おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
サクラ学院魔獣討伐科


先程、エリスの攻撃の影響で発生した砂煙りは徐々に風に流され視界が良好になってきている。
煙が取り除かれ、お互いの姿が見えそうになった刹那、猛牛の構えを見せていたエリスはレンツの視界から姿を消した。

だが、レンツは特に驚いた表情も見せずにいた。何故なら、エリスの攻撃を完全に見切っていたからだ。

先程と同じくエリスは猛牛の構えから致命所狙いの渾身の突きを繰り出す。エリスのシナリオではレンツの頭部に木剣の先端部分が衝突し終了する手筈だった。

しかし、ここからシナリオがどんな風に覆るのかエリスは目を見開き凝視した。
エリスが突き出そうとしている木剣の先端部分は、レンツが持つ木剣の腹の部分で一旦受け止められた。

エリスの放った力の方向に逆らわず、寧ろ自分がジャンプ台のような補助の役割を担い、エリスの力の向きに自分の力をほんの少しだけ加えることによってエリスが制御できる力を超えた。

力のバランスを失ったエリスは制動することができず、スピンする車のようにコントロール不可の領域に踏み込んでしまいその結果、自分が狙った場所とは大きく外れた。

(完全に見切られている…!?彩葉心伝流中伝の私が最底辺のE級討伐士如きに?)

エリスは攻撃後、すぐさまレンツに視線を向けるもさっき立っていた筈の場所にレンツは居ない。

だが、何か近づく気配はする。
それも物凄く疾い速度で。
それが何処から来るか分からないが、この場所に立つのは危険だと感じたエリスは今立っている場所から、後方へ大きく跳び緊急離脱を試みた。

緊急離脱とほぼ同時に、エリスが立っていた場所に木剣が刺さっていた。
木剣を投げた本人は木剣より遅れて重力の法則を無視しているとでも言うのか30m程上方から、ゆっくり降りてきた。

そして木剣の柄の部分に一本足でブレずに立っている。

もしも、レンツの背中から白い有機体の羽根が生えていたら空から舞い降りた天使だと見間違えただろう。
それほど幻想的な光景だった。

「あのレンツとか言う奴、ジャンプしてから着陸までの速度がえらく遅くなかったか?」

「ああ。しかも、魔動力も機械も使わずに30m以上の跳躍……凄すぎる!アイツ本当に人間かよォ」

「無名のE級討伐士が優勝候補のA級討伐士と対等に戦えるなんて超絶パネェ!」

観客はレンツの出来の悪いサーカスを観せられ、かなり興奮を覚えていた。
人間離れした跳躍。天使が舞い降りたような美しい着陸。挙げ句の果てに自分が投げた木剣の柄の部分に一本足で立っている。
これはもはや、武術大会と言うよりはサーカスに近いものがある。

「お前さっきからナメてんの?いくら俺でも、手を抜いて勝たせてもらっても何も嬉しく無いんだけど?」

レンツは少し怒ったような口調でエリスの目をじっと見た。するとエリスは少しだけ含み笑いすると無言でさっきと同じ猛牛の構えを見せた。

「またそれか!馬鹿の一つ覚え…ッ…!?」

先程とは違う眼光の鋭い視線。
冷たく重い圧力をかけてくるエリスに対し、さっきとは違う何かが来ると感じたレンツは言葉を途切らせた。

(切り替えろ!こいつは今まで戦った誰よりも…強い!だからって私はこんな所で負けられない…お姉様と…いや、学院最強の生徒。アリス・ロード・ヴィルフルートと戦うまでは絶対に負けられない!)

(今度こそ、とてつもないのが来る…!)

