おれは賭けてみることにした。
リュート「実は、秘密にしてほしいことがあるんだけど」
フェルゼン「秘密?貴様に秘密なぞあるのか」
リュート「このお城に、裏切り者がいる」
フェルゼンの顔色がさっと変わった。しかし、すぐに
元の顔に戻った。
フェルゼン「なぜそれをわしに告げる」
リュート「フェルゼン将軍は信用できると思ったから」
フェルゼン「わしは貴様に刺客を放ったのだぞ」
リュート「うん」
フェルゼン「貴様に剣も抜いたのだぞ」
リュート「でも、本気じゃなかったんでしょ?」
フェルゼン「どうしてそのようなことが言える?」
リュート「だって、そうでしょ?」
フェルゼン「……」
フェルゼン将軍は黙った。
フェルゼン「他に誰かに話したか」
リュート「ううん」
フェルゼン「……」
リュート「おれが明日勝負に勝っても負けても、
誰が裏切り者かわかると思う。
兵を率いて、そいつを捕まえて」
フェルゼン「なぜそれをわしに頼む」
リュート「モテールには無理だ。あいつはすぐ顔に出る。
でも、将軍ならそのあたり、うまくやってくれるでしょ?」
フェルゼン「……貴様、本当に最下位だったのか」
リュート「え?」
フェルゼン「いや、何でもない」
リュート「引き受けてくれる?」
フェルゼン「わしが裏切り者かもしれぬぞ」
リュート「その時はその時さ。
自分に人を見る目がなかったってあきらめるよ」
フェルゼン「それで死んでもか?」
リュート「短かったっていっても、
司令官を経験できたんだ。悔いはないよ」
フェルゼン「貴様、修行僧のようなことを言うな」
リュート「そうかな」
フェルゼン「フン」
フェルゼン将軍は軽く笑った。
フェルゼン「わしを牢屋にぶち込んでおけばよかったと
後悔することになるぞ」
リュート「後悔しないよ」
フェルゼン「頑固なやつめ。まあ、せいぜい潔く負けることだな。
死体ぐらい引き取ってやる」
フェルゼン将軍は部屋を出ていった。
シャムシェル「ま~た生意気なこと言っちゃって。食っちゃおうか」
リュート「食っちゃだめ。あれは将軍なりのエールだよ」
シャムシェル「エール?」
リュート「あの人にも誇りがあって素直にはいえないんだよ。
だから、『死体ぐらい引き取ってやる』なんて言ったんだ。
本当は応援してるんだよ」
シャムシェル「リュートって、大人だね」
リュート「シャムシェルには負ける」
シャムシェル「何?それ、わたしが年寄りってこと?」
リュート「別に」
シャムシェル「……」
リュート「……」
シャムシェル「年寄りと思ってるでしょ」
リュート「年寄りの胸がおっきくなったりしないだろ」
シャムシェル「じゃあ、年寄りにキスして」
リュート「年寄りにはキスしない。かわいい悪魔にはキスするけど」
シャムシェル「わたし、かわいい?」
リュート「うん、かわいいよ」
シャムシェル「本当にかわいい?」
リュート「かわいいよ。最初に出会った時に、そう思ったもん。
おれ、てっきり人間だと思ってた」
シャムシェル「あそこまでぼけたの、リュートが初めてだよ」
リュート「おれ、元からぼけてるからな」
シャムシェル「くすくすくす」
リュート「なあ、シャムシェル」
シャムシェル「何?」
リュート「今までありがとうな。もしかすると明日
死んじゃうかもしれないけど、今まで色々してくれて
ありがとう。おれ、おまえに会えてよかったと思ってる」
シャムシェル「馬鹿」
ドンッ!
