やっぱりあんなこと言わないほうがよかったかな。
さっきからお互いの緊張が。
伝わるほどの緊張が。
このタイミングで楓ちゃんどっか行っちゃうし。
悪いけど楓ちゃんのせいでこうなったのに。
陽希は楓ちゃんと遊んでていないし。
ここで遊べばよくない?
何でわざわざ移動したかな。
陽希のS気質が働いたか。
そういえば、一人、足りなくない。
「あの、昴?」
「あ、何?」
「あれ、夏月、見なかった?」
「え、いないの?」
「何か、気付いたら、いなくなってた、的な?」
的な。
「えっ、お前まさか……」
「まさか?」
「おいてきちゃった的な?」
「病院に、おいてきちゃった的な?」
「忘れてきちゃった、的な?」
「大事な大事な弟を病院に、一人で?」
「的な?」
嘘でしょ。
「ちょ、行ってくる」
あたしは昴の部屋を飛び出した。
「あ、ちょちょちょ……」
昴に腕を掴まれる。
「えっ、何?」
「俺も、行く…」
「いいけど、走るよ?」
「いいよ。お前の事背負ってくるハメになりそうだから」
どういう意味よ。
「お前どうせ泣くだろ」
どうせ。
「したら寝るだろ」
そういう感じで、ついてくる的な。
「しょうがないな。いいよ来て」
「上から」
「いや、ゴタゴタいいから行くよ」
「ゴタゴタ……」
あたしたちは昴の家を飛び出した。
けど……
「あれっ、どっか行くの?」
「このバカが大事な弟 病院に忘れてきたから」
「あらっ、それは大変」
だから今急いでんの。
「んで、その喋り方やめろ」
あたしは二人をおいて走った。
「おいてかれてるよ?」
「あっ……」
病院に着くまでには昴も隣にいた。
「よくついてこれたわね」
「ナメてんべ」
「まぁ、そこそこ」
「ったく」
あたしたちはとりあえず陽斗のいる病室へ。
「あれ?どうしたの?」
「いや、大事なもの、忘れた」
「あ、これ?」
陽斗の視線の先には眠る夏月がいた。
「夏月……」
「そうそう、みんな帰って少ししたらさ、『みんな
行っちゃった』ってここ来たの。超かわいかったよ?」
「陽斗、ありがとね」
「いや、俺は何もしてないから」
あたしは陽斗に首を振り、夏月に後ろから抱きついた。
「夏月……ごめんね」
「んんっ、重っ……」
「あら、失礼な弟」
「えっ?うわっ!満月じゃん」
「大事なもの忘れてね」
「マジか……あった?」
「ここに」
あたしは夏月の肩に手を乗せて言った。
「あ、俺?えっ、何、俺忘れられたの?」
あたしは小さく頷いた。
「何してんだよ〜っ。いや俺さ、勝手に俺が離れてったのかと思ってたから」
こっちが勝手に離れてってた。
「えぇ〜、忘……忘れんなよ〜っ」
そう言ってあたしの腕を叩く夏月。
「いやぁ、これには忘れられた方もビックリだね」
「忘れた方も十分ビックリだけど」
「ハハッ、夏月くんもよかったね。思い出してもらえて」
「んとっすよ……」
「いや〜、明日二人に何か買ってあげる」
「えっ、俺は?」
「よく自分が省かれてるって分かったわね」
「いや、ここにいりゃ分かるし」
ならなぜ訊いた。
「んじゃ陽斗、ありがとね。ほしい物考えといて」
「ほしい物はない」
「絶対言うと思った」
だからあたしは、陽斗になかなかあげられなかった、
優しさをあげる。
「じゃあねっ」
あたしたちは陽斗に軽く手を振り、病室を出た。
「陽斗、元気になったな」
「あたしも思った」
「陽斗さん、何かあったの?」
「ううん。ちょっと疲れてたのかもね」
もう、あのことは、なかったことに。
夏月もあんまり分かってないみたいだし。
夏月にはあまり深くは教えずに、あたしたちは、
1日も早く忘れるだけ。
「おーい?」
