目が覚めると、
シャムシェルがすぐそばでおれを見つめていた。
シャムシェル「おはよ♪」
リュート「起きてたのか……」
シャムシェル「くす。寝ぼけた顔しちゃって」
リュート「昨日、誰かにパ〇ズリされたからな」
シャムシェル「くす。気持ちよかった?」
リュート「めちゃめちゃ気持ちよかった」
シャムシェル「くす」
シャムシェルが顔を近づけ、
シャムシェル「ちゅっ」
口づけした。
シャムシェル「内緒の話、知りたい?」
リュート「また何かつかんだのか?」
シャムシェル「聞きたい?」
リュート「うん」
シャムシェル「じゃあ、キスして」
おれは言われた通り、シャムシェルの唇に唇を押しつけた。
リュート「それで、秘密って何なんだ?」
シャムシェル「あの将軍たち、変なことを考えてるよ」
リュート「変なこと?」
リュート「おれを失脚させようって魂胆なのかな」
シャムシェル「それで済めばいいけど」
リュート「何?まさか、敵に寝返る?」
シャムシェル「リュートの命を狙ってるよ」
リュート「え?おれの?」
おれは思わず驚いてしまった。
確かにあの老将たちはおれのことが嫌いみたいだが、
そこまでするようには思えない。
宰相のベルンシュタインは別だが------。
あの人には、何か危険な薫りを感じる。
権謀術数という言葉がぴったり来てしまう。
でも、老将には、それほどいやな権謀術数の薫りがない。
おれは冗談で飛ばすことにした。
リュート「結構腹黒いじいさんたちだな。
まあ、でも、上に立てば立つほど、
腹黒さがないとやってけないしなあ」
シャムシェル「リュートは腹黒いっていうより、欲望が黒いけどね」
リュート「それはシャムシェルの方じゃない?」
シャムシェル「今夜もパ〇ズリ決定」
リュート「ははは……」
コンッコンッ!
リュート「はい」
守備兵「失礼します」
守備兵「朝食をお持ちしました」
リュート「ありがとう」
守備兵「失礼します」
シャムシェル「毎日毎日、感心なことだね~」
リュート「ボーアンにいた時は、
大広間でみんなといっしょだったもんな」
シャムシェル「スープ、食べさせてあげよっか」
リュート「じゃあ」
シャムシェル「はい、あ~んして」
リュート「あ~ん」
シャムシェル「はい」
リュート「ぱく」
シャムシェル「美味しい?」
リュート「腹黒い味がする」
シャムシェル「くすくすくす……では、司令官殿。
もっと腹黒いスープをお召しになりませ」
リュート「くすくすくす」
シャムシェル「くすくすくす」
------------------------------------------------------------------------------
朝食を終えると、ワン・コアンをはじめ、
将軍たち3人がおれの部屋に集まってきた。
つい副官の部屋に出かけようとしたら、
司令官はあなたなのですからここにいてくださいと
叱られてしまった。
ビュステンハルター城の主はおれだから、
おれの部屋で会議をするということらしい。
ワン・コアン「過去の経緯(いきさつ)を申し上げますと、
一度、トンネルを掘って城壁の下に
爆弾をしかけようとしたことがあります」
リュート「それで?」
ワン・コアン「岩盤が異常に硬くて無理でございました。
唯一やわらかい箇所を見つけて掘り進めたのですが、
敵に発見されて全滅させられました」
フェルゼン「無様だな」
ザント「包囲戦は」
ワン・コアン「それが、敵は強力な大砲を備えておりまして、
迂闊には近づけませぬ。
無理に近づいて何度大敗したことか」
ザント「こちらにも大砲はあろう」
ワン・コアン「それが、残念ながら我が国最大の距離を誇る
大砲でして、なんでも、今は亡き英雄
ワッケンハイム将軍が開発させたとか」
フェルゼン「なら、堀に毒を流し込むのはどうだ」
ワン・コアン「お堀の水はビュステンハルターの町にも
流れ込んでおりまして、毒を使えばこちら側も
相当の痛手を受けます」
フェルゼン「なんちゅうところに本拠地を構えておるのだ。
この城にはまともなところはないのか」
ワン・コアン「ありませぬ。ここを撤退すればビュステンハルターも
敵の勢力下に入ります。となれば、一気に後退を
余儀なくされます」
フェルゼンはやれやれとばかりに首を振った。
フェルゼン「武器庫はどうなっておる」
ワン・コアン「空っぽでございます。この間、前司令官が
夜襲をかけまして、一気に大砲で迫ったのですが、
ただ砲弾を使い果たしただけで、ご自身も戦死されました」
フェルゼン「あんな馬鹿を司令官に据えるからだ」
ザント「まったくだ」
ワン・コアン「策はないというのが正直なところです。
拱手傍観(きょうしゅぼうかん)するしかございませんな」
ザント「黙って手を拱(こまね)いておれというのか?
