『満月、父さんってどんな人?』
『俺、あの人わかんない』
あたしも分からないよ。
嫌なときは本当に嫌な人。
機嫌いい時は明るくて面白い人。
機嫌で変わるの。
そういう人。
そういう人はほっとくのが一番。
気にしないの。
大丈夫。
夏月には、あたしがいる。
あたしを信じて、なんて難しいこと言わない。
ただ、夏月にはあたしがいることを忘れないで。
あたしは隣の夏月を見た。
見えないけど。
まだ寝てはいないね。
あたしはもう寝たと思われてるみたいだけど。
『あたし、青山家みんな信じてなかった』
本当だよ。
お父さんだけじゃないくて、お母さんも……
結局家族も自分ではない。
結局他人。
考えてる事や思ってる事なんて分からない。
結局身方なんて自分で探すしかない。
自分で見極めるしか。
けど夏月、何で……
病院に来た時は機嫌が悪かったわけじゃない。
嘘……
聞いちゃったのかな。
あたしたちが、二人で話してるの。
だってあの時間は、もう夏月……
もしそうなら……夏月、ごめん……
そう思うと泣きそうになってきた。
あたしがあんなこと話してたから……
あたしは起き上がった。
「みづき」
あたしは夏月を見た。
姿は、やっぱりなんとなくしか見えないけど。
「どうした?」
夏月がゆっくり、優しく訊く。
「ううん。何でもないよ」
こんなんでどこがよ。
「俺は大丈夫だよ?」
夏月……
ごめん……
「みづき?」
「なつき……」
夏月……
あたしがあんなこと話してたから、家族このとも……
「なつき……ごめん……」
「どうしたの?俺は大丈夫だよ?」
夏月も起き上がる。
「ごめんね。俺があんなこと言ったから」
あたしは首を振った。
「俺のことは気にしないで?」
そんなことできるわけないでしょ?
「みづき、大丈夫だよ?」
あたしは何度も頷いた。
「なつき、きいちゃった?」
「聞いた?」
違うのかな。
それならいいんだけど……
「ごめん……なんでもないよ…」
「そっか」
そう。
夏月は知らない方がいい。
あんな、お父さん。
お母さんも。
だからあたしはもう、誰のことも好きになりたくない。
好きになっても、絶対言いたくない。
あの、二人には。
「満月」
夏月がいつもの声で言う。
「ん?」
「何か知ってる?」
何か……
「本当の、あの二人」
お父さんとお母さんか。
「何も知らないよ?」
何も。
何もなかったの。
あたしは何も知らない。
「どういう人なの?母さんはいいけど、父さんはすごい
気になる……」
あたしはいつもよりかなり早く落ち着いた。
「夏月は、知らない方がいい」
「満月は知ってるんでしょ?なら教えてよ……」
『母さんはいいけど』
お母さんのことは嫌いになりたくないんだ。
そうだよね。
「いいの?もう、もうあの人のこと、信じられない
かもよ?」
「いいよ。別に」
「あのね……」
やっぱり、夏月は知らなくていいこと。
知らない方がいいこと。
「ん?」
「あのっ……いや、あの……」
どうしよう。
夏月の準備はできてる。
でも……あたしが……
「満月が言いたくないならいいよ。ごめんね?」
夏月……
「夏月は」
「ん?」
「夏月は、知りたいの?あの人たちが、どんな人か……」
「満月は知ってるんでしょ?なら俺もってくらい」
なら……知らない方が……
「そうすれば」
「え?」
「そうすれば、満月の負担、減るから」
夏月は何を考えてるの?
何でそんなにあたしのことを考えるてるの?
「結局後で言う気でしょ?」
夏月……
「なら、もう言っちゃったほうがお互い楽じゃない?」
お互い……
「俺はあいつがどんなやつかある程度覚悟してる。
前からちょっと変だと思ってたし……あの時も……」
「あの時?」
「満月と母さんがいなかった時、満月が電話くれた
でしょ」
家の電話に。
彼の様子を知るために。
「あの時、怖かった」
怖かった。
「あと風呂から戻ったら、部屋……何か違う気がした……」
何かが違う……
「電話の時は?何があったの?」
「部屋の前にいた」
部屋の前……
聞いてたの?
