朝食を食べ終えると、
ようやくグラディスは部屋に戻っていった。
きっと、お城の中ではおれの噂が駆け回っているに違いない。
なにせ、兵が朝食を下げに来た時にも、
おれの首根っこに抱きついてキスを浴びせていたのだから。
シャムシェル「ニヒヒヒヒヒヒ」
いやらしい笑いとともにシャムシェルが現われていた。
どうやら、今までどこかに隠れてずっと見ていたらしい。
シャムシェル「ま~た惚れられちゃって。多情だね~」
リュート「なんで惚れられちまったんだ?」
シャムシェル「だって、リュートって大物だから。
わたしが惚れるくらいなんだからね」
リュート「ううん……おれ、偶然で勝っただけなのに」
シャムシェル「そこがリュートの器の大きいところなの」
リュート「おれ、もしかしてもう一生分の運勢使い切って、
後は転落するのみなんじゃないの?」
シャムシェル「リュートはそういうタマじゃないの。あ、オ〇ンチンもね」
リュート「聞いてないって」
シャムシェル「くすくす」
リュート「びっくりしたよ。シャムシェルの代わりに
グラディスがいるんだもん」
シャムシェル「だって、わたしが寝ようと思ったら
夜中にささ~っとやってきてすべり込んじゃうんだもん」
リュート「へ~え」
シャムシェル「リュートって、自分に好意を持っている人間には、
暴力揮(ふる)わないんだね」
リュート「は?」
シャムシェル「悪者が近づくと、寝ていても凄い攻撃浴びせるくせに」
リュート「それ、ほんとの話?」
シャムシェル「悪魔は嘘つかない」
リュート「それ、絶対嘘だ」
シャムシェル「人間の方が嘘つくんだよ」
リュート「それは……確かに」
シャムシェル「ほら」
シャムシェルはおれにアップルパイを渡してみせた。
リュート「何、これ?」
シャムシェル「昨日リュートが食べたやつ」
リュート「おまえ、こんなのまだ持ってたのか」
シャムシェル「それ、腹下しが入ってるよ」
リュート「腹下し?」
シャムシェル「リュートのお腹を壊して、
何があってもチェスに負けさせるつもりだったんだよ。
もっとも、リュートには逆効果だったみたいだけど」
おれはまじまじとアップルパイを見つめた。
リュート「誰がつくらせたんだ?」
シャムシェル「つくった料理人をとっちめたらすぐわかるよ。
命じた張本人に食べさせるって手もあるけどね」
リュート「つくらせた張本人って------」
ガチャッ!
モテール「貴様~~~~~~~っ!」
突然、モテールが飛び込んできた。
モテール「嘘だと言え!あの噂は嘘だと言え~~~っ!」
リュート「わぁっ……何のことだよ」
モテール「あの……あのグラディス様がおまえに……」
リュート「ああ……もうおまえの耳にも入ってたのか」
モテール「嘘だと言え~~っ!貴様にグラディス様が
ものにできるわけがないのだ!
貴様のような落ちこぼれに~~~っ!」
ドンッ!
モテール「ぐげっ!」
グラディスがおれの部屋に姿を現していた。
グラディス「貴様、何をしている」
モテール「グ、グラディス……」
グラディス「呼び捨てにするな!オレを呼び捨てにしてよいのは、
オレが好きになった男だけだ」
モテール「し、しかし、我らの捕虜------」
グラディス「貴様の捕虜ではない。
オレはリュート・ヘンデの捕虜となったのだ」
モテール「は?」
グラディス「オレの愛しい男を愚弄するやつは
この剣で切り裂いてくれるぞ」
グラディスが剣を引き抜いた。
モテール「ひっ!だ、誰だ、剣を持たせたのは!」
リュート「もしかしておれかな?」
モテール「き、貴様~っ!」
ドンッ!
モテール「うげっ!」
グラディス「貴様、オレの言葉が聞けなかったのか!」
モテール「ひぃっ!」
グラディス「貴様の態度はなっておらぬ!
騎士学校を卒業していながらその口の利き方は何だ!
そこに居直れ!」
モテール「し、しかし------」
グラディス「早くせぬか!」
モテール「はっ!」
グラディス「歯を食いしばれっ!気をつけ~っ、休め!」
モテール「はっ!」
グラディス「今から貴様に天誅を食らわせてやる。甘んじて受けよ!」
モテール「は、はっ!」
グラディス「以後、貴様が我が夫リュート・ヘンデをそしること値わぬ!
