今日も目を覚ますと朝だった。
あれっ、左側に何か。
「うわっ」
陽斗…?
寝てる?
右側には誰か立ってる。
「おっ、昴。起きたか」
「早えくね?」
「気付いたらここにいた」
「ったく……俺のこたぁ気にすんな」
「あら昴くん。難しいこと言うわね」
「俺 陽希のその喋り方嫌いなんだけど」
「あら失礼」
「はぁ」
「朝からため息〜?」
聞いたことのある女の声。
満月じゃない。
満月より、威圧感が……
「スバにぃ!」
茜が笑ってる。
茜が優しくなる。
楓がいるときだけは。
「楓〜っ」
「だーれ?」
楓が陽希たちを見て言う。
「スバにぃのお友達っ。だよね?」
「まぁ、な」
昨日いたよね。
「ハハッ」
「何?急に笑うとか怖いんだけど」
「いや、髪サラッサラ」
俺は陽斗の髪を触りながら言った。
「あ~、綺麗な髪してるよね。超羨ましい。ちょっと茶色いし」
「茜の髪型じゃサラサラとか分かんないけど」
「でもほら、自分の髪がサラサラってだけで嬉しくない?」
わっかんない。
「あか姉女の子だもんねぇ」
「ねぇ〜っ」
女の子ねぇ。
見えないけど。
男の子より男の子っぽい。
「んーっ」
「陽斗くん?」
「あ~、手ぇ痺れた」
「最高にかわいかったわよ?」
「あっ!茜さん……」
「おはよっ」
「どうも……」
茜が笑ってる。
楓に向けてじゃなくて。
初めて見たかも。
「何 昴」
「すいません」
「つーか早く帰ってこないかなぁ」
「茜さん、優しいんじゃん」
いや、多分これ……
「違うわよ。ほら言ったじゃん。昴のお塩事件。その
お仕置きしたいだけ」
やっぱり。
とことん引きずる女。
いつの話だよ。
「あっ、言ってましたね」
「そうよ。もう玄関前真っ白!」
「この『真っ白』の言い方ね」
「強調すんの」
「強調するわよ!もうほんっとに。雪でも降ったのかと
思うくらいよ!?」
「昴かわいい」
「陽斗ほどじゃねぇけどなっ」
陽斗は恥ずかしそうに笑った。
「うん。陽斗くんかわいい。陽斗くんなら怒んない」
「いや、俺も結構言われんだけど」
「あたしから見たら全くかわいくないし」
「ハハハッ」
「茜」
「昴」
「笑われてんぞ?」
「わらわれてるわよ?」
「超同時!すげぇ」
「まぁな。ってか今日何曜日?」
「火曜日?水曜日?そんなもん」
「えっ、学校は?」
「バカ?夏休み入ったでしょうが」
「茜さんも知ってるよ?」
「うわっ……マジか……」
俺は顔を隠した。
「昴そういうとこあるよね」
「こんなとこしかないわよ。もうちょっとちゃんとして
ほしいよね」
「あぁ〜っ」
「昴〜っ」
「あれっ、痛くないの?」
そういえば。
「帰っちゃう?」
「あたしはいいけど。たっぷりお仕置きしないと」
「お仕置きーっ!」
小さい子のお仕置きって何するかわかんないから
怖いよね。
本気でやりそう。
「楓はお仕置きしなくていいからね」
「楓もする〜っ」
「なら加減しようね」
「加減しなーい」
頼むからしてくれ。
「あぁ、もうほんとに帰ろっかな」
「いいんじゃん?」
「お仕置きが待ってるよ?」
「それは困るんだよなぁ」
「ならしばらく大人しくしてるのね」
なんて怖い人。
「楓眠ーい」
「帰る?」
「スバにぃは?」
「スバにぃはもうちょっと元気になったらね」
「なんでスバにぃこうなっちゃったの?」
聞かないほうがいい。
「ちょっとねぇ。帰ろっか」
「スバにぃ帰ってくる?」
「もちろんだ」
「じゃあバイバイ」
