守備兵「入れ。特別に、長官が会ってくださるそうだ」
ぞろぞろと村人たちが大広間に入り込んできた。
総勢で10名以上いる。
みな、落ち着きのない表情をしている。
家令と長官が、村人たちの前に姿を見せた。
アーボイン「代表は、おまえたちか」
村人A「領主様!」
村人B「お助けください、我々はもう夜も寝られないんで」
村人C「これ以上人が死ぬんじゃ、町を出ていくしかありません!」
アーボイン「うむ。おまえたちの気持ちはよくわかっておる。
わしの方も早速手を打った」
アーボイン「実は、王都に頼んで、
悪魔退治の者をよこしてもらったのだ」
場がざわついた。
おれも、少しだけ胸の奥で不安になった。
悪魔退治の兵を派遣したなんて話は、聞いたことがない。
村人A「悪魔退治の?」
村人B「それはえらい司祭様で……?」
アーボイン「この男だ」
長官がまっすぐ指差した------その先にあったのは、
こともあろうに、おれだった。
リュート「な、なぬっ!?」
寝耳に水だった。
サキュバスの退治をしてほしいとは頼まれたが、
王都から派遣されてきた者ということにはなっていない。
アーボイン「この男はつい先日王都から到着したばかりでな。
ようやく、我等の頼みが聞き届けられることになった」
リュート「えっ!?」
村人A「騎士様!」
村人B「お助けを!」
村人C「我らに平安な夜を!
女はいいとしても、わしら、おちおち眠れません」
リュート「あ、いや、おれは------」
アーボイン「この男が命に代えてでも、悪魔を退治してくれるそうだ。
わしとしても、この男に賭けたい」
村人A「ありがとうございます、領主様!」
村人B「ありがとうございます!」
村人C「これでやっとゆっくり寝れる!」
リュート「あ、いや、だから------」
アーボイン「わかったら、行け」
村人たち「ありがとうございます!」
安心して村人たちは引き上げていった。
残るはおれと長官、そして家令のマドワーズ。
アーボイン「わしらは引き上げるか」
リュート「待ってください!」
アーボイン「何だ、うるさいやつだな」
リュート「王都からって、おれ------」
マドワーズ「まあ、いいじゃないですか」
リュート「いいって、
おれ、そんなことのために呼ばれたわけじゃないですから」
マドワーズ「でも、連中、安心して帰りやしたぜ」
アーボイン「マドワーズ、確かに名案だったな」
リュート「名案って、嘘ついたんでしょうが」
マドワーズ「じゃ、今から追い掛けていって本当のことを
告白しやすか?八つ裂きにされやすぜ」
思わず、黙った。
マドワーズの言う通りだった。
真実が常に正しい力を発揮するわけではない。
真実は毒と同じだ。
アーボイン「まあ、いずれ誰かがやらねばならぬことだ。
おまえがやり果たせるとは少しも期待しておらんが、
おまえしかおるまい」
リュート「いや、でも、どうやってサキュバスを」
マドワーズ「簡単でさ。窓に自分の精液をかけておけばいいんでさ。
匂いを嗅ぎつけて、サキュバスがやってきますぜ」
リュート「でも、その後どうやって退治するんです?