万が一罵倒した場合は、鉄拳をもって
制裁を受けるがよい!」
モテール「そ、そんな-------」
グラディス「天誅!」
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
モテール「……」
モテール「ほ……」
モテール「ほ、ほえ……」
グラディス「よくわかったか」
モテール「よ……よおく……わかり……まひた……ぶへっ……」
モテールはボロボロになって出ていった。
あのモテールが一瞬であんなふうになってしまうのだから、
もし剣で戦っていたら、おれは瞬間的に殺されていたに
違いない。
グラディス「くす。安心しろ。邪魔なやつはオレが追い払ってやったぞ」
リュート「あんなにしなくてもよかったのに」
グラディス「あいつのためだ。
あいつはおまえに対して敬意を払わなすぎる。
大きすぎるプライドは、人を殺すだけだ」
その通りだった。
やはり名将軍、見抜くところは見抜いている。
ガチャッ!
フェルゼン「司令官、噂は------」
フェルゼン「どうやら、本当だったようですな」
どうやら、おれとグラディスの仲のことを聞きに来たらしい。
それにしても、グラディスは突っ走りすぎだ。
我が夫って……まだ結婚してないってば。
グラディス「フェルゼンか。久しぶりだのう」
フェルゼン「昨日会ったであろうが、この反逆者め。
貴様ともあろう者が」
グラディス「相変わらず老けておるな」
フェルゼン「何を言うか、じゃじゃ馬娘め」
グラディス「オレはもう娘ではないぞ。女になったのだ」
フェルゼン「何!?」
グラディス「相手はもちろん、わかるよのう」
グラディスがおれに身体を押しつける。
リュート「お、おい」
フェルゼン「……ククク」
リュート「?」
フェルゼン「は~~っ!はっ!はっ!」
リュート「フェルゼン将軍?」
フェルゼン「参りましたな。
このじゃじゃ馬娘まで手なずけてしまうとは」
リュート「いや、手なずけたというか、その……」
フェルゼン「よいのですか。
このように自由にしておいて。城を乗っ取られますぞ」
グラディス「オレがそんなことをするか。
この城はオレの愛しい男の城だ。
わざわざ乗っ取るまでもない」
フェルゼン「フン」
グラディス「それよりも、裏切り者に注意した方がよいのではないか」
フェルゼン「それは貴様のことか」
グラディス「馬鹿を言え。大方、見当がついておるだろうが」
フェルゼンが黙った。
将軍にも見当はついているらしい。
グラディス「秘密の話をするのだ。副官も呼んだ方がよかろう。
後の処理もあるでな」
フェルゼン「言っておくが、おまえは捕虜だぞ」
グラディス「リュートはそう言っておらぬぞ。
昨日、オレを自由にしてくれた」
フェルゼン「何!?」
グラディス「だが、オレは逃げてはおらぬ。
愛しい男のそばから離れる馬鹿がおるものか」
フェルゼン「……」
フェルゼンは沈黙している。呆れているのだろう。
グラディス「おい、衛兵!」
ガチャッ!
グラディス「副官を呼んでこい」
守備兵B「は?」
リュート「ああ、ワン・コアンを呼んできて」
守備兵B「はっ!」
フェルゼン「呆れたやつめ。もう我が物顔だな」
グラディス「戦いの目的は実現できたのでな」
フェルゼン「実現した?」
グラディス「陛下の改革は急すぎるのだ。
それではいずれ叛乱が起きてしまう。
父上が軍を率いたのは、自分の許に反乱者を集めるためだ」
フェルゼン「何だと」
グラディス「オレはその意思を継いだ。
兵士を決して処罰せぬ者が現われるまでな」
フェルゼン「では……おまえは反対ではなかったのか?」
グラディス「時代の趨勢は騎士官僚制に向かっておる。
ただ、早すぎるのだ。陛下はそのあたりが
おわかりにならんようだがな」
フェルゼン「貴様、打ち首になると思わなかったのか」
グラディス「思わぬオレだと思うか?」
フェルゼン「……」
グラディス「だが、父上がやらずとも、誰かが反乱軍を率いる。
ならば、自分が率いて制御した方がいい」
グラディス「そして、決して自分たちを処分せぬ者が現われた時に
投降すればよい。さすれば、王の威厳は増し、
騎士官僚制はさらに進展することになる」
フェルゼン「貴様、そこまで------」
グラディス「父上の言葉だ」
フェルゼン「すると、昨日のチェスは------」
グラディス「わざとではないぞ。オレは本気で勝つつもりだったのだ。
