スポーツテストの後、教室に戻ると皆、レンツに駆け寄って行った。
レンツはみんなの視線を釘付けにし、色んな視線が飛び交う中、ヴァンは嫉妬の視線を飛ばしていた。
ヴァンとレンツの目が合った瞬間、特に表情を変えることも無くヴァンは自分の席についた。
ヴァンは先ほどのレンツの投球を見て引っかかるものがあったのだ。レンツが本気を出さないのは、周りが弱すぎるから、そしてAクラスの者でさえ、いつでも追い抜けるから、今はあえて道化になっている。
そう勘違いしていたヴァンはレンツの事をあまり良く思っていない。
一方、レンツは皆の視線を浴び、色々質問されていた。
「さっきの凄かったよなぁー!こう、球がレーザービームのようにドゥウォホー!てさ!アレどうやったの?」
「普通に投げただけだよ。てか、お前ら静かにしろ。寝れねーだろうが」
レンツは、皆からレーザービームの質問や、関係の無い質問まで色々されていた。
レンツは今まで友達という友達もいなかったため、どう接して良いかわからず、机に顔を埋め寝たフリをしていた。
「ほらほら、みんな席について!!今日最後の授業始めるよ」
6限目「歴史」の授業になり、担任のアーニャ教官が入ってきた。
アーニャ教官はクラスメートの皆がレンツを囲んでいる姿を見て、目元を緩ませ小悪魔な表情を見せていた。
「レンツ君モテモテだねぇ」
「やめて下さいよ。モテるのは、お金だけにして欲しいね」
「あ、照れちゃって。可愛い」
「もう早く授業初めて下さいよ……帰るの遅くなるでしょう」
「ゴメンゴメン!では歴史の授業始めます」
アーニャ教官は、あはは!と小悪魔のような笑みを浮かべレンツを揶揄い色んな反応を見るのを愉しんでいた。そして、チョークを手にし黒板を文字で埋め尽くしていく。
「今日は歴史という事で今までの偉人について語っていきます。一口に偉人と言っても色んな方がいらっしゃいますが、皆さん真っ先に想い浮かぶのはどの人かなー?ヴァン君に聞いてみましょう!はい、どうぞ!」
アーニャ教官に指名されたヴァンはゆっくり立ち上がり口を開いた。レンツはボーッとした表情で立ち上がったヴァンの姿を見ていた。
ヴァンはレンツの視線に気づくも、そっぽを向き無視した。
「私が思う偉人は我が国アルバ王国の国王アストライア様ですね。無駄な戦を避け、周りの国とも友好な関係を築き上げ、セントヴィント帝国やアゼリア合衆国の仲裁に入り緩衝国としての役割も果たし、若くして国民からの信頼も厚く。常に国民の安全と生活を考え行動する国王に一票入れさせて頂きます」
ヴァンの熱弁にアーニャ教官も小さく頷いて納得の表情を浮かべていた。
「そうですね。小国ながらも、国王の巧みな政治力と人望で周りの大国に引けを取らず、無駄な戦争を起こさないし、起こさせない。しかも、固くなく、場を和ますユーモアのある話術。私もとても尊敬しています。ヴァン君ありがとう。座っていーよ」
アーニャ教官はヴァンにニッコリと微笑むと、ヴァンは照れているのか、少し顔を赤くし鼻頭を擦り静かに座った。
座ったのを見届けたアーニャ教官は周りを見渡した。するとアーニャ教官の目がぴたりと止まった。
「あと、もう一人くらい聞こうかなー。ではカリンちゃん!お願いします」
「はい」
アーニャ教官は黒髪の女子生徒カリンに微笑む。
カリンはいつもの暗い声ではなく、明るい声で返事をした。
表情もいつもとは違い輝いていた。歴史の授業が好きなんだろうか。
「私が尊敬する偉人は……παραδεισοζ」
カリンが名前を口にした瞬間、一瞬だけアーニャ教官は眉を動かし顔をしかめたが、すぐにいつもの表情に戻った。
そして、その一瞬だけの表情を見逃さなかった生徒が二人いた。
それはレンツとヴァンである。
周りの生徒はカリンの発音についてこれず何を言ったか、わからなかった。
「随分、発音が良いですね。よく古代語を勉強しているの?」
「はい」
「パラディソスって言ったかしら?」
「はい。彼はこの天空を超えた先にもう一つの世界があると提唱していました。そして、彼はその天空を超えた先の世界を歩き、生還した。ただ一人の冒険者なのです。私は天空の先の世界まで足を踏み入れたその行動力と、それに半生を捧げた覚悟に尊敬します!そして、いつか彼が歩いた世界を歩くのが私の夢です」
カリンの発言の後、教室が一気にざわついた。
何故か?
