おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
大丈夫


「陽斗」

あたしは陽斗に抱きついた。

「おっ…満月」

このかわいらしいというか、優しい独特な声。

本当におっとりした人。

「あたしと、ずっといてくれる?これからも、ずっと」

「満月?まぁ及川さんが許してくれたらね」

『及川さんが許してくれたら、そばにいて』

「昴?」

「付き合ったんでしょ?」

あの時と、ほんの少し違う会話。

「ふふっ、みんなのおかげでね」

「満月っ」

「はると」

「ハハッ。やっぱり満月とは友達じゃなきゃダメだ」

「陽斗?」

「もちろん思ったよ?満月と、恋人としてずっとそばに
いられたらって。けど、満月みたいな彼女がいたら俺、
どうなるかわからない」

「どうなっちゃうの?」

「分かんない。とことんダメになりそう。甘えてばっか
でさ」

「いいじゃん。甘えたって、頼ったって。
友達のあたしに、そうして?」

その時、結構強めに水がかかる。

水をかけたのは昴だった。

「ちょい!結っ構な強さよ?」

「なぁに恋人同士みてぇなこと言ってやがる」

「チッ。昴?まだ大事なお話があるの」

茜さん、怒ってる。

「んな怒ってたら本当に病気んなっちまうぞ?」

「誰が怒らせてんだよ」

「茜のちょいと狂った神経」

ちょいと。

「はぁ?」

「やっぱ昴にはあたしでもあたしたちでもなくて茜さん
だよね」

「何言ってんだオメ」

「事実」

「どっこがよ!?」

あ、この人には敵わない。

「いや、すみません……」

「まったく。まぁこうすることができるのにもね、
感謝しないと」

「そうそう」

昴の言葉で茜さんの表情が少し変わった。

「そうもいかないみたいね……」

「怖い怖い怖い……」

あれっ、誰の声だろ。

あ、快斗くん。

「あら、知らない子が」

茜さんが快斗くんを見て言う。

「あ、川原 快斗です」

「タイプ」

「あ、どうも……えっ?どう言うのが正解なの?」

「かっこいい上に面白いとか、マジウケる」

「よくわっかんねぇわ」

昴がバカにした言い方で言う。

「別にあんたに分かってもらおうとしてないし」

「あ、昴?」

「はい、なんでしょう」

「まさか、このためだけにあたしたち呼んだの?」

「すいません」

「あたしと夏月はまだやることがあるので」

「えっ、満月、本当にやるの?」

「やりたくないならやらなくていいわよ」

あたしは絶対やってやる。

もうガッツリ気合入ってるし。

「えっ、やるって何?」

「大丈夫っ!みんなは知らなくていいことよっ」

あたしは明るく言って家に向かった。

「えっ、満月」

「みんなっ!ありがとね。楽しかった」

あたしは一度振り返り、再び家に向かった。

ずぶ濡れで。

「満月、本気?」

「あたしはねっ。夏月は部屋で待っててもいいよ?」

「えぇ〜……」

「まぁまぁ、途中で戻ってもいいしさっ」

「みづき〜っ」

あんまりやりたくないんだね。

夏月はみんな仲よくいられれば。って人だから。

あたしは楽しみでしょうがないけどね。





「へへ〜ん。着いたぜっ」

「満月、あんまりやりすぎないでね?」

「大丈夫さっ」

あたしは玄関を開けた。

「おかえり」

「ただいま〜っ」

「何かいいことでもあった?」

これからあるの。

「お父さん、いる?」

「いるよ?」

「じゃあ、二人はどこかで待ってて」

「満月?」

あたしはお母さんに笑顔を見せた。

「え、うん……」

「俺はいる」

あたしはつい隣の夏月を見る。

夏月はそれに笑顔を見せる。

「いいよ。でもお母さんは、ちょっとごめんね?」

「分かったわ」

そう言ってどこかへ行ったお母さん。

あたしたちはお父さんのいるというリビングへ。

「おかえり」

「ただいま」

じゃ、お話始めようかなっ。

あたしたちはお父さんの向かい側に座った。

「ふふっ、なんか面白いね」

「満月……」

夏月、そんな心配しなくて大丈夫。

この人ならきっと大人しくなるから。

「名前、聞いていい?」

「水原夏樹……です」

です付いちゃった。

「歳は?」

「43」

『歳なのに』ってほどでもない気がするのはあたしだけ、
かな。

「ふーん。あ、もういいや」

夏月があたしを見る。

「これに全部書いて。名前、誕生日、好きなものとか」

あたしはそう言って一枚の紙を机に置いた。

「えっ」

夏月……

あたしは夏月がの手を握った。

えっ、何でこんな緊張してんの?

