昴さんといる時は、確かに安心してる。
けど、安心してた、かな。
何でこんなに分かるの?
何でこんなに隠せないの?
俺がただ下手なだけならいいけど。
「夏月?」
「はい?」
「何かあったら、言えよ?」
別に昴さんに言ったとこであの人が変わるわけじゃない。
あの人はああいう人。
性格は変わらない。
しかもここには楓ちゃんもいる。
「大丈夫ですよ?」
俺はなるべく明るく答えた。
けど、こう言って気にしなくなるような人じゃない。
昴さんは、満月の言った通り、優しいから。
「昴さんこそ、溜め込んじゃダメっすよ?」
「俺はそんなことできない」
嘘つき。
溜めまくってるくせに。
「うわっ!ハハハッ」
下で楽しそうな二人の会話が聞こえる。
「茜さん!何笑ってるんですか!ちょ、片付けてくださいよ〜」
「ハッハッハッ」
「もぉ〜っ」
何か割ったらしい。
茜さん、やりそうだけど。
「あか姉、大丈夫?」
「多分、ダメ」
俺もそう思う。
「スバにぃ、あか姉のとこ行ってあげて?」
大事になってる。
「俺また巻き込まれんの?」
「俺も行きますよ?」
「じゃあみんなで行くか」
「それはまずい」
「もうちょいゆっくり答えてくんないかなぁ」
「俺はそういう人間だ。性格は変えられない」
そう。
性格は変わらない。
変えられない。
変えられるなら俺も変えたい。
あの人のことを受け入れられるような、優しい性格に。
「じゃあ俺夏月と行くわ」
「ナツにぃ、気を付けてね?」
「あいよっ」
俺は昴さんと部屋を出た。
きっと何か訊かれる。
何も、答えるつもりはないけど。
何であの時に思い出したかな。
もう、忘れたいのに。
楽しめた頃に思い出す。
「行くか」
「あぁ、はい」
何も訊かないんだ。
これが昴さんね。
俺らは一階に下り、キッチンへ。
「あら昴、何しに来やがった」
「なんか騒がしかったから?何をやらかしたのかと思って来てやった」
「とっことん恩着せがましいのね」
「俺はそういう人間だ」
「開き直りやがった」
茜さんの言葉に昴さんは鼻で笑った。
「この基本バカにした態度ね。ムッカつくわぁ」
「血管切れんぞ」
「誰のせいよ!」
「んなの知らねぇし」
「大丈夫ですか?」
「なんか滑ったのね」
「ちょっと休んだほうがいいですよ?」
「大丈夫よ?優しいのねぇ。誰かとは大違い」
「そんな姉の心配するやついねぇよ。夏月くらいだな」
俺は昴さんを見上げた。
本当に背、高い。
俺が低いってのもあるだろうけど。
まだ160前後。
これから伸びんのかな。
そんな俺より20cmくらい違うかも。
「昴さん」
「え?」
「身長どんくらいあるんすか?」
「前測った時は……どんくらいだったっけ?」
「高いよねぇ。羨ましい」
「女じゃこんなにいらないわよ」
「175、6じゃん?」
何してたんだか。
「何でそんな伸びたんすか」
「何でだろうね?」
「っつーか、心配して来たなら手伝うくらいしない?」
茜さん、怖い。
「すいません……」
「いや、夏月くんはいいのよ?その隣の男」
隣の男。
「別に心配したわけじゃない」
「ほんとに冷たい男。モテないよ?」
「別にモテたくねぇし」
「大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫よ?ごめんね」
「いえ、全然」
「ほんとにいい子に育ったわね」
「あたしの弟なんで」
「あたしの弟はなぜこんなふうに」
十分優しいですよ。
昴さんは。
優しすぎるくらい。
「戻っていい?」
「戻ってほしい」
「茜さん……素直じゃないんだから」
「は?」
「いえ……じゃ、他の、あります?」
「うん」
「もう割んなよ?」
「うるっさいわね」
「ハハハッ」
「笑ってるよ……」
「行くよ?」
「あぁ、失礼しました」
俺は二人に頭を下げ、昴さんについていった。
そして階段の途中で止まる昴さん。
「昴さん?」
「『抱え込んじゃダメっすよ』って。自分で言ってたろ」
「え?」
「一人で抱えんなよ。家族?」
「えっ?」
「家で何かあったか」
何で……何で分かるの?
