あたしは昴と公園へ。
夜の公園。
静かで誰もいない。
「何?こんな時間に」
「俺も分かんないんだけどさ」
わかんないって。
「誰かに呼ばれた感じ?」
「誰かに呼ばれた感じ」
ほんの少しだけ変えて返すの好きなんだよね。
「暑いし……誰に呼ばれたか知んないけど、何であたし
まで……」
「まぁ、あいつだからすぐ来るだろ」
あいつって。
それを知りたいんだけど。
「昴!満月!」
あたしたちを呼ぶ男の子。
同じくらいの歳かな。
きっと。
「陽希」
「陽希!?」
「おっ、満月。ごめんな?いきなり呼び出して」
彼は白河 陽希。
幼馴染。
「初めていい?」
「少しでも早くそうしていただきたい」
あたしは腕を組んで言った。
「俺、聞いたんだ」
真面目な顔でそう言う陽希。
「聞いた?」
「満月と昴が中学の頃学校一の人見知りと仲良く
なったって」
あー、そういえばそんな事もあったね。
「それがどうかしたの?」
「言ってなかったんだけど、俺、弟がいて……」
「うん。はっ?」
昴も驚いてた。
「ハハッ。そりゃそうだ。遊びに来た時は隠れてたから」
陽希の言いたいことがなんとなく分かった。
「んで、その弟さんを」
「どうすればいいの?」
「さすがっ!あいつもすごい人見知りでさ。
もう一回、信じてほしいんだよ」
信じてほしい。
人を信じられないってこと?
「だから、二人ならいいかなと」
もうちょっと落ち着いて話して欲しいけど、何かあった
んだろうね。
「その弟になんかあったのか?」
「今は、落ち着いたけど」
落ち着いた。
「月曜日、陽斗に声かけてほしい」
「はっ!?」
「そんな急に大丈夫かよ……」
「あぁ。二人の事は遊びに来たとき話してたから
知ってる」
そういう問題、なのかな。
「んじゃ、ちょっと俺、帰るわ」
そう言って帰ってしまった陽希。
きっとその弟のこと、一人にできないのだろう。
「満月」
「昴」
「あたし、日曜までいていい?」
「俺もそれを言おうとした」
あたしたちは顔を合わせ、笑った。
「帰るか」
「うん」
あたしたちも家へ。
『陽斗に声かけてほしい』
白河 陽斗。
「月曜日、なんて声かける?」
「俺らもかなり前だからな。覚えてない」
「話せるようになってからなら分かるんだけど……」
きっと月曜日話しかけたところで緊張高めるだけだよね。
「まぁ、とりあえず?」
「全てを」
「受け入れるしか」
「ないんだけど……」
「満月?」
「まだ話せないでしょ。陽希、『人見知り』って言った
けど、人見知りなんてレベルなのかな」
「満月……」
「あたしが勝手に思っただけなんだけど、人見知り
じゃないと思うんだよね。陽斗くん」
「ってことは……」
「対人恐怖症ってやつ?でも何で学校……」
「心配させたくないから」
昴……
「だろうな」
「心配、か。別にいいのにね。心配も迷惑もかけて」
「さっきのお前と一緒だよ」
あたしは昴を見た。
「お前、時計確認したあとすぐ帰ろうとしたろ?