天空を超えた先の世界の本は出ているが、あくまでそれは昔話に留まっており、小学生でも本気で信じている者はいない。
それ故クラスメートの大半は彼女を馬鹿にした視線を向けたり、罵声を浴びせた。
ただ一人レンツだけ、真剣な眼差しでカリンの発言に耳を傾けていた。
「ぎゃはははは!あるわけないだろう馬鹿かお前!今時小学生でも信じないぜ!そんな話」
「見たこともない癖によくそこまで言えるよな恥ずかしくねーのかよ?
「勉強し過ぎて壊れたんじゃねーのか?」
「はは…純粋だなぁ」
「夢だって馬鹿じゃねーの」
クラスメートに罵声を浴びせられカリンは泣きそうな表情をするも決して涙は見せず、必死で堪え、肩を震わせて下を向いていた。
カリンの発言に対する周りの雑音はエスカレートしていく一方で止む気配が全くない。
その様子を見ていたアーニャ教官は黒板に力一杯裏拳を叩きつけた。
女性の華奢な腕の一撃とは思えないような轟音が響きわたり黒板は蜘蛛の巣のような模様が縦横無尽に駆け巡り粉砕された。
「黙れ!!!!!」
教室内に普段のふわふわした声音とはかけ離れた低くドスの効いたアーニャ教官の声が響きわたり、カリンに罵声を浴びせていた生徒達はアーニャ教官に怯えていた。
口を震わせ、先程の雑音が嘘のように静まり返った。そして、アーニャ教官はカリンに寂し気な表情で微笑んだ。
「ごめんね。大声出して。カリンちゃん座って。少し聞きたい事が出来たので、用事が済んだら放課後いつでも良いので職員室に来て頂戴」
「はい…」
カリンの先程の明るい表情は消えかけたロウソクのように脆く暗くなっていた。確かに童話レベルの話かも知れないが、ここまで馬鹿にされたら誰でもそうなる。
レンツは泣きそうになっているカリンの横顔を見て、歯を食いしばった。
レンツ自身、悔しい感情があったのだろう。
そして、思い立ったが即行動。
突然、椅子から立ち上がり自分の分厚い歴史の教科書をビリビリに破き始めた。
これは相当な握力と指の力が無いと成し得ない芸当である。
生徒全員、いきなりレンツの奇怪な行動に何も言えずただ傍観していた。
「教官ー!教科書破けた」
レンツは自分の机の上に靴のまま立ち上がり、ビリビリに破いた教科書のクズを紙吹雪のように宙に舞い上がらせた。
「どうしよー?俺、一冊しか持って無いんだよなぁ。まいったなぁ。これじゃあ勉強できねーじゃん」
アーニャ教官は怒っているレンツの姿を見て、真意を汲み取りクスりと微笑んだ。そして、機転を利かせた。
「あーあー。何やってるの。誰かに見せて貰いなさい」
「はーい」
レンツは片手で自分の椅子を担ぎカリンの隣に思い切り振り下ろし、ワザと音を立てた。
そしてカリンを馬鹿にしていた生徒達に冷たい眼差しで睨みつけた。
レンツは泣きそうな表情をするカリンに対しニコリと微笑み、カリンの耳元で小声で囁いた。
「ねぇねぇ。さっきの天空の先の世界の話詳しく教えてくれない?」
カリンは泣きそうな表情から一変、レンツの囁きに目を見開き、そしてまた、泣きそうな表情をした。
しかし、さっきの暗い表情とは違い、表情を緩ませながら、涙していた。
嬉しかったのだ。自分の幻想のような夢を真剣に聞いてくれる存在に。
「レンツ君……ありがとう」
カリンはレンツに心から感謝し、授業を受けているフリをして、レンツに先程の天空の先の世界について説明していた。
アーニャ教官は、そんな二人の様子を見て口元を緩ませていた。
黒板を壊してしまったため、教科書を片手に口頭で説明していた。
アーニャ教官は、つい最近も教室のドアと壁を破壊しているので、校長にこっ酷く叱られていたのだ。
今度は黒板を破壊したなんて事になると、また怒られるなと、校長の怒った顔を思い浮かべながら、説明していた。
(ま、考えても仕方ない。素直に怒られよう)
レンツはみんなの視線を釘付けにし、色んな視線が飛び交う中、ヴァンは嫉妬の視線を飛ばしていた。
ヴァンとレンツの目が合った瞬間、特に表情を変えることも無くヴァンは自分の席についた。
