それからしばらく経って------
おれの部屋に、将軍たちが呼び集められていた。
ワン・コアンが緊急の事案があるというので、
おれの部屋で会議をすることになったのだ。
フェルゼン「ワンコインめ、真っ昼間から人を呼び集めおって」
ザント「緊急の事案とは何でしょうかね」
フェルゼン「さてな」
ザント「まさか我らの計画がバレたとか……」
フェルゼン「不吉なことを口にするでない」
アイシス「いつまで待てばいいのかしら」
モテール「おれは忙しいのだ。もう出かけるぞ」
ガチャッ!
ワン・コアン「お待ちください。これで全員そろいましたな」
ザント「もうすでにそろっておるわい。早くせんか」
ワン・コアン「実は今日、グラディス将軍と掛け合ってまいりました」
フェルゼン「何だと。なぜ貴様がそのような勝手なことを------」
ワン・コアン「敵将から密書があったのです。重要な話があると」
フェルゼン「貴様、上官に説明せずに出かけたのか」
ワン・コアン「お許しを。しかし、大きな進展です。
将軍同士の一騎討ちをしてもよいと」
モテール「何?」
フェルゼン「馬鹿な!
あのワッケンハイムの『伜』がそう言ったのか?」
ワン・コアン「はい」
フェルゼン「そんなはずはない!
今、一騎討ちをする理由などないはずだ」
ワン・コアン「何やら我が司令官を気に入っておられるようで、
一騎討ちをしてみたいと」
フェルゼン「まさか、貴様乗ったのか」
ワン・コアン「はい」
フェルゼン「馬鹿者!突っぱねるのが補佐役としての
貴様の役目であろうが!いくら司令官が
素人だからといって、貴様まで素人になってどうする!」
ワン・コアン「しかし、こうでもしなければ勝ち目はありません」
フェルゼン「今勝ちに行く理由などない!
それくらいわからんのか、この未熟者!」
ワン・コアン「しかし、今攻め込まれるよりは、
一騎討ちに賭けた方が賢明です」
フェルゼン「常軌を逸しておる!越権行為も甚だしいぞ!」
ワン・コアン「お叱りはどうぞ。しかし、これが唯一のチャンスです」
フェルゼン「愚か者め。そうやって戦というものは
負けるのだ。動かなくてよい時に動くなど、
なんという児戯を------」
ワン・コアン「ただ、一騎討ちは剣技ではございません」
フェルゼン「何?剣技ではない?ならば、何だというのだ」
ワン・コアンは一同を見渡して言った。
ワン・コアン「チェスでございます」
一瞬、場が静まり返った。
シュラム「終わったな」
モテール「貴様、正気か!?何が唯一のチャンスだ!?
グラディス殿は、わたしよりも強いのだぞ!
幼い頃に何度も相手をしたからよくわかっている!」
ワン・コアン「承知しております」
モテール「わが軍を負けさせるつもりか!」
ワン・コアン「しかし、いたしかたなかったのでございます。
飲まねば全軍を率いて攻め入ると言われては……」
フェルゼン「のこのこ一人で出かけていくからだ。愚か者が」
モテール「なんという愚策だ。愚かすぎる。
司令官も馬鹿なら、その部下ももっと馬鹿だ」
ザント「モテール、口がすぎるぞ」
モテール「しかし……」
フェルゼン「よいわ。馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。
たとえ相手が誰であろうと、馬鹿は馬鹿だ」
ワン・コアン「しかし、これが唯一のチャンスでございます。
勝てば、敵将の身柄はこちらのものとなります」
フェルゼン「負ければどうなる」
ワン・コアン「司令官の首が飛びます」
リュート「え!?おれの首が飛ぶの!?」
ワン・コアン「申し訳ございません」
リュート「で、それ、誰が勝負するの?モテール!?」
モテール「おれにできるか!」
ワン・コアン「司令官でございます」
リュート「え、ええ~~っ!?おれっ!?
おれ、チェス強くないよ!?」
モテール「最悪だ。もう戦う前から結果が見えている」
ワン・コアン「こうするより仕方なかったのでございます」
フェルゼン「ワンコイン。貴様、元からこの馬鹿者を
葬り去るつもりだったのではなかろうな」
ワン・コアン「ワン・コアンです!」
フェルゼン「名前などどうでもよい。
司令官も馬鹿なら、貴様はもっと馬鹿者だ」
ワン・コアン「何と言われましても、もう決まったことでございます」
フェルゼン「罰だ。貴様は牢獄に入っておれ」
ワン・コアン「それをお決めになるのは司令官でございます」
モテール「おい、リュート。こんな馬鹿は即刻殺してしまえ。
司令官に代わって勝手に取り決めをするなど、言語道断だ」
リュート「そうだな……とりあえずさ、モテール、
帰るのはやめておれにチェスを教えてくれない?」
モテール「断る!」
リュート「え?」
モテール「今から教えたところで勝てるものか!」
リュート「でも、戦いって、すぐじゃないんでしょ?」
ワン・コアン「3日後でございます」
リュート「3日後~~っ!?」
フェルゼン「謀りおったか。くだらぬ知恵を使いおって。
ワンコイン、貴様、逆賊だな」
ワン・コアン「ワン・コアンでございます!」
フェルゼン「おい、衛兵!衛兵!」
ガチャッ!
