ようやく、おれはヴンダーバルト城に到着していた。
いよいよ戦いの舞台------運命の場所だ。
だが------どうにもお腹の具合が悪い。
(ううん……なんでだろ……なんかお腹の調子が悪いな……)
敵兵「ここでお待ちください」
フェルゼン「ついにか」
ワン・コアン「泣いても笑っても、これで勝負が決まりですな」
リュート「ううん……」
ワン・コアン「どうされました」
リュート「なんか、お腹が痛い」
ワン・コアン「どういたしましょう」
リュート「ううん……厠はないかな」
グラディス「やはり、来たか」
グラディスがにやりと笑った。
グラディス「戦わずに逃げ出すか、
泣き言を言ってくるかと思っていたがな」
リュート「あ、うん……」
グラディス「クククク。表情が冴えぬな。
さすがのおまえでも、やはり死ぬのが怖いか。
オレに死んでもいいと言ったのは、嘘のようだな」
リュート「はは……あの、厠はない?」
グラディス「ククク……緊張しておるようだな。
それでは戦いに勝てぬぞ」
リュート「ううん……こんな時に腹痛なんて……」
グラディス「戦いが始まったら、席を外すのは一切なしだ。
誰かに次の手を聞かぬとも限らぬからな」
リュート「え?そんな……」
グラディス「ククク。モテールに聞くつもりだったのかもしれぬが、
無駄なことだ。やつの手はすべて知っておる。
教えたのは、このオレだからな」
リュート「ううん……」
グラディス「では、始めるか」
リュート「え?先に厠に------」
グラディス「時間厳守だ」
リュート「そ、そんな……」
グラディス「では、参るぞ。おまえから打て」
ついに戦いが始まった。
それも最悪の始まりだった。
腹痛でお腹がきゅんきゅん痛んでいる。
いったい、なぜこんなに遺体のだろう。
緊張?
いや、そんなものはなかったはずだ。
もしかして、自分でも緊張に気づいていなかったのだろうか?
それにしても、変だ。
早く厠に駆け込みたい。
おれは手を考えようとしたが、
お腹がきりきり痛んで、とても考えている場合ではない。
グラディス「どうした。早く打たぬか。打たねば始まらぬぞ」
ええい、ままよ。
おれはポーンに手をかけて1駒進めた。
グラディス「ククク。オーソドックスだな」
グラディスがすぐさま次の手を打つ。
(うっ……)
おれはまたしても呻いた。
お腹が痛い。
猛烈に洩らしそうだ。
考えている場合ではない。
(こ、ここで洩らしては最悪の状態になる……
なんとかして耐えねば……!)
考えるのは、いかにして内蔵の衝動を抑えるかだ。
手を考えている場合ではない。
おれは呻きながら、またチェスの駒を手にした。
ポコッ!
どこに置いたのかすら覚えてはいない。
グラディス「ほう」
またグラディスが次の手をくり出す。
(ぐぅ……やばい……!)
おれは懸命に衝動と戦いながら、次の手を打った。
すぐさまグラディスが打ち返し、
おれもまた打ち返すという状況が続いていく。
戦いがどうなっているかなんて、わからない。
とにかく、洩らさないこと、内臓の衝動を抑えることだけだ。
(早く終わってくれぇ……!)
ポコッ!
その一念だけで、矢継ぎ早に打ち返していく。
グラディス「ぬっ……!」
一瞬、グラディスが唸った。
おれには何に反応しているのかわからない。
(ぐぁぁぁ……誰かお腹の衝動を止めてくれ……)
グラディス「やるな」
ポコッ、ポコッ!
グラディスが手を打ち返す。
すぐさま、おれはルークを移動させる。
グラディス「ぐっ!」
(驚いてないで、早く打ち返してくれ……!)
おれはお腹を抑えてひたすら呻き声をこらえる。
だが、グラディスは考え込んでいてなかなか打たない。
一手打つのに許された時間は、砂時計が落ちるまで。
ポコッ、ポコッ!
時間に迫られて、グラディスが手を打った。
おれは待っていたように、すぐさま打ち返した。
グラディス「……」
グラディスが盤面を睨む。
ポコッ、ポコッ!
また時間ぎりぎりまで粘って手を打つ。
その直後、おれはまた手を打ち返す。
グラディス「ぐぅ……」
グラディスが唸った。
まわりの者たちは唾を飲んで見守っている。
ワン・コアンも、フェルゼン将軍も。
時間ぎりぎりでまたしてもグラディスが打った。
(ぐはぁっ……洩れるぅ……!)
おれはすぐさまポーンを移動させた。
グラディス「ふぉっ……!」
グラディスがまたしても唸った。
ずっと考え込む。
なぜ考え込むのだ。
時間を引き延ばさないでくれ。
耐えられん。
ここで尻から大爆発だけはいやだ。
ポコッ、ポコッ!
