グラディス「ククク……まさか、このオレがチェスで負けるとはな」
おれを見ると、グラディスは笑いを洩らした。
グラディス「おまえの表情を見た時には、
さすがのおまえも緊張しておるのかと思っておったが……
まさか、演技だったとはな」
リュート「いや、演技じゃなくて、本当にお腹が痛かったんだって」
グラディス「それであの手を打ったのか?
腹痛がなければ、どうなっていたかわからんな」
リュート「いや、おれ、チェス、強くないから」
グラディス「オレは信じぬぞ。
オレが人生で負けたのは、父が死んでから初めてだ」
リュート「あの……手加減なんかしてないよね」
グラディス「このオレがすると思うか?」
リュート「ほんとに?」
おれはワン・コアンに顔を向けた。
ワン・コアン「その……何と申しますか、
ことごとくいい手ばかりでございました」
フェルゼン「感服した。あれほどよい手の連続は見たことがない。
よもやワッケンハイムの『伜』が負けるとはな」
リュート「え、ええ~~~~っ!?」
驚くのはおれの方だった。
そんな。
腹痛をこらえるのに精一杯で、闇雲に打っただけなのに。
それが、ことごとく妙手だって!?
そ、そんな馬鹿な~~~っ!
グラディスは腰の剣を抜いて地面に投げつけた。
リュート「?」
グラディス「まさか、こんな時が来るとはな。
一番犠牲なく勝つつもりが、正反対の結果に陥るとはな」
グラディスは自嘲的に微笑み、ため息をついた。
グラディス「オレの負けだ。好きにするがよい」
グラディスはすがすがしい笑みを向けた。
グラディス「ただし、兵は処刑するな。処刑するのはオレだけでよい」
リュート「うん……わかった。ヴンダーバルト城の者には
一切危害を加えない」
グラディス「約束だぞ」
リュート「約束する」
敵兵「グラディス将軍!」
グラディス「気にするな。おまえたちの命の保証はとりつけた。
こいつは信頼できる男だ」
敵兵「しかし、将軍は------!」
グラディス「戦いというのはこういうものだ。
いつでも勝者が敗者と入れ代わる。そこに必然はない」
敵兵「将軍……!」
グラディスはおれの方に顔を向けた。
グラディス「早くお前たちの城につれていけ。
煮るなり焼くなり、好きにするがよい」
-------------------------------------------------------------------------------
------それからは、凄い大騒ぎだった。
誰もが、おれが負けると思っていたのだ。
それが------勝ってしまった。
誰が攻めても首を取ることのできなかったグラディス将軍を、
捕虜にしてしまったのだ。
モテール「貴様、いったい何をした~~~~~っ!」
おれが帰ってくると、
モテールがおれの襟をつかんで揺さぶった。
リュート「や、やぁ、モテール」
モテール「貴様、何をした!金で買収したか!?」
リュート「そんなお金ないって」
モテール「貴様に勝てるわけがないのだ!
貴様に、貴様に、貴様に……!」
ドンッ!
モテール「ぐはっ!」
フェルゼン「司令官の襟首をつかむ馬鹿がおるか!恥を知れ!」
モテール「し、しかし------」
フェルゼン「この無礼者が!頭をつけて詫びよ!」
ドンッ!
モテール「ぐ、ぐぁぁっ……お、おやめください、
フェルゼン将軍……!」
フェルゼン「早く詫びぬか!」
モテール「た、大変申し訳ございませんでした……」
フェルゼン「目障りだ。立ち去れ」
モテール「は、ははっ……」
モテールはよろよろとよろめきながら立ち去った。
守備兵A「司令官!」
守備兵B「司令官殿!」
守備兵A「ま……まさか、本当に勝つなんて……!」
守備兵B「き、奇跡だ……奇跡が起こったんだ!」
フェルゼン「何を言うか、実力だ!早く宴の支度をせぬか!