それでは、我らの誇りはどうなる!?」
ワン・コアン「誇りの問題ではありません」
ザント「誇りこそ、最も大切なものであろう!」
フェルゼン「死ねば誇りも意味がない。勝利あってこその誇りだ」
ザント「しかし------」
フェルゼン「ワンコインの言う通りだ。戦いには待つことも必要だ」
ワン・コアン「ぐっ……ワ、ワン・コアンでございます」
フェルゼン将軍は答えなかった。
ザント将軍は腕組みをしたまま唸った。
本人としては、一刻も早く敵地に乗り込みたいらしい。
フェルゼン「シュラム将軍は何かいい案でもあるか」
シュラム「フン。どう戦ったところで、負けるであろうて」
3人は黙った。
つまり、策はないということだ。おれはあくびを噛み殺した。
ザント「和平と称して敵将をおびき寄せて殺すのは」
フェルゼン「あの女狐が引っ掛かると思うか?」
ザント「全部条件を呑むと言ってやればよかろう」
フェルゼン「あのワッケンハイムの娘だぞ?
やつの剣の腕前を知らぬのか?
誰が剣であの女狐に敵うと思う」
リュート「ワッケンハイム将軍の跡継ぎって、女なの?」
おれは基本的なことを尋ねた。
ワン・コアン「ご子息はございません。ご令嬢が跡を継いでおられます」
リュート「剣、強いんだ」
フェルゼン「無知なやつめ。貴様なぞ、一瞬で串刺しだ」
ワン・コアン「フェルゼン様」
フェルゼン「この際だからハッキリさせておくが、
わしはこの若造を司令官などと認めてはおらぬ。
こんな馬鹿者に一軍の将が務まると思うか?」
ワン・コアン「それは……」
フェルゼン「正直に言うてみよ、ワンコイン」
ワン・コアン「ワ、ワン・コアンでございます……!」
フェルゼン「こやつは亡国の将だ。知恵も力も剣技もない。こやつの
騎士学校での成績を知っておるのか?最下位だぞ!?
そんな落ちこぼれの馬鹿者の下につけるか!」
ワン・コアン「……」
フェルゼン「貴様に一言言っておく。少しでも良心があるのならば、
即刻将軍を辞して田舎へ帰れ」
リュート「いやだって言ったら?」
ガタッ!
フェルゼン「この場で、斬る」
ざわっと場がざわめいた。
フェルゼン将軍が剣を抜いて立ち上がり、
3人がわっと離れた。真っ先に逃げたのは、
意外にもシュラム将軍だった。
フェルゼン「せめてもの情けだ。剣ぐらい抜かせてやる」
リュート「仲間うちで争っていても、
ヴンダーバルト城は落とせないと思うけど」
フェルゼン「黙れ、若造。剣でわしに勝てると思っておるのか」
リュート「いや、たぶん、おれが負ける。徒手空拳ならもっと負ける」
フェルゼン将軍は、かつて拳で有名だった人だ。
拳での殴り合いにおいては、過去負けたことがない。
フェルゼン「早く抜け!名誉の戦死にしておいてやる!」
リュート「今度にしない?
まだ偵察も行ってないから、明日にしたいんだけど」
フェルゼン「今度があるか!」
リュート「困ったなあ」
フェルゼン「軟弱者!貴様、それでも男か!」
リュート「一応、ついてるものはついてるけど」
おれはズボンを下ろして確かめてみた。
フェルゼン「でええい、馬鹿者!誰が脱げと言った!」
リュート「あれ、脱がなくていいの」
フェルゼン「当たり前だ!なんたるこの能無し!