なんで?」
「そんな長くいたら、迷惑だから」
「それと同じ。これで自分を見せたら心配させるから。
そういう考え方になるんだろうな」
「いや、ちょっと分かりづらいけど」
「俺も思った。分かりづらすぎたな」
あたしたちは笑った。
自分を見せたら心配させる。
あたしにはそんな考えはない。
きっとこういう人間は心身共に健康に過ごせるん
だろうね。
あたしたちは昴の部屋へ。
「月曜日か」
「いつも以上に行きたくねぇな」
「でも彼は、もっと……」
「だろうな」
陽斗くん、何があったんだろう。
何でそうなったんだろう。
「あたしたちに、できるかな」
「満月……」
「あたしたちが前仲良くなったのは人見知りの男の子。
けど今回は……」
「お前も言ってたじゃん。
『あたしが勝手に思っただけなんだけど』って」
「そうだよね」
あたしは昴に笑顔を見せた。
そう。
あたしがただ大げさに考えすぎてるだけかもしれない。
大丈夫。
あたしたちならできる。
「行くか」
「よしっ」
大丈夫。
あたしだけじゃない。
昴もいる。
あたしは昴と手を繋いで学校に向かった。
お互いを落ち着かせる、そんな気持ちで。
こういう日は学校に着くのがさらに速く感じる。
もうあたしたちは教室の前。
まだ誰もいない。
「よしっ」
あたしたちは教室に入った。
そして席へ。
大丈夫。
後ろに昴もいる。
「陽斗、隣なんだな」
「みたい、だね」
足音が聞こえる。
一人ではなさそう。
来た。
もう……
「陽希、はよ」
「イェーイ」
いつもどおりの二人。
あたしは緊張が半端ない。
けど、あたしたちがやらないと。
あたしたちを信じて、陽希は金曜日……
「陽斗くん?」
やっぱり驚かせてしまった。
「ごめんね。あたし、青山 満月」
陽斗くんの表情が、ほんの少し柔らかくなった気がした。
「疲れたなぁ〜っ」
なんて自然な二人。
あたしはどうなってるんだろう。
「あっ、そうだ、手首とかに何かついてるの
気になる人?」
陽斗くんは首を横に振った。
「そっか」
あたしは笑ってそう言い、裁縫道具を出した。
「うわうわ、怖いよ?」
「は?昴くんたちにも作ってあげよっか?」
「くんヤメろ」
「丁寧に呼んであげてんじゃん」
あたしは前を向いた。
えっと、緑、かな。
癒やしみたいなそういう意味だった気がする。
あと、オレンジもいるかもね。
笑顔みたいな、なんか明るい感じ。
それと、白でいいか。
落ち着きって意味があった気がする。
あたしは曖昧な知識でミサンガを作っていく。
「ハハハッ」
「何」
「満月が何か作ってるとか、笑えんだけど」
「昴に言われるとか、ムカつくんだけど」
「いや、この俺でも分かるぞ?」
「はぁ?お前ら覚えとけ」
てか、陽斗くんの前でこんな話大丈夫かな。
「おっ、かんせーい」
「見た目大丈夫?」
「あたしのセンス、ナメてんべ」
「べ。んまぁそこそこ」
そこそこナメられるあたし。
「ほらっ、超かわいいでしょ」
あたしは出来上がったミサンガを見せた。
ただ三つ編みにしただけのやつ。
それくらいしかできないから。
「満月にしちゃ上手い方、かな」
「はぁ?普通に見ても上手いでしょうが」
「いや、それはない気がする」
「昴、その顔で全部どうにかなると思ったら
大間違いよ?」
「普通の女はどうにかなんだけどな」
「あたしゃ普通の女じゃないから」
「金曜日思い知らされた」
あたしは陽斗くんの手首に今編んだものを縛った。
「はい」
「ありがと……」
あたしは最高の笑顔で首を横に振った。
「何色?」
「いや、何色でもいいッス……」
「えー、迷う〜っ」
「勝手に迷っとけ」
ムカつく。
あたしは優しくなるように緑、青、白で作った。
「はい。優しくなりますようにって」
「はい。ありがとうございます」
「フンッ。陽希は?何色?」
「いや、何色でも……」
「じゃあ昴と一緒ね」
あたしは昴と同じ色の糸を切り、編んだ。
「三つ編みだけでも可愛いよね」
「よく女が髪でやってるよな。そんな女の子らしいの満月に出来るんだ」
「あたし、女」
「見えないなぁ」
「ごめんね、気にしなくていいから」
「ハハッ」
笑った。
陽斗くんが、笑った。
陽斗くんの声。
かわいい声だった。
この声でもっと話して、あの笑顔でもっと笑える日が
来ることを、願っている。
「ん、陽希くんの」
「君付け。怖ーい」
「昴くん?」
「いや、マジ怖えし」
「フンッ」
あたしは机に突っ伏した。
「あぁー、眠い」
「寝ちゃえば?」
陽斗くん……
結構早いかもね。
「陽斗は?」
「大丈夫。昨日寝たから」
かわいい声と笑顔でそう言う陽斗。
「そっかぁ。あたしも寝たんだけどさぁ」
「月曜日は特に辛いよね」
こんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだった。