最後は結構簡単にね。
「うん。もうすぐ帰れるからね」
楓は手を振り、病室を出た。
「いいお兄ちゃんなんだ」
「お兄ちゃんじゃねぇけど」
「ふーん」
「楓ちゃんってほんとにかわいいよね」
「家だと結構うるさいぞ?」
「それがかわいいんじゃん。スバにぃのこと信じてん
だぜ?」
スバにぃね。
「俺らにはあんなちっちゃい子いないもんな」
「5歳だっけ?」
「そんなもん」
「昴が満月と会った頃」
「まぁ、そうだな」
そういえば満月来てねぇな。
「陽希さんたちだ」
「おっ」
「夏月くんじゃん」
夏月くんは軽く頭を下げた。
「満月は?」
陽斗……
「なんか風邪引いたみたいっすね」
「そっか……」
「あたしの代わりに行ってきてーって」
普段の満月なら言いそう。
「どうやって来たの?」
「ちょいと歩いてきました」
ちょいと。
小学生にとってはちょいとって感じじゃないでしょ。
俺ここまで走ったら風邪引いたし。
「茜さんたちは帰っちゃったんすね」
「楓が眠いって」
「茜さんに抱っこされてました」
「充電切れたか」
「充電」
「昴さんまだ帰ってこないんすか?」
「帰りたいって騒げば平気じゃん?」
「そうですか……」
夏月くん……
満月か……
「明日にでも帰るわ」
「できます?」
「やってやる」
夏月くんは嬉しそうに笑った。
満月のためならやる。
「じゃあ、俺帰ります」
「気を付けてね」
「はい」
俺らは病室を出る夏月くんを見つめてた。
風邪、か。
まだ小学生なのに。
こんなに気使いやがって。
たまに同じくらいかと思う。
「しっかりした子だよね」
俺と陽希は陽斗を見た。
「何であんな気ぃ使うんだろ」
「なぁ」
「満月の弟だって少し話せば分かるよな」
「そっくり。あの時も、思った」
「あの時?」
陽斗は頷いた。
「夏月くん、言ったの。『無理、しないでくださいね』
って」
「言ってたな」
それで茜が『敏感』って。
「高校生が小学生にあんなこと言われるとか……」
陽斗は下を向いた。
「大丈夫。夏月くんも解ってくれるんだよ」
「じゃあ満月にも心配、させてるよね」
「陽斗……」
「いいんだよ。心配させて」
「でも……もう………十分だから…」
「陽斗は、一人で抱え過ぎなんだよ」
陽斗は首を横に振った。
「これくらい……みんな……」
「十分なのは、俺らが陽斗を心配するんじゃなくて、
陽斗が抱え込む方なんだよ」
もう陽斗は十分抱えた。
十分、一人で。
「どうしたら……」
「ん?」
「どうしたら……心配させないかな……」
「大丈夫。俺らは、ただ陽斗のそばにいたいだけだよ?」
「あ……ダメだ………」
「いいんだよ」
俺は陽斗を抱きしめた。
本当に、一人にしたくなかった。
本当にこれ以上辛い思いはさせたくなかった。
「もういいよ……」
「陽斗……」
「もう十分……優しくされたから………」
「まだ」
「え?」
「まだ足りてない。俺がそう思う。だからこうしてる
だけ」
「すばる……」
「泣け」
「でも……」
「いいから。泣きたい時は泣け」
そうしたら、次の日はその涙以上の笑顔が待ってる。
いつか満月が言ってた。
実際はそうはならなくても、そう思うだけだけで泣ける。
思い切り。
「すばる……」
「いいよ」
今まで、辛い思いしてきたんだから。
その分を発散するだけ。
ただ、それだけのこと。
何も悪くない。
「すば…る……」
「耐えんなよ。もう泣け。思い切り」
「昴……」
えっ、陽希も?