もう我慢できぬ!一思いに叩き切ってくれる!」
フェルゼン将軍が剣を振り上げたその時、
守備兵「敵侵入~~~~~っ!」
大声が響きわたっていた。
ガチャッ!
守備兵「申し上げます!賊が侵入しました!」
ワン・コアン「賊だと!敵はいくつだ!?」
守備兵「1人です!」
フェルゼン「おのれ、白昼堂々と我が城に忍び込むとは!
わしらも出るぞ!」
4人はバタバタと部屋を出ていった。
シャムシェル「敵侵入だって」
シャムシェルがニヤニヤと笑う。
シャムシェル「ついでに悪魔侵入~♪」
リュート「もう昔から侵入してるだろ」
シャムシェル「くすくす」
シャムシェルが笑う。
シャムシェル「相変わらず悪運強いね。賊が入ってこなかったら、
あの老人に殺されてたりして」
リュート「そんな不名誉なことをあの人がするとは思えないけど」
シャムシェル「わからないよ。腹黒い一味だから」
リュート「ははは」
ガチャッ!
ドアが開いていた。
どうやら、ワン・コアンが戻ってきたらしい。
リュート「どう、侵入者は------」
おれは呆気に取られていた。
昨日町角ですれ違った女騎士------おれが助けた女騎士が1人、
おれの部屋に忍び込んでいたのだ。
女騎士「やはり、ここだったか」
女騎士はおれを見つけると、ぎろっと一睨みしてみせた。
町中で会った時とはまるで雰囲気が違う。
やはり、あの表情はお芝居だったか。
女騎士は部屋の中に一瞥をくれて、フンと鼻を鳴らした。
女騎士「ビュステンハルター城の警備も地に落ちたものだな」
リュート「元気?」
女騎士「元気だと?どういう神経をしておるのだ」
リュート「そういう神経」
女騎士「面白いやつだ」
リュート「昨日、あれから自分の家には帰れた?
また襲われたりしなかった?」
女騎士「貴様、本気で聞いているのか」
リュート「本気だけど」
女騎士「貴様は馬鹿か天才か」
リュート「好きな方を」
女騎士「……変わったやつだ」
リュート「今、賊が入ってるから気をつけた方がいいよ」
女騎士「貴様、本当にリュート・ヘンデか?」
リュート「そうだけど」
女騎士「本当に新しく赴任した司令官か」
リュート「そうだよ」
女騎士「……陛下もご乱心されたか。それとも、冗談のつもりか?」
リュート「何ぶつぶつ言ってるの」
女騎士「やはり、貴様は馬鹿だな」
リュート「ここにいると、そのうち将軍たちが戻ってきて
見つかっちゃうよ。逃げるなら早くすれば」
女騎士「その前に、自分の命を心配した方がよいのではないのか?
オレが何をしに来たと思う」
リュート「ちょっとコーヒーを飲みにだろ」
女騎士「……ククク」
女騎士が思わず笑い声を洩らしていた。
リュート「何かおかしかった?」
女騎士「殺す気が失せた。またの機会にしよう」
女騎士は窓から去っていった。
シャムシェル「ククク……リュートったら面白いんだから」
リュート「そうかな」
シャムシェル「すっとぼけちゃって。役者だね」
リュート「今の誰だったんだ?」
シャムシェル「え?本気で知らないの?」
おれはにやっと笑った。
知らないわけがない。しっかり見当はついていた。
ガチャッ!
ワン・コアン「司令官、怪しい者は来ませんでしたか?」
リュート「来たよ」
ワン・コアン「何ですと!して、その者は?」
リュート「またそのドアから出ていった」
ワン・コアン「守備兵~!守備兵~~~~っ!」
副官は声を張り上げて、おれの部屋を出ていった。
この様子だと、作戦会議はお開きの様子だ。
シャムシェル「どうする?
