投身ティーンエージャー
- 壱話「フレンドになって」 -
<< < [ 1 / 1 ] > >>
樹々をなびかせる風が心地よく感じる崖を目指していた。
更に夜空には星が煌いている。
自分をポエマーだとは思わないけれど、この夜空に来ると自然とそんな事を考えてしまう。
……今日もいい景色なんだろうな。
まぁそんなことはどうでもいい。あの崖に行くのは、決まって気分が優れない夜だ。
今日も僕がそこに向かういう事は、やはり気分が優れないからで。
明日の事を考えると、駆け出したい衝動に駆られる。
……今年も十二歳になった子供の為に儀式が執り行われる。
そう、明日はこの村の伝統の儀式があるのだ。僕はその対象の年齢に既に達している。
怖いのは、僕はその儀式の内容を知らないし、場所さえも知らされていないからだ。
以前、僕の兄貴分のお兄さんに聞いてみても、何も教えてくれなかった。それ以外の事ならなんでもすぐに答えてくれるあの人が。
答えられないのには理由があって、僕もしょうがないと思っている。あの時の質問も駄目元だった。
口外厳禁の儀式の内容を他の年下に漏らして仕舞えば、その者には罰が与えられる。その罰もまた、得体の知れない内容だったが、それだけは誰かに口外しても大丈夫なのだという。
その罰は「解放」と呼ばれ、口外した人物は村の外側へと連れて行かれるのだ。連れて行かれるだけか、と思う人もいるようだが、帰ってくる人がいないと言う事が、その噂に現実味を帯びさせている。この村にとって、噂はこの上無い真実なのだ。
「僕も一度だけだけど、連れて行かれるの見ちゃったしなぁ。本当に戻ってこなかったよね」
不安に押し潰されそうなのを堪えるために、思った事をわざと声に出す。
崖までの道のりは、道が無い。鬱蒼と茂る草むらをかき分けて進む。
村を囲う山林に、散策可能な区域が塀で囲われている。塀の外側に出ると、戻れないらしい。
更に、その罰を行う村長とその秘書(?)の人も、塀の外側へ出た事がないと言うのだ。
なんでも塀で囲われた区域内は、この村が信仰する神の加護により守られているから大丈夫なのだそうだ。どんな神様か僕は知らないけれど、こんなちっぽけな力しか無いのでは、大した神様でも無いんだろう。
僕らは明日その神様の一種預言的な加護を受けるのだ。家族は良かったねと言ってくれる。
それが怖いのだ。分からない物を良かったねと言える家族に。
最後の草を退けて、目的の崖にたどり着いた。
けれど、目の前の夜空にはいつも見る光景とは違った景色があった。
「…月虹だぁ」
月虹は昼に見られる虹と違って少し色が薄いけれど、月虹が今の夜空を背景にすると、まるで月虹全体が七色の光を散りばめたように輝いている。
村の言い伝えによると、月虹は神の出現を暗示する現象らしい。
まぁ、そんな言い伝えが有っても無くても、月虹は一生に一度見られるか分からない程の絶景だ。
明日の事も忘れて思わず魅入ってしまった。
その時、背後の草むらでガサガサと音がした。
きっと兄弟が早く戻れと呼びに来たんだろう。
この珍しい光景を目に焼き付けようと、ゆっくりと立ち上がる。
「……君、誰?」
…あれ、聞きなれない声だな。
振り返ると、そこには今まで一度も会った事が無いと思われる少女が立っていた。その服の所々に葉っぱがくっついている。少女は服をはたく。
え、この子誰だ?村でも見た事が無いぞ?…いや、それよりもこの子…、
「……可愛い」
「…え?ごめん聞こえなかったんだけど」
「ああ、いやなんでも無いよ!」
思わず口に出してしまった。いやめっちゃ僕の好みなんだけど!
幼い顔に合わない黒髪ロングって最高でしょ!