「陽希も泣け」
今まで陽斗が辛い時、泣かなかったんだろうから。
「すばる……なんで……」
「ん?」
「なんでそんなに……やさしいんだよ……」
「俺は優しくない。大切にしたい人を大切にしてるだけ」
あいつにも言った。
満月と一緒に。
「すばる……」
えぇ、そんなに名前呼んで泣かないで。
なんか、なんか……
けど。
陽希の分も、陽斗の分も俺が受け止める。
「俺……いつから弱かったんだろ」
「陽希?」
「前は平気だった。陽斗が泣いてんの見るの」
「そっか」
「けど……今はもう……」
「お前は弱くなったんじゃない。優しくなったんだ」
「昴?」
「陽斗が泣くの、見たくねぇんだろ?それはもう、
陽斗に辛い思いしてほしくないから。
苦しんでるのを見たくないから」
「えっ……」
あ、俺の国語のダメなとこ出てきた。
ちょっと凝ったこと言おうとするとダメだな。
「えっ、あの、んねっ?」
もうグダグダ。
「昴?大丈夫?」
ダメかも。
「うん。体は」
もう違った意味で心はダメ。
「はぁ」
ため息吐かれちゃったよ。
「んでそんなにかっこいいかな」
「は?」
「『お前は弱くなったんじゃない。優しくなったんだ』
超かっこいいんだけど」
なんか、ごめん。
「ヤメろ」
「恥ずかしいの?」
恥ずかしいなんてもんじゃない。
「伝わった?」
「伝わりすぎた」
あぁ、恥ずかしい。
「かわいいね」
「ヤメなさい」
「ハハッ。じゃあ三人で帰る?」
普段なら嬉しいけど。
「許してくれればな」
「来るかもよ?」
あ、本当だ。
「及川くん」
「あぁ、はい」
「大丈夫?」
「もう帰れるくらい」
「んじゃ帰っちゃう?」
なんか軽いけど大丈夫かな。
「そうしたいっすけど」
「んじゃあいいんじゃない?痛くないっしょ?」
そう言っていろいろ突いてくる女の人。
「はい………」
「んじゃぁもういいわよ?」
そう言って彼女は部屋を出た。
「えっ、あんな感じ?」
「それがここのやり方」
「みたいだね」
「陽斗っ?」
「おはよっ」
「おはよ……」
「ほんとに帰っちゃう?」
「うーん。いいとは言ってたけど……」
「簡単だったね」
「うん……」
「んじゃ帰ろ?んで満月のとこ、行ってあげて?」
そう言ってまとめた荷物を渡す陽斗。
「陽斗……」
「ねっ?」
「はーい。行くぞ」
「あ、おぉ」
本当に帰ってきてしまった。
俺は自分の部屋で満月に電話を掛けた。
『すばる…?』
電話から聞こえてきたのは、満月の泣きそうな声だった。
あれっ、左側に何か。
「うわっ」
陽斗…?
寝てる?
右側には誰か立ってる。
「おっ、昴。起きたか」
「早えくね?」
「気付いたらここにいた」
「ったく……俺のこたぁ気にすんな」
「あら昴くん。難しいこと言うわね」
「俺 陽希のその喋り方嫌いなんだけど」
「あら失礼」
「はぁ」
「朝からため息〜?」
聞いたことのある女の声。
満月じゃない。
満月より、威圧感が……
「スバにぃ!」
茜が笑ってる。
茜が優しくなる。
楓がいるときだけは。
「楓〜っ」
「だーれ?」
楓が陽希たちを見て言う。
「スバにぃのお友達っ。だよね?」
「まぁ、な」
昨日いたよね。
「ハハッ」
「何?急に笑うとか怖いんだけど」
「いや、髪サラッサラ」
俺は陽斗の髪を触りながら言った。
「あ~、綺麗な髪してるよね。超羨ましい。ちょっと茶色いし」
「茜の髪型じゃサラサラとか分かんないけど」
「でもほら、自分の髪がサラサラってだけで嬉しくない?」
わっかんない。
「あか姉女の子だもんねぇ」
「ねぇ〜っ」
女の子ねぇ。
見えないけど。
男の子より男の子っぽい。
「んーっ」
「陽斗くん?」
「あ~、手ぇ痺れた」
「最高にかわいかったわよ?」
「あっ!茜さん……」
「おはよっ」
「どうも……」
茜が笑ってる。
楓に向けてじゃなくて。
初めて見たかも。
「何 昴」
「すいません」
「つーか早く帰ってこないかなぁ」
「茜さん、優しいんじゃん」