十字架って効くんですか?」
マドワーズ「効かんでしょうなあ」
リュート「ええっ!?じゃ、いったいどうやって------」
マドワーズ「それはご自分でお考えなすってください」
リュート「失敗したら、おれ、死ぬんですか?」
マドワーズ「そういうことになりやすかね」
リュート「そういうことって------」
アーボイン「リュート・ヘンデよ。これはわしからの命令だ。
まさか、主君の命令を聞かぬというわけではあるまいな」
リュート「そんな……無茶苦茶な……」
マドワーズ「今夜、頼みやすよ」
リュート「いくらなんでも、あんまりだ。成功報酬ぐらいないと……」
アーボイン「成功?成功すると思ってるのか?」
リュート「失敗するとわかっていておれに頼まれたんですか」
アーボイン「あ、いや……そういうわけでは」
リュート「こんな大仕事、普通じゃできません。
でっかい報酬がないと……」
アーボイン「……マドワーズ、どうする?」
マドワーズ「どうせ散る命です。奮発してやっても」
アーボイン「そうだな」
アーボイン「オホン。よかろう。申してみよ」
リュート「食事はいつも白パン。それから、1つお城がほしいです」
アーボイン「何?お城だぁ?身の程------」
マドワーズ「長官!ここではねのけては……」
アーボイン「わ、わかった」
アーボイン「よかろう。白パンは保証する」
リュート「お城も」
アーボイン「お城も1つ、ぼろいのを選んでおまえに授けよう」
リュート「ありがとうございます」
アーボイン「まあ、せいぜいがんばれ」
渋々認めて長官は立ち去った。
これでただ働きということはなくなったが、
問題が解決したわけではない。
たった1人でサキュバスを退治しなければならないのだ。
それも、十字架の効かないサキュバスを------。
サキュバスには嫌いなものがあるのだろうか。
たとえばコーヒーとか……。
いや、苦いものも効果がないだろう。
そもそも、王都から取り寄せている時間がない。
人生の苦みも、もちろん効かないに違いない。
そんなものが効果的なら、
ボーアンにサキュバスは出てこない。
サキュバスの好物は、男の精液のみ。
しかし、おびき寄せてどうやって退治するというのか。
やはり、己の剣の腕に頼るしかないのか。
(厄介なものを引き受けさせられちゃったな……)
おれは、答えを求めるようにヴォールトの天井を見上げた。
しかし、もちろん、解はなかった。
--------------------------------------------------------------------------------
リュート・ヘンデが退治方法を考えて悩んでいる頃、
長官の部屋ではアーボイン長官と家令のマドワーズが、
顔を突き合わせてニヤニヤしていた。
アーボイン「おまえの言う通りになったな」
マドワーズ「恐れ入りやす」
アーボイン「考えたものだな。王都から派遣された者が死んだとなれば、
愚民どもも諦めがつく」
マドワーズ「やつが正体だったと言って
死体を磔にすることだってできやす」
アーボイン「まったく、おまえというやつは悪人だな」
マドワーズ「人生、毒も悪も必要でやすからね」
アーボイン「ふ」
マドワーズ「くく」
アーボイン「くくくくくくく」
マドワーズ「しかし、残念でやすね。
『あっちの計画』にはもってこいだと思ったんですがね」
アーボイン「それはまたそれでいい。
例の計画に影響がなければそれでいい」
マドワーズ「あっちは平気ですよ。王子------」
アーボイン「その名前は禁句だ」
マドワーズ「へい」
アーボイン「さて。わしは少し出かけてくる」
マドワーズ「どちらへ」
アーボイン「久々にブリュンヒルドを抱きたくなった」
マドワーズ「奥方はいいんですか?