相手が一枚上だったがな」
フェルゼン「……」
グラディス「負けるべき相手に負けたというわけだ」
フェルゼン「だが、覆るかもしれぬぞ。
陛下の気まぐれで、断頭台に送られるかもしれぬ」
グラディス「それもまた人生だ」
ようやくグラディスは部屋に戻っていった。
きっと、お城の中ではおれの噂が駆け回っているに違いない。
なにせ、兵が朝食を下げに来た時にも、
おれの首根っこに抱きついてキスを浴びせていたのだから。
シャムシェル「ニヒヒヒヒヒヒ」
いやらしい笑いとともにシャムシェルが現われていた。
どうやら、今までどこかに隠れてずっと見ていたらしい。
シャムシェル「ま~た惚れられちゃって。多情だね~」
リュート「なんで惚れられちまったんだ?」
シャムシェル「だって、リュートって大物だから。
わたしが惚れるくらいなんだからね」
リュート「ううん……おれ、偶然で勝っただけなのに」
シャムシェル「そこがリュートの器の大きいところなの」
リュート「おれ、もしかしてもう一生分の運勢使い切って、
後は転落するのみなんじゃないの?」
シャムシェル「リュートはそういうタマじゃないの。あ、オ〇ンチンもね」
リュート「聞いてないって」
シャムシェル「くすくす」
リュート「びっくりしたよ。シャムシェルの代わりに
グラディスがいるんだもん」
シャムシェル「だって、わたしが寝ようと思ったら
夜中にささ~っとやってきてすべり込んじゃうんだもん」
リュート「へ~え」
シャムシェル「リュートって、自分に好意を持っている人間には、
暴力揮(ふる)わないんだね」
リュート「は?」
シャムシェル「悪者が近づくと、寝ていても凄い攻撃浴びせるくせに」
リュート「それ、ほんとの話?」
シャムシェル「悪魔は嘘つかない」
リュート「それ、絶対嘘だ」
シャムシェル「人間の方が嘘つくんだよ」
リュート「それは……確かに」
シャムシェル「ほら」
シャムシェルはおれにアップルパイを渡してみせた。
リュート「何、これ?」
シャムシェル「昨日リュートが食べたやつ」
リュート「おまえ、こんなのまだ持ってたのか」
シャムシェル「それ、腹下しが入ってるよ」
リュート「腹下し?」
シャムシェル「リュートのお腹を壊して、
何があってもチェスに負けさせるつもりだったんだよ。
もっとも、リュートには逆効果だったみたいだけど」
おれはまじまじとアップルパイを見つめた。
リュート「誰がつくらせたんだ?」
シャムシェル「つくった料理人をとっちめたらすぐわかるよ。
命じた張本人に食べさせるって手もあるけどね」
リュート「つくらせた張本人って------」
ガチャッ!
モテール「貴様~~~~~~~っ!」
突然、モテールが飛び込んできた。
モテール「嘘だと言え!あの噂は嘘だと言え~~~っ!」
リュート「わぁっ……何のことだよ」
モテール「あの……あのグラディス様がおまえに……」
リュート「ああ……もうおまえの耳にも入ってたのか」
モテール「嘘だと言え~~っ!貴様にグラディス様が
ものにできるわけがないのだ!
貴様のような落ちこぼれに~~~っ!」
ドンッ!
モテール「ぐげっ!」
グラディスがおれの部屋に姿を現していた。
グラディス「貴様、何をしている」
モテール「グ、グラディス……」
グラディス「呼び捨てにするな!オレを呼び捨てにしてよいのは、
オレが好きになった男だけだ」
モテール「し、しかし、我らの捕虜------」
グラディス「貴様の捕虜ではない。
オレはリュート・ヘンデの捕虜となったのだ」
モテール「は?」
グラディス「オレの愛しい男を愚弄するやつは
この剣で切り裂いてくれるぞ」
グラディスが剣を引き抜いた。
モテール「ひっ!だ、誰だ、剣を持たせたのは!」
リュート「もしかしておれかな?」
モテール「き、貴様~っ!」
ドンッ!
モテール「うげっ!」
グラディス「貴様、オレの言葉が聞けなかったのか!」
モテール「ひぃっ!」
グラディス「貴様の態度はなっておらぬ!
騎士学校を卒業していながらその口の利き方は何だ!
そこに居直れ!」
モテール「し、しかし------」
グラディス「早くせぬか!」
モテール「はっ!」
グラディス「歯を食いしばれっ!気をつけ~っ、休め!」
モテール「はっ!」
グラディス「今から貴様に天誅を食らわせてやる。甘んじて受けよ!」
モテール「は、はっ!」
グラディス「以後、貴様が我が夫リュート・ヘンデをそしること値わぬ!