あたしは夏月を見た。

夏月はなんとか笑う。

あたしも笑った。

「満月?」

「ん?」

「書くの?」

「書けるでしょ?」

「はい……」

なんかごめんね。

でもこっちはもっと怖かったし。

そして大人しくいろいろ書き始める彼。

まぁどう書いてくるかは、大体想像できるけど。

「はい」

「はい。おつかれ」

あたしは彼から紙を受け取り、内容を見た。

『水原夏樹』本当なのかな。

『誕生日 7月7日』

いいことあるかもね。

『好きなもの、色、趣味 特に無し』

やっぱりな。

絶対こう来ると思った。

「ふーん。ありがとっ」

あたしはなるべく明るく言った。

「じゃあねっ。夏月?」

「あぁ、はい」

あたしたちはリビングを出た。

「夏月、ごめんね」

「ううん」

「よく頑張ったね」

あたしは自分とほぼ同じ位置にある夏月の頭をなでた。

これがそのうちあたしより高くなるんだもんね。

あたしはきっとこれ以上伸びない。

「部屋、戻ろっか」

夏月は笑顔で頷いた。





あたしは夏月と自分の部屋へ。

「満月、結局何がしたかったの?」

「字を書かせたかった」

「字?」

「そっ。どんな字でもよかった」

あたしはさっきの紙を見せながら言った。

「なんのために?」

「ちょっと大事になるけどねっ?」

「えっ、満月こそ何考えてんのよ」

「んふふっ」

「怖えし」

「人が書いた字って、絶対何か違うんだって」

「うん……」

「で、調べれば誰の字か判るわけよ」

「で?それが判ったところで何になるの?」

あっ。

「まずまず、事件でも起きない限り筆跡鑑定なんて
しない」

あっ……

「それはなんの意味もないただの紙切れ」

ただの。

紙切れ。

「って何でそんな知ってんのよ」

「ドラマでしょっちゅうやってる」

しょっちゅう。

あたしは深いため息を吐いた。

「せっかくゲットしたのに……」

「何を」

「もうこれ以上言わせないで……」

夏月は鼻で笑った。

さっきまであんなに緊張してたくせに。

「あんたあたしのことはとことんバカにするわよね」

「まぁそんだけ心開いてんのさっ」

「ったく」

どうしよ。

この何の役にも立たない紙。

捨てるか。

捨てて、寝て、忘れる。

もう何もなかったことに。

何も、知らない。

「はぁ」

「まぁそう落ち込むな」

誰がこうさせたのよ。

これが何になると思ったんだろう。

自分でも気になる。

あたしはベッドに飛び込んだ。

「あぁ〜っ」

「ハハッ、よーく考えねぇと」

「うぅぅ……」

「いやぁ、おもしれぇやつだな」

「よくいわれます………」

「まぁまぁ、今日は寝ちまえ」

そうするつもりだった。

そしてこんな時に鳴る携帯。

「だれー?」

「自分で確認しろ」

「もーみていいよ……」

普段じゃ何があっても見せない携帯。

夏月はそんなあたしの携帯の画面を確認してくれた。

「『陽斗』」

「は?」

「『陽斗』って出てるけど」

「陽斗?」

あたしは携帯を取り、その電話に出た。

「陽斗?」

『陽斗』