いや、そんな事はどうでもいい。それよりも僕しか知らないはずのこの場所になんで来たかの方が今は重要だ。
「あ…あのさ!君はどうしてこの場所に来たの?ここ…僕の秘密の場所なんだけどさ」
目の前にいる子が可愛過ぎるせいでうまく喋れないな…。
すると、少女は驚いた表情を見せた。
「あっ、ええ⁉︎そうなの?私はてっきりこの場所を自分しか知らないんだと思ってたんだけど…、やっぱりこれだけの絶景が見られるんだもん。知ってる人がいて当然だよね〜」
そう言って少女は恥ずかしそうに「てへへ」と笑った。
ちょっと待って、その照れ顔はヤバイって!殺す気⁉︎
僕もにやけを出来るだけ抑えながら言葉を返す。
「い、いやぁ〜僕も自分だけだと思い込んでたよ。僕はここに結構来るんだけど、合わないもんなんだねぇ」
……結構キツイぞ。顔が大丈夫でも自然と語尾が伸びるのはどうしようも無い。
「……実は私、あんまりこの場所に来ないんだ。夜に来たのもまだ二回目だし。…それに遠いから遅いと家族に心配かけちゃうし…」
「家が遠いって…どこに住んでるの?僕は茂みを抜けたすぐにの場所なんだけど、この村ってそんなに広く無いよね?」
聞くと、少女は少し申し訳なさそうに視線を逸らした。あまり答えたくなさそうだ。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。僕は慌てて言葉を撤回した。
「…あ!い、いいんだよ!言いたく無い事ならさ!変な事聞いちゃってごめん…」
あ〜もう、気不味い雰囲気になっちゃったよ。緊張すると考えるより口が先走っちゃうし、こんな状況で冷静になるなんて無理だよ…。
「……うん」
ごめんよ少女。僕は今この崖からみを投げたい衝動に駆られている。
本気でもそんな事はしないけれど。
「大丈夫。私、お父さんにあまり自分の事は話すなって言われてて……そのせいで友達もあまり出来ないから言いたいんだけど、正直言うと、ちょっと寂しいんだよね」
いつも他の子は外で遊んでるのに私は家の中にいろって言われてるし。
そう少女は言った。それほどしつけの厳しい人が居ただろうか。この村の人は全て知っているつもりだけど、家の内側まで知る勇気は無いしなぁ…。
しかし、そんな心配も束の間、少女はいきなり叫びだした。
「……やっぱり私喋りたいよ!友達が欲しい!」
少女の気迫に押され、僕は思わず耳を塞いだ。
「…っつ。……案外大きな声も出せるんだね、大人しそうなのに」
僕は思った事を正直に言ってしまった。しくったと思いきや、少女はぷっと吹き出した。
「それはもちろん!普段から使ってないエネルギーはたっぷりあるからね!」
あるからねって…。自信満々に言われてもさぁ。
でも、僕はその少女に対して一歩踏み込んでみようと思った。それがこの少女の為に自分にできる事だと直感した。
「あのさ……もし…僕で良ければなんだけど、友達にならない?」
その言葉を少女は嬉しく感じたのか、はたまた心配させてしまったと思っているのか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で静止した。
…あ、やっぱり見つめられるとなんか照れるな…。
僕は静寂に耐え切れず口を開いてしまう。もしかして理解できてないとか?
僕はバッと立ち上がった。
「あ、友達って言っても気付いたら友達とかそういう事ならいいんだけど、たまには同じ年代の話し相手も必要だと思うんだ!だから、君のお父さんになんとか言ってもらってさ!そうすれば君の為になると思うし、それに僕だって……」
僕だって嬉しい。そう言い切れないのは嫌われたく無いからだけど、既に引かれてる可能性も……。
僕が勝手に熱くなってるだけなのはちょっとなんか悲しいんだけどさ。
頭の中で言い訳のディベート大会を繰り広げる僕は明らかに顔が赤くなっているだろう。
と、今まで動かなかった少女は僕と同じように立ち上がった。
「………いいの?」