ヴァンは先ほどのレンツの投球を見て引っかかるものがあったのだ。レンツが本気を出さないのは、周りが弱すぎるから、そしてAクラスの者でさえ、いつでも追い抜けるから、今はあえて道化になっている。
そう勘違いしていたヴァンはレンツの事をあまり良く思っていない。
一方、レンツは皆の視線を浴び、色々質問されていた。
「さっきの凄かったよなぁー!こう、球がレーザービームのようにドゥウォホー!てさ!アレどうやったの?」
「普通に投げただけだよ。てか、お前ら静かにしろ。寝れねーだろうが」
レンツは、皆からレーザービームの質問や、関係の無い質問まで色々されていた。
レンツは今まで友達という友達もいなかったため、どう接して良いかわからず、机に顔を埋め寝たフリをしていた。
「ほらほら、みんな席について!!今日最後の授業始めるよ」
6限目「歴史」の授業になり、担任のアーニャ教官が入ってきた。
アーニャ教官はクラスメートの皆がレンツを囲んでいる姿を見て、目元を緩ませ小悪魔な表情を見せていた。
「レンツ君モテモテだねぇ」
「やめて下さいよ。モテるのは、お金だけにして欲しいね」
「あ、照れちゃって。可愛い」
「もう早く授業初めて下さいよ……帰るの遅くなるでしょう」
「ゴメンゴメン!では歴史の授業始めます」
アーニャ教官は、あはは!と小悪魔のような笑みを浮かべレンツを揶揄い色んな反応を見るのを愉しんでいた。そして、チョークを手にし黒板を文字で埋め尽くしていく。
「今日は歴史という事で今までの偉人について語っていきます。一口に偉人と言っても色んな方がいらっしゃいますが、皆さん真っ先に想い浮かぶのはどの人かなー?ヴァン君に聞いてみましょう!はい、どうぞ!」
アーニャ教官に指名されたヴァンはゆっくり立ち上がり口を開いた。レンツはボーッとした表情で立ち上がったヴァンの姿を見ていた。
ヴァンはレンツの視線に気づくも、そっぽを向き無視した。
「私が思う偉人は我が国アルバ王国の国王アストライア様ですね。無駄な戦を避け、周りの国とも友好な関係を築き上げ、セントヴィント帝国やアゼリア合衆国の仲裁に入り緩衝国としての役割も果たし、若くして国民からの信頼も厚く。常に国民の安全と生活を考え行動する国王に一票入れさせて頂きます」
ヴァンの熱弁にアーニャ教官も小さく頷いて納得の表情を浮かべていた。
「そうですね。小国ながらも、国王の巧みな政治力と人望で周りの大国に引けを取らず、無駄な戦争を起こさないし、起こさせない。しかも、固くなく、場を和ますユーモアのある話術。私もとても尊敬しています。ヴァン君ありがとう。座っていーよ」
アーニャ教官はヴァンにニッコリと微笑むと、ヴァンは照れているのか、少し顔を赤くし鼻頭を擦り静かに座った。
座ったのを見届けたアーニャ教官は周りを見渡した。するとアーニャ教官の目がぴたりと止まった。
「あと、もう一人くらい聞こうかなー。ではカリンちゃん!お願いします」
「はい」
アーニャ教官は黒髪の女子生徒カリンに微笑む。
カリンはいつもの暗い声ではなく、明るい声で返事をした。
表情もいつもとは違い輝いていた。歴史の授業が好きなんだろうか。
「私が尊敬する偉人は……παραδεισοζ」
カリンが名前を口にした瞬間、一瞬だけアーニャ教官は眉を動かし顔をしかめたが、すぐにいつもの表情に戻った。
そして、その一瞬だけの表情を見逃さなかった生徒が二人いた。
それはレンツとヴァンである。
周りの生徒はカリンの発音についてこれず何を言ったか、わからなかった。
「随分、発音が良いですね。よく古代語を勉強しているの?」
「はい」
「パラディソスって言ったかしら?」
「はい。彼はこの天空を超えた先にもう一つの世界があると提唱していました。そして、彼はその天空を超えた先の世界を歩き、生還した。ただ一人の冒険者なのです。私は天空の先の世界まで足を踏み入れたその行動力と、それに半生を捧げた覚悟に尊敬します!そして、いつか彼が歩いた世界を歩くのが私の夢です」
カリンの発言の後、教室が一気にざわついた。
何故か?
