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「そうだよ」

『どうした……?』

「帰ってきた」

『ふふっ、そっか』

「あのさ」
『ねぇ』

「何?」

『会いたい……』

「満月……」

『来て……昴、一人で……』

俺一人。

「分かった。今行く」

『あのっ』

「ん?」

『切らないで……このままでいて………』

「分かった。このまま満月ん家行く」

『ごめん……』

俺は家を出た。

「満月?」

『ん?』

「何かあったのか?」

『何も……ないよ…』

「そうか」

俺には言えよ。

『来たら、ゆっくり教えてあげる……聞いてくれる?』

「あぁ。何時間でも」

『すば……』

「満月?満月?」

泣いただけか。

いや、だけってことでもないけど。

『ふふっ……昴の声聞いたら、泣きたくなっちゃった……』

「そっか。泣きたい時は泣け」

『すばる……』

「ん?」

『今どこ?』

「満月ん家の前」

『は!?』

「来てみ?しょうがねぇから待っててやる」

『なんっか恩着せがましい男』

いつもに近い満月になった。

『嘘だったら……』

携帯から聞こえてくる声とほぼ同時に玄関が開いた。

「えっ……昴…」

「嘘だったら?」

「ただじゃおかない………」

「お待たせ」

「バカ!お待たせすぎなの!」

そう言って満月は俺に飛びついた。

「やっと会えた……」

「バーカ。昨日も会ったろ」

「毎日会わなきゃ嫌……」

「女の子みてぇだな」

「あたし、女」

「見えねぇんだよなぁ」

「ゴタゴタ言ってねぇで入れ」

満月……

何で無理に笑う。

何で無理に普段通りでいようと思う。

「バカ王子。早く入れ」

「はい……」

俺は満月の家に上がった。

久々に。

「部屋、行こっか」

「あ、うん」





久々の満月の部屋。

「久々だね」

「うん」

「やっぱりあたしには昴がいないとダメだよ……」

満月の声が震えてきた。

「今日は……あたしじゃなかった……」

「満月……」

「ただ、時間が過ぎるのを待ってた……」

「ごめん」

俺は満月を抱きしめた。

「昴」

「ん?」

「もう……危ないことしないで……運動、ダメなんだから」

「ダメじゃない。苦手なだけだ」

「おんなじよ」

「いや、だいぶ違う」

「めんどくさい男」

「まぁな」

「認めちゃったよ……」

「何があった」

俺はただ、それを聞きに来た。

「はると……」

やっぱり。

「あたし、もう会わない……」

「満月?」

俺は満月の体を少し離して満月の顔を見た。

「もう、陽斗には会わない」

「満月がいたから、今の陽斗はいるんだろ?」

俺が言うと満月は少し笑った。

「夏月も言ってた」

「そうか」

「話戻してもいい?」

俺は頷いた。

「あたしといると、辛いから……」

「え?」

「陽斗は、あたしといると辛いの」

「何かしたの?」

満月は頷いた。

「何があったの?」

「あたし、あのとき必死だった。本当の陽斗を見ようと」

本当の陽斗。

「もう隠してほしくなかった。あたしたちの前だけでいいから本当の陽斗を見せてほしかった」

「ひとつ聞いていい?」

満月は俺を見た。

「満月の言う本当の陽斗って、どんな陽斗?」

満月は少し驚いた顔をした。

そしてすぐ斜め下を見た。

「なんだろう。わからないけど……」

「ならもっと……」
「ゆっくりでいいじゃん」

満月は俺が言い切る前に言うと少し笑った。

「ゆっくりゆっくりって。どんだけ時間かかんのよ」

満月の声がどんどん低くなり、話す早さが早くなる。

「満月」

「もう十分時間ならかけたつもり」

「まだ話してからそんな経ってねぇだろ」

「十分陽斗のことは考えてきたつもり」

満月は聞いたこともないくらい低い声で訂正した。

「満月、どうしたんだよ」

「多分、あたしにはわかってあげられない……」

「一回落ち着けよ」

「あたしは十分落ち着いてる」

「今も考えてんだろ?」

「は?」

「陽斗のこと。ずっと考えてんだろ?」

「もう考えてない。気にしてない。考えられないの」

「まだ考えてんだよ。気にしてんの。頭から離れねぇん
だよ。心のどこかで気にしてんだよ」

「気にしてもないし考えようともしてない!」

満月は泣き叫ぶように言った。

「満月……」

「あたしは昴に陽斗をよろしくって言いたかっただけ」

「気にしてんじゃん。陽斗のこと考えてっからそう言えんだよ」

「違う!あたしはもう考えてない!もう……忘れたいの」

満月は泣きそうな声で言った。

「いつからそう思ってた」

「は?」

「いつから忘れたいと思うようになってた?」

「分かんない。気付いたらもう考えたくなくなってた。
だからもうそれから考えてない」

満月はまだ考えてる。

気にしてる。

そして、理由はわからないけどいつからか自信を失った。

だから俺に陽斗を……

「ごめん……あたしから呼んどいてアレだけど、帰って…」

「分かった。もし、まだ俺と関われる気がしたら連絡
してくれ」

俺はそう言って満月の部屋を出た。

すぐそこには夏月くんがいた。

「すみません……」

小さな声で、呟くように言う夏月くんに俺は笑って首を
横に振った。

「あっ」

「はい?」

「ごめん。しばらく、そっとしといてやってくれ」

「そうするつもりでした」

俺は頷き、階段を降りた。

そして玄関の外へ。

「気を付けてください」

「うおっ!あ、夏月くん」

ずいぶん静かに動ける子。

「ありがとね」

「いえ……」

「どうした?」

「もし、満月が落ち着いたら、お願いします」

夏月くん……

俺は笑って頷き、家に向かった。


<2016/07/22 14:20 秋の空>消しゴム
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