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サクラ学院魔獣討伐科


戦いの火蓋が切って落とされた直後、闘技場は異常な盛り上がりを見せた。
更に大きくなるテンションと声に空間が揺れ、地割れすら起こりそうな始末。

そんな状況の中、少年と少女が木剣を持ち互いに睨み合っている。
金髪少女エリスは利き足である右足を軸にし、左足の爪先を標的であるレンツに向け、両手で木剣を力強く握りしめ、剣先をレンツの頭部に向け視線も眉間を見据えていた。

対するレンツはエリスのような猛牛のような大仰な構えはせず、ただ剣先をエリスの目に向け足は肩幅くらいにして立っているだけだ。

「来ないのなら、私から行くわ…!」

痺れを切らしたエリスは利き足で地面を蹴りエンジンをかけた。エリスは砂埃を豪快に巻き上げ、地面を削りながら一直線にレンツの頭部を狙い猛スピードで距離を詰める。
2秒もかからない内にレンツの頭蓋骨を粉砕するだろう。

レンツはボーッとした表情で構えたまま動かない。おそらくエリスの動きは見えていない。対するエリスはレンツを確実に捉えている。あとは木剣を頭に当てるだけでthe endだ。

しかし、そんなシナリオは儚くも崩れ去った。

振れること無く、確かに一直線に突きを繰り出した筈なのに、いつの間にか軌道が大きく変更され、エリスの剣は闘技場の壁を刺してしまった。

「くッ……!?」.

エリスは今まで経験した事の無い理解不能な現象に瞳を震わせ声も上げられないくらい驚愕し、すぐにレンツの方に視線を向けた。

相変わらず気怠るそうに木剣を持ち、片手であくびまでする始末。全く緊張感のかけらも無いレンツの姿にエリスだけでなく周りの観客も思考がついて行かなかった。

(アホオヤジの攻撃は見えなかったのに、優勝候補とまで言われてるエリスの攻撃はまるで止まっているかのように見えた…。なんだ?もしかしてナメられてる?)

レンツはエリスに疑惑の視線を送っていた。
それもその筈、あれだけ優勝候補と騒がれているエリスに対して、毎日打ち合っていた父親セブンの方が遥かに速い攻撃を繰り出していたのでレンツとしては拍子抜けだった。

(なんで…私は今まで人の何倍も修行してきたのに…私が負ける?

私が負けるなんて…そんなことある訳ない!レンツ。アンタが今何をしたのか知らないけど…私が負けるなんて事は…)

「天地がひっくり返ってもあり得ないんだよォ!」

再び、エリスの眼光が鋭く放たれた。
エリスは突き刺した木剣を勢いよく抜くとまたさっきと同じ猛牛のような大仰な構えを見せた。
エリスはレンツがさっき何をしたのか理解する為、もう一回検証する気だ。

先程、レンツが何をしたのか理解できた者は極少数だろう。

審判のアーニャ教官やリック校長などの戦いの熟練者は何故そんな結果になったかは見ただけですぐに理解できた。

しかし、ただの一般人に過ぎない観客は今の光景を見てエリスが失敗して壁に突っ込んだと思っているが、全くの誤解である。

「正眼から水心に移行。そのまま苦もなく軌道修正…あの歳で明鏡止水の境地に到達しているのか。あのレンツという少年…実に興味深い」

気品と優雅さを感じさせるセミロングの銀髪の少女は学院最強と謳われるような風格を漂わせ、実の妹であるエリスの試合を観察していた。

闘技場屋内の一番高いガラス張りの部屋から観察しているのにも関わらず、レンツがエリスの渾身の突きに対して何をやったか全て把握していた。恐るべき視力と言うよりは恐るべき観察眼と頭脳。

この観察眼が学院最強の生徒と呼ばれる所以なのかアリス・ロード・ヴィルフルートは入学してからずっと王座に立っている。

「どうだ?レンツは強いだろ?」

リック校長は窓に映る闘技場の景色を覗く銀髪の少女アリスの背中に問いかける。アリスは背を向けたまま何も言わず、ただ頷いた。

「だが、今の一合で諦めるエリスではありませんよ」

リック校長によく見ておけよ?と言わんばかりにアリスは透明のガラス張りの窓に手を添え、じっと戦いを観察していた。











<2016/06/26 00:04 ライスマン>消しゴム
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