天空を超えた先の世界の本は出ているが、あくまでそれは昔話に留まっており、小学生でも本気で信じている者はいない。
それ故クラスメートの大半は彼女を馬鹿にした視線を向けたり、罵声を浴びせた。
ただ一人レンツだけ、真剣な眼差しでカリンの発言に耳を傾けていた。
「ぎゃはははは!あるわけないだろう馬鹿かお前!今時小学生でも信じないぜ!そんな話」
「見たこともない癖によくそこまで言えるよな恥ずかしくねーのかよ?
「勉強し過ぎて壊れたんじゃねーのか?」
「はは…純粋だなぁ」
「夢だって馬鹿じゃねーの」
クラスメートに罵声を浴びせられカリンは泣きそうな表情をするも決して涙は見せず、必死で堪え、肩を震わせて下を向いていた。
カリンの発言に対する周りの雑音はエスカレートしていく一方で止む気配が全くない。
その様子を見ていたアーニャ教官は黒板に力一杯裏拳を叩きつけた。
女性の華奢な腕の一撃とは思えないような轟音が響きわたり黒板は蜘蛛の巣のような模様が縦横無尽に駆け巡り粉砕された。
「黙れ!!!!!」
教室内に普段のふわふわした声音とはかけ離れた低くドスの効いたアーニャ教官の声が響きわたり、カリンに罵声を浴びせていた生徒達はアーニャ教官に怯えていた。
口を震わせ、先程の雑音が嘘のように静まり返った。そして、アーニャ教官はカリンに寂し気な表情で微笑んだ。
「ごめんね。大声出して。カリンちゃん座って。少し聞きたい事が出来たので、用事が済んだら放課後いつでも良いので職員室に来て頂戴」
「はい…」
カリンの先程の明るい表情は消えかけたロウソクのように脆く暗くなっていた。確かに童話レベルの話かも知れないが、ここまで馬鹿にされたら誰でもそうなる。
レンツは泣きそうになっているカリンの横顔を見て、歯を食いしばった。
レンツ自身、悔しい感情があったのだろう。
そして、思い立ったが即行動。
突然、椅子から立ち上がり自分の分厚い歴史の教科書をビリビリに破き始めた。
これは相当な握力と指の力が無いと成し得ない芸当である。
生徒全員、いきなりレンツの奇怪な行動に何も言えずただ傍観していた。
「教官ー!教科書破けた」
レンツは自分の机の上に靴のまま立ち上がり、ビリビリに破いた教科書のクズを紙吹雪のように宙に舞い上がらせた。
「どうしよー?俺、一冊しか持って無いんだよなぁ。まいったなぁ。これじゃあ勉強できねーじゃん」
アーニャ教官は怒っているレンツの姿を見て、真意を汲み取りクスりと微笑んだ。そして、機転を利かせた。
「あーあー。何やってるの。誰かに見せて貰いなさい」
「はーい」
レンツは片手で自分の椅子を担ぎカリンの隣に思い切り振り下ろし、ワザと音を立てた。
そしてカリンを馬鹿にしていた生徒達に冷たい眼差しで睨みつけた。
レンツは泣きそうな表情をするカリンに対しニコリと微笑み、カリンの耳元で小声で囁いた。
「ねぇねぇ。さっきの天空の先の世界の話詳しく教えてくれない?」
カリンは泣きそうな表情から一変、レンツの囁きに目を見開き、そしてまた、泣きそうな表情をした。
しかし、さっきの暗い表情とは違い、表情を緩ませながら、涙していた。
嬉しかったのだ。自分の幻想のような夢を真剣に聞いてくれる存在に。
「レンツ君……ありがとう」
カリンはレンツに心から感謝し、授業を受けているフリをして、レンツに先程の天空の先の世界について説明していた。
アーニャ教官は、そんな二人の様子を見て口元を緩ませていた。
黒板を壊してしまったため、教科書を片手に口頭で説明していた。
アーニャ教官は、つい最近も教室のドアと壁を破壊しているので、校長にこっ酷く叱られていたのだ。
今度は黒板を破壊したなんて事になると、また怒られるなと、校長の怒った顔を思い浮かべながら、説明していた。
(ま、考えても仕方ない。素直に怒られよう)
