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大丈夫


陽斗が帰ったあとの病室。

変に静かで、本当に何にもない。

陽斗、ずいぶん話せるようになった。

笑顔も、自然になった。

茜の言ってたことが、どうか違っていてほしい。

あれがもし本当なら、今 陽斗、かなり辛いはずだから。

俺はカーテンを少し開け、外を見た。

暗くなりかけた空。

『天国ってどんなところなんだろうね』

ふと陽斗の言葉を思い出す。

陽斗……

「陽斗っ!」

廊下にはもう陽斗の姿はなかった。

明日も普通に、今日のように会えることを願った。

「陽斗……」

「及川くん?」

俺はその声のする方へ振り返った。

誰だろ。

まぁ病院の人。

幸せなことにこんな大きな病院に来たのは初めて。

「あ、すいません…」

俺は部屋に戻った。

「大丈夫?」

「あ、はい……」

大丈夫、だよな。

陽斗、何考えてるんだろう。

別に誰が何を考えようと関係ないけど。

陽斗だけは気になった。

『あんまり夢見てても、現実に帰ってきた時がね』

『天国ってどんなところなんだろうね』

明日も、今日みたいな陽斗に会えますように。

その時、携帯がベッドの上で振動した。

「おっ……いたっ」

『陽斗』

俺は迷わず電話に出た。

「あ、陽斗?」

『陽斗』

「どうした?」

『なんとなく。一人嫌いだから』

「陽希は?」

『どこだろ。帰ってきたらいなかった』

大丈夫かな。

俺は時計を確認した。

7時半。

買い物かなんかかな。

「そっか」

『やっぱビックリするよね』

「え?」

『いや、いると思って帰ってきたらいないっていう』

「あ~、そうだよな」

『ハハッ。ほんとに一人嫌いなんだなって分かるよね』

「別にいいんじゃねぇか?無理に一人でいることも
ないし無理に大勢でいることもない」

『昴、もう何者?ってくらいなんだけど』

「何者。うーん、生き物?」

『なんっか違うけど』

「ハハハッ」

『ハハッ』

笑ってる。

無事に帰れてよかった。

『あっ』

「あ?」

『帰ってきた』

かわいい言い方。

「よかったじゃん」

『うん……なんかごめんね』

「気にすんな」

『じゃあ、また明日』

「はーい」

よかった。

陽希も陽斗も無事に帰れて。

『じゃあ、また明日』

明日も来る気か。

俺は嬉しいんだけどね。

俺と白河兄弟は大丈夫。

あとは、満月。

『大丈夫。いつか分かるよ?俺は何も隠してないって』

満月も、いつか。

『陽斗……ありがとね。じゃあ昴、また来るね』

そう言った満月の顔。

必死に涙をこらえてた。

あの声と顔を思い出すと泣きそうになる。

満月に連絡もしたいけど、今は陽斗のことは考えない方がいい。

陽斗のことを考えて辛くなるなら、考えない方がいい。

陽斗には、俺がいるから。

何をしてあげられるわけでも、何を解ってあげられるわけでもない。

けど、そばにいることくらいならできる。

今だって。

ここを抜け出すくらいする。

学校より、難しそうだけど。

満月のそばにも、俺がいる。

満月には夏月くんと俺が。

陽斗には陽希と俺が。

「はぁ」

早く帰りてぇな。

一番最初には、やっぱり満月のそばに行きたい。

別に怪我なら平気なんだけどなぁ。

もう寝ちゃう?

寝て忘れちゃう?

眠くはないんだよなぁ。

とりあえず目を閉じてみた。


<2016/07/22 11:13 秋の空>消しゴム
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