俺そんなに顔に出るタイプだったっけ。
「家族信じらんねぇって大変だよな」
何でそこまで……
「ハハッ、何言ってんすか。部屋戻りましょ?」
ダメだ。
感情が入らない。
「父親か」
俺は何も言えず、下を向いた。
「夏月、基本男苦手だろ」
「いや……俺は………」
「ただ言いたくねぇなら言わなくていい。けど心配
させたくないとかくだらねぇこと考えてんなら言え」
俺は昴さんを見た。
目は、合わせられなかったけど。
「何もないっすよ。行きましょ?ねっ?」
「そうか」
そう言って昴さんは再び階段を上り始めた。
俺は、なかなか動けなかった。
昴さんの優しさと、鋭さが怖くて。
俺はしばらくしてやっと部屋のドアの前へ。
大丈夫。
何もない。
俺は深呼吸して昴さんの部屋のドアを開けた。
「大丈夫?」
陽希さんが心配そうに訊く。
「えっ……はい…」
「ナツにぃ、スバにぃには敵わないよ?」
「なにが?」
俺は少し怖かったけど楓ちゃんを抱き上げてみた。
「ナツにぃ、何かあったんでしょ?」
ふーん。
楓ちゃんも鋭いんだ。
5歳で。
「なんもないよ?」
「ナツにぃ素直だね」
表でいい顔して裏で何考えてるか分からないよりはいい
だろう。
「ナツにぃ嘘下手〜っ」
「あんま上手くてもねっ」
誰もそれ以上は何も言わなかった。
みんな、全部分かってるんだろうけど。
『父親か』
『基本男苦手だろ』
何でそこまで分かるの?
昴さんは何者なの?
「ナツにぃ、もういいよ?」
「あ、ごめんね?」
俺は楓ちゃんを降ろした。
「昴〜っ」
「夏月〜っ、陽希〜っ」
二人の元気な声が俺らを呼ぶ。
「行きますか」
俺はなるべく明るく言った。
俺らはリビングへ。
「できたよ〜っ」
「うん。普通の色してる」
「は?」
「いやいつも濃いのよ。あっ」
「えぇ。今日はとっても美味しいんじゃない?あなたの
大好きな満月ちゃんが手伝ってくれたから?」
「はい……」
みんな笑ってる。
俺以外、みんな。
俺も笑ってるつもり。
みんなと同じように。
明るくしてるつもり。
こんで深月をどうすんだろ。
「まぁ、食べましょっ?あたしも作った、
美味しい野菜炒めを」
満月の言葉で再び場が笑いに包まれる。
誰も気付かない。
いや、誰も何も言わないだけかもしれない。
『どうしたの?』って。
俺が返す言葉が分かってるから。
「まぁまぁ、食べましょ?」
「夏月くんも座って?」
「あ、すいません……」
俺はなんとなく満月の隣に座った。
きっとこれで昴さんはさらに俺を気にするだろう。
なんとなくって言えばいいよね。
もし何か言われたら。
「いやぁ、楽しかったね」
「楽しい時間は過ぎるのが早い。早すぎる」
本当。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
家にいる時も、これくらい早く過ぎていけばいいのに。
これくらい、早く。
「夏月?」
「なに?」
「大丈夫だよ」
「えっ…」
満月は布団の中で俺の手を握った。
「満月、父さんってどんな人?」
「え?」
「俺、あの人わかんない。何考えてるかとか、いろいろ」
「夏月くん……」
茜さんと満月だけならいいよね。
昴さんたちとは違う部屋にした。
ここは普段昴さんと茜さんと二人のお母さんが寝てる
部屋。
昴さんたちは昴さんの部屋で。
「あたしもわかんないよ?あいつ」
あいつ。
「あたしも夏月くらいの頃思ってた。こいつ何考えてん
だろって。どんな人なの?みたいな」
「満月ちゃん……」
「あたしもうね、青山家誰も信じてなかった。夏月だけは違ったけど」
「満月……」
「もうそのうち気になんなくなるよ?そんで最近
大人しかったの?」
「かな……」
大人しかったんだ。
だもん昴さんに気付かれないわけがない。
「みんな大変なんだね」
「茜さん?」
「うちはあたしと昴とお母さんしかいないからさ。
もう仲よくするしかないってかさ」
「うちより大変じゃない」
