歴史の授業の後、用の無い生徒は下校し、学校内は昼間と違い、静かで一般家庭の一軒家とは比にならない程、大きな敷地でこの静けさは寂しさすら感じる。
外の景色も日が沈み周りは薄暗くなり更に静寂な空気を一層強めていた。
そんな空気の中、先程の歴史の授業で一般常識から外れた発言をしてしまい、周りの生徒に見下され罵声を浴びせられた黒髪の少女カリンは、担任の教官の指示通り、放課後の職員室の前に立ち、深呼吸して息を整えた後、静かに扉を開けた。
「あ、あのっ失礼します…」
何かに怯えているような小動物の視線を感じた、アーニャ教官は、いつもと違い、ふわふわした佇まいではなく、目に力があり真剣な表情を浮かべている。
いつもなら、ピンク色の長い髪は髪留めで留められていたが、今は髪留めを外しており、ピンク色の長い髪を下ろしていたからか、昼間とは違い、少し大人っぽさが漂っている。
スーツを脱ぎ、上はパリッと乾いた襟の尖ったカッターシャツ一枚。
3つボタンを外し、白い胸元を見せていた。
胸元には銀に輝く綺麗なネックレスが顔を出していた。下は黒いスカートにストッキングを履いていた。
黒のスーツを着ていなくても、真剣な表情のせいか、いつもよりも教官としての威厳が感じられる。
「忙しい時間帯に悪いわね。ココ座って」
椅子から立ち上がったアーニャ教官は他の教官の椅子を拝借し、カリンを座らせ、温かいコーヒーが入った紙コップを何も言わずに渡した。
「どうも」
カリンは紙コップを両手で受け取った後、静かにコップを机に置いた。
「カリンちゃん。貴方に聞きたいことがいくつかあるわ。これらの質問は単に私が聞きたいだけだから、特に意味は無い。だから悪く捉えないで頂戴」
いつもと違う淡々とした冷たい口調でアーニャ教官はカリンと向かい合う形で座り、目を合わせた。
アーニャ教官とカリン以外誰もいない夕暮れの職員室。そこには何とも言えない緊迫した空気が張られていた。
「まず、一つ。何故、歴史にただならぬ興味を持つのに、歴史解明科に入らなかったのか?この質問に答えられる?」
冷たい視線を向けるアーニャ教官にカリンは眼を丸くし、そして少し口元を歪ませて小さく笑った。
「まず、学院程度の考古学なんて底が知れているからです。この学院の歴史解明科で新しい発見は絶対にあり得ません。魔獣討伐科に入った理由は戦えるチカラが欲しかったからです。歴史を解明するチカラはあっても、それを悪しとする者や、魔獣と戦えるチカラが無ければ生きていけません。そういった事を考えている内に魔獣討伐科のカリキュラムを拝見し受験しようと考えた次第です」
淡々と説明する女子生徒カリンの前にアーニャ教官は雷に打たれたような表情を浮かべ、瞳を震わせていた。
「そう。ありがとう。では次、古代語についてだけど、貴方どこまで古代語を解読できるの?」
「それはお答え出来ません。知ってどうするつもりですか?」
「私も知りたい事があるの…でも、良いわ。ありがとう」
「……何もお力になれず申し訳ありません」
カリンは表情を暗くし、下を向いた。
するとアーニャ教官はカリンに近づいた。
カリンの頬に優しい体温が伝わりカリンは思わず声を漏らした。
「ふみゃあ!?」
アーニャ教官はカリンの頬を両手でつまみ優しく餅のように伸ばしていた。
「あははははっ!可愛いねぇ。油断した?ねぇ油断した?」
「……えっ。急にどうしたんですか?」
「いやぁ…こんな真剣なテンションで話をするのが、疲れたのよ」
アーニャ教官はさっきの真剣な態度とは一変し、まるで子供のようにはしゃぎ高い声音で笑っている。
カリンは思考が追いつかず豆鉄砲を食らったような驚いた表情を見せた。
「……カリンちゃん。昼間、私が余計な質問をしたばっかりに嫌な思いさせたね。本当にごめんね」
「いえ。別に教官が悪いわけでは……本当に悪いのは私です」
「そんな事ないわ。他人の顔色ばかり伺って思ってもいない発言するより、貴方みたいに本気でまっすぐな発言をする子の方が好感持てるわ」
アーニャ教官の満面の笑みの前にカリンは頬を赤く染めた。
「よく、そんな事真顔で言えますね。聞いてる私の方が恥ずかしくなりました。でも、ありがとうございます。何かスッキリした感じがします」
「そう?良かった!私は自分の気持ちに正直なだけよ?」
その時、アーニャ教官に、ただならぬ視線を送っていた人物が居た。
その人物はアーニャ教官の背後に立ち、アーニャ教官の肩をそっと叩いた。
アーニャ教官はその人物に対して顔を青くした。