レンツは柄から飛び降りすぐさま木剣を手に持ち、いつでも攻撃に対応できるように正眼の構えを見せた。

エリスは地面を強く蹴飛ばし先ほどの突きよりもキレと鋭さが増し、風を切りながら更に早く突きを繰り出した。

三度目の正直。
この渾身の一撃がこの戦いを大きく左右する事になるのは言うまでも無いだろう。
だが、いくら突きが速くても既に見切っていたため、いとも簡単に受け止めた。

しかし、まだ終わりでは無かった。突きはあくまで二撃目の布石。エリスの左拳がレンツの腹部を捉えようと拳が走る。

しかし、その拳にも気づいていたのか片手で受け止められた。

その時、エリスは口元を歪ませ含み笑いを浮かべていた。
何故なら、エリスの右膝がレンツの脇腹を打ち抜こうと勢いよく迫っているからだ。
この状況下での膝蹴りを回避する術を知らないレンツはそのまま脇腹に膝蹴りを貰った。

レンツは脇腹への重くのしかかる衝撃に思わず口から悲痛な声を漏らしたが、レンツはサディスティックに口元を緩めていた。

エリスはレンツの表情を見て気づいた。レンツの甘い罠にハマってしまった事に。
脇腹への右膝蹴りは確実に決まったが、エリスはその際に剣と拳は一旦引っ込めていた事から気づいた頃には遅かった。
右足を両手で掴まれ動けないように固定されたのだ。

しかし、レンツは大きな代償を支払った。脇腹へのダメージは勿論の事だが、唯一の武器である木剣を捨てていた事。
拾うとしても、隙ができる。

父親以外の初めての対人戦。レンツの中に駆け引きや打算は一切ない。

レンツは何も考えず、固定した右足を力一杯持ち上げ、そのまま独楽のように回りだす。

周りの砂が回転の風で巻き上がり、それは暴風となり観客も強い風を浴びた。

回転も最高潮に達した所でレンツは手を離した。そして、自分が捨てた木剣を瞬時に拾い、先ほど投げ捨てたエリスに追いつこうと、利き足に力を込め地面を蹴り、瞬間移動を繰り出した。

そして物凄いスピードで飛んでいるエリスの胴をレンツは木剣を力一杯持ち両手で薙ぎ払った。
エリスはあまりの衝撃に口元から泡を吹いた。そのまま地面に前から倒れた。しかし、すぐに立ち上がった。

「私を地面にひれ伏せさせた男はレンツ。アンタが初めてよ。認めるわ。アンタ一流の戦士だわ。でもね?私も負けるわけにはいかないの。一回戦から絶技なんか使いたくなかったけどアンタを倒すために魅せてあげる。絶技ーー裏彩葉を」

エリスは脇腹を抑え痛々しい姿を見せていたが、木剣を手にすると、さっきから見せていた猛牛の構えは見せず、ただゆらりと柳の木のように立っている。

観客も、レンツも、アーニャ教官でさえ何が絶技かわからない。しかし、最上階の窓から観戦する校長とアリスは目を大きく見開き驚愕していた。

「中伝なのに裏彩葉なんか伝授させてもらえるのか…?」

校長は窓にべったり顔を近づけエリスの柳のようにふらりとした構えを凝視していた。

「私が以前エリスにどうしてもと駄々をこねられて絶技を空打ちで見せた事がありましてね。おそらく、見よう見まねかと思います」

アリスでさえも少し焦るような表情でエリスの構えを目に焼き付けていた。

(裏彩葉なんて努力どうこうだけで会得できる技ではない…あの子はもしかしたら私以上に天才かも知れない)

「覚悟は良い?レンツ?」

エリスのまっすぐな強い視線の問いかけにレンツはただ頷いた。

闘技場の観客はいつのまにか静かに二人の戦いを見つめていた。それほど今の状況を真剣に見入っている。

緊迫した空気。
凍てつくような視線。
それらを壊すかのように、戦いを煽るような一陣の風が吹き葉っぱを巻き上げた。
巻き上げた瞬間、エリスは深呼吸し闘技場という空間から姿形を消した。

それに対しレンツは目を閉じた。いくら見えないほど速くても、幻術や妖術ましてや魔術などでは決してない。近接戦闘である剣術が来る。

ならば、ただ動かず待っていれば良い。所詮剣術に置ける斬り合いなど9つしかあり得ない。

そう思案したレンツはどんな攻撃にも瞬時に対応できるように中段の構えを取った。

「これで終わりよ。絶技…裏彩葉」






































<2016/06/26 00:06 ライスマン>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.