またしても時間ぎりぎりでグラディスが打った。
すぐさまおれはまた打ち返した。
ワン・コアン「おおっ……!」
フェルゼン「むおっ……!」
横で見ていた2人が思わず声を上げた。
グラディスは苦渋の表情を浮かべていた。
あのグラディスが苦しんでいる。
まさか、おれと同じ腹痛なのか?
とにかく、早く、早く打ってくれ。
時間いっぱいまで粘って、またグラディスが打った。
(ぎょわぁぁぁぁ、やばい!もう死ぬ、死ぬぅぅぅぅっ!)
おれは速攻で打ち返した。
グラディス「……!!」
グラディスが息を呑んだ。
まわりでも、おおという声があがった。
グラディスがポーンをつかんで移動させようとする。
が、また元に戻す。
そのまま考える。
砂時計はどんどん進んでいくだけだ。
そしておれの腹の衝動もどんどん強まっていく。
おれは声なく呻いた。
グラディスの手がふるえた。
またチェスの駒を動かそうとして、やめた。置き直した。
砂時計が止まっていた。
砂が全部落ち切っていた。
グラディス「……まさか、これほどの名手とはな」
ため息をつくように言った。
敵兵「グラディス将軍!」
グラディス「わかっておる。オレの負けだ。どこに打っても逃れられん」
リュート「え?」
グラディス「こう、打つ手打つ手が妙手ではな……
いったい、どこでチェスを学んだ?」
リュート「おれ、勝ったの?」
グラディス「相変わらずふざけたことを言う。人を負かしておいて」
リュート「じゃあ、、厠に行っていいの?」
グラディス「当たり前だ」
おれは全力で厠に走った。
走っている最中の方が、人生最大の危機だった。
ここまで我慢していて爆発は最悪だ。
が------なんとかお尻からの大爆発は免れることができた。
それにしても------
戦いの場に戻りながらおれは考えた。
なぜ、勝ってしまったのだろう。
グラディスがわざと負けた?
いや。
そんな感じじゃなかった。
グラディスは本気だった。
なら------なぜグラディスは負けたのだろう。
おれが打った手がそんなによかったのだろうか?
でも、腹痛をこらえるのに精一杯で、
どこに打つなんて考えている場合ではなかったのだが……。
いよいよ戦いの舞台------運命の場所だ。
だが------どうにもお腹の具合が悪い。
(ううん……なんでだろ……なんかお腹の調子が悪いな……)
敵兵「ここでお待ちください」
フェルゼン「ついにか」
ワン・コアン「泣いても笑っても、これで勝負が決まりですな」
リュート「ううん……」
ワン・コアン「どうされました」
リュート「なんか、お腹が痛い」
ワン・コアン「どういたしましょう」
リュート「ううん……厠はないかな」
グラディス「やはり、来たか」
グラディスがにやりと笑った。
グラディス「戦わずに逃げ出すか、
泣き言を言ってくるかと思っていたがな」
リュート「あ、うん……」
グラディス「クククク。表情が冴えぬな。
さすがのおまえでも、やはり死ぬのが怖いか。
オレに死んでもいいと言ったのは、嘘のようだな」
リュート「はは……あの、厠はない?」
グラディス「ククク……緊張しておるようだな。
それでは戦いに勝てぬぞ」
リュート「ううん……こんな時に腹痛なんて……」
グラディス「戦いが始まったら、席を外すのは一切なしだ。
誰かに次の手を聞かぬとも限らぬからな」
リュート「え?そんな……」
グラディス「ククク。モテールに聞くつもりだったのかもしれぬが、
無駄なことだ。やつの手はすべて知っておる。
教えたのは、このオレだからな」
リュート「ううん……」
グラディス「では、始めるか」
リュート「え?先に厠に------」
グラディス「時間厳守だ」
リュート「そ、そんな……」
グラディス「では、参るぞ。おまえから打て」
ついに戦いが始まった。
それも最悪の始まりだった。
腹痛でお腹がきゅんきゅん痛んでいる。
いったい、なぜこんなに遺体のだろう。
緊張?
いや、そんなものはなかったはずだ。
もしかして、自分でも緊張に気づいていなかったのだろうか?
それにしても、変だ。
早く厠に駆け込みたい。
おれは手を考えようとしたが、
お腹がきりきり痛んで、とても考えている場合ではない。
グラディス「どうした。早く打たぬか。打たねば始まらぬぞ」
ええい、ままよ。
おれはポーンに手をかけて1駒進めた。
グラディス「ククク。オーソドックスだな」
グラディスがすぐさま次の手を打つ。
(うっ……)
おれはまたしても呻いた。
お腹が痛い。
猛烈に洩らしそうだ。
考えている場合ではない。
(こ、ここで洩らしては最悪の状態になる……
なんとかして耐えねば……!)