なんでそんなに申し訳なさそうなんだ少女よ。良いと言ったのに。
少女の不安を取り除くために、僕はこれまでに無いほどの笑顔でにっと笑った。
「…良いよ。はい、じゃあこれで友達!」
僕は少女の手を両手で掴む。ぎゅっと握った。
すると、少女も僕より強く握り返してくれた。
………うん、やっぱり女の子の手って柔らか(殴
「…で、でもお父さんが」
「お父さんなんて良いんだって!友達作るのもお父さんに許可をとるつもり?逆に僕がお父さんだったら、その言葉聞いて悲しくなっちゃうよ!離れてった子だって、君と友達になりたいから君の事をもっと知りたがった。違う?でなきゃまず人さえ寄ってこないし。独りが良いなんてくだらない事考えない限り、友達は絶対に出来るし、たとえ遊ぶ機会が少なくったって、友達は友達。そんな事で離れる奴なんていないよ。むしろたまに遊べるからこそ、あった時の嬉しさ倍増するし。
……だからさ、そんな小さく考えないで、もっと大雑把に!それくらいで良いと思うよ?僕らまだ子供なんだしさ!」
少女の言葉を遮る。でないと、どんどん悲観的になってしまうだろうから。
っていうか、少女を想う余り結構恥ずかしい事言っちゃったな。もし、隣の家の子が見てたら笑っちゃうよ…。
でも、そんな心配なんて要らない筈だ。取り敢えず、僕は言いたい事言った。それだけ。
しかし、その少女はいきなり涙を零し始めた。
「ああ!ご、ごめん変な事言っちゃって…」
「…違う。違うんだよ…」
「…え、じゃあなんで泣いてるの……」
訳が分からず困惑した。もっと良い言葉言えばよかった⁉︎でも僕そんなに語彙力ないんだよなぁ。
「僕たち…」
「…え?」
「僕たちって、言ってくれたの、すごい嬉しくて……。私、たまに外に出て他の子と遊んでても、友達ってお互いがそう思わなきゃ、一日遊んだくらいじゃ友達になれないって…。だから私、外にいても家の中にいても誰と一緒にいても、ずっと、『私独り』で。このままずっと独りなのかなって怖くって…。でもさ、今日思ったの。初対面でも楽しくお喋りが出来るし、人の事を心配する事が出来るって、凄いなって。友達って言葉、寂しくなった時とか一緒に頑張る時の安心材料でしかないんだって、会った時から皆友達なんだって、今日、君が教えてくれた!」
わお、そこまでの拡大解釈になるとは思ってなかったけど……まぁそれで良いんだろうな。
だってここで友達じゃないっていうとかあり得ないし。
それに、この手が友達だって言ってくれるまで離さないくらいに掴んでくるし。
なんだろう、会ったばっかなのに明日も会ってこの笑顔を見るんだろうなって呆れてる自分がいる。
「…うん!じゃあ、僕が君の初めての友達って事だ」
「え?違うよ?」
……あれっ?なんだろうこの脱力感と疲労感。努力して空振った感じ。
「あ…じゃあ、初めての友達って、誰なの?」
「んー、鳥さんとか、鹿さんとかリスさん蝶々さん熊さんとか!」
あー、そうね。動物の友達ね。鳥鹿リス蝶々熊ね。ああはいはい。僕が言いたいのはそういうんじゃなくて…って熊ぁ⁉︎
「あれ、人の友達の事ね?」
「もちろん!君が私の最初の友達だよ!」
少女は自然な微笑みをしていた。出会った時より自然な感じで話せてない?僕たち。
すると、少女は何か閃いたように手を合わせると、一つの質問をしてきた。
「あ!ねえねえ!この場所って知ってるのって他にいないよね?」
…どうだろ。少なくとも僕の友達は知ってるわけないし、僕の人が来る事も無かったし。
「うん、そうだね。他には、いないよ」
それを聞いてさらに目を輝かせる少女は、この世のものかというほどに……って気持ち悪い。そうだよ、神は人に一体何物まで与える気……って駄目だ。全然止まらない。
「じゃ、じゃあじゃあ!」
「ど、どうしたの」
少女はスーッと息を吸い込んだ。
「この場所は、私たち二人だけの秘密だね!」
いや『私たち』って言いたいだけだろ、少女よ。
いや、そんな事二の次いや百の次でも良い!