「そうなのかな。うちみんな何も気にしない人だからさ。そんな感じでしょ?」
「そうですかね?」
「ハハハッ。みんな迷わずうんって言うよ?」
茜さんも昴さんもいろいろ気にしそうだけど。
「でも一時期昴と超仲悪くなった」
「えっ?」
俺と満月が同時に言う。
「なんかそんときはみんなイライラしてた。なんでかは
分かんないけど」
「そっか」
何でお父さんいないんだろ。
でも絶対訊いちゃダメなやつだよね。
「やっぱあれかな。お父さん逝っていろいろわちゃついてたのかもね」
亡くなったんだ。
「そんとき昴は中学生。あたしは高3。いろいろ
わちゃつく頃だよね」
「茜さん……」
「ハハッ。なんかごめんね」
「あの……」
訊いちゃっていいのかな。
「夏月くん?」
「いつ頃落ち着いたんですか。昴さんとは」
「なんだろうね。わちゃわちゃしてた頃、ずっといってたから」
「なんて?」
「ああ、行く。どっか行ってたの」
あっ、超恥ずかしい。
「え、どこ行ってたんですか?」
満月が代わりに言うように言った。
「いろんなとこ行った。忘れるために。お父さんのことも、昴のことも……」
昴さんを忘れるため。
どれだけ辛かっただろう。
「もうどこ行ったとか覚えてないね。ただ遠くに行きた
かった。昴と離れたかった」
離れたかった……
「そんで帰ってきたらお塩事件発生よね」
でもそれも……
「信じたかったんだろうね。あたしが普通になって帰ってきたって。霊が怖かったとか言ってるけど、きっとね」
昴さん……
「嬉しかったんじゃん?あたしも思ったもん。
自分で自分が変だって」
自分が変。
まだないな。
「何だったんだろ。ほんとに取り憑かれてたのかなっ?」
茜さんは笑って言った。
「そんなにショックだった気はしてなかったんだけどね」
「そうですか……」
「どう違ったんですか」
えっ、満月……
嘘だろ。
「何だろ。無か、イライラしてるかだった」
「お塩事件もいろいろあっての、なんすね」
「こう考えれば、ね?普通に聞いたらただの昴のバカな
とこ。そんな良い話にする必要もないっしょ。
ただの笑い話でいいの」
ただ、周りで人が笑っていればいい。
なんとなくわかるかも。
ただ周りで人が笑ってる。
自分の言ったことで笑う人がいる。
それが嬉しくて俺は学校でふざけたことを言ったり
無駄に笑ったり。
俺につられて笑ってくれるのが、嬉しかったから。
「周りで人が笑ってくれるって嬉しいよね」
俺は姿は見えなかったけど茜さんがいる方を見た。
「自分の言ったことで、笑う人がいる。
自分が笑うことで笑顔になる人がいる。そのためなら
大袈裟に笑うことくらいする。
それで、人が笑顔になるなら……」
茜さん……
「夏月くんもそうそいうこと考えそうだよね」
「考えるほどすごくないですけど、またに思いますかね」
「やっぱり」
今も思ってた。
「大人だよね。普通の小学生そんなこと考えないっしょ」
「そうなんですかね。結構いるんじゃないですか?」
「かなぁ」
「あれっ」
「ん?あっ、満月ちゃん」
「早いんすよね」
「うん。早そうだもん」
やっぱそう見えるか。
「俺らも寝ましょうか」
「だね。おやすみ」
「おやすみなさい」
俺はそっと目を閉じた。
『自分の言ったことで笑う人がいる。
自分が笑うことで笑顔になる人がいる。
そのためなら大袈裟に笑うことくらいする』
茜さん……
なんでそんなに周りの人のこと……
昴さんみたい。
昴さんたちのお父さん。
どんな人なんだろう。
やっぱり優しい人なのかな。
きっとそうだよね。
あの二人を、中学生、高3まで育てた人だもん。
俺と満月の、父親は……
どんな人なのか分からない。
今まで関わってきた人の中で一番分からない気がする。
気付いたら趣味は他人の本性を知ること。
なんて怖い子。
けど今まで一度も本性に辿りつけたことはない。
結局他人の考えてる事なんて分からない。
ここまで来ると、満月の考えてる事も。
けど、安心してた、かな。
何でこんなに分かるの?