いっしょに捜す?っていっても、逃がした後だけど」
リュート「相手の城にでも偵察に行こっかな」
シャムシェル「今から?」
リュート「そ、今から」
シャムシェル「くす。なんか、リュートらしい」
リュート「ちょっと会いたい人がいるんだ」
シャムシェル「誰誰?」
悪戯っぽくシャムシェルが尋ねる。
本当は彼女にもわかっているはずだ。
リュート「いっしょに来るか?」
誘うと、
シャムシェル「うん♪」
満面の笑みで答えた。
シャムシェルがすぐそばでおれを見つめていた。
シャムシェル「おはよ♪」
リュート「起きてたのか……」
シャムシェル「くす。寝ぼけた顔しちゃって」
リュート「昨日、誰かにパ〇ズリされたからな」
シャムシェル「くす。気持ちよかった?」
リュート「めちゃめちゃ気持ちよかった」
シャムシェル「くす」
シャムシェルが顔を近づけ、
シャムシェル「ちゅっ」
口づけした。
シャムシェル「内緒の話、知りたい?」
リュート「また何かつかんだのか?」
シャムシェル「聞きたい?」
リュート「うん」
シャムシェル「じゃあ、キスして」
おれは言われた通り、シャムシェルの唇に唇を押しつけた。
リュート「それで、秘密って何なんだ?」
シャムシェル「あの将軍たち、変なことを考えてるよ」
リュート「変なこと?」
リュート「おれを失脚させようって魂胆なのかな」
シャムシェル「それで済めばいいけど」
リュート「何?まさか、敵に寝返る?」
シャムシェル「リュートの命を狙ってるよ」
リュート「え?おれの?」
おれは思わず驚いてしまった。
確かにあの老将たちはおれのことが嫌いみたいだが、
そこまでするようには思えない。
宰相のベルンシュタインは別だが------。
あの人には、何か危険な薫りを感じる。
権謀術数という言葉がぴったり来てしまう。
でも、老将には、それほどいやな権謀術数の薫りがない。
おれは冗談で飛ばすことにした。
リュート「結構腹黒いじいさんたちだな。
まあ、でも、上に立てば立つほど、
腹黒さがないとやってけないしなあ」
シャムシェル「リュートは腹黒いっていうより、欲望が黒いけどね」
リュート「それはシャムシェルの方じゃない?」
シャムシェル「今夜もパ〇ズリ決定」
リュート「ははは……」
コンッコンッ!
リュート「はい」
守備兵「失礼します」
守備兵「朝食をお持ちしました」
リュート「ありがとう」
守備兵「失礼します」
シャムシェル「毎日毎日、感心なことだね~」
リュート「ボーアンにいた時は、
大広間でみんなといっしょだったもんな」
シャムシェル「スープ、食べさせてあげよっか」
リュート「じゃあ」
シャムシェル「はい、あ~んして」
リュート「あ~ん」
シャムシェル「はい」
リュート「ぱく」
シャムシェル「美味しい?」
リュート「腹黒い味がする」
シャムシェル「くすくすくす……では、司令官殿。
もっと腹黒いスープをお召しになりませ」
リュート「くすくすくす」
シャムシェル「くすくすくす」
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朝食を終えると、ワン・コアンをはじめ、
将軍たち3人がおれの部屋に集まってきた。
つい副官の部屋に出かけようとしたら、
司令官はあなたなのですからここにいてくださいと
叱られてしまった。
ビュステンハルター城の主はおれだから、
おれの部屋で会議をするということらしい。
ワン・コアン「過去の経緯(いきさつ)を申し上げますと、
一度、トンネルを掘って城壁の下に
爆弾をしかけようとしたことがあります」
リュート「それで?」
ワン・コアン「岩盤が異常に硬くて無理でございました。
唯一やわらかい箇所を見つけて掘り進めたのですが、
敵に発見されて全滅させられました」
フェルゼン「無様だな」
ザント「包囲戦は」
ワン・コアン「それが、敵は強力な大砲を備えておりまして、
迂闊には近づけませぬ。
無理に近づいて何度大敗したことか」
ザント「こちらにも大砲はあろう」
ワン・コアン「それが、残念ながら我が国最大の距離を誇る
大砲でして、なんでも、今は亡き英雄
ワッケンハイム将軍が開発させたとか」
フェルゼン「なら、堀に毒を流し込むのはどうだ」
ワン・コアン「お堀の水はビュステンハルターの町にも
流れ込んでおりまして、毒を使えばこちら側も
相当の痛手を受けます」
フェルゼン「なんちゅうところに本拠地を構えておるのだ。
この城にはまともなところはないのか」
ワン・コアン「ありませぬ。ここを撤退すればビュステンハルターも
敵の勢力下に入ります。となれば、一気に後退を
余儀なくされます」
フェルゼンはやれやれとばかりに首を振った。
フェルゼン「武器庫はどうなっておる」
ワン・コアン「空っぽでございます。この間、前司令官が
夜襲をかけまして、一気に大砲で迫ったのですが、
ただ砲弾を使い果たしただけで、ご自身も戦死されました」
フェルゼン「あんな馬鹿を司令官に据えるからだ」
ザント「まったくだ」
ワン・コアン「策はないというのが正直なところです。
拱手傍観(きょうしゅぼうかん)するしかございませんな」
ザント「黙って手を拱(こまね)いておれというのか?