二人だけの秘密ってどんだけ純粋なんですか⁉︎無邪気ですか子供ですか⁉︎
……あ、子供で良いんだった。
「僕たちの秘密だ!」
僕も大層な事言えたもんじゃないな無邪気じゃないか。
…しかし、目の前で笑う少女はまるで妖精の様……。
って、ああ駄目だ。いくら否定しても抑えきれない。
もう良いや、良い加減認めよう。
この少女は……一言で表すと……。
……………………………………………………………。
…………………………めちゃくちゃ可愛いです。
「それ二言だよ」
「ってうわぁ!声に出てた⁉︎嘘ぉ、全然駄目じゃん、僕!」
「…ありがとう」
「…あ、いや忘れてよめちゃくちゃ恥ずかしいよ…」
一言を探しに探して結局可愛いかよ!それに口に出してたなんて。
「結構、時間経っちゃったね」
「え?」
気付けば、目の前に架かっていたはずの月虹はすでに消えて、動物の声も聴こえなくなっていた。
やっば!こんなに遅くなるなんて後で家族になんて言われるか。
「…お父さんに怒られちゃうな」
だよねそうだよね。
僕はこの夜の事を噛み締めたい一心を堪えて言った。
「……じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん、そうだね」
僕が先頭を切って茂みに入る。そう言えば、結局どこの家が聞きそびれちゃったな。
まぁ、いいか。それはまた次にあった時で。
「あ、じゃあ僕はこっちだから」
茂みを抜けた場所で、僕は自分の家を指差す。
「僕は二階なんだ。姉が一人いてさ」
「そうなんだ。それじゃあ、バイバイ」
僕は慌てて少女の言葉を訂正する。
「違うよ、別れの挨拶は『また明日』でしょ」
「え、でも私明日は会えないよ?次がいつ会えるかも分からないし」
「それでいいんだって!会えても会えなくてもまた明日。約束なんてしなくても、毎日遊んでる人もいるし、細かい事は気にしない」
「…そっか。じゃあ、また、会えたら」
「うん。また、何処かで会おう」
手を振って一旦お別れ。残ったのは親の反応に対する不安。
さっきだって一歩踏み出せたんだ。今なら行けるさ。
「…でも、やっぱり少し怖いな」
走ると、一軒だけ明かりのついた家が。心配させただろうな。
僕は、ゆっくりと家の扉を開ける。僕の影に母親の影が重なった。
逆光で顔が怒っているのか分からなくて助かった。「怒ってる?」と聞きたいけれど、それよりも先に言うべき事がある。
「……遅くなりました。…ただいま」
目の前の影が上にスッと伸びて、それが僕の頭に迫る。
……そうだ、明日儀式だった。全然忘れてた。
更に夜空には星が煌いている。
自分をポエマーだとは思わないけれど、この夜空に来ると自然とそんな事を考えてしまう。
……今日もいい景色なんだろうな。
まぁそんなことはどうでもいい。あの崖に行くのは、決まって気分が優れない夜だ。
今日も僕がそこに向かういう事は、やはり気分が優れないからで。
明日の事を考えると、駆け出したい衝動に駆られる。
……今年も十二歳になった子供の為に儀式が執り行われる。
そう、明日はこの村の伝統の儀式があるのだ。僕はその対象の年齢に既に達している。
怖いのは、僕はその儀式の内容を知らないし、場所さえも知らされていないからだ。
以前、僕の兄貴分のお兄さんに聞いてみても、何も教えてくれなかった。それ以外の事ならなんでもすぐに答えてくれるあの人が。
答えられないのには理由があって、僕もしょうがないと思っている。あの時の質問も駄目元だった。
口外厳禁の儀式の内容を他の年下に漏らして仕舞えば、その者には罰が与えられる。その罰もまた、得体の知れない内容だったが、それだけは誰かに口外しても大丈夫なのだという。
その罰は「解放」と呼ばれ、口外した人物は村の外側へと連れて行かれるのだ。連れて行かれるだけか、と思う人もいるようだが、帰ってくる人がいないと言う事が、その噂に現実味を帯びさせている。この村にとって、噂はこの上無い真実なのだ。
「僕も一度だけだけど、連れて行かれるの見ちゃったしなぁ。本当に戻ってこなかったよね」
不安に押し潰されそうなのを堪えるために、思った事をわざと声に出す。
崖までの道のりは、道が無い。鬱蒼と茂る草むらをかき分けて進む。
村を囲う山林に、散策可能な区域が塀で囲われている。塀の外側に出ると、戻れないらしい。
更に、その罰を行う村長とその秘書(?)の人も、塀の外側へ出た事がないと言うのだ。
なんでも塀で囲われた区域内は、この村が信仰する神の加護により守られているから大丈夫なのだそうだ。どんな神様か僕は知らないけれど、こんなちっぽけな力しか無いのでは、大した神様でも無いんだろう。