しばらくこんな感じで話せばいいよね。
「陽斗……」
「ん?」
ダメだよ。
今思ってたのに。
まだ早いって。
「あれっ、忘れちゃった」
あたしは笑って言った。
「そっか」
もうなんてかわいい人なのか。
癒やし。
昴の寝顔もたまらない。
何回も見れた。
ずっと見てた。
初めて女になった。
「あっ」
「何思いついたんだよ……怖えし」
「何ビビってんだよ。大好きな満月ちゃんだろ?」
「大好きじゃねぇし、満月ちゃんじゃねぇんだよ。
ちゃんが似合わない女」
「ぶっとばす」
「本当にやりそうだから怖えよな」
「あぁ、確かに」
「はぁ?何言ってんだオメ」
「事実」
どこがよ。
昴のやつ。
あたしの事で頭いっぱいのくせに。
あたしは大丈夫だよ。
後ろに、昴がいれば。
「あぁーっ!帰りたぁい」
「んじゃ今日帰る?しばらくいたら」
「おっ、マジで?あたし大賛成!やっぱ帰りたいときは
帰るのが一番っ!」
昴はあたしを見て笑った。
あたしも小さく頷いた。
「やっぱさ、やりたい事だけやってやりたくないことは
やんないのが一番だよね」
「じゃあそんな人生送ればいいんじゃん」
さすが昴くん。
読み込み早いね。
「そうしよっかなぁ。じゃあ今から帰んないと」
「まぁ、いたくないとこにいる必要もない」
「じゃあ昼休みに帰る?」
「そんなにいるの?」
「なら今だけど。もういいでしょ。急用ができたとでも
言ってさ」
陽斗の様子が少し変。
さっきから、何か。
「陽斗?」
「えっ、あ、いや……」
「大丈夫。あたしたちがいるから」
陽斗は少し必死に笑って頷いた。
いつか、この笑顔が心から溢れたものに変わります
ように。
「来る……」
消えそうな陽斗の声。
来る。
きっと先生だ。
もう分かるんだね。
「大丈夫だよ。あたしたちがいるから」
ずっと、どんな時でも。
「うん……」
「はーい席つけー」
この声ね。
あたしも嫌い。
「大丈夫」
「ごめん……」
陽斗はそう言って冷たい手であたしの手を握った。
「いいよ」
これで、少しでも陽斗の不安が取り除けるなら。
すこしでも陽斗が落ち着くことができるなら。
なんで、なんで今まで気付いてあげられなかったん
だろう。
ずっと、一人で……
「大丈夫」
あたしは横向きに座り、陽斗の手を包み込むようにした。
ちょっとあたしの手には大きいけど。
「青山〜?」
陽斗の手がピクッと動く。
「大丈夫だよ」
あたしは小声で言った。
「はい?」
「大好きな陽斗くんとのふれあいは家で出来んだろ」
「はい?」
陽斗があたしたちに慣れていたらはぁ?とでも言っている
だろう。
「好きで好きで触っていたいのは分かるがな」
「先生独身でしょ?恋したことないでしょ?」
先生の表情の変わりように笑いそうになる。
「先生?何かありました?顔が……」
その時、後ろから椅子を軽く蹴られる。
「あ、すみません」
「ったく。今度……」
先生が言い切る前に少しわざとらしく咳払いをする昴。
「はい……」
「及川くんの言うことは聞くんだ。かっこいいから?
女の子……」
強くなってる。
「すみません。続けて?」
「続けて、ください、な?」
「分かっ……」
何回蹴るんだよ。
「失礼しました」
「失礼し過ぎなんだよ」
そう言って先生は黒板の前へ。
「満月さんスゴイね」
『満月さん』初めて言われた。
「まぁな」
「いや、バカなだけ」
「昴?」
「あっ、すみません」
「ハハッ。三人が集まると面白いね」
なんか小さい子みたい。
心が綺麗で。
素直。
だから、いつか必ずあたしたちが笑わせてあげる。
心から。
「はーい、青山ぁ〜、答えろ〜」
「またムッカつく言い方」
「あ?」
「い」
「もういいわ」
諦めた。
完全勝利っ。
こいつに負けたことは一度もない。
どんな勝負かわかんないけど。
「休み時間、いい?」
陽斗。
あたしはすごく嬉しかった。
「もっちろん」
「お前ら、ラブってねぇでノート書け」
ラブってる。
「はいはい。つーかあたしから始めたんだけど。おーい」
本当にムカつくやつ。
「はい。終わり」
軽く苛ついてるし。
こっちは陽斗の癒やしが無かったらキレてるし。
「ごめんね?いい?」
「あっ、うん」
あたしは陽斗と屋上へ。
「どうしたの?」
「なんで話しかけてくれたの?いや、嬉しかったよ?」
陽希、ごめんね。
「陽希が教えてくれたの。陽斗が辛い思いしてるって」
「はるき……よかったのに……」
「いいの。心配させたって、迷惑かけたって」
「満月さん……」
あたしは少しずつ陽斗に近づいた。
大丈夫、かな。
「満月さん?」
あたしはそっと陽斗を抱きしめた。
「いいんだよ。心配させて。陽希のこと、信じてる
でしょ?」
「うん……」
「ならいいんだよ。本当の陽斗で。本当の陽斗を見せて」
「満月さん……」
「いいよ。泣いて」
「えっ、でも、俺……」
「いいから。泣きたい時は泣いて?