考えるのは、いかにして内蔵の衝動を抑えるかだ。
手を考えている場合ではない。
おれは呻きながら、またチェスの駒を手にした。
ポコッ!
どこに置いたのかすら覚えてはいない。
グラディス「ほう」
またグラディスが次の手をくり出す。
(ぐぅ……やばい……!)
おれは懸命に衝動と戦いながら、次の手を打った。
すぐさまグラディスが打ち返し、
おれもまた打ち返すという状況が続いていく。
戦いがどうなっているかなんて、わからない。
とにかく、洩らさないこと、内臓の衝動を抑えることだけだ。
(早く終わってくれぇ……!)
ポコッ!
その一念だけで、矢継ぎ早に打ち返していく。
グラディス「ぬっ……!」
一瞬、グラディスが唸った。
おれには何に反応しているのかわからない。
(ぐぁぁぁ……誰かお腹の衝動を止めてくれ……)
グラディス「やるな」
ポコッ、ポコッ!
グラディスが手を打ち返す。
すぐさま、おれはルークを移動させる。
グラディス「ぐっ!」
(驚いてないで、早く打ち返してくれ……!)
おれはお腹を抑えてひたすら呻き声をこらえる。
だが、グラディスは考え込んでいてなかなか打たない。
一手打つのに許された時間は、砂時計が落ちるまで。
ポコッ、ポコッ!
時間に迫られて、グラディスが手を打った。
おれは待っていたように、すぐさま打ち返した。
グラディス「……」
グラディスが盤面を睨む。
ポコッ、ポコッ!
また時間ぎりぎりまで粘って手を打つ。
その直後、おれはまた手を打ち返す。
グラディス「ぐぅ……」
グラディスが唸った。
まわりの者たちは唾を飲んで見守っている。
ワン・コアンも、フェルゼン将軍も。
時間ぎりぎりでまたしてもグラディスが打った。
(ぐはぁっ……洩れるぅ……!)
おれはすぐさまポーンを移動させた。
グラディス「ふぉっ……!」
グラディスがまたしても唸った。
ずっと考え込む。
なぜ考え込むのだ。
時間を引き延ばさないでくれ。
耐えられん。
ここで尻から大爆発だけはいやだ。
ポコッ、ポコッ!
またしても時間ぎりぎりでグラディスが打った。
すぐさまおれはまた打ち返した。
ワン・コアン「おおっ……!」
フェルゼン「むおっ……!」
横で見ていた2人が思わず声を上げた。
グラディスは苦渋の表情を浮かべていた。
あのグラディスが苦しんでいる。
まさか、おれと同じ腹痛なのか?
とにかく、早く、早く打ってくれ。
時間いっぱいまで粘って、またグラディスが打った。
(ぎょわぁぁぁぁ、やばい!もう死ぬ、死ぬぅぅぅぅっ!)
おれは速攻で打ち返した。
グラディス「……!!」
グラディスが息を呑んだ。
まわりでも、おおという声があがった。
グラディスがポーンをつかんで移動させようとする。
が、また元に戻す。
そのまま考える。
砂時計はどんどん進んでいくだけだ。
そしておれの腹の衝動もどんどん強まっていく。
おれは声なく呻いた。
グラディスの手がふるえた。
またチェスの駒を動かそうとして、やめた。置き直した。
砂時計が止まっていた。
砂が全部落ち切っていた。
グラディス「……まさか、これほどの名手とはな」
ため息をつくように言った。
敵兵「グラディス将軍!」
グラディス「わかっておる。オレの負けだ。どこに打っても逃れられん」
リュート「え?」
グラディス「こう、打つ手打つ手が妙手ではな……
いったい、どこでチェスを学んだ?」
リュート「おれ、勝ったの?」
グラディス「相変わらずふざけたことを言う。人を負かしておいて」
リュート「じゃあ、、厠に行っていいの?」
グラディス「当たり前だ」
おれは全力で厠に走った。
走っている最中の方が、人生最大の危機だった。
ここまで我慢していて爆発は最悪だ。
が------なんとかお尻からの大爆発は免れることができた。
それにしても------
戦いの場に戻りながらおれは考えた。
なぜ、勝ってしまったのだろう。
グラディスがわざと負けた?
いや。
そんな感じじゃなかった。
グラディスは本気だった。
なら------なぜグラディスは負けたのだろう。
おれが打った手がそんなによかったのだろうか?
でも、腹痛をこらえるのに精一杯で、
どこに打つなんて考えている場合ではなかったのだが……。