「あ、これはこれは。校長先生じゃないですかー!今日は一段と渋いですね!」
校長のリックは、お世辞を全く受け付けずアーニャ教官に無言で何かの請求書を突きつけた。
「黒板割っただろ?これ請求書。全額払えないなら分割払いも受け付けてるが?如何かな」
「うぅ……わかりました」
アーニャ教官は渡された請求書に目を通す。
すると目を剥いた。
アーニャ教官の給料と請求額が変わらないからだ。
アーニャ教官は消えかけのロウソクのように光を失いかけていた。
「カリン君。アーニャ教官と二人きりで話がしたい。席を外してくれるかな?」
「わかりました。では、お疲れ様でした」
カリンが職員室から去った事を確認すると校長のリックは静かに口を開いた。
「アーニャ教官。レンツから事情は聞いた。人の夢を馬鹿にする生徒が居たらしいな。指導のためとは言え黒板は壊しちゃいかん。俺が教頭に怒られる」
アーニャ教官は何も言わず、暗い表情を隠そうと下を向いていた。
心底反省しているのだ。
自分が犯した過ちに。
反省しているアーニャ教官を見て校長は続けた。
「だがな、アーニャ教官。俺はキミの指導のやり方を高く評価している。軍隊に居た頃の事を思えば我慢強くなっている。当時の君なら、黒板では無く生徒を殴り飛ばしていただろう。成長したなアーニャ中佐」
「はは。やめて下さいよ。軍隊に居た頃の私はもういません。彼らには、くれぐれも秘密にしておいて下さいよ?リック閣下」
「金次第でな」
「もう!閣下は軍隊に居た頃と何にも変わってないですね」
今、二人は軍隊に居た頃を思い出し、当時の姿と重ね合わせ笑っていた。
「話は変わりますが、カリンちゃんが言ってた天空の先の世界ですが、私はその世界を信じています。校長はどう思います?」
「思いますも何も、あるよ。俺は実際に行ったんだから」
「えっ…ちょっ…えっ?」
衝撃的な発言にアーニャ教官は声にならない声をあげ驚いていた。
校長はこの手のジョークはあまり言わないから、校長の言っている事はほぼ真実なのだ。
「さて、そんな事よりアーニャ教官。請求の件だがいい話がある。若桜戦のトトカルチョがあってだな…」
校長は小声でアーニャ教官の耳元で囁き、アーニャ教官は少し口元を緩ませた。
「わかりました。私も乗ります!全額レンツ君に賭けます!」
「大穴狙いか!悪くないな!さすが、いい目をしているな」
外の景色も日が沈み周りは薄暗くなり更に静寂な空気を一層強めていた。
そんな空気の中、先程の歴史の授業で一般常識から外れた発言をしてしまい、周りの生徒に見下され罵声を浴びせられた黒髪の少女カリンは、担任の教官の指示通り、放課後の職員室の前に立ち、深呼吸して息を整えた後、静かに扉を開けた。
「あ、あのっ失礼します…」
何かに怯えているような小動物の視線を感じた、アーニャ教官は、いつもと違い、ふわふわした佇まいではなく、目に力があり真剣な表情を浮かべている。
いつもなら、ピンク色の長い髪は髪留めで留められていたが、今は髪留めを外しており、ピンク色の長い髪を下ろしていたからか、昼間とは違い、少し大人っぽさが漂っている。
スーツを脱ぎ、上はパリッと乾いた襟の尖ったカッターシャツ一枚。
3つボタンを外し、白い胸元を見せていた。
胸元には銀に輝く綺麗なネックレスが顔を出していた。下は黒いスカートにストッキングを履いていた。
黒のスーツを着ていなくても、真剣な表情のせいか、いつもよりも教官としての威厳が感じられる。
「忙しい時間帯に悪いわね。ココ座って」
椅子から立ち上がったアーニャ教官は他の教官の椅子を拝借し、カリンを座らせ、温かいコーヒーが入った紙コップを何も言わずに渡した。
「どうも」
カリンは紙コップを両手で受け取った後、静かにコップを机に置いた。
「カリンちゃん。貴方に聞きたいことがいくつかあるわ。これらの質問は単に私が聞きたいだけだから、特に意味は無い。だから悪く捉えないで頂戴」
いつもと違う淡々とした冷たい口調でアーニャ教官はカリンと向かい合う形で座り、目を合わせた。
アーニャ教官とカリン以外誰もいない夕暮れの職員室。そこには何とも言えない緊迫した空気が張られていた。
「まず、一つ。何故、歴史にただならぬ興味を持つのに、歴史解明科に入らなかったのか?この質問に答えられる?」
冷たい視線を向けるアーニャ教官にカリンは眼を丸くし、そして少し口元を歪ませて小さく笑った。