もうみんなこうなっちゃったね。

「どした?」

『どーしたって訊かれると難しいんだけどさ』

みんなこうしてあたしに電話してくれる。

「そっか」

嬉しいもんだね。

『そうだ!』

「なんだ?」

『慣れてんね』

「昴くんが教えてくれたから」

『昴くんね。あ、そうそう。明日暇?』

「あたしが忙しいわけないでしょ?」

『ハハッ、それはよかった』

「何かあるの?」

『明日、何日?』

あたしは壁のカレンダーを見た。

「夏休み最後か……」

『そうなのよ。んで明日、昴たちと何かしよっかなって』

「何か」

『決まってないのね』

「陽斗らしいね」

『まぁねっ』

かわいっ。

『で、夏月くんも暇?』

「あたしの弟。忙しいわけないわ」

「何?」

いつの間にいんのよ。

誰かさんそっくり。

「明日暇?」

「用を作ってくれるような人もいねぇからな」

「だよね。大丈夫っ」

『そっか。夏休み最後の日。みんなでどっか行く?』

「高校生のあたしたちに何ができるのさ」

『まぁまぁ。近くの海くらいなら自転車でも行けるしさ』

自転車ね。

昴は絶対言わないね。

『なんかごめんね?』

「え?」

『何かあった?』

「え……いや……何も?」

『そう?声がいつもと違う』

陽斗……

何で分かるの?

いつもどおりにしてたつもりなのに。

嘘、下手だね。

「ほんとに何もないから。で、明日何時にどこで?」

『あぁ、近くのコンビニでよくない?』

「そうだね。じゃあ昴にはあたしから連絡しとく」

『彼氏としては初めての連絡じゃん』

彼氏……か。

昴、彼氏なんだ。

なんか何も変わった感じがしない。

でもそうじゃないと普通にいられないのがあたしたち。

「ほんとだ」

『彼女からの連絡待ってるよ〜?』

「ヤメなさい」

『似てきたねぇ』

「え?」

『恥ずかしかったりするとそう言うの。昴そっくり』

昴に似てるのか。

少し嬉しいかも。

「そう?じゃあまぁ、また」

『あぁ、はいはい』

あたしは電話を切り、笑顔に。

「なぁに一人で笑ってんのさ」

「キャッ!?夏月」

「キャッ。そういう時は女の子なんだ」

ムカつく〜。

「るっさい」

「ハッハッハッ。んな怒んないのっ」

夏月はそう言って部屋へ。

あたしの。

なぜ?

寂しいんだ。

一人嫌いだもんね。

「夏月っ!」

あたしは夏月の背中に飛びついた。

「バカっ!」

「転ばないんだ」

「俺運動だけはデキっから」

デキてんのかな。

よくわかんないけど。

「ふーん。勉強は?」

「誰よりもダメ」

「同じく」

「俺勉強しよっかな」

「何急に」

「満月と一緒は困る」

「はぁ?」

「何さ。彼氏に電話すんだろ?」

「チッ」

「舌打ちなんかしな〜いのっ」

またあの言い方が腹立つ。

まぁこれも仲のいい証拠、かな。

あたしは昴に電話をかけた。

『満月?』

来た。

「満月」

『どした?』

「どーしたって訊かれると難しいんだけどさ」

『そっか』

「あ、明日暇?」

『俺様に予定などない』

あれっ?