いや、多分これ……
「違うわよ。ほら言ったじゃん。昴のお塩事件。その
お仕置きしたいだけ」
やっぱり。
とことん引きずる女。
いつの話だよ。
「あっ、言ってましたね」
「そうよ。もう玄関前真っ白!」
「この『真っ白』の言い方ね」
「強調すんの」
「強調するわよ!もうほんっとに。雪でも降ったのかと
思うくらいよ!?」
「昴かわいい」
「陽斗ほどじゃねぇけどなっ」
陽斗は恥ずかしそうに笑った。
「うん。陽斗くんかわいい。陽斗くんなら怒んない」
「いや、俺も結構言われんだけど」
「あたしから見たら全くかわいくないし」
「ハハハッ」
「茜」
「昴」
「笑われてんぞ?」
「わらわれてるわよ?」
「超同時!すげぇ」
「まぁな。ってか今日何曜日?」
「火曜日?水曜日?そんなもん」
「えっ、学校は?」
「バカ?夏休み入ったでしょうが」
「茜さんも知ってるよ?」
「うわっ……マジか……」
俺は顔を隠した。
「昴そういうとこあるよね」
「こんなとこしかないわよ。もうちょっとちゃんとして
ほしいよね」
「あぁ〜っ」
「昴〜っ」
「あれっ、痛くないの?」
そういえば。
「帰っちゃう?」
「あたしはいいけど。たっぷりお仕置きしないと」
「お仕置きーっ!」
小さい子のお仕置きって何するかわかんないから
怖いよね。
本気でやりそう。
「楓はお仕置きしなくていいからね」
「楓もする〜っ」
「なら加減しようね」
「加減しなーい」
頼むからしてくれ。
「あぁ、もうほんとに帰ろっかな」
「いいんじゃん?」
「お仕置きが待ってるよ?」
「それは困るんだよなぁ」
「ならしばらく大人しくしてるのね」
なんて怖い人。
「楓眠ーい」
「帰る?」
「スバにぃは?」
「スバにぃはもうちょっと元気になったらね」
「なんでスバにぃこうなっちゃったの?」
聞かないほうがいい。
「ちょっとねぇ。帰ろっか」
「スバにぃ帰ってくる?」
「もちろんだ」
「じゃあバイバイ」
最後は結構簡単にね。
「うん。もうすぐ帰れるからね」
楓は手を振り、病室を出た。
「いいお兄ちゃんなんだ」
「お兄ちゃんじゃねぇけど」
「ふーん」
「楓ちゃんってほんとにかわいいよね」
「家だと結構うるさいぞ?」
「それがかわいいんじゃん。スバにぃのこと信じてん
だぜ?」
スバにぃね。
「俺らにはあんなちっちゃい子いないもんな」
「5歳だっけ?」
「そんなもん」
「昴が満月と会った頃」
「まぁ、そうだな」
そういえば満月来てねぇな。
「陽希さんたちだ」
「おっ」
「夏月くんじゃん」
夏月くんは軽く頭を下げた。
「満月は?」
陽斗……
「なんか風邪引いたみたいっすね」
「そっか……」
「あたしの代わりに行ってきてーって」
普段の満月なら言いそう。
「どうやって来たの?」
「ちょいと歩いてきました」
ちょいと。
小学生にとってはちょいとって感じじゃないでしょ。
俺ここまで走ったら風邪引いたし。
「茜さんたちは帰っちゃったんすね」
「楓が眠いって」
「茜さんに抱っこされてました」
「充電切れたか」
「充電」
「昴さんまだ帰ってこないんすか?」
「帰りたいって騒げば平気じゃん?」
「そうですか……」
夏月くん……
満月か……
「明日にでも帰るわ」
「できます?」
「やってやる」
夏月くんは嬉しそうに笑った。
満月のためならやる。
「じゃあ、俺帰ります」
「気を付けてね」
「はい」
俺らは病室を出る夏月くんを見つめてた。
風邪、か。
まだ小学生なのに。
こんなに気使いやがって。
たまに同じくらいかと思う。
「しっかりした子だよね」
俺と陽希は陽斗を見た。
「何であんな気ぃ使うんだろ」
「なぁ」
「満月の弟だって少し話せば分かるよな」
「そっくり。あの時も、思った」
「あの時?」
陽斗は頷いた。
「夏月くん、言ったの。『無理、しないでくださいね』
って」
「言ってたな」
それで茜が『敏感』って。
「高校生が小学生にあんなこと言われるとか……」