「えっ?」
「こっち」
「あ、失礼」
あたしたちは少し戻り、昴についていった。
「夏月?大丈夫?」
「えっ、うん」
「何かあったら言ってね?言えることなら」
「うん」
そう。
言いたくないことを無理に言う必要もない。
ねっ、陽斗。
ごめんね……
「あの、満月?おーい」
夏月が繋いでる手を動かした。
「あっ、何?」
「あの、強い……」
「あっ!ごめん」
あたしは繋いでた手を離した。
「大丈夫?」
「あ、うん。繋ぐにしては、だから」
夏月は笑って言った。
「満月こそ、何かあった?」
「ううん。何も?」
「そっか。俺でよければ話でも何でも聞くから」
よくこんないい子に育ったね。
自分で言うのもあれだけど。
夏月はあたしの最高の弟。
「おいおーい。青山!」
あたしたちはその声に振り返った。
だいぶ後ろから聞こえた、その声に。
「どーこ行くのさ」
「ごめんごめん」
あたしたちは軽く走って昴の家まで戻った。
「仲いいな」
「まぁ悪か」
「ないっすね」
「はいっ。部屋行くぞ。大切な弟くんも帰ってきたし」
昴は夏月の頭をなでた。
「弟くんね。なんで忘れちゃったんだろ」
「なんで忘れられちゃったんだろ」
「まぁまぁ。中行こ?陽希もいるから」
「陽希さんも?」
「二人してここまでついてきちゃってさ。泊めてやろうと思ってな」
なんて恩着せがましい男。
「そう。だからありがたーく泊めさせていただこうと」
「二人って仲いいんだよね?」
「最高にいいわよ?ねっ、昴っ」
あたしは昴に抱きついた。
「夏月くん、こういう女には気を付けろよ?」
「えっ?」
「こういう、最高にほっとけねぇ女には。って、
こうしてる間に寝ちまうし」
「えっ、寝てんの?」
「みてぇだな。幸せそうに寝やがって」
「満月の寝顔って見てて眠くなるんすよね」
「分かる。俺らもつられる前に部屋連れてくか」
「はいっ」
「起きないんすかねぇ」
「まだ1時間しか経ってねぇからな」
そんな声の聞こえる中、あたしは目を開けた。
「あっ」
「起きやがったな?眠り女」
「姫にして」
「姫って感じになれよ」
ムッカつく男。
「あれっ!?陽希は?」
「陽希は、陽斗が心配だからそばにいるって」
「そっか……」
優しいお兄ちゃんね。
あたしはゆっくり起き上がった。
「おっ、起きたか」
陽希の声。
「は?陽斗んとこ行ったんじゃないの?」
「『は?』って。こっちのセリフだし」
あたしは昴と夏月を見た。
「チッ。お前ら……」
「怖ーい」
「まぁまぁ、そう怒るなよ。綺麗な心持ってんのは
いいことだぜ?」
「ったく。超信じたわ」
「それはよかった」
「そんだけ昴さんのこと信じてんだな」
まぁ、信じてるけど。
誰のことよりも。
自分のこと、よりも。
あたしは今日から、自分が分からなくなっていた。
今日の、あの時から。
陽斗を記憶から消そうとした、あの時から。
「満月?」
「ごめん。なんでもない……」
「そんなに心綺麗だったっけ……」
あたしは昴の言葉に首を振った。
あたしは綺麗な心なんて持っていない。
大切にしなきゃいけない人を、記憶から消そうとした。
「えっ、満月?ガチ泣き?」
昴はあたしを優しく抱きしめてくれた。
「ごめん……違うの。みんなじゃなくて……」
「まぁ理由はどうでもいい。とりあえず泣け」
あたしは昴の胸の中で思い切り泣いた。
本当に、思い切り。
何も気にしないで。
さっきからお互いの緊張が。
伝わるほどの緊張が。
このタイミングで楓ちゃんどっか行っちゃうし。
悪いけど楓ちゃんのせいでこうなったのに。
陽希は楓ちゃんと遊んでていないし。
ここで遊べばよくない?