フェルゼン「こやつを牢獄に連れていけ」
守備兵B「は?」
ワン・コアン「失礼ながら命令には従いかねます。
わたくしは司令官の命令しか聴きませぬ」
フェルゼン「何だと」
ワン・コアン「実は面白い情報を持っておりまして。
昨日発見された干からびた賊とザント将軍が
夜中に会っていたことを目撃した者がおりまして」
ザント「し、失礼な!」
ワン・コアン「この間の賊。実は司令官暗殺を企んで
お三方が侵入させたのではないですかな」
ザント「殺すようには言っておらぬ!」
ワン・コアン「つまり、命じたということですな」
ザント「……」
フェルゼン「馬鹿者め、余計な口を利きおって」
ザント「……」
ワン・コアン「さて、司令官殿。どちらを処分なさいます?」
ワン・コアン「このビュステンハルターのために
身勝手なことをしてしまったわたくしを処分なさいますか。
それとも、司令官暗殺を企んだ者を処分なさいますか」
ワン・コアン「賢明な司令官なら、おわかりだと存じますが」
リュート「……」
ワン・コアン「司令官」
リュート「フェルゼン将軍のことは不問に付そう」
ワン・コアン「な、何ですと!」
リュート「でも、ワン・コアン。君は作戦会議から外れてもらうよ」
ワン・コアン「なぜです!なぜ将軍たちを------」
リュート「越権行為をしておいて、
質問できる立場じゃないと思うけど」
ワン・コアン「し、しかし------」
リュート「ごめん、守備兵の人、
副官を部屋に監禁しておいてくれる?」
守備兵A「はっ!」
守備兵B「副官殿、では」
ワン・コアン「ええい、さわるな!一人で行ける!司令官!
今日のことをきっと後悔なさいますぞ!
一騎討ちの前に命を失いますぞ!」
ドアの向こうに、ワン・コアンの声が消えていった。
おれの部屋に、将軍たちが呼び集められていた。
ワン・コアンが緊急の事案があるというので、
おれの部屋で会議をすることになったのだ。
フェルゼン「ワンコインめ、真っ昼間から人を呼び集めおって」
ザント「緊急の事案とは何でしょうかね」
フェルゼン「さてな」
ザント「まさか我らの計画がバレたとか……」
フェルゼン「不吉なことを口にするでない」
アイシス「いつまで待てばいいのかしら」
モテール「おれは忙しいのだ。もう出かけるぞ」
ガチャッ!
ワン・コアン「お待ちください。これで全員そろいましたな」
ザント「もうすでにそろっておるわい。早くせんか」
ワン・コアン「実は今日、グラディス将軍と掛け合ってまいりました」
フェルゼン「何だと。なぜ貴様がそのような勝手なことを------」
ワン・コアン「敵将から密書があったのです。重要な話があると」
フェルゼン「貴様、上官に説明せずに出かけたのか」
ワン・コアン「お許しを。しかし、大きな進展です。
将軍同士の一騎討ちをしてもよいと」
モテール「何?」
フェルゼン「馬鹿な!
あのワッケンハイムの『伜』がそう言ったのか?」
ワン・コアン「はい」
フェルゼン「そんなはずはない!
今、一騎討ちをする理由などないはずだ」
ワン・コアン「何やら我が司令官を気に入っておられるようで、
一騎討ちをしてみたいと」
フェルゼン「まさか、貴様乗ったのか」
ワン・コアン「はい」
フェルゼン「馬鹿者!突っぱねるのが補佐役としての
貴様の役目であろうが!いくら司令官が
素人だからといって、貴様まで素人になってどうする!」
ワン・コアン「しかし、こうでもしなければ勝ち目はありません」
フェルゼン「今勝ちに行く理由などない!
それくらいわからんのか、この未熟者!」
ワン・コアン「しかし、今攻め込まれるよりは、
一騎討ちに賭けた方が賢明です」
フェルゼン「常軌を逸しておる!越権行為も甚だしいぞ!」
ワン・コアン「お叱りはどうぞ。しかし、これが唯一のチャンスです」
フェルゼン「愚か者め。そうやって戦というものは
負けるのだ。動かなくてよい時に動くなど、
なんという児戯を------」
ワン・コアン「ただ、一騎討ちは剣技ではございません」
フェルゼン「何?剣技ではない?ならば、何だというのだ」
ワン・コアンは一同を見渡して言った。
ワン・コアン「チェスでございます」
一瞬、場が静まり返った。
シュラム「終わったな」
モテール「貴様、正気か!?何が唯一のチャンスだ!?
