夏休み最終日。
一ヶ月以上あったのに。
いざ始まるとあっという間。
その間にいろいろあったし。
あたしは夏月の部屋へ。
「なーつきっ」
「んーん……」
「おーきーろーっ」
「寝たーい」
「大好きな昴さんに会えるよ?」
「昴さんねぇ……」
「夏月?」
「あっ何でもない。行くか」
「おぅ」
あたしたちは朝にやることを終え、家を出た。
「夏月、昴と何かあった?」
「何も?」
「そっか」
だといいんだけど。
でも昴も
『いい感じじゃん』って言ってたし。
何も、ないか。
待ち合わせのコンビニにはもう陽斗と陽希がいた。
「お二人早いね」
「陽斗が『待たせるよりいい』って」
陽斗はそういう人。
相手のことを考える。
「別に気にすんなよ」
「まぁまぁ、もう来ちゃったし」
いや、そうだけどね。
「あとは昴さんだけだね」
「だね」
「ハハッ」
「え?」
「やっぱり似てんね。陽斗と陽希」
「よーく言われた」
「よーく間違えられた」
あれっ、二人の新情報。
「いつ頃まで間違えられたの?」
「今も結構」
「ね?」
うん、似てる。
あまり関わらない人には同じ人に見えるかも。
そこまで、じゃないか。
「もう幼稚園の頃はヒドかったね」
「全然覚えてもらえなくてな」
「『大人しい方が陽斗だから』みたいな。
そんなこと言ってる時点で大人しくないんだけどね」
「陽斗もそんなこと言うんだ」
「小3くらいまでは言ってた」
へぇ〜。
「俺も言ったからね。『クールなのが陽希!』って。
これもこんなこと言ってる時点でクールじゃないけど」
「クールのと大人しいのねぇ。なんか面白い」
大して違いがわからないけど。
「それはよかった」
「ってか昴まだ?」
「はぁ。気付こうよ」
あたしはそんな声のした方へ振り向いた。
「昴……」
「つか昴が自転車とか、笑っちゃう」
「うっせぇ」
「かーわいっ」
「ヤメなさい」
「超かわいい。夏月っぽい」
「えっ」
夏月のその声にみんなの視線は夏月へ。
「俺そんな優しくないよ?」
「えぇ?昴そんな優しくないよ?」
「ぶっとばす」
「怖い怖い」
「仲いいじゃん」
「ヤメなさい」
あたしと昴の声が同時に言う。
「ほら仲よし」
「はいっ。行きますよ〜っ」
「恥ずかしいんだぁ」
「はーい。静かに〜。行きますよ〜」
あたしは少し早めにコンビニを出た。
「あっ、満月っ、えぇ〜っ」
「満月ちゃ〜ん」
ちゃん怖いし。
「えっ、とばすの?」
「近いからっ」
昴、本当に運動ダメなんだね。
「白河〜っ行くよ〜っ!」
「ハルじゃないんだ」
「もうヤメて……恥ずかしい…」
「ハハハッ」
いつの間に隣にいたのよ。
「夏月さぁ、その静かに移動するのヤメてくれる?」
「音、出さないんじゃなくて出ないの」
「はいはい」
「えっ、陽希さんは?」
あたしたちは後ろを見た。
「あっ、昴ととばしてきた」
「昴さん、とばしてる?」
「昴の中では、かなり」
人それぞれ、だからね。
うん。
「えっ」
夏月が止まった。
「何?」
「陽斗さん、いる?」
「えっ、嘘でしょ?」
「んな嘘つくかよ」
そっか。
「どーしたの?」
陽希。
「もーゆっくり行こ?」
昴、限界。
「いや、陽斗は?」
「いない?」
陽希は辺りを見渡す。
「いたらこんなこと言わないさ」
「あ、そっか」
お兄ちゃん笑ってるよ。
「えぇ、どこ行った?」
「迷った?」
「嘘でしょ?迷ったって。この辺の道くらい分かる
でしょ」
「でもかなりの方向音痴だぞ?」
「そうなの!?」
初めて聞いたけど。
「探す?」
「昴、本気?どれくらいの範囲探すのよ」
「この辺?」
たまにとんでもないこと言い出すからなぁ。