泣きたい時は、思い切り泣くの。
笑うのは明日でも、明後日でも遅くない」
「みづ……き……」
大丈夫。
あたしはどんな陽斗も受け入れてみせるから。
「しんじてもいい…?」
「いいよ」
「みづき……」
『さん』取れたね。
「はると」
あたしは優しく、ゆっくり陽斗の背中を叩いた。
「優しいんだね」
あの人も言った。
『優しいんだね』『そんなに優しい人、初めて』と。
あたしはその言葉にこう言った。
「あたしは優しくないよ。
大切にしたい人を大切にしてるだけ」と。
「やっぱり優しいじゃん」
「陽斗がそう言ってくれるなら、そうかもね」
「満月」
「ん?」
「及川さんが許してくれたら、そばにいて」
「昴?なんで?」
「付き合ってるんでしょ?」
おっと。
これは初めてだね。
「あたしが昴と?付き合ってないよ?ただの幼馴染」
「そっか。じゃあ、今日うち来て」
わーお。
こんなに早いとは。
「いいの?」
「満月なら、大丈夫。今まで何回も来てくれてた
でしょ?」
「毎週のように」
「だから俺ずっと寝室にいた」
「そっか。ごめんね?」
「ほんとだよ」
来たな?
本気出してきやがった。
いつか、本気でいろいろ言いたいね。
「ありがとね。もう大丈夫」
眩しくてよく見えないけど、きっと笑ってる。
「行こっか」
「おぅ」
「おっ、関係の変わった二人が」
「はぁ?」
「付き合ったんじゃねぇの?」
「バァカ。陽斗にゃもっとかわいい子がお似合いよ」
あたしはそう言って席についた。
「俺はいいんだけどなぁ」
「ほーん。片思い」
「みたいね」
「うわっ、すっげぇ女」
えっ?
なんだかおかしな事になってるよ?
「は?」
「陽斗はいいって。聞いとけよ」
「あらっ、失礼」
陽斗、か。
あたしにはもったいないよ。
「やっぱ満月は昴か」
「昴のこと男として見てねぇから」
「どう見てんの?」
なんだろう。
昴……
いない生活は考えられない。
いて、当たり前な存在になってる。
空気、みたいな感じなのかな。
「なんっとも思ってねぇんだな」
「そうねっ」
本当に、何とも思ってない。
でも、いないのはあり得ない。
今も後ろの席には昴がいる。
「ねぇ昴」
「ん?」
「あたしたちって、何?」
「は?」
だよね。
そうなるよね。
「昴にとって、あたしは何?」
「なぁんだろ」
「って、聞いてなかったの?」
「何が?」
「何でもない」
あたしは前を向いた。
あたしたちって、何なんだろう。
友達、ほど遠くないし恋人ほど近くない。
家族、みたいな?
いや、それはそれでだいぶ違う。
何だろう。
友達は陽希みたいな。
恋人は、体験したことない。
大切な人は、陽斗。
家族は、分かるし。
昴は?
昴は何?
恋人、じゃないもんね。
でも、一番必要な存在。
そのうち、分かるよね。
その日まで、このままでいいよね。
昴への思いも分からない。
好きと言えば好き。
でも、好きというより大切、なのかな。
陽斗とは、少し違うような。
親友。
親友ってやつかな。
でも、親友もとりあえず友達でしょ?
会いたく、なるかな。
今すぐ話したい、とか今すぐ会いたい。って思う時が
ある。
あたしは昴を好きなのかな。
片思い、これがそれなのかな。
昴はきっとあたしのこと何とも思ってない。
えっ、これがあたしの初恋?