グラディス殿は、わたしよりも強いのだぞ!
幼い頃に何度も相手をしたからよくわかっている!」
ワン・コアン「承知しております」
モテール「わが軍を負けさせるつもりか!」
ワン・コアン「しかし、いたしかたなかったのでございます。
飲まねば全軍を率いて攻め入ると言われては……」
フェルゼン「のこのこ一人で出かけていくからだ。愚か者が」
モテール「なんという愚策だ。愚かすぎる。
司令官も馬鹿なら、その部下ももっと馬鹿だ」
ザント「モテール、口がすぎるぞ」
モテール「しかし……」
フェルゼン「よいわ。馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。
たとえ相手が誰であろうと、馬鹿は馬鹿だ」
ワン・コアン「しかし、これが唯一のチャンスでございます。
勝てば、敵将の身柄はこちらのものとなります」
フェルゼン「負ければどうなる」
ワン・コアン「司令官の首が飛びます」
リュート「え!?おれの首が飛ぶの!?」
ワン・コアン「申し訳ございません」
リュート「で、それ、誰が勝負するの?モテール!?」
モテール「おれにできるか!」
ワン・コアン「司令官でございます」
リュート「え、ええ~~っ!?おれっ!?
おれ、チェス強くないよ!?」
モテール「最悪だ。もう戦う前から結果が見えている」
ワン・コアン「こうするより仕方なかったのでございます」
フェルゼン「ワンコイン。貴様、元からこの馬鹿者を
葬り去るつもりだったのではなかろうな」
ワン・コアン「ワン・コアンです!」
フェルゼン「名前などどうでもよい。
司令官も馬鹿なら、貴様はもっと馬鹿者だ」
ワン・コアン「何と言われましても、もう決まったことでございます」
フェルゼン「罰だ。貴様は牢獄に入っておれ」
ワン・コアン「それをお決めになるのは司令官でございます」
モテール「おい、リュート。こんな馬鹿は即刻殺してしまえ。
司令官に代わって勝手に取り決めをするなど、言語道断だ」
リュート「そうだな……とりあえずさ、モテール、
帰るのはやめておれにチェスを教えてくれない?」
モテール「断る!」
リュート「え?」
モテール「今から教えたところで勝てるものか!」
リュート「でも、戦いって、すぐじゃないんでしょ?」
ワン・コアン「3日後でございます」
リュート「3日後~~っ!?」
フェルゼン「謀りおったか。くだらぬ知恵を使いおって。
ワンコイン、貴様、逆賊だな」
ワン・コアン「ワン・コアンでございます!」
フェルゼン「おい、衛兵!衛兵!」
ガチャッ!
フェルゼン「こやつを牢獄に連れていけ」
守備兵B「は?」
ワン・コアン「失礼ながら命令には従いかねます。
わたくしは司令官の命令しか聴きませぬ」
フェルゼン「何だと」
ワン・コアン「実は面白い情報を持っておりまして。
昨日発見された干からびた賊とザント将軍が
夜中に会っていたことを目撃した者がおりまして」
ザント「し、失礼な!」
ワン・コアン「この間の賊。実は司令官暗殺を企んで
お三方が侵入させたのではないですかな」
ザント「殺すようには言っておらぬ!」
ワン・コアン「つまり、命じたということですな」
ザント「……」
フェルゼン「馬鹿者め、余計な口を利きおって」
ザント「……」
ワン・コアン「さて、司令官殿。どちらを処分なさいます?」
ワン・コアン「このビュステンハルターのために
身勝手なことをしてしまったわたくしを処分なさいますか。
それとも、司令官暗殺を企んだ者を処分なさいますか」
ワン・コアン「賢明な司令官なら、おわかりだと存じますが」
リュート「……」
ワン・コアン「司令官」
リュート「フェルゼン将軍のことは不問に付そう」
ワン・コアン「な、何ですと!」
リュート「でも、ワン・コアン。君は作戦会議から外れてもらうよ」
ワン・コアン「なぜです!なぜ将軍たちを------」
リュート「越権行為をしておいて、
質問できる立場じゃないと思うけど」
ワン・コアン「し、しかし------」
リュート「ごめん、守備兵の人、
副官を部屋に監禁しておいてくれる?」
守備兵A「はっ!」
守備兵B「副官殿、では」
ワン・コアン「ええい、さわるな!一人で行ける!司令官!
今日のことをきっと後悔なさいますぞ!
一騎討ちの前に命を失いますぞ!」
ドアの向こうに、ワン・コアンの声が消えていった。