何でこんなに隠せないの?
俺がただ下手なだけならいいけど。
「夏月?」
「はい?」
「何かあったら、言えよ?」
別に昴さんに言ったとこであの人が変わるわけじゃない。
あの人はああいう人。
性格は変わらない。
しかもここには楓ちゃんもいる。
「大丈夫ですよ?」
俺はなるべく明るく答えた。
けど、こう言って気にしなくなるような人じゃない。
昴さんは、満月の言った通り、優しいから。
「昴さんこそ、溜め込んじゃダメっすよ?」
「俺はそんなことできない」
嘘つき。
溜めまくってるくせに。
「うわっ!ハハハッ」
下で楽しそうな二人の会話が聞こえる。
「茜さん!何笑ってるんですか!ちょ、片付けてくださいよ〜」
「ハッハッハッ」
「もぉ〜っ」
何か割ったらしい。
茜さん、やりそうだけど。
「あか姉、大丈夫?」
「多分、ダメ」
俺もそう思う。
「スバにぃ、あか姉のとこ行ってあげて?」
大事になってる。
「俺また巻き込まれんの?」
「俺も行きますよ?」
「じゃあみんなで行くか」
「それはまずい」
「もうちょいゆっくり答えてくんないかなぁ」
「俺はそういう人間だ。性格は変えられない」
そう。
性格は変わらない。
変えられない。
変えられるなら俺も変えたい。
あの人のことを受け入れられるような、優しい性格に。
「じゃあ俺夏月と行くわ」
「ナツにぃ、気を付けてね?」
「あいよっ」
俺は昴さんと部屋を出た。
きっと何か訊かれる。
何も、答えるつもりはないけど。
何であの時に思い出したかな。
もう、忘れたいのに。
楽しめた頃に思い出す。
「行くか」
「あぁ、はい」
何も訊かないんだ。
これが昴さんね。
俺らは一階に下り、キッチンへ。
「あら昴、何しに来やがった」
「なんか騒がしかったから?何をやらかしたのかと思って来てやった」
「とっことん恩着せがましいのね」
「俺はそういう人間だ」
「開き直りやがった」
茜さんの言葉に昴さんは鼻で笑った。
「この基本バカにした態度ね。ムッカつくわぁ」
「血管切れんぞ」
「誰のせいよ!」
「んなの知らねぇし」
「大丈夫ですか?」
「なんか滑ったのね」
「ちょっと休んだほうがいいですよ?」
「大丈夫よ?優しいのねぇ。誰かとは大違い」
「そんな姉の心配するやついねぇよ。夏月くらいだな」
俺は昴さんを見上げた。
本当に背、高い。
俺が低いってのもあるだろうけど。
まだ160前後。
これから伸びんのかな。
そんな俺より20cmくらい違うかも。
「昴さん」
「え?」
「身長どんくらいあるんすか?」
「前測った時は……どんくらいだったっけ?」
「高いよねぇ。羨ましい」
「女じゃこんなにいらないわよ」
「175、6じゃん?」
何してたんだか。
「何でそんな伸びたんすか」
「何でだろうね?」
「っつーか、心配して来たなら手伝うくらいしない?」
茜さん、怖い。
「すいません……」
「いや、夏月くんはいいのよ?その隣の男」
隣の男。
「別に心配したわけじゃない」
「ほんとに冷たい男。モテないよ?」
「別にモテたくねぇし」
「大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫よ?ごめんね」
「いえ、全然」
「ほんとにいい子に育ったわね」
「あたしの弟なんで」
「あたしの弟はなぜこんなふうに」
十分優しいですよ。
昴さんは。
優しすぎるくらい。
「戻っていい?」
「戻ってほしい」
「茜さん……素直じゃないんだから」
「は?」
「いえ……じゃ、他の、あります?」
「うん」
「もう割んなよ?」
「うるっさいわね」
「ハハハッ」
「笑ってるよ……」
「行くよ?」
「あぁ、失礼しました」
俺は二人に頭を下げ、昴さんについていった。
そして階段の途中で止まる昴さん。
「昴さん?」
「『抱え込んじゃダメっすよ』って。自分で言ってたろ」
「え?」
「一人で抱えんなよ。家族?」
「えっ?」
「家で何かあったか」
何で……何で分かるの?