アーボイン「フン。知っておるくせに。わしは成熟した女より、
小娘の方がいい。牛のような乳の女は趣味ではない」
-------------------------------------------------------------------------------
挽課の鐘が鳴る頃、おれは奥方の部屋の扉を叩いた。
突然、奥方から呼び出されたのだ。
リュート「あの、リュートですが……」
ロクサーヌ「どうしてお引き受けなさったの?」
おれが現れると、突然ロクサーヌは真顔で迫った。
リュート「え?何が?」
ロクサーヌ「悪魔を退治するなんて……」
リュート「あれ?もうお聞きになったんですか?」
ロクサーヌ「あんな命を投げ出すようなこと、どうして------」
リュート「いや、どうしてと言われても、成り行きで------」
ロクサーヌ「せっかくお会いできたばかりなのに------」
リュート「奥方様?」
ロクサーヌ「……」
ロクサーヌ「こんなことなら、もっと早く身を……」
リュート「え?」
ロクサーヌはうつむいた。
ロクサーヌ「この町には悪魔が住んでいるんです。
それも、若い中央から来た騎士ばかり狙うんです。
昔からボーアンにいる人間は狙わないんです」
リュート「……ご存じだったんですね」
ロクサーヌ「ごめんなさい……あの人がしゃべらないようにって……。
怯えさせるから……」
リュート「……」
ロクサーヌ「今まで、誰も倒した者はおりません。
隣の城からも武勲を立てて名を上げようと
何人もやってきましたが、皆------」
リュート「……死んだんですね」
ロクサーヌは答えなかった。
奥方に深刻な顔をされると、
本当におれは死んじゃうのだろうかという気がしてしまう。
ロクサーヌ「リュート殿」
ロクサーヌが顔をあげていた。
ロクサーヌ「1つだけ、お願いがあります」
リュート「え?」
ロクサーヌ「わたしを抱い------」
マドワーズ「奥方ぁ!」
マドワーズ「おや、リュート様もごいっしょでしたか」
リュート「うん、ちょっと」
マドワーズ「コックが相談したいことがあると言ってますんでさ。
厨房へお願いできますか」
ロクサーヌ「ええ」
リュート「あの、お話は------?」
ロクサーヌ「いいえ、何でもないの。がんばってね」
リュート「はい」
おれは奥方の姿を見送った。
あの時、彼女は何を言いかけたのだろう。
<<わたしを抱い------>>
わたしを抱いてと言おうとしたのだろうか。
まさか。
人妻なのに?
……。
おれはため息をついた。
もしあの時マドワーズが来なかったら、
おれはどうしただろう。
倫理的に許されることではない。
でも、今の不安を逃れるために、
おれはロクサーヌをだいていたかもしれない。
(死んだら、ロクサーヌ様の胸を味わうこともないんだな)
そう思うと、欲望染みた切なさが込み上げた。
このまま待って、逆に彼女に告白しようか?
馬鹿な。
おれは何を考えているのだ。
これからサキュバスを打ち取らねばならないのに。
人妻との一夜?
不倫?
おれは首を振った。
それでも、しばらく部屋で待っていたが、
ロクサーヌは帰ってこなかった。
ぞろぞろと村人たちが大広間に入り込んできた。
総勢で10名以上いる。
みな、落ち着きのない表情をしている。
家令と長官が、村人たちの前に姿を見せた。
アーボイン「代表は、おまえたちか」
村人A「領主様!」
村人B「お助けください、我々はもう夜も寝られないんで」
村人C「これ以上人が死ぬんじゃ、町を出ていくしかありません!」
アーボイン「うむ。おまえたちの気持ちはよくわかっておる。
わしの方も早速手を打った」
アーボイン「実は、王都に頼んで、
悪魔退治の者をよこしてもらったのだ」
場がざわついた。
おれも、少しだけ胸の奥で不安になった。
悪魔退治の兵を派遣したなんて話は、聞いたことがない。
村人A「悪魔退治の?」
村人B「それはえらい司祭様で……?」
アーボイン「この男だ」
長官がまっすぐ指差した------その先にあったのは、
こともあろうに、おれだった。
リュート「な、なぬっ!?」
寝耳に水だった。
サキュバスの退治をしてほしいとは頼まれたが、
王都から派遣されてきた者ということにはなっていない。
アーボイン「この男はつい先日王都から到着したばかりでな。
ようやく、我等の頼みが聞き届けられることになった」
リュート「えっ!?」
村人A「騎士様!」
村人B「お助けを!」
村人C「我らに平安な夜を!