「昴?」

『満月?』

「風邪引いた?また」

『引いてねぇし。『また』じゃねぇし』

「はいはい。んで、明日海でも行こうかなって」

『海〜?』

「そう。近くにあんじゃん?」

『知らんけど』

そうなんだ。

「まぁ明日みんなでそこ行こっかなって」

『他に誰いんの?』

「いつもの。白河兄弟と夏月」

『いい感じじゃん』

「だべ?」

『なぁ。もう夏休みも終わりだもんな』

「ちょいと来てひょいと終わっちゃったね」

『ちょいと……ひょいと……』

昴も言ってたけどね。

「まぁ明日、ちょいと海行くから」

『んじゃあ ひょいと準備しとくわ』

「よろしく」

『はい』

あたしは電話を切り、部屋へ。

「うわっ!」

「何さ?」

「いや、ちょいとビックリしただけ」

「さっきからちょいとだのひょいとだの何なの?」

もう自分でも分かんない。

「まぁ、あんな感じ」

「あ、こんな感じ?」

「そう。そんな感じ」

「どんな感じだよ」

「んも〜分っかんない」

「もうわっちゃわちゃ」

これが、あたしたち青山コンビ。

「で?明日が何」

「あ、明日海行くの」

「ほーん」

「ちょいと準備しちゃって」

「ちょいと……」

でも準備って?

何持ってくの?

水着?

そんな本気?

その前にそんな女の子らしいの持ってない。

「ねぇ、準備って言うけど何持ってくの?」

「あたしも、そう思った」

あたしはもう一度陽斗に電話を掛けた。

『ん?』

「明日、何持ってくの?」

『俺も、そう思った……』

「昴も」

『そう』

「思ってるよね」
『思ってるだろうね』

「っすよねぇ……」

『着替え?』

「着替え?」

『まずまず海に何しに行くかだよね』

「あぁ〜」

『着替え、かな。やっぱり。と、タオル辺り』

「はい。ごめんね」

『こちらこそ』

「では」
『では』

あたしは何度目かの電話を切った。

「とりあえず」

あたしは誰もいない方へ振り向いて言った。

「夏月〜?」

どこ行っちゃったのか。

ずいぶん静かに動けるやつね。

「夏月〜?おーい」

「満月?」

「満月。はっ?」

「どーしたのさ」

「あ、持ってくもん決まったよ」

「おっ、何?」

「とりあえず着替えとタオルだって。使うかは分かんないけど」

「了解」

そしてまた昴に掛ける。

この数分で何回掛けるのか。

『はい?』

「あぁ、昴?」

『昴』

「明日、持ってく物……」

『だよな』

「着替えとタオルだって」

『了解』

「では」

『では』

あたしは電話を切り、準備を始めた。

「着替えねぇ」

「あれ?女の子モード入った?」

「え?ジャージでいいかと思ったんだけど」

「ジャージ……」

「まずい?」

「いや まずかないけど」

「ジーパン?夏月は?」

「俺はTシャツにジーパン」

男の子はそれでいいからねぇ。

女の子も別にいいんだけどね。

「あたしもそれでいっか」

「彼いんのに?」

やっぱそうなるよね。

「今度ちょっとオシャレなの買おっかな」

それにジーパン合わせちゃえばいいんでしょ。

ジーパンは何にでも合うから。

最高。

「何かそんな満月見たことない」

「は?」

「あ、すいません……」

Tシャツねぇ。

デザインはいいからね。

紺地に白でロゴが入ってるやつ。

形もちょっと変わった感じだから。

いいんじゃない?





あたしは準備を終え、ベッドに飛び込んだ。

「明日かぁ」

「今日寝れる?」

「寝れるわよ」

「ならいいけど」

「なんであんたはここにいんのよ」

「ダメ?」

可哀想です感出しやがって。

「別にいいけど」

「俺今日ここで寝よっかな」

「夏月?」

「ハハッ。んじゃ、失礼しました〜っ」

夏月、何かあったのかな。

前はよく来てたんだけどな。

『今日 満月といる〜っ』って。

かわいかったな。

今もいい子なんだけどね。

さすがに変わった。

あたしはベッドの上で目を閉じた。

<2016/07/24 15:32 秋の空>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.