「まず、学院程度の考古学なんて底が知れているからです。この学院の歴史解明科で新しい発見は絶対にあり得ません。魔獣討伐科に入った理由は戦えるチカラが欲しかったからです。歴史を解明するチカラはあっても、それを悪しとする者や、魔獣と戦えるチカラが無ければ生きていけません。そういった事を考えている内に魔獣討伐科のカリキュラムを拝見し受験しようと考えた次第です」
淡々と説明する女子生徒カリンの前にアーニャ教官は雷に打たれたような表情を浮かべ、瞳を震わせていた。
「そう。ありがとう。では次、古代語についてだけど、貴方どこまで古代語を解読できるの?」
「それはお答え出来ません。知ってどうするつもりですか?」
「私も知りたい事があるの…でも、良いわ。ありがとう」
「……何もお力になれず申し訳ありません」
カリンは表情を暗くし、下を向いた。
するとアーニャ教官はカリンに近づいた。
カリンの頬に優しい体温が伝わりカリンは思わず声を漏らした。
「ふみゃあ!?」
アーニャ教官はカリンの頬を両手でつまみ優しく餅のように伸ばしていた。
「あははははっ!可愛いねぇ。油断した?ねぇ油断した?」
「……えっ。急にどうしたんですか?」
「いやぁ…こんな真剣なテンションで話をするのが、疲れたのよ」
アーニャ教官はさっきの真剣な態度とは一変し、まるで子供のようにはしゃぎ高い声音で笑っている。
カリンは思考が追いつかず豆鉄砲を食らったような驚いた表情を見せた。
「……カリンちゃん。昼間、私が余計な質問をしたばっかりに嫌な思いさせたね。本当にごめんね」
「いえ。別に教官が悪いわけでは……本当に悪いのは私です」
「そんな事ないわ。他人の顔色ばかり伺って思ってもいない発言するより、貴方みたいに本気でまっすぐな発言をする子の方が好感持てるわ」
アーニャ教官の満面の笑みの前にカリンは頬を赤く染めた。
「よく、そんな事真顔で言えますね。聞いてる私の方が恥ずかしくなりました。でも、ありがとうございます。何かスッキリした感じがします」
「そう?良かった!私は自分の気持ちに正直なだけよ?」
その時、アーニャ教官に、ただならぬ視線を送っていた人物が居た。
その人物はアーニャ教官の背後に立ち、アーニャ教官の肩をそっと叩いた。
アーニャ教官はその人物に対して顔を青くした。
「あ、これはこれは。校長先生じゃないですかー!今日は一段と渋いですね!」
校長のリックは、お世辞を全く受け付けずアーニャ教官に無言で何かの請求書を突きつけた。
「黒板割っただろ?これ請求書。全額払えないなら分割払いも受け付けてるが?如何かな」
「うぅ……わかりました」
アーニャ教官は渡された請求書に目を通す。
すると目を剥いた。
アーニャ教官の給料と請求額が変わらないからだ。
アーニャ教官は消えかけのロウソクのように光を失いかけていた。
「カリン君。アーニャ教官と二人きりで話がしたい。席を外してくれるかな?」
「わかりました。では、お疲れ様でした」
カリンが職員室から去った事を確認すると校長のリックは静かに口を開いた。
「アーニャ教官。レンツから事情は聞いた。人の夢を馬鹿にする生徒が居たらしいな。指導のためとは言え黒板は壊しちゃいかん。俺が教頭に怒られる」
アーニャ教官は何も言わず、暗い表情を隠そうと下を向いていた。
心底反省しているのだ。
自分が犯した過ちに。
反省しているアーニャ教官を見て校長は続けた。
「だがな、アーニャ教官。俺はキミの指導のやり方を高く評価している。軍隊に居た頃の事を思えば我慢強くなっている。当時の君なら、黒板では無く生徒を殴り飛ばしていただろう。成長したなアーニャ中佐」
「はは。やめて下さいよ。軍隊に居た頃の私はもういません。彼らには、くれぐれも秘密にしておいて下さいよ?リック閣下」
「金次第でな」
「もう!閣下は軍隊に居た頃と何にも変わってないですね」
今、二人は軍隊に居た頃を思い出し、当時の姿と重ね合わせ笑っていた。
「話は変わりますが、カリンちゃんが言ってた天空の先の世界ですが、私はその世界を信じています。校長はどう思います?」
「思いますも何も、あるよ。俺は実際に行ったんだから」
「えっ…ちょっ…えっ?」
衝撃的な発言にアーニャ教官は声にならない声をあげ驚いていた。
校長はこの手のジョークはあまり言わないから、校長の言っている事はほぼ真実なのだ。
「さて、そんな事よりアーニャ教官。請求の件だがいい話がある。若桜戦のトトカルチョがあってだな…」
校長は小声でアーニャ教官の耳元で囁き、アーニャ教官は少し口元を緩ませた。
「わかりました。私も乗ります!全額レンツ君に賭けます!」
「大穴狙いか!悪くないな!さすが、いい目をしているな」