僕らは明日その神様の一種預言的な加護を受けるのだ。家族は良かったねと言ってくれる。
それが怖いのだ。分からない物を良かったねと言える家族に。
最後の草を退けて、目的の崖にたどり着いた。
けれど、目の前の夜空にはいつも見る光景とは違った景色があった。
「…月虹だぁ」
月虹は昼に見られる虹と違って少し色が薄いけれど、月虹が今の夜空を背景にすると、まるで月虹全体が七色の光を散りばめたように輝いている。
村の言い伝えによると、月虹は神の出現を暗示する現象らしい。
まぁ、そんな言い伝えが有っても無くても、月虹は一生に一度見られるか分からない程の絶景だ。
明日の事も忘れて思わず魅入ってしまった。
その時、背後の草むらでガサガサと音がした。
きっと兄弟が早く戻れと呼びに来たんだろう。
この珍しい光景を目に焼き付けようと、ゆっくりと立ち上がる。
「……君、誰?」
…あれ、聞きなれない声だな。
振り返ると、そこには今まで一度も会った事が無いと思われる少女が立っていた。その服の所々に葉っぱがくっついている。少女は服をはたく。
え、この子誰だ?村でも見た事が無いぞ?…いや、それよりもこの子…、
「……可愛い」
「…え?ごめん聞こえなかったんだけど」
「ああ、いやなんでも無いよ!」
思わず口に出してしまった。いやめっちゃ僕の好みなんだけど!
幼い顔に合わない黒髪ロングって最高でしょ!
いや、そんな事はどうでもいい。それよりも僕しか知らないはずのこの場所になんで来たかの方が今は重要だ。
「あ…あのさ!君はどうしてこの場所に来たの?ここ…僕の秘密の場所なんだけどさ」
目の前にいる子が可愛過ぎるせいでうまく喋れないな…。
すると、少女は驚いた表情を見せた。
「あっ、ええ⁉︎そうなの?私はてっきりこの場所を自分しか知らないんだと思ってたんだけど…、やっぱりこれだけの絶景が見られるんだもん。知ってる人がいて当然だよね〜」
そう言って少女は恥ずかしそうに「てへへ」と笑った。
ちょっと待って、その照れ顔はヤバイって!殺す気⁉︎
僕もにやけを出来るだけ抑えながら言葉を返す。
「い、いやぁ〜僕も自分だけだと思い込んでたよ。僕はここに結構来るんだけど、合わないもんなんだねぇ」
……結構キツイぞ。顔が大丈夫でも自然と語尾が伸びるのはどうしようも無い。
「……実は私、あんまりこの場所に来ないんだ。夜に来たのもまだ二回目だし。…それに遠いから遅いと家族に心配かけちゃうし…」
「家が遠いって…どこに住んでるの?僕は茂みを抜けたすぐにの場所なんだけど、この村ってそんなに広く無いよね?」
聞くと、少女は少し申し訳なさそうに視線を逸らした。あまり答えたくなさそうだ。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。僕は慌てて言葉を撤回した。
「…あ!い、いいんだよ!言いたく無い事ならさ!変な事聞いちゃってごめん…」
あ〜もう、気不味い雰囲気になっちゃったよ。緊張すると考えるより口が先走っちゃうし、こんな状況で冷静になるなんて無理だよ…。
「……うん」
ごめんよ少女。僕は今この崖からみを投げたい衝動に駆られている。
本気でもそんな事はしないけれど。
「大丈夫。私、お父さんにあまり自分の事は話すなって言われてて……そのせいで友達もあまり出来ないから言いたいんだけど、正直言うと、ちょっと寂しいんだよね」
いつも他の子は外で遊んでるのに私は家の中にいろって言われてるし。
そう少女は言った。それほどしつけの厳しい人が居ただろうか。この村の人は全て知っているつもりだけど、家の内側まで知る勇気は無いしなぁ…。
しかし、そんな心配も束の間、少女はいきなり叫びだした。
「……やっぱり私喋りたいよ!友達が欲しい!」
少女の気迫に押され、僕は思わず耳を塞いだ。
「…っつ。……案外大きな声も出せるんだね、大人しそうなのに」
僕は思った事を正直に言ってしまった。しくったと思いきや、少女はぷっと吹き出した。
「それはもちろん!普段から使ってないエネルギーはたっぷりあるからね!」
あるからねって…。自信満々に言われてもさぁ。
でも、僕はその少女に対して一歩踏み込んでみようと思った。それがこの少女の為に自分にできる事だと直感した。
「あのさ……もし…僕で良ければなんだけど、友達にならない?」
その言葉を少女は嬉しく感じたのか、はたまた心配させてしまったと思っているのか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で静止した。
…あ、やっぱり見つめられるとなんか照れるな…。
僕は静寂に耐え切れず口を開いてしまう。もしかして理解できてないとか?