「で、部屋に戻ったら何かが違ったっていうのは?」
「それはよく分からないけど、何か……」
夏月……
「だから、ただそういう人なのか、本当に気をつけた方がいい人なのか、知りたい」
「そっか……」
「教えて……くれない?」
「分かった」
それを、夏月が望んでるなら。
「あのね……」
あれはあたしが男の子の友達を家に呼んだときのこと。
部屋のドアをノックする音。
『何?』
あたしは部屋のドアを開けた。
そこにいたのは、お父さんだった。
『あっ、男の子……』
『友達。何?』
『いや、何でもない……』
その時はそう言ってどこかへ。
きっとリビングだろう。
そして友達が帰ってから。
夜中、喉が渇きあたしはリビングへ。
『満月』
そこそこ機嫌の悪い声で呼ぶお父さん。
『何』
あたしは昼間より強気で答えた。
もう、あの子たちもいないから。
喧嘩でも何でもする気だった。
『誰だ』
『昼間も言ったでしょ。友達』
『名前は』
『何でそこまで教えなきゃいけないの』
『言えないのか』
『そういうわけじゃないけど』
『なら言いなさい』
『嫌』
『何でだ』
『別にいいでしょ?あたしがどんな子と仲よくしても』
あたしはキッチンへ。
『親として知っておきたい』
あたしは何も答えずに冷蔵庫から水を出した。
『満月』
『何よ』
『どんな子だ』
『優しい子』
『どこに住んでる』
あたしはこの時、ヤバイ人だと思った。
『知らない』
『そんな子と仲よくしてるのか』
『別に家知らなくても仲いい子はいっぱいいる。
あの子だけじゃない』
『満月』
『だから何?あたしはここにいる』
それからお父さんとはこんな会話が数十分も続いた。
そしてまた別の日。
今度は彼だけじゃなくて他の友達も来た。
『〇〇って満月のこと好きなんでしょ?』
『ちげぇよ〜っ』
ただ冗談でした会話。
けどお父さんは本気にした。
もちろんその日も彼らが帰ったあと話が。
『〇〇って子に好かれてんのか』
『だったら何?』
『本気なのか』
『違うでしょ?』
『分かんないのか』
『分かんないわよ。ってか、あれはただの噂』
『その噂になってる子は何て子だ』
『何でそんなに名前を知りたがるの?』
『親だから』
お父さんはいつもそうだった。
あたしが理由を訊けば親だから。
『何?親ってそんなに子供の事知ってるもの?』
『知っていたいんだよ』
心配で、というような言い方ではなかった。
『あたしはなんて、何度きかれても答えない』
『いいだろ?親なんだよ』
『親だから何?そんなに知りたいの?何で?』
親だから。
そう帰ってくることは分かってた。
けど、やっぱり訊いてしまう。
『なぁ、親は子供が心配なんだよ』
お父さんはあたしの両肩を掴み、前後に揺さぶった。
『でもっ!』
あたしが叫ぶように言うと離してくれた。
『お父さんは違うでしょ?』
『満月?』
『ただ知りたいだけ。心配なわけじゃない』
『違う……』
『何が?ただあたしと関係ある人のことを知りたいだけ
でしょ?』
『これは……』
お父さんがその後言った言葉に気を失いそうになった。
『母さんが言ったから』
お母さん。
後で訊くとあたしの、お母さんらしい。
『お母さん?』
『あぁ……』
『何でお母さんは自分で聞かないの?』
お父さんは何も言わなかった。
『二人は何を考えてるの?』
『俺にはあの人しかいないんだよ』
あの人。
お母さんだろう。
『はぁ?』
『俺はあの人に助けられた』
そんなの知らない。
だからってあたしのこと探るの?
『頼む。母さんのためだ』
『お母さんはあたしの何を知りたいの?』
『どんな人と関わってるか、らしい』
この二人はおかしい。
あたしがどんな人と関わろうと自由。
どんな子と仲よくしようと。
『いつ、何で助けられたかしたらないけど、何でそんなに必死になるの?なんでそんなにそばにいてほしいの?』
『俺には、あいつしかいないんだ』
もう、これしか返ってこなかった。
この人、狂ってる。
あたしは怖くて部屋に逃げた。
逃げ場のない、自分の部屋に。
あたしはこんなことが何度かあったことを夏月に説明
した。
夏月は笑っていた。
「ならなんか納得だな」
「え?」
「電話の時、部屋の前にいたのも、本当かは分かんない
けど、部屋に入ったのも……」
「気にしなくていいよ。あの人は、狂ってるの」
お母さんに。
「なんか英語ダメでも分かるな」
「え?」
「CrazyとDangerousはあいつにぴったりな言葉だって」
「え?Crazyって何だっけ?」
「狂ってるとか、夢中って感じ。
Dangerousは危険とか危ないって意味だったかと。
人にも使えるか分かんねえけどな」
「他に何かある?」
「分かんない」
「はいっ。英語のお勉強してからですね」
「ですね」
あたしたちは横になった。
狂った危険な親ね。
そんな人の子供のあたしたちは大丈夫だろうか。
本当の自分が顔を出した時が怖い。
どうしよ。
あの人そっくりだったら。
あれっ、そういえばあたし小学生より英語分かって
ないの?