女はいいとしても、わしら、おちおち眠れません」
リュート「あ、いや、おれは------」
アーボイン「この男が命に代えてでも、悪魔を退治してくれるそうだ。
わしとしても、この男に賭けたい」
村人A「ありがとうございます、領主様!」
村人B「ありがとうございます!」
村人C「これでやっとゆっくり寝れる!」
リュート「あ、いや、だから------」
アーボイン「わかったら、行け」
村人たち「ありがとうございます!」
安心して村人たちは引き上げていった。
残るはおれと長官、そして家令のマドワーズ。
アーボイン「わしらは引き上げるか」
リュート「待ってください!」
アーボイン「何だ、うるさいやつだな」
リュート「王都からって、おれ------」
マドワーズ「まあ、いいじゃないですか」
リュート「いいって、
おれ、そんなことのために呼ばれたわけじゃないですから」
マドワーズ「でも、連中、安心して帰りやしたぜ」
アーボイン「マドワーズ、確かに名案だったな」
リュート「名案って、嘘ついたんでしょうが」
マドワーズ「じゃ、今から追い掛けていって本当のことを
告白しやすか?八つ裂きにされやすぜ」
思わず、黙った。
マドワーズの言う通りだった。
真実が常に正しい力を発揮するわけではない。
真実は毒と同じだ。
アーボイン「まあ、いずれ誰かがやらねばならぬことだ。
おまえがやり果たせるとは少しも期待しておらんが、
おまえしかおるまい」
リュート「いや、でも、どうやってサキュバスを」
マドワーズ「簡単でさ。窓に自分の精液をかけておけばいいんでさ。
匂いを嗅ぎつけて、サキュバスがやってきますぜ」
リュート「でも、その後どうやって退治するんです?
十字架って効くんですか?」
マドワーズ「効かんでしょうなあ」
リュート「ええっ!?じゃ、いったいどうやって------」
マドワーズ「それはご自分でお考えなすってください」
リュート「失敗したら、おれ、死ぬんですか?」
マドワーズ「そういうことになりやすかね」
リュート「そういうことって------」
アーボイン「リュート・ヘンデよ。これはわしからの命令だ。
まさか、主君の命令を聞かぬというわけではあるまいな」
リュート「そんな……無茶苦茶な……」
マドワーズ「今夜、頼みやすよ」
リュート「いくらなんでも、あんまりだ。成功報酬ぐらいないと……」
アーボイン「成功?成功すると思ってるのか?」
リュート「失敗するとわかっていておれに頼まれたんですか」
アーボイン「あ、いや……そういうわけでは」
リュート「こんな大仕事、普通じゃできません。
でっかい報酬がないと……」
アーボイン「……マドワーズ、どうする?」
マドワーズ「どうせ散る命です。奮発してやっても」
アーボイン「そうだな」
アーボイン「オホン。よかろう。申してみよ」
リュート「食事はいつも白パン。それから、1つお城がほしいです」
アーボイン「何?お城だぁ?身の程------」
マドワーズ「長官!ここではねのけては……」
アーボイン「わ、わかった」
アーボイン「よかろう。白パンは保証する」
リュート「お城も」
アーボイン「お城も1つ、ぼろいのを選んでおまえに授けよう」
リュート「ありがとうございます」
アーボイン「まあ、せいぜいがんばれ」
渋々認めて長官は立ち去った。
これでただ働きということはなくなったが、
問題が解決したわけではない。
たった1人でサキュバスを退治しなければならないのだ。
それも、十字架の効かないサキュバスを------。
サキュバスには嫌いなものがあるのだろうか。
たとえばコーヒーとか……。
いや、苦いものも効果がないだろう。
そもそも、王都から取り寄せている時間がない。
人生の苦みも、もちろん効かないに違いない。
そんなものが効果的なら、
ボーアンにサキュバスは出てこない。
サキュバスの好物は、男の精液のみ。
しかし、おびき寄せてどうやって退治するというのか。
やはり、己の剣の腕に頼るしかないのか。
(厄介なものを引き受けさせられちゃったな……)
おれは、答えを求めるようにヴォールトの天井を見上げた。
しかし、もちろん、解はなかった。
--------------------------------------------------------------------------------
リュート・ヘンデが退治方法を考えて悩んでいる頃、
長官の部屋ではアーボイン長官と家令のマドワーズが、
顔を突き合わせてニヤニヤしていた。
アーボイン「おまえの言う通りになったな」
マドワーズ「恐れ入りやす」
アーボイン「考えたものだな。王都から派遣された者が死んだとなれば、
愚民どもも諦めがつく」
マドワーズ「やつが正体だったと言って
死体を磔にすることだってできやす」
アーボイン「まったく、おまえというやつは悪人だな」
マドワーズ「人生、毒も悪も必要でやすからね」
アーボイン「ふ」
マドワーズ「くく」
アーボイン「くくくくくくく」
マドワーズ「しかし、残念でやすね。
『あっちの計画』にはもってこいだと思ったんですがね」
アーボイン「それはまたそれでいい。
例の計画に影響がなければそれでいい」
マドワーズ「あっちは平気ですよ。王子------」
アーボイン「その名前は禁句だ」
マドワーズ「へい」
アーボイン「さて。わしは少し出かけてくる」
マドワーズ「どちらへ」
アーボイン「久々にブリュンヒルドを抱きたくなった」
マドワーズ「奥方はいいんですか?