高校生になって、やっと。
夜の公園。
静かで誰もいない。
「何?こんな時間に」
「俺も分かんないんだけどさ」
わかんないって。
「誰かに呼ばれた感じ?」
「誰かに呼ばれた感じ」
ほんの少しだけ変えて返すの好きなんだよね。
「暑いし……誰に呼ばれたか知んないけど、何であたし
まで……」
「まぁ、あいつだからすぐ来るだろ」
あいつって。
それを知りたいんだけど。
「昴!満月!」
あたしたちを呼ぶ男の子。
同じくらいの歳かな。
きっと。
「陽希」
「陽希!?」
「おっ、満月。ごめんな?いきなり呼び出して」
彼は白河 陽希。
幼馴染。
「初めていい?」
「少しでも早くそうしていただきたい」
あたしは腕を組んで言った。
「俺、聞いたんだ」
真面目な顔でそう言う陽希。
「聞いた?」
「満月と昴が中学の頃学校一の人見知りと仲良く
なったって」
あー、そういえばそんな事もあったね。
「それがどうかしたの?」
「言ってなかったんだけど、俺、弟がいて……」
「うん。はっ?」
昴も驚いてた。
「ハハッ。そりゃそうだ。遊びに来た時は隠れてたから」
陽希の言いたいことがなんとなく分かった。
「んで、その弟さんを」
「どうすればいいの?」
「さすがっ!あいつもすごい人見知りでさ。
もう一回、信じてほしいんだよ」
信じてほしい。
人を信じられないってこと?
「だから、二人ならいいかなと」
もうちょっと落ち着いて話して欲しいけど、何かあった
んだろうね。
「その弟になんかあったのか?」
「今は、落ち着いたけど」
落ち着いた。
「月曜日、陽斗に声かけてほしい」
「はっ!?」
「そんな急に大丈夫かよ……」
「あぁ。二人の事は遊びに来たとき話してたから
知ってる」
そういう問題、なのかな。
「んじゃ、ちょっと俺、帰るわ」
そう言って帰ってしまった陽希。
きっとその弟のこと、一人にできないのだろう。
「満月」
「昴」
「あたし、日曜までいていい?」
「俺もそれを言おうとした」
あたしたちは顔を合わせ、笑った。
「帰るか」
「うん」
あたしたちも家へ。
『陽斗に声かけてほしい』
白河 陽斗。
「月曜日、なんて声かける?」
「俺らもかなり前だからな。覚えてない」
「話せるようになってからなら分かるんだけど……」
きっと月曜日話しかけたところで緊張高めるだけだよね。
「まぁ、とりあえず?」
「全てを」
「受け入れるしか」
「ないんだけど……」
「満月?」
「まだ話せないでしょ。陽希、『人見知り』って言った
けど、人見知りなんてレベルなのかな」
「満月……」
「あたしが勝手に思っただけなんだけど、人見知り
じゃないと思うんだよね。陽斗くん」
「ってことは……」
「対人恐怖症ってやつ?でも何で学校……」
「心配させたくないから」
昴……
「だろうな」
「心配、か。別にいいのにね。心配も迷惑もかけて」
「さっきのお前と一緒だよ」
あたしは昴を見た。
「お前、時計確認したあとすぐ帰ろうとしたろ?