僕はバッと立ち上がった。
「あ、友達って言っても気付いたら友達とかそういう事ならいいんだけど、たまには同じ年代の話し相手も必要だと思うんだ!だから、君のお父さんになんとか言ってもらってさ!そうすれば君の為になると思うし、それに僕だって……」
僕だって嬉しい。そう言い切れないのは嫌われたく無いからだけど、既に引かれてる可能性も……。
僕が勝手に熱くなってるだけなのはちょっとなんか悲しいんだけどさ。
頭の中で言い訳のディベート大会を繰り広げる僕は明らかに顔が赤くなっているだろう。
と、今まで動かなかった少女は僕と同じように立ち上がった。
「………いいの?」
なんでそんなに申し訳なさそうなんだ少女よ。良いと言ったのに。
少女の不安を取り除くために、僕はこれまでに無いほどの笑顔でにっと笑った。
「…良いよ。はい、じゃあこれで友達!」
僕は少女の手を両手で掴む。ぎゅっと握った。
すると、少女も僕より強く握り返してくれた。
………うん、やっぱり女の子の手って柔らか(殴
「…で、でもお父さんが」
「お父さんなんて良いんだって!友達作るのもお父さんに許可をとるつもり?逆に僕がお父さんだったら、その言葉聞いて悲しくなっちゃうよ!離れてった子だって、君と友達になりたいから君の事をもっと知りたがった。違う?でなきゃまず人さえ寄ってこないし。独りが良いなんてくだらない事考えない限り、友達は絶対に出来るし、たとえ遊ぶ機会が少なくったって、友達は友達。そんな事で離れる奴なんていないよ。むしろたまに遊べるからこそ、あった時の嬉しさ倍増するし。
……だからさ、そんな小さく考えないで、もっと大雑把に!それくらいで良いと思うよ?僕らまだ子供なんだしさ!」
少女の言葉を遮る。でないと、どんどん悲観的になってしまうだろうから。
っていうか、少女を想う余り結構恥ずかしい事言っちゃったな。もし、隣の家の子が見てたら笑っちゃうよ…。
でも、そんな心配なんて要らない筈だ。取り敢えず、僕は言いたい事言った。それだけ。
しかし、その少女はいきなり涙を零し始めた。
「ああ!ご、ごめん変な事言っちゃって…」
「…違う。違うんだよ…」
「…え、じゃあなんで泣いてるの……」
訳が分からず困惑した。もっと良い言葉言えばよかった⁉︎でも僕そんなに語彙力ないんだよなぁ。
「僕たち…」
「…え?」
「僕たちって、言ってくれたの、すごい嬉しくて……。私、たまに外に出て他の子と遊んでても、友達ってお互いがそう思わなきゃ、一日遊んだくらいじゃ友達になれないって…。だから私、外にいても家の中にいても誰と一緒にいても、ずっと、『私独り』で。このままずっと独りなのかなって怖くって…。でもさ、今日思ったの。初対面でも楽しくお喋りが出来るし、人の事を心配する事が出来るって、凄いなって。友達って言葉、寂しくなった時とか一緒に頑張る時の安心材料でしかないんだって、会った時から皆友達なんだって、今日、君が教えてくれた!」
わお、そこまでの拡大解釈になるとは思ってなかったけど……まぁそれで良いんだろうな。
だってここで友達じゃないっていうとかあり得ないし。
それに、この手が友達だって言ってくれるまで離さないくらいに掴んでくるし。
なんだろう、会ったばっかなのに明日も会ってこの笑顔を見るんだろうなって呆れてる自分がいる。
「…うん!じゃあ、僕が君の初めての友達って事だ」
「え?違うよ?」
……あれっ?なんだろうこの脱力感と疲労感。努力して空振った感じ。
「あ…じゃあ、初めての友達って、誰なの?」
「んー、鳥さんとか、鹿さんとかリスさん蝶々さん熊さんとか!」