俺そんなに顔に出るタイプだったっけ。
「家族信じらんねぇって大変だよな」
何でそこまで……
「ハハッ、何言ってんすか。部屋戻りましょ?」
ダメだ。
感情が入らない。
「父親か」
俺は何も言えず、下を向いた。
「夏月、基本男苦手だろ」
「いや……俺は………」
「ただ言いたくねぇなら言わなくていい。けど心配
させたくないとかくだらねぇこと考えてんなら言え」
俺は昴さんを見た。
目は、合わせられなかったけど。
「何もないっすよ。行きましょ?ねっ?」
「そうか」
そう言って昴さんは再び階段を上り始めた。
俺は、なかなか動けなかった。
昴さんの優しさと、鋭さが怖くて。
俺はしばらくしてやっと部屋のドアの前へ。
大丈夫。
何もない。
俺は深呼吸して昴さんの部屋のドアを開けた。
「大丈夫?」
陽希さんが心配そうに訊く。
「えっ……はい…」
「ナツにぃ、スバにぃには敵わないよ?」
「なにが?」
俺は少し怖かったけど楓ちゃんを抱き上げてみた。
「ナツにぃ、何かあったんでしょ?」
ふーん。
楓ちゃんも鋭いんだ。
5歳で。
「なんもないよ?」
「ナツにぃ素直だね」
表でいい顔して裏で何考えてるか分からないよりはいい
だろう。
「ナツにぃ嘘下手〜っ」
「あんま上手くてもねっ」
誰もそれ以上は何も言わなかった。
みんな、全部分かってるんだろうけど。
『父親か』
『基本男苦手だろ』
何でそこまで分かるの?
昴さんは何者なの?
「ナツにぃ、もういいよ?」
「あ、ごめんね?」
俺は楓ちゃんを降ろした。
「昴〜っ」
「夏月〜っ、陽希〜っ」
二人の元気な声が俺らを呼ぶ。
「行きますか」
俺はなるべく明るく言った。
俺らはリビングへ。
「できたよ〜っ」
「うん。普通の色してる」
「は?」
「いやいつも濃いのよ。あっ」
「えぇ。今日はとっても美味しいんじゃない?あなたの
大好きな満月ちゃんが手伝ってくれたから?」
「はい……」
みんな笑ってる。
俺以外、みんな。
俺も笑ってるつもり。
みんなと同じように。
明るくしてるつもり。
こんで深月をどうすんだろ。
「まぁ、食べましょっ?あたしも作った、
美味しい野菜炒めを」
満月の言葉で再び場が笑いに包まれる。
誰も気付かない。
いや、誰も何も言わないだけかもしれない。
『どうしたの?』って。
俺が返す言葉が分かってるから。
「まぁまぁ、食べましょ?」
「夏月くんも座って?」
「あ、すいません……」
俺はなんとなく満月の隣に座った。
きっとこれで昴さんはさらに俺を気にするだろう。
なんとなくって言えばいいよね。
もし何か言われたら。
「いやぁ、楽しかったね」
「楽しい時間は過ぎるのが早い。早すぎる」
本当。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
家にいる時も、これくらい早く過ぎていけばいいのに。
これくらい、早く。
「夏月?」
「なに?」
「大丈夫だよ」
「えっ…」
満月は布団の中で俺の手を握った。
「満月、父さんってどんな人?」
「え?」
「俺、あの人わかんない。何考えてるかとか、いろいろ」
「夏月くん……」
茜さんと満月だけならいいよね。
昴さんたちとは違う部屋にした。
ここは普段昴さんと茜さんと二人のお母さんが寝てる
部屋。
昴さんたちは昴さんの部屋で。
「あたしもわかんないよ?あいつ」
あいつ。
「あたしも夏月くらいの頃思ってた。こいつ何考えてん
だろって。どんな人なの?みたいな」
「満月ちゃん……」
「あたしもうね、青山家誰も信じてなかった。夏月だけは違ったけど」
「満月……」
「もうそのうち気になんなくなるよ?そんで最近
大人しかったの?」
「かな……」
大人しかったんだ。
だもん昴さんに気付かれないわけがない。
「みんな大変なんだね」
「茜さん?」
「うちはあたしと昴とお母さんしかいないからさ。
もう仲よくするしかないってかさ」
「うちより大変じゃない」