なんで?」
「そんな長くいたら、迷惑だから」
「それと同じ。これで自分を見せたら心配させるから。
そういう考え方になるんだろうな」
「いや、ちょっと分かりづらいけど」
「俺も思った。分かりづらすぎたな」
あたしたちは笑った。
自分を見せたら心配させる。
あたしにはそんな考えはない。
きっとこういう人間は心身共に健康に過ごせるん
だろうね。
あたしたちは昴の部屋へ。
「月曜日か」
「いつも以上に行きたくねぇな」
「でも彼は、もっと……」
「だろうな」
陽斗くん、何があったんだろう。
何でそうなったんだろう。
「あたしたちに、できるかな」
「満月……」
「あたしたちが前仲良くなったのは人見知りの男の子。
けど今回は……」
「お前も言ってたじゃん。
『あたしが勝手に思っただけなんだけど』って」
「そうだよね」
あたしは昴に笑顔を見せた。
そう。
あたしがただ大げさに考えすぎてるだけかもしれない。
大丈夫。
あたしたちならできる。
「行くか」
「よしっ」
大丈夫。
あたしだけじゃない。
昴もいる。
あたしは昴と手を繋いで学校に向かった。
お互いを落ち着かせる、そんな気持ちで。
こういう日は学校に着くのがさらに速く感じる。
もうあたしたちは教室の前。
まだ誰もいない。
「よしっ」
あたしたちは教室に入った。
そして席へ。
大丈夫。
後ろに昴もいる。
「陽斗、隣なんだな」
「みたい、だね」
足音が聞こえる。
一人ではなさそう。
来た。
もう……
「陽希、はよ」
「イェーイ」
いつもどおりの二人。
あたしは緊張が半端ない。
けど、あたしたちがやらないと。
あたしたちを信じて、陽希は金曜日……
「陽斗くん?」
やっぱり驚かせてしまった。
「ごめんね。あたし、青山 満月」
陽斗くんの表情が、ほんの少し柔らかくなった気がした。
「疲れたなぁ〜っ」
なんて自然な二人。
あたしはどうなってるんだろう。
「あっ、そうだ、手首とかに何かついてるの
気になる人?」
陽斗くんは首を横に振った。
「そっか」
あたしは笑ってそう言い、裁縫道具を出した。
「うわうわ、怖いよ?」
「は?昴くんたちにも作ってあげよっか?」
「くんヤメろ」
「丁寧に呼んであげてんじゃん」
あたしは前を向いた。
えっと、緑、かな。
癒やしみたいなそういう意味だった気がする。
あと、オレンジもいるかもね。
笑顔みたいな、なんか明るい感じ。
それと、白でいいか。
落ち着きって意味があった気がする。
あたしは曖昧な知識でミサンガを作っていく。
「ハハハッ」
「何」
「満月が何か作ってるとか、笑えんだけど」
「昴に言われるとか、ムカつくんだけど」
「いや、この俺でも分かるぞ?」
「はぁ?お前ら覚えとけ」
てか、陽斗くんの前でこんな話大丈夫かな。
「おっ、かんせーい」
「見た目大丈夫?」
「あたしのセンス、ナメてんべ」
「べ。んまぁそこそこ」
そこそこナメられるあたし。
「ほらっ、超かわいいでしょ」
あたしは出来上がったミサンガを見せた。
ただ三つ編みにしただけのやつ。
それくらいしかできないから。
「満月にしちゃ上手い方、かな」
「はぁ?普通に見ても上手いでしょうが」
「いや、それはない気がする」
「昴、その顔で全部どうにかなると思ったら
大間違いよ?」
「普通の女はどうにかなんだけどな」
「あたしゃ普通の女じゃないから」
「金曜日思い知らされた」
あたしは陽斗くんの手首に今編んだものを縛った。
「はい」
「ありがと……」
あたしは最高の笑顔で首を横に振った。
「何色?」
「いや、何色でもいいッス……」
「えー、迷う〜っ」
「勝手に迷っとけ」
ムカつく。
あたしは優しくなるように緑、青、白で作った。
「はい。優しくなりますようにって」
「はい。ありがとうございます」
「フンッ。陽希は?何色?」
「いや、何色でも……」
「じゃあ昴と一緒ね」
あたしは昴と同じ色の糸を切り、編んだ。
「三つ編みだけでも可愛いよね」
「よく女が髪でやってるよな。そんな女の子らしいの満月に出来るんだ」
「あたし、女」
「見えないなぁ」
「ごめんね、気にしなくていいから」
「ハハッ」
笑った。
陽斗くんが、笑った。
陽斗くんの声。
かわいい声だった。
この声でもっと話して、あの笑顔でもっと笑える日が
来ることを、願っている。
「ん、陽希くんの」
「君付け。怖ーい」
「昴くん?」
「いや、マジ怖えし」
「フンッ」
あたしは机に突っ伏した。
「あぁー、眠い」
「寝ちゃえば?」
陽斗くん……
結構早いかもね。
「陽斗は?」
「大丈夫。昨日寝たから」
かわいい声と笑顔でそう言う陽斗。
「そっかぁ。あたしも寝たんだけどさぁ」
「月曜日は特に辛いよね」
こんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだった。