何でわざわざ移動したかな。
陽希のS気質が働いたか。
そういえば、一人、足りなくない。
「あの、昴?」
「あ、何?」
「あれ、夏月、見なかった?」
「え、いないの?」
「何か、気付いたら、いなくなってた、的な?」
的な。
「えっ、お前まさか……」
「まさか?」
「おいてきちゃった的な?」
「病院に、おいてきちゃった的な?」
「忘れてきちゃった、的な?」
「大事な大事な弟を病院に、一人で?」
「的な?」
嘘でしょ。
「ちょ、行ってくる」
あたしは昴の部屋を飛び出した。
「あ、ちょちょちょ……」
昴に腕を掴まれる。
「えっ、何?」
「俺も、行く…」
「いいけど、走るよ?」
「いいよ。お前の事背負ってくるハメになりそうだから」
どういう意味よ。
「お前どうせ泣くだろ」
どうせ。
「したら寝るだろ」
そういう感じで、ついてくる的な。
「しょうがないな。いいよ来て」
「上から」
「いや、ゴタゴタいいから行くよ」
「ゴタゴタ……」
あたしたちは昴の家を飛び出した。
けど……
「あれっ、どっか行くの?」
「このバカが大事な弟 病院に忘れてきたから」
「あらっ、それは大変」
だから今急いでんの。
「んで、その喋り方やめろ」
あたしは二人をおいて走った。
「おいてかれてるよ?」
「あっ……」
病院に着くまでには昴も隣にいた。
「よくついてこれたわね」
「ナメてんべ」
「まぁ、そこそこ」
「ったく」
あたしたちはとりあえず陽斗のいる病室へ。
「あれ?どうしたの?」
「いや、大事なもの、忘れた」
「あ、これ?」
陽斗の視線の先には眠る夏月がいた。
「夏月……」
「そうそう、みんな帰って少ししたらさ、『みんな
行っちゃった』ってここ来たの。超かわいかったよ?」
「陽斗、ありがとね」
「いや、俺は何もしてないから」
あたしは陽斗に首を振り、夏月に後ろから抱きついた。
「夏月……ごめんね」
「んんっ、重っ……」
「あら、失礼な弟」
「えっ?うわっ!満月じゃん」
「大事なもの忘れてね」
「マジか……あった?」
「ここに」
あたしは夏月の肩に手を乗せて言った。
「あ、俺?えっ、何、俺忘れられたの?」
あたしは小さく頷いた。
「何してんだよ〜っ。いや俺さ、勝手に俺が離れてったのかと思ってたから」
こっちが勝手に離れてってた。
「えぇ〜、忘……忘れんなよ〜っ」
そう言ってあたしの腕を叩く夏月。
「いやぁ、これには忘れられた方もビックリだね」
「忘れた方も十分ビックリだけど」
「ハハッ、夏月くんもよかったね。思い出してもらえて」
「んとっすよ……」
「いや〜、明日二人に何か買ってあげる」
「えっ、俺は?」
「よく自分が省かれてるって分かったわね」
「いや、ここにいりゃ分かるし」
ならなぜ訊いた。
「んじゃ陽斗、ありがとね。ほしい物考えといて」
「ほしい物はない」
「絶対言うと思った」
だからあたしは、陽斗になかなかあげられなかった、
優しさをあげる。
「じゃあねっ」
あたしたちは陽斗に軽く手を振り、病室を出た。
「陽斗、元気になったな」
「あたしも思った」
「陽斗さん、何かあったの?」
「ううん。ちょっと疲れてたのかもね」
もう、あのことは、なかったことに。
夏月もあんまり分かってないみたいだし。
夏月にはあまり深くは教えずに、あたしたちは、
1日も早く忘れるだけ。
「おーい?」
「えっ?」
「こっち」
