーズ「そ、そうですか……。じゃ、じゃあ」

マドワーズは長官の部屋を出ていった。

いつになく、粘る感じだった。
何か、探しにでも来たのだろうか……?

また、扉が開いていた。

リュート「なんだい、マドワ------」

入ってきたのは、ロクサーヌだった。

ロクサーヌ「あの人は?」

リュート「いえ。いまだに」

ずっとそばにいたおれは、低い声で答えた。

ロクサーヌが色々と城内の者に指示を与えている間も、
おれは長官のそばにいたのだ。

ロクサーヌ「きっとこの人、覗いていたのね。マドワーズといっしょに」

リュート「------」

ロクサーヌ「あなたをけしかけて、
      浮気の現場を見るつもりだったんだわ」

リュート「どうしてそんな------」

ロクサーヌ「この人、別の人がいたの」

リュート「別の人?」

ロクサーヌの言葉でおれは理解した。

長官は、別の女と浮気をしていたのだ。

ロクサーヌ「その子と結婚したかったのでしょうね。
      わたしも、離婚を迫られたけど、わたしにだって、
      下級貴族の娘としてのプライドがあります」

リュート「……」

ロクサーヌ「首は振らなかった。だから、この人、わたしに浮気させて、
      わたしを処刑しようとしたのよ」

リュート「……」

ロクサーヌ「この人の考えそうなことだわ。たいした才覚もないのに、
      いつか王都に戻ることを夢見て、余計なことばかり考えて」

おれは黙っていた。

おれと同じく騎士学校を最下位で卒業して、
この希望のない田舎に流された人。

やっと数年前にロクサーヌとの結婚を手に入れた中年の男。

哀れと言えば、哀れなのかもしれない。

おれを罠にはめようとしていたのも、
おれを利用しようとしたのも事実なのだろうけど、
だからといって憎む気にはなれない。

ロクサーヌ「ボーアンには大きな胸を好きな人が少なくて、
      わたし、ずっとつらい思いをしていたの」

ロクサーヌが告白を始めていた。

ロクサーヌ「いつかわたしの胸を好きだって言ってくれる人が現れて、
      わたしを幸せにしてくれるんじゃないかって……」

リュート「……」

ロクサーヌ「そこにあなたが現れた」

リュート「……」

ロクサーヌ「運命の人だって思った。あなたがわたしの胸に
      興味があるのはすぐわかったし、それに……
      あなたの優しい雰囲気が、凄く気持ちよかった」

ロクサーヌ「あなたが来るまでは、わたし、
      後ろ向きのことばかり考えていて、
      自殺まで空想したりしていたから……」

リュート「ロクサーヌ様……」

ロクサーヌ「騎士学校の人ってね、みんなエリート面しているの。
      自分は凄いんだ、おれは普通の人間じゃないんだぞって
      意識ばかり強くて刺々しいの。この人も同じ」

ロクサーヌ「でも……あなたは違った。まるで気負っていなくて、
      自然体で。それが……会った時にわかったの。
      また会いたいって、思った」

リュート「……」

ロクサーヌ「それは、いけないこと?
      夫がいる者がしてはいけないこと?」

リュート「ロクサーヌ様……」

ロクサーヌ「ごめんなさい……こんな話。それも、この人の前で……」

リュート「いえ……」

ロクサーヌ「また……明日も会いに来てくれる?」

リュート「ええ」

ロクサーヌ「きっとよ」

リュート「はい」

ロクサーヌ「おやすみなさい、リュート殿」

リュート「おやすみなさい、ロクサーヌ様」

ロクサーヌは微笑むと、長官の部屋を出ていった。

<2016/09/24 19:35 RUKA>消しゴム
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