リュート「あだっ!」
シャムシェル「死ぬようなことを言わないのっ!」
リュート「けど、わかんないから」
シャムシェル「リュートは死なないの。
わたしがず~っと守ってあげるんだから」
リュート「ありがとう……」
シャムシェル「というわけで、かわいい悪魔に、キスキスキス♪」
リュート「じゃあ」
おれはシャムシェルに舌を吸われながら、
本当に今日が最後の夜になるかもしれない……と感じていた。
-------------------------------------------------------------------------------
リュート・ヘンデがシャムシェルとキスを交わしている頃、
老将3人が城内で集まっていた。
ザント「いよいよ、明日ですな」
フェルゼン「ああ」
ザント「あの馬鹿者の命運ももう少しですか。
成り上がり者は成り上がり者らしく沈む。
実に世の中は正当にできとるものですな」
シュラム「クズはクズにしかならぬからな」
フェルゼン「……」
ザント「どうされた、フェルゼン将軍」
フェルゼン「うむ……」
ザント「何を案じておられる。明日で邪魔者が消えるのですぞ。
ようやく我が騎士学校の目の上のたんこぶが
いなくなるというのに------」
フェルゼン「本当にやつはたんこぶか?」
ザント「は?」
フェルゼン「本当にやつは能無しの落ちこぼれか?」
ザント「何を今更。それは最下位という成績が証明------」
フェルゼン「成績は所詮、成績にすぎぬ」
ザント「命を助けてもらったことをおっしゃっているのなら、
気になさることはありませんぞ。我らは正しき------」
フェルゼン「やつがなぜ我々を牢屋にぶち込まなかったと思う?」
ザント「それはやつが無能------」
フェルゼン「やつの口上を聞かなかったのか?
やつはこう言ったのだぞ。我々を処分しても、
敵をよろこばすだけだ。副官は戦争屋ではない」
ザント「しかし------」
フェルゼン「もしかすると、やつは馬鹿ではないのかもしれぬ」
ザント「いや、馬鹿でしょう。普通の者なら処分するに
決まっております。ただ愚かで甘いだけです」
フェルゼン「本当にそう言えるか?」
ザント「馬鹿でなかったら、あの成績はどうなりますか!?」
フェルゼン「わしは信じておらぬ。
王族の人間をわざわざ最下位にするか?」
ザント「まさか、フェルゼン将軍は
あの成績が意図的に操作されたものだと------」
フェルゼン「可能性がないと言えるか?」
ザント「しかし------」
シュラム「ずいぶん肩を持つのう。いつから鞍替えしたのだ」
フェルゼン「鞍替えしたのではない。気づきかけているだけだ。
やつは、本当は愚か者ではないのではないか、と」
シュラム「やはり、何かあったな」
フェルゼン「あの口上を前にしておぬしらは何も感じなかったのか?
あれが愚か者の言うことか?
ただ甘いだけの者が言うことか?」
フェルゼン「もしモテールならどうした?
王子ならどう言った?あのようにできたか?」
ザント「……」
シュラム「……」
フェルゼン「もしかすると、あいつは本気で将たる器なのかもしれぬ。
そうわかったところで、時すでに遅しだが……」
シュラム「真実はすべて遅れて気づくものだ」
フェルゼン「あのグラディスにチェスでは勝てぬ。
我々は、もしかすると非常に優秀な人材を
失おうとしているのかもしれぬ……」
-------------------------------------------------------------------------------
そして同じ時間------
フェルゼン将軍たちがリュートの話をしている頃、
敵将グラディスはヴンダーバルト城で満月を見上げていた。
グラディス「……さて、どうなるかな。リュート・ヘンデ」
グラディス「おまえのことだから、どうせぐっすり寝ておるだろう」
グラディス「だが、明日の戦いはそうは行かぬぞ」
グラディス「一手一手打つごとに、おまえは青ざめることになる。