アーボイン「フン。知っておるくせに。わしは成熟した女より、
小娘の方がいい。牛のような乳の女は趣味ではない」
-------------------------------------------------------------------------------
挽課の鐘が鳴る頃、おれは奥方の部屋の扉を叩いた。
突然、奥方から呼び出されたのだ。
リュート「あの、リュートですが……」
ロクサーヌ「どうしてお引き受けなさったの?」
おれが現れると、突然ロクサーヌは真顔で迫った。
リュート「え?何が?」
ロクサーヌ「悪魔を退治するなんて……」
リュート「あれ?もうお聞きになったんですか?」
ロクサーヌ「あんな命を投げ出すようなこと、どうして------」
リュート「いや、どうしてと言われても、成り行きで------」
ロクサーヌ「せっかくお会いできたばかりなのに------」
リュート「奥方様?」
ロクサーヌ「……」
ロクサーヌ「こんなことなら、もっと早く身を……」
リュート「え?」
ロクサーヌはうつむいた。
ロクサーヌ「この町には悪魔が住んでいるんです。
それも、若い中央から来た騎士ばかり狙うんです。
昔からボーアンにいる人間は狙わないんです」
リュート「……ご存じだったんですね」
ロクサーヌ「ごめんなさい……あの人がしゃべらないようにって……。
怯えさせるから……」
リュート「……」
ロクサーヌ「今まで、誰も倒した者はおりません。
隣の城からも武勲を立てて名を上げようと
何人もやってきましたが、皆------」
リュート「……死んだんですね」
ロクサーヌは答えなかった。
奥方に深刻な顔をされると、
本当におれは死んじゃうのだろうかという気がしてしまう。
ロクサーヌ「リュート殿」
ロクサーヌが顔をあげていた。
ロクサーヌ「1つだけ、お願いがあります」
リュート「え?」
ロクサーヌ「わたしを抱い------」
マドワーズ「奥方ぁ!」
マドワーズ「おや、リュート様もごいっしょでしたか」
リュート「うん、ちょっと」
マドワーズ「コックが相談したいことがあると言ってますんでさ。
厨房へお願いできますか」
ロクサーヌ「ええ」
リュート「あの、お話は------?」
ロクサーヌ「いいえ、何でもないの。がんばってね」
リュート「はい」
おれは奥方の姿を見送った。
あの時、彼女は何を言いかけたのだろう。
<<わたしを抱い------>>
わたしを抱いてと言おうとしたのだろうか。
まさか。
人妻なのに?
……。
おれはため息をついた。
もしあの時マドワーズが来なかったら、
おれはどうしただろう。
倫理的に許されることではない。
でも、今の不安を逃れるために、
おれはロクサーヌをだいていたかもしれない。
(死んだら、ロクサーヌ様の胸を味わうこともないんだな)
そう思うと、欲望染みた切なさが込み上げた。
このまま待って、逆に彼女に告白しようか?
馬鹿な。
おれは何を考えているのだ。
これからサキュバスを打ち取らねばならないのに。
人妻との一夜?
不倫?
おれは首を振った。
それでも、しばらく部屋で待っていたが、
ロクサーヌは帰ってこなかった。