今日は宴会だ!」
守備兵A&B「ははっ!」
リュート「まだ宴会は早いんじゃない?ヴンダーバルト城の連中、
攻撃を仕掛けてくるかもしれないよ」
フェルゼン「心配には及びませぬ。元々、あの城は
グラディス将軍だからこそ統率できていたもの。
グラディスなしでは、有効な戦いの仕掛けもできますまい」
リュート「でも、一応念のため」
フェルゼン「警備は厳重にさせます。
ヴンダーバルト城の近くにも斥候を置いておりますゆえ」
おれは、はっとした。
フェルゼン将軍が、おれに丁寧語を使っている。
ずっと……ずっと乱暴な口調だったのに。
ザント「フェルゼン将軍!」
フェルゼン「おお、ザント将軍!見よ、勝ったぞ!」
ザント「そんな馬鹿な……いったい、どんな手を打って……!?」
フェルゼン「それがわしも見たことのないほど、妙手の連続であった。
あのグラディスが苦しむ表情を初めて見たわ!」
シュラム「手を抜いたのではないのか」
フェルゼン「棋譜はとってある。後で見れば
手を抜いていないことぐらいわかる。
あれは、一生に一度お目にかかれるかどうかの手であった」
フェルゼン「今宵は宴だ!陛下にも早くお伝えするのだ!」
2人の将軍は慌ただしく立ち去った。
きっと王都に向けて使者を走らせるよう、
伝えに行ったのだろう。
-------------------------------------------------------------------------------
城の中は大騒ぎになっていた。
おれの方が、なんだかついていけていない感じだ。
リュート「やあ、アイシス」
アイシス「リュ、リュート……噂は本当なの?」
リュート「みたい」
アイシス「そんな……」
リュート「ごめんね。オッパイの件、なくなっちゃった」
アイシス「ば、馬鹿……!」
アイシスは真っ赤になって立ち去った。
フェルゼン「司令官。オッパイの件とは何事ですか」
リュート「え?ああ、あれ?
おれが死んだら顔に胸を押しつけてって頼んだんだけど」
フェルゼン「ははははははは!」
フェルゼン将軍が大声を上げた。
フェルゼン「王都に戻ったら、いろんな女から言い寄られますぞ!
司令官は、英雄ですからな!」
おれが初めて見た、フェルゼン将軍の笑い顔だった。
おれを見ると、グラディスは笑いを洩らした。
グラディス「おまえの表情を見た時には、
さすがのおまえも緊張しておるのかと思っておったが……
まさか、演技だったとはな」
リュート「いや、演技じゃなくて、本当にお腹が痛かったんだって」
グラディス「それであの手を打ったのか?
腹痛がなければ、どうなっていたかわからんな」
リュート「いや、おれ、チェス、強くないから」
グラディス「オレは信じぬぞ。
オレが人生で負けたのは、父が死んでから初めてだ」
リュート「あの……手加減なんかしてないよね」
グラディス「このオレがすると思うか?」
リュート「ほんとに?」
おれはワン・コアンに顔を向けた。
ワン・コアン「その……何と申しますか、
ことごとくいい手ばかりでございました」
フェルゼン「感服した。あれほどよい手の連続は見たことがない。
よもやワッケンハイムの『伜』が負けるとはな」
リュート「え、ええ~~~~っ!?」
驚くのはおれの方だった。
そんな。
腹痛をこらえるのに精一杯で、闇雲に打っただけなのに。
それが、ことごとく妙手だって!?
そ、そんな馬鹿な~~~っ!