死へ向かって突き進むことになるのだ」
グラディス「いくらおまえでも、明日になればプレッシャーに
耐えられまい。もしかすると、やはり一騎討ちは
なしにしてくれと泣き言を言ってくるかもしれぬな」
グラディス「だが、その時はその時だ。
我が軍勢が一気に攻め込むことになる」
グラディス「おまえに残されたのは、
チェスでオレにぶちのめされることだ」
グラディス「今までになく度を失った姿を見せるがよい。
オレはそれが見たい」
グラディス「はてさて、どのような妙手を打つのか、
それとも最後に命乞いをすることになるのか、楽しみだ。
クククククク……」
リュート「実は、秘密にしてほしいことがあるんだけど」
フェルゼン「秘密?貴様に秘密なぞあるのか」
リュート「このお城に、裏切り者がいる」
フェルゼンの顔色がさっと変わった。しかし、すぐに
元の顔に戻った。
フェルゼン「なぜそれをわしに告げる」
リュート「フェルゼン将軍は信用できると思ったから」
フェルゼン「わしは貴様に刺客を放ったのだぞ」
リュート「うん」
フェルゼン「貴様に剣も抜いたのだぞ」
リュート「でも、本気じゃなかったんでしょ?」
フェルゼン「どうしてそのようなことが言える?」
リュート「だって、そうでしょ?」
フェルゼン「……」
フェルゼン将軍は黙った。
フェルゼン「他に誰かに話したか」
リュート「ううん」
フェルゼン「……」
リュート「おれが明日勝負に勝っても負けても、
誰が裏切り者かわかると思う。
兵を率いて、そいつを捕まえて」
フェルゼン「なぜそれをわしに頼む」
リュート「モテールには無理だ。あいつはすぐ顔に出る。
でも、将軍ならそのあたり、うまくやってくれるでしょ?」
フェルゼン「……貴様、本当に最下位だったのか」
リュート「え?」
フェルゼン「いや、何でもない」
リュート「引き受けてくれる?」
フェルゼン「わしが裏切り者かもしれぬぞ」
リュート「その時はその時さ。
自分に人を見る目がなかったってあきらめるよ」
フェルゼン「それで死んでもか?」
リュート「短かったっていっても、
司令官を経験できたんだ。悔いはないよ」
フェルゼン「貴様、修行僧のようなことを言うな」
リュート「そうかな」
フェルゼン「フン」
フェルゼン将軍は軽く笑った。
フェルゼン「わしを牢屋にぶち込んでおけばよかったと
後悔することになるぞ」
リュート「後悔しないよ」
フェルゼン「頑固なやつめ。まあ、せいぜい潔く負けることだな。
死体ぐらい引き取ってやる」
フェルゼン将軍は部屋を出ていった。
シャムシェル「ま~た生意気なこと言っちゃって。食っちゃおうか」
リュート「食っちゃだめ。あれは将軍なりのエールだよ」
シャムシェル「エール?」
リュート「あの人にも誇りがあって素直にはいえないんだよ。
だから、『死体ぐらい引き取ってやる』なんて言ったんだ。
本当は応援してるんだよ」
シャムシェル「リュートって、大人だね」
リュート「シャムシェルには負ける」
シャムシェル「何?それ、わたしが年寄りってこと?」
リュート「別に」
シャムシェル「……」
リュート「……」
シャムシェル「年寄りと思ってるでしょ」
リュート「年寄りの胸がおっきくなったりしないだろ」
シャムシェル「じゃあ、年寄りにキスして」
リュート「年寄りにはキスしない。かわいい悪魔にはキスするけど」
シャムシェル「わたし、かわいい?」
リュート「うん、かわいいよ」
シャムシェル「本当にかわいい?」
リュート「かわいいよ。最初に出会った時に、そう思ったもん。
おれ、てっきり人間だと思ってた」
シャムシェル「あそこまでぼけたの、リュートが初めてだよ」
リュート「おれ、元からぼけてるからな」
シャムシェル「くすくすくす」
リュート「なあ、シャムシェル」
シャムシェル「何?」
リュート「今までありがとうな。もしかすると明日
死んじゃうかもしれないけど、今まで色々してくれて
ありがとう。おれ、おまえに会えてよかったと思ってる」
シャムシェル「馬鹿」
ドンッ!
