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サクラ学院魔獣討伐科


本日は若桜戦。
サクラ学院に入学したばかりの新入生限定とする大会で魔獣討伐科だけでなく、歴史解明科、総合士官学科、総合魔動工学科、魔動警察科など、他の分野を学んでいる生徒も若桜戦に臨む。
エントリーされている数は16人と少ないものの皆、精鋭揃い。

その中でも、魔獣討伐科のエリス・ロード・ヴィルフルートは今までの実績から優勝候補に挙げられる程の実力を持つため一番注目されている。

若桜戦の優勝者は前回の若桜戦の優勝者と戦える権利を得ることができ、更なる高みへと近づけるのだ。

しかし、そんな名誉の事より、本日の昼食の事を考えながら朝ご飯を食べる少年が居た。

「今日の弁当は何してくれるの?」

レンツはいつもより冴えた表情で目玉焼きを乗せたトーストをかじって居た。
いつもなら、朝に弱いレンツは気怠そうな表情をしているが、今日は一大イベントの若桜戦の影響なのか、活きた目をしていた。

レンツの活きた視線を感じた使用人のイヴはお茶を入れながらクスりと微笑んでいた。
内心、自分が作る弁当でここまでやる気を出してくれたのが嬉しいのだろう。

「それは開けてからのお楽しみですよ♪」

「えー気になるし。若桜戦どころじゃないよー。そこ一番重要だよー」

いつもと変わらないような、呑気な会話を交わしているレンツとイヴに対して、新聞紙を広げ自分の顔を隠しているセブンは笑っていた。
自分の息子の初舞台。声や態度には出していないが、観に行きたくて疼いているのか、足を床でリズム良くトントン鳴らしていた。

「あ、もう9時半だ。そろそろ行かないと…」

レンツは台所にかけてある時計に視線をむける。若桜戦が始まるのは午前10時から。開始まで30分を切った。

「お弁当は後ほど必ず届けますので、安心して若桜戦に臨んで下さい♪」

「じゃあまた後でな」

レンツは元気よく言葉を発すると玄関に腰掛け、白い戦闘用のスニーカーの靴紐を結び直し解けないように念入りに強く紐を引っ張り固く結んだ。

「楽しんで来いよ」

背後からする父親の声にレンツは黙ったまま玄関を後にし、握った右拳を空に向かって突き上げ、親指を立てた。

言われなくても楽しんでくる。これはレンツの意識表示。

それを見たセブンは流石、父親と言うべきかレンツの意思表示を理解し、少し口元を緩ませた。








レンツが学院に向かっている頃、学院の闘技場は歓声で賑わっていた。
その賑やかさは凄まじく、歓声が聞こえると言うより、浴びると言った表現が正しい。

何千人といった歓声と視線を独り占めする金髪の少女はそんな状況でも全く動じず。用意された椅子に目を閉じて腰掛けていた。

いつもと同じ紺を基調とした制服に袖を通し、スカートは少し短かめのものを履いており激しい戦闘や風が吹くとおそらく下着が見えると推測される。彼女の性格からしてサービスなどでは断じてなく、ただの趣味だと思われる。

黒いニーソックスに包まれた綺麗な脚を組み、地面に突き刺した木製の剣に手を添え、虎視眈々と自分の対戦相手を待って居た。

現在、時間は9時58分を過ぎたところ。10時までに、レンツが闘技場にたどり着かなかった場合、失格となり敗北が決定する。

しかし、まだレンツは来る気配も無く、ただいまの時刻は午前9時59分。

「お、遅い!!レンツの奴なにやってんだ!お前が失格になったら、俺は破産だぞ!」

校長専用の高級な椅子に腰掛けるリックは苛立ち、腕組みをしながら地面を足でバタバタと何回も踏む動作を繰り返していた。
校長のリックはトトカルチョでレンツに莫大な賭け金を敷いている。
つまり、レンツの敗北が決まると自分の首も飛ぶ。
それを考えると、嫌でも焦り苛立っていた。

「もしかして、逃げたんじゃね?」

そして周りの席からレンツは優勝候補の前に逃げ出したのではないか?と疑問の声も上がっていた。

そう思うのは無理もない。なぜなら、A級魔獣討伐士とE級魔獣討伐士ではレベルの差が歴然としているからだ。

この場にいる観客の中でレンツが勝つと思っている人間は極少数だろう。


審判を任されたアーニャ教官も腕時計に視線を向ける。時間は残り10秒を切っている。もう、間に合わない。そう思ったアーニャ教官は両手に持っている旗の一方を挙げようとしたその瞬間。

今まで閉じていた金髪少女の目が見開き、鋭い眼光を放った。

「必ず、来ると信じていたわ」

金髪少女の視線はレンツの姿を確実に捉えた。長い栗色の髪を靡かせ、マイペースにゆっくりと足を進めている。紺を基調としたブレザーを着用し、ネクタイを締めるのは嫌いらしく、だらし無く垂れ下がっている。

「闘技場の場所わからなくて探してたらこんな時間になっちまった。もしかして…失格?」

レンツは悪びれた様子も無く、へらへらと笑っていた。その様子を見たアーニャ教官は呆れ果てた表情を見せるも、胸を撫で下ろし安堵した。

そして、表情をキツく締めると、二人の間に割って入りマイクに口を近づけた。

「ただいまの時刻を以って第59回、若桜戦を開始します!」








<2016/06/26 00:02 ライスマン>消しゴム
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