しばらくこんな感じで話せばいいよね。
「陽斗……」
「ん?」
ダメだよ。
今思ってたのに。
まだ早いって。
「あれっ、忘れちゃった」
あたしは笑って言った。
「そっか」
もうなんてかわいい人なのか。
癒やし。
昴の寝顔もたまらない。
何回も見れた。
ずっと見てた。
初めて女になった。
「あっ」
「何思いついたんだよ……怖えし」
「何ビビってんだよ。大好きな満月ちゃんだろ?」
「大好きじゃねぇし、満月ちゃんじゃねぇんだよ。
ちゃんが似合わない女」
「ぶっとばす」
「本当にやりそうだから怖えよな」
「あぁ、確かに」
「はぁ?何言ってんだオメ」
「事実」
どこがよ。
昴のやつ。
あたしの事で頭いっぱいのくせに。
あたしは大丈夫だよ。
後ろに、昴がいれば。
「あぁーっ!帰りたぁい」
「んじゃ今日帰る?しばらくいたら」
「おっ、マジで?あたし大賛成!やっぱ帰りたいときは
帰るのが一番っ!」
昴はあたしを見て笑った。
あたしも小さく頷いた。
「やっぱさ、やりたい事だけやってやりたくないことは
やんないのが一番だよね」
「じゃあそんな人生送ればいいんじゃん」
さすが昴くん。
読み込み早いね。
「そうしよっかなぁ。じゃあ今から帰んないと」
「まぁ、いたくないとこにいる必要もない」
「じゃあ昼休みに帰る?」
「そんなにいるの?」
「なら今だけど。もういいでしょ。急用ができたとでも
言ってさ」
陽斗の様子が少し変。
さっきから、何か。
「陽斗?」
「えっ、あ、いや……」
「大丈夫。あたしたちがいるから」
陽斗は少し必死に笑って頷いた。
いつか、この笑顔が心から溢れたものに変わります
ように。
「来る……」
消えそうな陽斗の声。
来る。
きっと先生だ。
もう分かるんだね。
「大丈夫だよ。あたしたちがいるから」
ずっと、どんな時でも。
「うん……」
「はーい席つけー」
この声ね。
あたしも嫌い。
「大丈夫」
「ごめん……」
陽斗はそう言って冷たい手であたしの手を握った。
「いいよ」
これで、少しでも陽斗の不安が取り除けるなら。
すこしでも陽斗が落ち着くことができるなら。
なんで、なんで今まで気付いてあげられなかったん
だろう。
ずっと、一人で……
「大丈夫」
あたしは横向きに座り、陽斗の手を包み込むようにした。
ちょっとあたしの手には大きいけど。
「青山〜?」
陽斗の手がピクッと動く。
「大丈夫だよ」
あたしは小声で言った。
「はい?」
「大好きな陽斗くんとのふれあいは家で出来んだろ」
「はい?」
陽斗があたしたちに慣れていたらはぁ?とでも言っている
だろう。
「好きで好きで触っていたいのは分かるがな」
「先生独身でしょ?恋したことないでしょ?」
先生の表情の変わりように笑いそうになる。
「先生?何かありました?顔が……」
その時、後ろから椅子を軽く蹴られる。
「あ、すみません」
「ったく。今度……」
先生が言い切る前に少しわざとらしく咳払いをする昴。
「はい……」
「及川くんの言うことは聞くんだ。かっこいいから?
女の子……」
強くなってる。
「すみません。続けて?」
「続けて、ください、な?」
「分かっ……」
何回蹴るんだよ。
「失礼しました」
「失礼し過ぎなんだよ」
そう言って先生は黒板の前へ。
「満月さんスゴイね」
『満月さん』初めて言われた。
「まぁな」
「いや、バカなだけ」
「昴?」
「あっ、すみません」
「ハハッ。三人が集まると面白いね」
なんか小さい子みたい。
心が綺麗で。
素直。
だから、いつか必ずあたしたちが笑わせてあげる。
心から。
「はーい、青山ぁ〜、答えろ〜」
「またムッカつく言い方」
「あ?」
「い」
「もういいわ」
諦めた。
完全勝利っ。
こいつに負けたことは一度もない。
どんな勝負かわかんないけど。
「休み時間、いい?」
陽斗。
あたしはすごく嬉しかった。
「もっちろん」
「お前ら、ラブってねぇでノート書け」
ラブってる。
「はいはい。つーかあたしから始めたんだけど。おーい」
本当にムカつくやつ。
「はい。終わり」
軽く苛ついてるし。
こっちは陽斗の癒やしが無かったらキレてるし。
「ごめんね?いい?」
「あっ、うん」
あたしは陽斗と屋上へ。
「どうしたの?」
「なんで話しかけてくれたの?いや、嬉しかったよ?」
陽希、ごめんね。
「陽希が教えてくれたの。陽斗が辛い思いしてるって」
「はるき……よかったのに……」
「いいの。心配させたって、迷惑かけたって」
「満月さん……」
あたしは少しずつ陽斗に近づいた。
大丈夫、かな。
「満月さん?」
あたしはそっと陽斗を抱きしめた。
「いいんだよ。心配させて。陽希のこと、信じてる
でしょ?」
「うん……」
「ならいいんだよ。本当の陽斗で。本当の陽斗を見せて」
「満月さん……」
「いいよ。泣いて」
「えっ、でも、俺……」
「いいから。泣きたい時は泣いて?