リュート「あだっ!」
シャムシェル「死ぬようなことを言わないのっ!」
リュート「けど、わかんないから」
シャムシェル「リュートは死なないの。
わたしがず~っと守ってあげるんだから」
リュート「ありがとう……」
シャムシェル「というわけで、かわいい悪魔に、キスキスキス♪」
リュート「じゃあ」
おれはシャムシェルに舌を吸われながら、
本当に今日が最後の夜になるかもしれない……と感じていた。
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リュート・ヘンデがシャムシェルとキスを交わしている頃、
老将3人が城内で集まっていた。
ザント「いよいよ、明日ですな」
フェルゼン「ああ」
ザント「あの馬鹿者の命運ももう少しですか。
成り上がり者は成り上がり者らしく沈む。
実に世の中は正当にできとるものですな」
シュラム「クズはクズにしかならぬからな」
フェルゼン「……」
ザント「どうされた、フェルゼン将軍」
フェルゼン「うむ……」
ザント「何を案じておられる。明日で邪魔者が消えるのですぞ。
ようやく我が騎士学校の目の上のたんこぶが
いなくなるというのに------」
フェルゼン「本当にやつはたんこぶか?」
ザント「は?」
フェルゼン「本当にやつは能無しの落ちこぼれか?」
ザント「何を今更。それは最下位という成績が証明------」
フェルゼン「成績は所詮、成績にすぎぬ」
ザント「命を助けてもらったことをおっしゃっているのなら、
気になさることはありませんぞ。我らは正しき------」
フェルゼン「やつがなぜ我々を牢屋にぶち込まなかったと思う?」
ザント「それはやつが無能------」
フェルゼン「やつの口上を聞かなかったのか?
やつはこう言ったのだぞ。我々を処分しても、
敵をよろこばすだけだ。副官は戦争屋ではない」
ザント「しかし------」
フェルゼン「もしかすると、やつは馬鹿ではないのかもしれぬ」
ザント「いや、馬鹿でしょう。普通の者なら処分するに
決まっております。ただ愚かで甘いだけです」
フェルゼン「本当にそう言えるか?」
ザント「馬鹿でなかったら、あの成績はどうなりますか!?」
フェルゼン「わしは信じておらぬ。
王族の人間をわざわざ最下位にするか?」
ザント「まさか、フェルゼン将軍は
あの成績が意図的に操作されたものだと------」
フェルゼン「可能性がないと言えるか?」
ザント「しかし------」
シュラム「ずいぶん肩を持つのう。いつから鞍替えしたのだ」
フェルゼン「鞍替えしたのではない。気づきかけているだけだ。
やつは、本当は愚か者ではないのではないか、と」
シュラム「やはり、何かあったな」
フェルゼン「あの口上を前にしておぬしらは何も感じなかったのか?
あれが愚か者の言うことか?
ただ甘いだけの者が言うことか?」
フェルゼン「もしモテールならどうした?
王子ならどう言った?あのようにできたか?」
ザント「……」
シュラム「……」
フェルゼン「もしかすると、あいつは本気で将たる器なのかもしれぬ。
そうわかったところで、時すでに遅しだが……」
シュラム「真実はすべて遅れて気づくものだ」
フェルゼン「あのグラディスにチェスでは勝てぬ。
我々は、もしかすると非常に優秀な人材を
失おうとしているのかもしれぬ……」
-------------------------------------------------------------------------------
そして同じ時間------
フェルゼン将軍たちがリュートの話をしている頃、
敵将グラディスはヴンダーバルト城で満月を見上げていた。
グラディス「……さて、どうなるかな。リュート・ヘンデ」
グラディス「おまえのことだから、どうせぐっすり寝ておるだろう」
グラディス「だが、明日の戦いはそうは行かぬぞ」
グラディス「一手一手打つごとに、おまえは青ざめることになる。
死へ向かって突き進むことになるのだ」
グラディス「いくらおまえでも、明日になればプレッシャーに
耐えられまい。もしかすると、やはり一騎討ちは
なしにしてくれと泣き言を言ってくるかもしれぬな」
グラディス「だが、その時はその時だ。
我が軍勢が一気に攻め込むことになる」
グラディス「おまえに残されたのは、
チェスでオレにぶちのめされることだ」
グラディス「今までになく度を失った姿を見せるがよい。
オレはそれが見たい」
グラディス「はてさて、どのような妙手を打つのか、
それとも最後に命乞いをすることになるのか、楽しみだ。
クククククク……」