本気でお勉強だね。
お勉強。
本当、勉強に夢中になれならいいのにな。
今は、昴に……
『俺、あの人わかんない』
あたしも分からないよ。
嫌なときは本当に嫌な人。
機嫌いい時は明るくて面白い人。
機嫌で変わるの。
そういう人。
そういう人はほっとくのが一番。
気にしないの。
大丈夫。
夏月には、あたしがいる。
あたしを信じて、なんて難しいこと言わない。
ただ、夏月にはあたしがいることを忘れないで。
あたしは隣の夏月を見た。
見えないけど。
まだ寝てはいないね。
あたしはもう寝たと思われてるみたいだけど。
『あたし、青山家みんな信じてなかった』
本当だよ。
お父さんだけじゃないくて、お母さんも……
結局家族も自分ではない。
結局他人。
考えてる事や思ってる事なんて分からない。
結局身方なんて自分で探すしかない。
自分で見極めるしか。
けど夏月、何で……
病院に来た時は機嫌が悪かったわけじゃない。
嘘……
聞いちゃったのかな。
あたしたちが、二人で話してるの。
だってあの時間は、もう夏月……
もしそうなら……夏月、ごめん……
そう思うと泣きそうになってきた。
あたしがあんなこと話してたから……
あたしは起き上がった。
「みづき」
あたしは夏月を見た。
姿は、やっぱりなんとなくしか見えないけど。
「どうした?」
夏月がゆっくり、優しく訊く。
「ううん。何でもないよ」
こんなんでどこがよ。
「俺は大丈夫だよ?」
夏月……
ごめん……
「みづき?」
「なつき……」
夏月……
あたしがあんなこと話してたから、家族このとも……
「なつき……ごめん……」
「どうしたの?俺は大丈夫だよ?」
夏月も起き上がる。
「ごめんね。俺があんなこと言ったから」
あたしは首を振った。
「俺のことは気にしないで?」
そんなことできるわけないでしょ?
「みづき、大丈夫だよ?」
あたしは何度も頷いた。
「なつき、きいちゃった?」
「聞いた?」
違うのかな。
それならいいんだけど……
「ごめん……なんでもないよ…」
「そっか」
そう。
夏月は知らない方がいい。
あんな、お父さん。
お母さんも。
だからあたしはもう、誰のことも好きになりたくない。
好きになっても、絶対言いたくない。
あの、二人には。
「満月」
夏月がいつもの声で言う。
「ん?」
「何か知ってる?」
何か……
「本当の、あの二人」
お父さんとお母さんか。
「何も知らないよ?」
何も。
何もなかったの。
あたしは何も知らない。
「どういう人なの?母さんはいいけど、父さんはすごい
気になる……」
あたしはいつもよりかなり早く落ち着いた。
「夏月は、知らない方がいい」
「満月は知ってるんでしょ?なら教えてよ……」
『母さんはいいけど』
お母さんのことは嫌いになりたくないんだ。
そうだよね。
「いいの?もう、もうあの人のこと、信じられない
かもよ?」
「いいよ。別に」
「あのね……」
やっぱり、夏月は知らなくていいこと。
知らない方がいいこと。
「ん?」
「あのっ……いや、あの……」
どうしよう。
夏月の準備はできてる。
でも……あたしが……
「満月が言いたくないならいいよ。ごめんね?」
夏月……
「夏月は」
「ん?」
「夏月は、知りたいの?あの人たちが、どんな人か……」
「満月は知ってるんでしょ?なら俺もってくらい」
なら……知らない方が……
「そうすれば」
「え?」
「そうすれば、満月の負担、減るから」
夏月は何を考えてるの?
何でそんなにあたしのことを考えるてるの?
「結局後で言う気でしょ?」
夏月……
「なら、もう言っちゃったほうがお互い楽じゃない?」
お互い……
「俺はあいつがどんなやつかある程度覚悟してる。
前からちょっと変だと思ってたし……あの時も……」
「あの時?」
「満月と母さんがいなかった時、満月が電話くれた
でしょ」
家の電話に。
彼の様子を知るために。
「あの時、怖かった」
怖かった。
「あと風呂から戻ったら、部屋……何か違う気がした……」
何かが違う……
「電話の時は?何があったの?」
「部屋の前にいた」
部屋の前……
聞いてたの?