グラディスは腰の剣を抜いて地面に投げつけた。
リュート「?」
グラディス「まさか、こんな時が来るとはな。
一番犠牲なく勝つつもりが、正反対の結果に陥るとはな」
グラディスは自嘲的に微笑み、ため息をついた。
グラディス「オレの負けだ。好きにするがよい」
グラディスはすがすがしい笑みを向けた。
グラディス「ただし、兵は処刑するな。処刑するのはオレだけでよい」
リュート「うん……わかった。ヴンダーバルト城の者には
一切危害を加えない」
グラディス「約束だぞ」
リュート「約束する」
敵兵「グラディス将軍!」
グラディス「気にするな。おまえたちの命の保証はとりつけた。
こいつは信頼できる男だ」
敵兵「しかし、将軍は------!」
グラディス「戦いというのはこういうものだ。
いつでも勝者が敗者と入れ代わる。そこに必然はない」
敵兵「将軍……!」
グラディスはおれの方に顔を向けた。
グラディス「早くお前たちの城につれていけ。
煮るなり焼くなり、好きにするがよい」
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------それからは、凄い大騒ぎだった。
誰もが、おれが負けると思っていたのだ。
それが------勝ってしまった。
誰が攻めても首を取ることのできなかったグラディス将軍を、
捕虜にしてしまったのだ。
モテール「貴様、いったい何をした~~~~~っ!」
おれが帰ってくると、
モテールがおれの襟をつかんで揺さぶった。
リュート「や、やぁ、モテール」
モテール「貴様、何をした!金で買収したか!?」
リュート「そんなお金ないって」
モテール「貴様に勝てるわけがないのだ!
貴様に、貴様に、貴様に……!」
ドンッ!
モテール「ぐはっ!」
フェルゼン「司令官の襟首をつかむ馬鹿がおるか!恥を知れ!」
モテール「し、しかし------」
フェルゼン「この無礼者が!頭をつけて詫びよ!」
ドンッ!
モテール「ぐ、ぐぁぁっ……お、おやめください、
フェルゼン将軍……!」
フェルゼン「早く詫びぬか!」
モテール「た、大変申し訳ございませんでした……」
フェルゼン「目障りだ。立ち去れ」
モテール「は、ははっ……」
モテールはよろよろとよろめきながら立ち去った。
守備兵A「司令官!」
守備兵B「司令官殿!」
守備兵A「ま……まさか、本当に勝つなんて……!」
守備兵B「き、奇跡だ……奇跡が起こったんだ!」
フェルゼン「何を言うか、実力だ!早く宴の支度をせぬか!
今日は宴会だ!」
守備兵A&B「ははっ!」
リュート「まだ宴会は早いんじゃない?ヴンダーバルト城の連中、
攻撃を仕掛けてくるかもしれないよ」
フェルゼン「心配には及びませぬ。元々、あの城は
グラディス将軍だからこそ統率できていたもの。
グラディスなしでは、有効な戦いの仕掛けもできますまい」
リュート「でも、一応念のため」
フェルゼン「警備は厳重にさせます。
ヴンダーバルト城の近くにも斥候を置いておりますゆえ」
おれは、はっとした。
フェルゼン将軍が、おれに丁寧語を使っている。
ずっと……ずっと乱暴な口調だったのに。
ザント「フェルゼン将軍!」
フェルゼン「おお、ザント将軍!見よ、勝ったぞ!」
ザント「そんな馬鹿な……いったい、どんな手を打って……!?」
フェルゼン「それがわしも見たことのないほど、妙手の連続であった。
あのグラディスが苦しむ表情を初めて見たわ!」
シュラム「手を抜いたのではないのか」
フェルゼン「棋譜はとってある。後で見れば
手を抜いていないことぐらいわかる。
あれは、一生に一度お目にかかれるかどうかの手であった」
フェルゼン「今宵は宴だ!陛下にも早くお伝えするのだ!」
2人の将軍は慌ただしく立ち去った。
きっと王都に向けて使者を走らせるよう、
伝えに行ったのだろう。
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城の中は大騒ぎになっていた。
おれの方が、なんだかついていけていない感じだ。
リュート「やあ、アイシス」
アイシス「リュ、リュート……噂は本当なの?」
リュート「みたい」
アイシス「そんな……」
リュート「ごめんね。オッパイの件、なくなっちゃった」
アイシス「ば、馬鹿……!」
アイシスは真っ赤になって立ち去った。
フェルゼン「司令官。オッパイの件とは何事ですか」
リュート「え?ああ、あれ?
おれが死んだら顔に胸を押しつけてって頼んだんだけど」
フェルゼン「ははははははは!」
フェルゼン将軍が大声を上げた。
フェルゼン「王都に戻ったら、いろんな女から言い寄られますぞ!
司令官は、英雄ですからな!」
おれが初めて見た、フェルゼン将軍の笑い顔だった。