「あの、四人じゃないからね?」
「え?」
「夏月も方向分かんないから」
「えっ……」
「ねっ?」
「ね?じゃねぇよ」
「かわいっ」
結局どうすんのよ。
「あっ、いた〜っ」
陽斗が坂を下りてきた。
「いやいやいや。ごめんね?」
「何してたのよ」
「何か落とした人いたから、渡してたの。したらみんな
いなくなっちゃって」
「まったく。行くよ?」
「よしっ」
あたしたちはやっと全員で海に向かった。
昴のために、ゆっくり。
「いやぁ〜っ、海はいいね」
「水が水って感じの温度じゃねぇけど」
昴が水を触りながら言う。
「昴、綺麗な手ぇしてんのね」
「王子様は常に何でも完璧だから」
陽斗が隣で言う。
「運動も完璧にダメだもんね」
「いやダメじゃない。苦手なのね?」
訂正も欠かさない。
「でも苦手なんでしょ?」
「ギャップ」
「でもないわよ?」
その時、少し多めの水が顔にかかった。
「うわっ、昴!」
「ハハハッ」
「ほんっとに。とことんSよね。Mは入ってないの?」
「入ってるように見えるかぁ?」
「陽希、いつの間に……」
「気づかぬ間に」
その時、昴が服にもかけ始めた。
「わっ!服?」
「ハハッ、着替え持って来たろ?」
「本気のいく?」
「あん時より濡らしてやる」
あ、昨日ね。
昴の話盛り盛り事件の。
「いいわよっ」
あたしも昴に水をかけた。
本当、水って温度じゃないけど。
風邪は引かなそう。
昴には適温かもね。
「昴 風邪引くなよ?」
「したらあたしが面倒見てあげる」
「ほんとに恩着せがましい女」
「『お前ほどじゃない』」
昴が少し驚いた顔であたしを見る。
それにあたしは笑顔を見せ、水をかけた。
「あっ」
「陽斗ほんとにかわいいのね」
「俺の弟……うわっ」
「ハハハッ」
「最後まで言わせろ」
「ハッハッハッ」
「バカにされてんぞ」
「まぁ、そこそこねっ」
おっ、陽希のスイッチも入ったかな?
したら最後はあの弟。
「夏月っ」
おっ、振り向いた。
そのタイミングで水をかける。
これで夏月のスイッチもオン。
「満月っ」
「ん?」
『あっ』そう言った時には遅かった。
「やってやったぜ」
今度は陽斗だね。
「うあっ」
もう かわいそうになってくる。
すごい悪いことしてる気分になるのね。
陽斗のりアクションって。
「ふふっ」
「もう入っちゃう?」
そんなおバカなことを言い出したのは陽希だった。
「はぁ?」
「一回濡れて諦める。勝負はそれから」
勝負。
その時、何かが水に落ちる音が。
「陽斗?」
「あったかい」
あったかいとか。
反則でしょうよ。
「あ、ほんとだ」
「えっ、昴も行ったの?」
「したら、俺ら三人も」
「行くしか?」
「しょうがないなぁ!」
そう言いながら一番最初に行ったのはあたし。
そしてすぐに夏月も陽希も来た。
「うん。安全な温度だね」
「いや、ある意味危険だぞ」
「え?」
「寝ちゃう」
「陽希ったら何かわいいこと言ってんのよ」
「あのかわいい系王子の兄だからな」
かわいい系王子。
陽斗、いつからそんなふうに。
「うわっ!」
かなりの量の水が集中的に降ってきた。
「何持ってんのよ」
「いや、砂に埋まってた」
紙コップ。
誰が使ったのよ。
「結構洗ったから」
海の水で。
「んも〜っ」
「はーい、起きてくださーい?」
そう言ってみんなに水をかけ始める昴。
「熱っ」
いや熱いほどじゃないと思うけど。
「わっ……多くない?」
「なんか埋まってた」
そう言って陽斗に拾った紙コップを見せる昴。
みんな小さな子供に見えてきた。
「なつきーっ」
夏月には優しいんだ。
「ああっ」
「はーい。起きてくださーい?」