「そうなのかな。うちみんな何も気にしない人だからさ。そんな感じでしょ?」
「そうですかね?」
「ハハハッ。みんな迷わずうんって言うよ?」
茜さんも昴さんもいろいろ気にしそうだけど。
「でも一時期昴と超仲悪くなった」
「えっ?」
俺と満月が同時に言う。
「なんかそんときはみんなイライラしてた。なんでかは
分かんないけど」
「そっか」
何でお父さんいないんだろ。
でも絶対訊いちゃダメなやつだよね。
「やっぱあれかな。お父さん逝っていろいろわちゃついてたのかもね」
亡くなったんだ。
「そんとき昴は中学生。あたしは高3。いろいろ
わちゃつく頃だよね」
「茜さん……」
「ハハッ。なんかごめんね」
「あの……」
訊いちゃっていいのかな。
「夏月くん?」
「いつ頃落ち着いたんですか。昴さんとは」
「なんだろうね。わちゃわちゃしてた頃、ずっといってたから」
「なんて?」
「ああ、行く。どっか行ってたの」
あっ、超恥ずかしい。
「え、どこ行ってたんですか?」
満月が代わりに言うように言った。
「いろんなとこ行った。忘れるために。お父さんのことも、昴のことも……」
昴さんを忘れるため。
どれだけ辛かっただろう。
「もうどこ行ったとか覚えてないね。ただ遠くに行きた
かった。昴と離れたかった」
離れたかった……
「そんで帰ってきたらお塩事件発生よね」
でもそれも……
「信じたかったんだろうね。あたしが普通になって帰ってきたって。霊が怖かったとか言ってるけど、きっとね」
昴さん……
「嬉しかったんじゃん?あたしも思ったもん。
自分で自分が変だって」
自分が変。
まだないな。
「何だったんだろ。ほんとに取り憑かれてたのかなっ?」
茜さんは笑って言った。
「そんなにショックだった気はしてなかったんだけどね」
「そうですか……」
「どう違ったんですか」
えっ、満月……
嘘だろ。
「何だろ。無か、イライラしてるかだった」
「お塩事件もいろいろあっての、なんすね」
「こう考えれば、ね?普通に聞いたらただの昴のバカな
とこ。そんな良い話にする必要もないっしょ。
ただの笑い話でいいの」
ただ、周りで人が笑っていればいい。
なんとなくわかるかも。
ただ周りで人が笑ってる。
自分の言ったことで笑う人がいる。
それが嬉しくて俺は学校でふざけたことを言ったり
無駄に笑ったり。
俺につられて笑ってくれるのが、嬉しかったから。
「周りで人が笑ってくれるって嬉しいよね」
俺は姿は見えなかったけど茜さんがいる方を見た。
「自分の言ったことで、笑う人がいる。
自分が笑うことで笑顔になる人がいる。そのためなら
大袈裟に笑うことくらいする。
それで、人が笑顔になるなら……」
茜さん……
「夏月くんもそうそいうこと考えそうだよね」
「考えるほどすごくないですけど、またに思いますかね」
「やっぱり」
今も思ってた。
「大人だよね。普通の小学生そんなこと考えないっしょ」
「そうなんですかね。結構いるんじゃないですか?」
「かなぁ」
「あれっ」
「ん?あっ、満月ちゃん」
「早いんすよね」
「うん。早そうだもん」
やっぱそう見えるか。
「俺らも寝ましょうか」
「だね。おやすみ」
「おやすみなさい」
俺はそっと目を閉じた。
『自分の言ったことで笑う人がいる。
自分が笑うことで笑顔になる人がいる。
そのためなら大袈裟に笑うことくらいする』
茜さん……
なんでそんなに周りの人のこと……
昴さんみたい。
昴さんたちのお父さん。
どんな人なんだろう。
やっぱり優しい人なのかな。
きっとそうだよね。
あの二人を、中学生、高3まで育てた人だもん。
俺と満月の、父親は……
どんな人なのか分からない。
今まで関わってきた人の中で一番分からない気がする。
気付いたら趣味は他人の本性を知ること。
なんて怖い子。
けど今まで一度も本性に辿りつけたことはない。
結局他人の考えてる事なんて分からない。
ここまで来ると、満月の考えてる事も。