泣きたい時は、思い切り泣くの。
笑うのは明日でも、明後日でも遅くない」
「みづ……き……」
大丈夫。
あたしはどんな陽斗も受け入れてみせるから。
「しんじてもいい…?」
「いいよ」
「みづき……」
『さん』取れたね。
「はると」
あたしは優しく、ゆっくり陽斗の背中を叩いた。
「優しいんだね」
あの人も言った。
『優しいんだね』『そんなに優しい人、初めて』と。
あたしはその言葉にこう言った。
「あたしは優しくないよ。
大切にしたい人を大切にしてるだけ」と。
「やっぱり優しいじゃん」
「陽斗がそう言ってくれるなら、そうかもね」
「満月」
「ん?」
「及川さんが許してくれたら、そばにいて」
「昴?なんで?」
「付き合ってるんでしょ?」
おっと。
これは初めてだね。
「あたしが昴と?付き合ってないよ?ただの幼馴染」
「そっか。じゃあ、今日うち来て」
わーお。
こんなに早いとは。
「いいの?」
「満月なら、大丈夫。今まで何回も来てくれてた
でしょ?」
「毎週のように」
「だから俺ずっと寝室にいた」
「そっか。ごめんね?」
「ほんとだよ」
来たな?
本気出してきやがった。
いつか、本気でいろいろ言いたいね。
「ありがとね。もう大丈夫」
眩しくてよく見えないけど、きっと笑ってる。
「行こっか」
「おぅ」
「おっ、関係の変わった二人が」
「はぁ?」
「付き合ったんじゃねぇの?」
「バァカ。陽斗にゃもっとかわいい子がお似合いよ」
あたしはそう言って席についた。
「俺はいいんだけどなぁ」
「ほーん。片思い」
「みたいね」
「うわっ、すっげぇ女」
えっ?
なんだかおかしな事になってるよ?
「は?」
「陽斗はいいって。聞いとけよ」
「あらっ、失礼」
陽斗、か。
あたしにはもったいないよ。
「やっぱ満月は昴か」
「昴のこと男として見てねぇから」
「どう見てんの?」
なんだろう。
昴……
いない生活は考えられない。
いて、当たり前な存在になってる。
空気、みたいな感じなのかな。
「なんっとも思ってねぇんだな」
「そうねっ」
本当に、何とも思ってない。
でも、いないのはあり得ない。
今も後ろの席には昴がいる。
「ねぇ昴」
「ん?」
「あたしたちって、何?」
「は?」
だよね。
そうなるよね。
「昴にとって、あたしは何?」
「なぁんだろ」
「って、聞いてなかったの?」
「何が?」
「何でもない」
あたしは前を向いた。
あたしたちって、何なんだろう。
友達、ほど遠くないし恋人ほど近くない。
家族、みたいな?
いや、それはそれでだいぶ違う。
何だろう。
友達は陽希みたいな。
恋人は、体験したことない。
大切な人は、陽斗。
家族は、分かるし。
昴は?
昴は何?
恋人、じゃないもんね。
でも、一番必要な存在。
そのうち、分かるよね。
その日まで、このままでいいよね。
昴への思いも分からない。
好きと言えば好き。
でも、好きというより大切、なのかな。
陽斗とは、少し違うような。
親友。
親友ってやつかな。
でも、親友もとりあえず友達でしょ?
会いたく、なるかな。
今すぐ話したい、とか今すぐ会いたい。って思う時が
ある。
あたしは昴を好きなのかな。
片思い、これがそれなのかな。
昴はきっとあたしのこと何とも思ってない。
えっ、これがあたしの初恋?
高校生になって、やっと。