「で、部屋に戻ったら何かが違ったっていうのは?」
「それはよく分からないけど、何か……」
夏月……
「だから、ただそういう人なのか、本当に気をつけた方がいい人なのか、知りたい」
「そっか……」
「教えて……くれない?」
「分かった」
それを、夏月が望んでるなら。
「あのね……」
あれはあたしが男の子の友達を家に呼んだときのこと。
部屋のドアをノックする音。
『何?』
あたしは部屋のドアを開けた。
そこにいたのは、お父さんだった。
『あっ、男の子……』
『友達。何?』
『いや、何でもない……』
その時はそう言ってどこかへ。
きっとリビングだろう。
そして友達が帰ってから。
夜中、喉が渇きあたしはリビングへ。
『満月』
そこそこ機嫌の悪い声で呼ぶお父さん。
『何』
あたしは昼間より強気で答えた。
もう、あの子たちもいないから。
喧嘩でも何でもする気だった。
『誰だ』
『昼間も言ったでしょ。友達』
『名前は』
『何でそこまで教えなきゃいけないの』
『言えないのか』
『そういうわけじゃないけど』
『なら言いなさい』
『嫌』
『何でだ』
『別にいいでしょ?あたしがどんな子と仲よくしても』
あたしはキッチンへ。
『親として知っておきたい』
あたしは何も答えずに冷蔵庫から水を出した。
『満月』
『何よ』
『どんな子だ』
『優しい子』
『どこに住んでる』
あたしはこの時、ヤバイ人だと思った。
『知らない』
『そんな子と仲よくしてるのか』
『別に家知らなくても仲いい子はいっぱいいる。
あの子だけじゃない』
『満月』
『だから何?あたしはここにいる』
それからお父さんとはこんな会話が数十分も続いた。
そしてまた別の日。
今度は彼だけじゃなくて他の友達も来た。
『〇〇って満月のこと好きなんでしょ?』
『ちげぇよ〜っ』
ただ冗談でした会話。
けどお父さんは本気にした。
もちろんその日も彼らが帰ったあと話が。
『〇〇って子に好かれてんのか』
『だったら何?』
『本気なのか』
『違うでしょ?』
『分かんないのか』
『分かんないわよ。ってか、あれはただの噂』
『その噂になってる子は何て子だ』
『何でそんなに名前を知りたがるの?』
『親だから』
お父さんはいつもそうだった。
あたしが理由を訊けば親だから。
『何?親ってそんなに子供の事知ってるもの?』
『知っていたいんだよ』
心配で、というような言い方ではなかった。
『あたしはなんて、何度きかれても答えない』
『いいだろ?親なんだよ』
『親だから何?そんなに知りたいの?何で?』
親だから。
そう帰ってくることは分かってた。
けど、やっぱり訊いてしまう。
『なぁ、親は子供が心配なんだよ』
お父さんはあたしの両肩を掴み、前後に揺さぶった。
『でもっ!』
あたしが叫ぶように言うと離してくれた。
『お父さんは違うでしょ?』
『満月?』
『ただ知りたいだけ。心配なわけじゃない』
『違う……』
『何が?ただあたしと関係ある人のことを知りたいだけ
でしょ?』
『これは……』
お父さんがその後言った言葉に気を失いそうになった。
『母さんが言ったから』
お母さん。
後で訊くとあたしの、お母さんらしい。
『お母さん?』
『あぁ……』
『何でお母さんは自分で聞かないの?』
お父さんは何も言わなかった。
『二人は何を考えてるの?』
『俺にはあの人しかいないんだよ』
あの人。
お母さんだろう。
『はぁ?』
『俺はあの人に助けられた』
そんなの知らない。
だからってあたしのこと探るの?
『頼む。母さんのためだ』
『お母さんはあたしの何を知りたいの?』
『どんな人と関わってるか、らしい』
この二人はおかしい。
あたしがどんな人と関わろうと自由。
どんな子と仲よくしようと。
『いつ、何で助けられたかしたらないけど、何でそんなに必死になるの?なんでそんなにそばにいてほしいの?』
『俺には、あいつしかいないんだ』
もう、これしか返ってこなかった。
この人、狂ってる。
あたしは怖くて部屋に逃げた。
逃げ場のない、自分の部屋に。
あたしはこんなことが何度かあったことを夏月に説明
した。
夏月は笑っていた。
「ならなんか納得だな」
「え?」
「電話の時、部屋の前にいたのも、本当かは分かんない
けど、部屋に入ったのも……」
「気にしなくていいよ。あの人は、狂ってるの」
お母さんに。
「なんか英語ダメでも分かるな」
「え?」
「CrazyとDangerousはあいつにぴったりな言葉だって」
「え?Crazyって何だっけ?」
「狂ってるとか、夢中って感じ。
Dangerousは危険とか危ないって意味だったかと。
人にも使えるか分かんねえけどな」
「他に何かある?」
「分かんない」
「はいっ。英語のお勉強してからですね」
「ですね」
あたしたちは横になった。
狂った危険な親ね。
そんな人の子供のあたしたちは大丈夫だろうか。
本当の自分が顔を出した時が怖い。
どうしよ。
あの人そっくりだったら。
あれっ、そういえばあたし小学生より英語分かって
ないの?
本気でお勉強だね。
お勉強。
本当、勉強に夢中になれならいいのにな。
今は、昴に……