それでは、我らの誇りはどうなる!?」
ワン・コアン「誇りの問題ではありません」
ザント「誇りこそ、最も大切なものであろう!」
フェルゼン「死ねば誇りも意味がない。勝利あってこその誇りだ」
ザント「しかし------」
フェルゼン「ワンコインの言う通りだ。戦いには待つことも必要だ」
ワン・コアン「ぐっ……ワ、ワン・コアンでございます」
フェルゼン将軍は答えなかった。
ザント将軍は腕組みをしたまま唸った。
本人としては、一刻も早く敵地に乗り込みたいらしい。
フェルゼン「シュラム将軍は何かいい案でもあるか」
シュラム「フン。どう戦ったところで、負けるであろうて」
3人は黙った。
つまり、策はないということだ。おれはあくびを噛み殺した。
ザント「和平と称して敵将をおびき寄せて殺すのは」
フェルゼン「あの女狐が引っ掛かると思うか?」
ザント「全部条件を呑むと言ってやればよかろう」
フェルゼン「あのワッケンハイムの娘だぞ?
やつの剣の腕前を知らぬのか?
誰が剣であの女狐に敵うと思う」
リュート「ワッケンハイム将軍の跡継ぎって、女なの?」
おれは基本的なことを尋ねた。
ワン・コアン「ご子息はございません。ご令嬢が跡を継いでおられます」
リュート「剣、強いんだ」
フェルゼン「無知なやつめ。貴様なぞ、一瞬で串刺しだ」
ワン・コアン「フェルゼン様」
フェルゼン「この際だからハッキリさせておくが、
わしはこの若造を司令官などと認めてはおらぬ。
こんな馬鹿者に一軍の将が務まると思うか?」
ワン・コアン「それは……」
フェルゼン「正直に言うてみよ、ワンコイン」
ワン・コアン「ワ、ワン・コアンでございます……!」
フェルゼン「こやつは亡国の将だ。知恵も力も剣技もない。こやつの
騎士学校での成績を知っておるのか?最下位だぞ!?
そんな落ちこぼれの馬鹿者の下につけるか!」
ワン・コアン「……」
フェルゼン「貴様に一言言っておく。少しでも良心があるのならば、
即刻将軍を辞して田舎へ帰れ」
リュート「いやだって言ったら?」
ガタッ!
フェルゼン「この場で、斬る」
ざわっと場がざわめいた。
フェルゼン将軍が剣を抜いて立ち上がり、
3人がわっと離れた。真っ先に逃げたのは、
意外にもシュラム将軍だった。
フェルゼン「せめてもの情けだ。剣ぐらい抜かせてやる」
リュート「仲間うちで争っていても、
ヴンダーバルト城は落とせないと思うけど」
フェルゼン「黙れ、若造。剣でわしに勝てると思っておるのか」
リュート「いや、たぶん、おれが負ける。徒手空拳ならもっと負ける」
フェルゼン将軍は、かつて拳で有名だった人だ。
拳での殴り合いにおいては、過去負けたことがない。
フェルゼン「早く抜け!名誉の戦死にしておいてやる!」
リュート「今度にしない?
まだ偵察も行ってないから、明日にしたいんだけど」
フェルゼン「今度があるか!」
リュート「困ったなあ」
フェルゼン「軟弱者!貴様、それでも男か!」
リュート「一応、ついてるものはついてるけど」
おれはズボンを下ろして確かめてみた。
フェルゼン「でええい、馬鹿者!誰が脱げと言った!」
リュート「あれ、脱がなくていいの」
フェルゼン「当たり前だ!なんたるこの能無し!