あー、そうね。動物の友達ね。鳥鹿リス蝶々熊ね。ああはいはい。僕が言いたいのはそういうんじゃなくて…って熊ぁ⁉︎
「あれ、人の友達の事ね?」
「もちろん!君が私の最初の友達だよ!」
少女は自然な微笑みをしていた。出会った時より自然な感じで話せてない?僕たち。
すると、少女は何か閃いたように手を合わせると、一つの質問をしてきた。
「あ!ねえねえ!この場所って知ってるのって他にいないよね?」
…どうだろ。少なくとも僕の友達は知ってるわけないし、僕の人が来る事も無かったし。
「うん、そうだね。他には、いないよ」
それを聞いてさらに目を輝かせる少女は、この世のものかというほどに……って気持ち悪い。そうだよ、神は人に一体何物まで与える気……って駄目だ。全然止まらない。
「じゃ、じゃあじゃあ!」
「ど、どうしたの」
少女はスーッと息を吸い込んだ。
「この場所は、私たち二人だけの秘密だね!」
いや『私たち』って言いたいだけだろ、少女よ。
いや、そんな事二の次いや百の次でも良い!
二人だけの秘密ってどんだけ純粋なんですか⁉︎無邪気ですか子供ですか⁉︎
……あ、子供で良いんだった。
「僕たちの秘密だ!」
僕も大層な事言えたもんじゃないな無邪気じゃないか。
…しかし、目の前で笑う少女はまるで妖精の様……。
って、ああ駄目だ。いくら否定しても抑えきれない。
もう良いや、良い加減認めよう。
この少女は……一言で表すと……。
……………………………………………………………。
…………………………めちゃくちゃ可愛いです。
「それ二言だよ」
「ってうわぁ!声に出てた⁉︎嘘ぉ、全然駄目じゃん、僕!」
「…ありがとう」
「…あ、いや忘れてよめちゃくちゃ恥ずかしいよ…」
一言を探しに探して結局可愛いかよ!それに口に出してたなんて。
「結構、時間経っちゃったね」
「え?」
気付けば、目の前に架かっていたはずの月虹はすでに消えて、動物の声も聴こえなくなっていた。
やっば!こんなに遅くなるなんて後で家族になんて言われるか。
「…お父さんに怒られちゃうな」
だよねそうだよね。
僕はこの夜の事を噛み締めたい一心を堪えて言った。
「……じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん、そうだね」
僕が先頭を切って茂みに入る。そう言えば、結局どこの家が聞きそびれちゃったな。
まぁ、いいか。それはまた次にあった時で。
「あ、じゃあ僕はこっちだから」
茂みを抜けた場所で、僕は自分の家を指差す。
「僕は二階なんだ。姉が一人いてさ」
「そうなんだ。それじゃあ、バイバイ」
僕は慌てて少女の言葉を訂正する。
「違うよ、別れの挨拶は『また明日』でしょ」
「え、でも私明日は会えないよ?次がいつ会えるかも分からないし」
「それでいいんだって!会えても会えなくてもまた明日。約束なんてしなくても、毎日遊んでる人もいるし、細かい事は気にしない」
「…そっか。じゃあ、また、会えたら」
「うん。また、何処かで会おう」
手を振って一旦お別れ。残ったのは親の反応に対する不安。
さっきだって一歩踏み出せたんだ。今なら行けるさ。
「…でも、やっぱり少し怖いな」
走ると、一軒だけ明かりのついた家が。心配させただろうな。
僕は、ゆっくりと家の扉を開ける。僕の影に母親の影が重なった。
逆光で顔が怒っているのか分からなくて助かった。「怒ってる?」と聞きたいけれど、それよりも先に言うべき事がある。
「……遅くなりました。…ただいま」
目の前の影が上にスッと伸びて、それが僕の頭に迫る。
……そうだ、明日儀式だった。全然忘れてた。
<< < [ 1 / 1 ] > >>