万が一罵倒した場合は、鉄拳をもって
制裁を受けるがよい!」
モテール「そ、そんな-------」
グラディス「天誅!」
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
モテール「……」
モテール「ほ……」
モテール「ほ、ほえ……」
グラディス「よくわかったか」
モテール「よ……よおく……わかり……まひた……ぶへっ……」
モテールはボロボロになって出ていった。
あのモテールが一瞬であんなふうになってしまうのだから、
もし剣で戦っていたら、おれは瞬間的に殺されていたに
違いない。
グラディス「くす。安心しろ。邪魔なやつはオレが追い払ってやったぞ」
リュート「あんなにしなくてもよかったのに」
グラディス「あいつのためだ。
あいつはおまえに対して敬意を払わなすぎる。
大きすぎるプライドは、人を殺すだけだ」
その通りだった。
やはり名将軍、見抜くところは見抜いている。
ガチャッ!
フェルゼン「司令官、噂は------」
フェルゼン「どうやら、本当だったようですな」
どうやら、おれとグラディスの仲のことを聞きに来たらしい。
それにしても、グラディスは突っ走りすぎだ。
我が夫って……まだ結婚してないってば。
グラディス「フェルゼンか。久しぶりだのう」
フェルゼン「昨日会ったであろうが、この反逆者め。
貴様ともあろう者が」
グラディス「相変わらず老けておるな」
フェルゼン「何を言うか、じゃじゃ馬娘め」
グラディス「オレはもう娘ではないぞ。女になったのだ」
フェルゼン「何!?」
グラディス「相手はもちろん、わかるよのう」
グラディスがおれに身体を押しつける。
リュート「お、おい」
フェルゼン「……ククク」
リュート「?」
フェルゼン「は~~っ!はっ!はっ!」
リュート「フェルゼン将軍?」
フェルゼン「参りましたな。
このじゃじゃ馬娘まで手なずけてしまうとは」
リュート「いや、手なずけたというか、その……」
フェルゼン「よいのですか。
このように自由にしておいて。城を乗っ取られますぞ」
グラディス「オレがそんなことをするか。
この城はオレの愛しい男の城だ。
わざわざ乗っ取るまでもない」
フェルゼン「フン」
グラディス「それよりも、裏切り者に注意した方がよいのではないか」
フェルゼン「それは貴様のことか」
グラディス「馬鹿を言え。大方、見当がついておるだろうが」
フェルゼンが黙った。
将軍にも見当はついているらしい。
グラディス「秘密の話をするのだ。副官も呼んだ方がよかろう。
後の処理もあるでな」
フェルゼン「言っておくが、おまえは捕虜だぞ」
グラディス「リュートはそう言っておらぬぞ。
昨日、オレを自由にしてくれた」
フェルゼン「何!?」
グラディス「だが、オレは逃げてはおらぬ。
愛しい男のそばから離れる馬鹿がおるものか」
フェルゼン「……」
フェルゼンは沈黙している。呆れているのだろう。
グラディス「おい、衛兵!」
ガチャッ!
グラディス「副官を呼んでこい」
守備兵B「は?」
リュート「ああ、ワン・コアンを呼んできて」
守備兵B「はっ!」
フェルゼン「呆れたやつめ。もう我が物顔だな」
グラディス「戦いの目的は実現できたのでな」
フェルゼン「実現した?」
グラディス「陛下の改革は急すぎるのだ。
それではいずれ叛乱が起きてしまう。
父上が軍を率いたのは、自分の許に反乱者を集めるためだ」
フェルゼン「何だと」
グラディス「オレはその意思を継いだ。
兵士を決して処罰せぬ者が現われるまでな」
フェルゼン「では……おまえは反対ではなかったのか?」
グラディス「時代の趨勢は騎士官僚制に向かっておる。
ただ、早すぎるのだ。陛下はそのあたりが
おわかりにならんようだがな」
フェルゼン「貴様、打ち首になると思わなかったのか」
グラディス「思わぬオレだと思うか?」
フェルゼン「……」
グラディス「だが、父上がやらずとも、誰かが反乱軍を率いる。
ならば、自分が率いて制御した方がいい」
グラディス「そして、決して自分たちを処分せぬ者が現われた時に
投降すればよい。さすれば、王の威厳は増し、
騎士官僚制はさらに進展することになる」
フェルゼン「貴様、そこまで------」
グラディス「父上の言葉だ」
フェルゼン「すると、昨日のチェスは------」
グラディス「わざとではないぞ。オレは本気で勝つつもりだったのだ。
相手が一枚上だったがな」
フェルゼン「……」
グラディス「負けるべき相手に負けたというわけだ」
フェルゼン「だが、覆るかもしれぬぞ。
陛下の気まぐれで、断頭台に送られるかもしれぬ」
グラディス「それもまた人生だ」
