「……そんなに急いでもらう必要はなかったんだが」
息を切らして肩呼吸を繰り返す。
目の前の人物はわかりきったようなあきれ顔だ。
ようやく息が整い、椅子を引く。
「なんでそんな急いでたんだよ……」
「いや……日の光にあまり当たりたくなかったから……全力ダッシュでここまで駆けてきた」
「なんつーか、その小学生じみた発想はなんなんだよ。長袖着ればいい問題じゃねぇかよ」
「それだと皮膚呼吸が困難に……」
「いやもうどうでもいいわ。……そんで、何か持ってきたか?」
「持ってくるものなんてあったの」
「いや無いけど」
「お前もなんなんだよ」
一旦席を立って紙コップに水を入れてくる。
毎度思うけどここの水まずい。
「俺の分は?」
「はぁ?」
「気を利かせてくれよぉ」
「自分で取って来いよ面倒くさい」
目の前の人物も先ほどの自分と同じ動作を繰り返す。
はじめに言ってくれれば持ってきたのに。ほんと二度手間万歳だな。
「それでなに?」
「……ああ、それでなんだけども話の内容な」
「顔の前で腕組むのやめろ帰るぞ」
「どうせ帰らないだろ。息切れて疲れてんのにまたすぐに同じことを繰り返すなんてしないだろ」
「早く話せよ早く帰りたいんだよ」
「どうしてそこまできっぱりと言えるのかね。まあいいや」
「いいのかよ」
「……お前さ、この町の噂って知ってるか?」
「噂? 何のだよ」
「だよな知らないよなずっと画面から離れないのに住んでる街の噂とか知ってたまるかだよな」
「何の噂だよ」
「俺もまだ見たことは無いし、本当に聞いた程度なんだけど。どうやらただの噂って感じでもねぇんだよな」
「ただの噂じゃ無い……ねぇ」
「……影だ」
「ん?」
「だから……影だっつってんの」
「いやどんな噂なんだよ。それ聞かなきゃ始まんないだろ」
「なんか特定したことじゃ無いらしいんだけどな、影が関連してるらしい」
「その影が噂になってると」
「そそ」
「具体的にはどんなんだよ」
「まぁ……わかりやすいのから言えば、影が伸びる」
「伸びる?」
「なんか人やらものの影から何かの影が伸びるんだってよ。……でも、影は伸びるだけでなにかしら動いた後ですぐに消える」
「なんか被害があったとかいうのじゃなさそうだな、聞く限り」
「そうなんだよな、ただ驚くだけっていうか、怖い思いをするだけ?」
「へぇ」
「でもな、やっぱり原因も分からねぇと怖いままだろ」
「嫌な予感するな」
「お? 言いたいことがわかったか?」
「俺の口からは言いたくねぇ」
「フッフッフ、では俺の口から直接言ってやるとしよう」
ため息をついた。
なんかだるそうだし。なのに目の前のこいつはやけに生き生きとしてるし。
別にあるんだったら放置してればよくね? さすがに自分の身にそれが起きたら流すなんてことはしないが。
「俺達で、その影の原因を突き止めてやろうぜ」
「ご勝手にどうぞ」
「強制だ」
「やらなきゃいけないことが」
「やりもしないやらなきゃいけないことだろ? ならその暇な時間を俺に分けてくれよ」
「宿題よりも面倒だろうな」
「絶対に面白れぇから、後悔はしないようにするから」
な? と言って肩をバンバン叩いてくる。
まあ、暇つぶしなら。できるだけ動かずにやるか。
一旦言い出したらきかないやつだし。昔からそうだったけど、何故だかそいつの提案に乗って後悔したことは一度も無い。
だから、今回も乗っかってみようと思った。