陽斗は下を向いた。
「大丈夫。夏月くんも解ってくれるんだよ」
「じゃあ満月にも心配、させてるよね」
「陽斗……」
「いいんだよ。心配させて」
「でも……もう………十分だから…」
「陽斗は、一人で抱え過ぎなんだよ」
陽斗は首を横に振った。
「これくらい……みんな……」
「十分なのは、俺らが陽斗を心配するんじゃなくて、
陽斗が抱え込む方なんだよ」
もう陽斗は十分抱えた。
十分、一人で。
「どうしたら……」
「ん?」
「どうしたら……心配させないかな……」
「大丈夫。俺らは、ただ陽斗のそばにいたいだけだよ?」
「あ……ダメだ………」
「いいんだよ」
俺は陽斗を抱きしめた。
本当に、一人にしたくなかった。
本当にこれ以上辛い思いはさせたくなかった。
「もういいよ……」
「陽斗……」
「もう十分……優しくされたから………」
「まだ」
「え?」
「まだ足りてない。俺がそう思う。だからこうしてる
だけ」
「すばる……」
「泣け」
「でも……」
「いいから。泣きたい時は泣け」
そうしたら、次の日はその涙以上の笑顔が待ってる。
いつか満月が言ってた。
実際はそうはならなくても、そう思うだけだけで泣ける。
思い切り。
「すばる……」
「いいよ」
今まで、辛い思いしてきたんだから。
その分を発散するだけ。
ただ、それだけのこと。
何も悪くない。
「すば…る……」
「耐えんなよ。もう泣け。思い切り」
「昴……」
えっ、陽希も?
「陽希も泣け」
今まで陽斗が辛い時、泣かなかったんだろうから。
「すばる……なんで……」
「ん?」
「なんでそんなに……やさしいんだよ……」
「俺は優しくない。大切にしたい人を大切にしてるだけ」
あいつにも言った。
満月と一緒に。
「すばる……」
えぇ、そんなに名前呼んで泣かないで。
なんか、なんか……
けど。
陽希の分も、陽斗の分も俺が受け止める。
「俺……いつから弱かったんだろ」
「陽希?」
「前は平気だった。陽斗が泣いてんの見るの」
「そっか」
「けど……今はもう……」
「お前は弱くなったんじゃない。優しくなったんだ」
「昴?」
「陽斗が泣くの、見たくねぇんだろ?それはもう、
陽斗に辛い思いしてほしくないから。
苦しんでるのを見たくないから」
「えっ……」
あ、俺の国語のダメなとこ出てきた。
ちょっと凝ったこと言おうとするとダメだな。
「えっ、あの、んねっ?」
もうグダグダ。
「昴?大丈夫?」
ダメかも。
「うん。体は」
もう違った意味で心はダメ。
「はぁ」
ため息吐かれちゃったよ。
「んでそんなにかっこいいかな」
「は?」
「『お前は弱くなったんじゃない。優しくなったんだ』
超かっこいいんだけど」
なんか、ごめん。
「ヤメろ」
「恥ずかしいの?」
恥ずかしいなんてもんじゃない。
「伝わった?」
「伝わりすぎた」
あぁ、恥ずかしい。
「かわいいね」
「ヤメなさい」
「ハハッ。じゃあ三人で帰る?」
普段なら嬉しいけど。
「許してくれればな」
「来るかもよ?」
あ、本当だ。
「及川くん」
「あぁ、はい」
「大丈夫?」
「もう帰れるくらい」
「んじゃ帰っちゃう?」
なんか軽いけど大丈夫かな。
「そうしたいっすけど」
「んじゃあいいんじゃない?痛くないっしょ?」
そう言っていろいろ突いてくる女の人。
「はい………」
「んじゃぁもういいわよ?」
そう言って彼女は部屋を出た。
「えっ、あんな感じ?」
「それがここのやり方」
「みたいだね」
「陽斗っ?」
「おはよっ」
「おはよ……」
「ほんとに帰っちゃう?」
「うーん。いいとは言ってたけど……」
「簡単だったね」
「うん……」
「んじゃ帰ろ?んで満月のとこ、行ってあげて?」
そう言ってまとめた荷物を渡す陽斗。
「陽斗……」
「ねっ?」
「はーい。行くぞ」
「あ、おぉ」
本当に帰ってきてしまった。
俺は自分の部屋で満月に電話を掛けた。
『すばる…?』
電話から聞こえてきたのは、満月の泣きそうな声だった。