「あ、失礼」
あたしたちは少し戻り、昴についていった。
「夏月?大丈夫?」
「えっ、うん」
「何かあったら言ってね?言えることなら」
「うん」
そう。
言いたくないことを無理に言う必要もない。
ねっ、陽斗。
ごめんね……
「あの、満月?おーい」
夏月が繋いでる手を動かした。
「あっ、何?」
「あの、強い……」
「あっ!ごめん」
あたしは繋いでた手を離した。
「大丈夫?」
「あ、うん。繋ぐにしては、だから」
夏月は笑って言った。
「満月こそ、何かあった?」
「ううん。何も?」
「そっか。俺でよければ話でも何でも聞くから」
よくこんないい子に育ったね。
自分で言うのもあれだけど。
夏月はあたしの最高の弟。
「おいおーい。青山!」
あたしたちはその声に振り返った。
だいぶ後ろから聞こえた、その声に。
「どーこ行くのさ」
「ごめんごめん」
あたしたちは軽く走って昴の家まで戻った。
「仲いいな」
「まぁ悪か」
「ないっすね」
「はいっ。部屋行くぞ。大切な弟くんも帰ってきたし」
昴は夏月の頭をなでた。
「弟くんね。なんで忘れちゃったんだろ」
「なんで忘れられちゃったんだろ」
「まぁまぁ。中行こ?陽希もいるから」
「陽希さんも?」
「二人してここまでついてきちゃってさ。泊めてやろうと思ってな」
なんて恩着せがましい男。
「そう。だからありがたーく泊めさせていただこうと」
「二人って仲いいんだよね?」
「最高にいいわよ?ねっ、昴っ」
あたしは昴に抱きついた。
「夏月くん、こういう女には気を付けろよ?」
「えっ?」
「こういう、最高にほっとけねぇ女には。って、
こうしてる間に寝ちまうし」
「えっ、寝てんの?」
「みてぇだな。幸せそうに寝やがって」
「満月の寝顔って見てて眠くなるんすよね」
「分かる。俺らもつられる前に部屋連れてくか」
「はいっ」
「起きないんすかねぇ」
「まだ1時間しか経ってねぇからな」
そんな声の聞こえる中、あたしは目を開けた。
「あっ」
「起きやがったな?眠り女」
「姫にして」
「姫って感じになれよ」
ムッカつく男。
「あれっ!?陽希は?」
「陽希は、陽斗が心配だからそばにいるって」
「そっか……」
優しいお兄ちゃんね。
あたしはゆっくり起き上がった。
「おっ、起きたか」
陽希の声。
「は?陽斗んとこ行ったんじゃないの?」
「『は?』って。こっちのセリフだし」
あたしは昴と夏月を見た。
「チッ。お前ら……」
「怖ーい」
「まぁまぁ、そう怒るなよ。綺麗な心持ってんのは
いいことだぜ?」
「ったく。超信じたわ」
「それはよかった」
「そんだけ昴さんのこと信じてんだな」
まぁ、信じてるけど。
誰のことよりも。
自分のこと、よりも。
あたしは今日から、自分が分からなくなっていた。
今日の、あの時から。
陽斗を記憶から消そうとした、あの時から。
「満月?」
「ごめん。なんでもない……」
「そんなに心綺麗だったっけ……」
あたしは昴の言葉に首を振った。
あたしは綺麗な心なんて持っていない。
大切にしなきゃいけない人を、記憶から消そうとした。
「えっ、満月?ガチ泣き?」
昴はあたしを優しく抱きしめてくれた。
「ごめん……違うの。みんなじゃなくて……」
「まぁ理由はどうでもいい。とりあえず泣け」
あたしは昴の胸の中で思い切り泣いた。
本当に、思い切り。
何も気にしないで。