もう我慢できぬ!一思いに叩き切ってくれる!」
フェルゼン将軍が剣を振り上げたその時、
守備兵「敵侵入~~~~~っ!」
大声が響きわたっていた。
ガチャッ!
守備兵「申し上げます!賊が侵入しました!」
ワン・コアン「賊だと!敵はいくつだ!?」
守備兵「1人です!」
フェルゼン「おのれ、白昼堂々と我が城に忍び込むとは!
わしらも出るぞ!」
4人はバタバタと部屋を出ていった。
シャムシェル「敵侵入だって」
シャムシェルがニヤニヤと笑う。
シャムシェル「ついでに悪魔侵入~♪」
リュート「もう昔から侵入してるだろ」
シャムシェル「くすくす」
シャムシェルが笑う。
シャムシェル「相変わらず悪運強いね。賊が入ってこなかったら、
あの老人に殺されてたりして」
リュート「そんな不名誉なことをあの人がするとは思えないけど」
シャムシェル「わからないよ。腹黒い一味だから」
リュート「ははは」
ガチャッ!
ドアが開いていた。
どうやら、ワン・コアンが戻ってきたらしい。
リュート「どう、侵入者は------」
おれは呆気に取られていた。
昨日町角ですれ違った女騎士------おれが助けた女騎士が1人、
おれの部屋に忍び込んでいたのだ。
女騎士「やはり、ここだったか」
女騎士はおれを見つけると、ぎろっと一睨みしてみせた。
町中で会った時とはまるで雰囲気が違う。
やはり、あの表情はお芝居だったか。
女騎士は部屋の中に一瞥をくれて、フンと鼻を鳴らした。
女騎士「ビュステンハルター城の警備も地に落ちたものだな」
リュート「元気?」
女騎士「元気だと?どういう神経をしておるのだ」
リュート「そういう神経」
女騎士「面白いやつだ」
リュート「昨日、あれから自分の家には帰れた?
また襲われたりしなかった?」
女騎士「貴様、本気で聞いているのか」
リュート「本気だけど」
女騎士「貴様は馬鹿か天才か」
リュート「好きな方を」
女騎士「……変わったやつだ」
リュート「今、賊が入ってるから気をつけた方がいいよ」
女騎士「貴様、本当にリュート・ヘンデか?」
リュート「そうだけど」
女騎士「本当に新しく赴任した司令官か」
リュート「そうだよ」
女騎士「……陛下もご乱心されたか。それとも、冗談のつもりか?」
リュート「何ぶつぶつ言ってるの」
女騎士「やはり、貴様は馬鹿だな」
リュート「ここにいると、そのうち将軍たちが戻ってきて
見つかっちゃうよ。逃げるなら早くすれば」
女騎士「その前に、自分の命を心配した方がよいのではないのか?
オレが何をしに来たと思う」
リュート「ちょっとコーヒーを飲みにだろ」
女騎士「……ククク」
女騎士が思わず笑い声を洩らしていた。
リュート「何かおかしかった?」
女騎士「殺す気が失せた。またの機会にしよう」
女騎士は窓から去っていった。
シャムシェル「ククク……リュートったら面白いんだから」
リュート「そうかな」
シャムシェル「すっとぼけちゃって。役者だね」
リュート「今の誰だったんだ?」
シャムシェル「え?本気で知らないの?」
おれはにやっと笑った。
知らないわけがない。しっかり見当はついていた。
ガチャッ!
ワン・コアン「司令官、怪しい者は来ませんでしたか?」
リュート「来たよ」
ワン・コアン「何ですと!して、その者は?」
リュート「またそのドアから出ていった」
ワン・コアン「守備兵~!守備兵~~~~っ!」
副官は声を張り上げて、おれの部屋を出ていった。
この様子だと、作戦会議はお開きの様子だ。
シャムシェル「どうする?
いっしょに捜す?っていっても、逃がした後だけど」
リュート「相手の城にでも偵察に行こっかな」
シャムシェル「今から?」
リュート「そ、今から」
シャムシェル「くす。なんか、リュートらしい」
リュート「ちょっと会いたい人がいるんだ」
シャムシェル「誰誰?」
悪戯っぽくシャムシェルが尋ねる。
本当は彼女にもわかっているはずだ。
リュート「いっしょに来るか?」
誘うと、
シャムシェル「うん♪」
満面の笑みで答えた。