「よしっ!」
「うわっ、ハハッ」
みんな全身濡れてる。
全て忘れてる。
子供になってる。
「満月」
「え?」
あ、いっつも忘れちゃう。
「顔は加減しなさいよ」
「俺様は加減などしない」
どんな名言の設定よ。
「んじゃあ あたしも!」
あたしは昴の整った顔に思い切り水をかけた。
「わっ、ちょいっ」
「言ったわよ?加減しないって」
「昴っ」
「うわ!」
王子様、狙われる。
「大丈夫。明日からまた大事大事されるから。
今日だけ一般人になって?」
「俺様は常に一般人だ」
俺様。
けど一般人。
難しいね。
あたしたちのテンションが落ち着いてきた頃には辺りは
オレンジ色に染まっていた。
あの時のオレンジとは、全く違った。
「いやー、濡れたね」
「濡れたね」
「寒い」
「さすが王子様。部屋は常に適温だから」
「ハハハッ」
「ねっ?」
「別に」
別に、何よ。
「そうだっ!」
「なんだ」
「今日うちに泊まらない?」
「満月、大丈夫?」
あたしは心配そうに言う夏月に笑顔で頷いた。
どうせ二人のことでしょ?
なら気にしないで。
「で、みんなどう?」
「行く側はいいけど」
「タオルなら大量にあるから」
「タオルとか、そういう問題?」
「違うの?」
「もう相手にしないのが一番」
「昴くーん、冷たいんじゃなーい?」
陽希がからかうように言う。
「冷たくねぇし くんヤメろ」
それに少し恥ずかしそうに答える昴。
そんな二人がたまらなくかわいかった。
「んーじゃ帰るかっ!」
あたしは立ち上がった。
「えっ、このまま?」
「いや、着替える?ならちゃっちゃと」
「満月がいいならいいけど」
「風に当たったら気持ちいいんじゃない?」
「寒いよ」
「熱帯夜だから」
「ハハッ、昴さん寒いの嫌いなんだ」
「寒いのは無理。なのに何であんな噂……」
あんな噂?
どんな噂だろ。
「あっ!」
あれか。
「引っ越すとかってやつ?」
「もうビックリだよな。満月も何もなく信じてたし」
だって……まだ陽斗もいなかったし。
陽斗がいればいいってわけじゃないけど……
「だって……とりあえず寂しいでしょうよ」
「もうそれはどーっでもいいんだけど」
どうでもいいんだ。
「何でこの俺があんな北に行かなきゃいけないのかっつーことだよ」
「あ、どこに行くってことになってたの?」
「何か、北」
北。
それだけは覚えてるのね。
「はーい。じゃあ暖かいお家に行きますよ?」
「満月さん?」
あ、さん。
「なぁに?昴くん」
「いいから行くぞ」
「昴かわいい〜っ」
「だろ〜っ?」
昴、静かになってきた。
本当にかわいいんだから。
「行こっか」
「おぅ!」
「誰が昴に飛びつけるか!」
「行くぞっ!」
あたしたちは昴に向かって走りだした。
「うわっ、あれ?満月じゃない」
「ちょい!どういう意味よ」
「軽い」
「ぶっとばす」
「やべ。えっ、誰?」
「は・る・と〜っ」
女の子みたいな声で言う陽斗。
「やっば。陽斗超かわいい」
「あたしも、そう思った」
「眠ーい」
幼稚園くらいの子みたい。
「あたし乗せてってあげてもいいよ?」
「なんって恩着せがましい女」
「あら、なんって失礼な男」
「俺様はただ事実を言っただけだ」
事実ねぇ。
どこがよ。
「なんか陽斗ってほっとけないよね」
「分かる。なんか一人にできないっていうか」
「俺の弟だからさっ」
いや、よく分かんないけど。
「えっ?陽斗?はーると……マジか」
「昴?」
「充電切れた」
「えっ?寝ちゃったってこと?」
昴は笑って頷いた。
「そんなとこで?」
「ほんっとに子供みてぇだよなぁ」
そう言って自分の自転車の後ろに陽斗を乗せる陽希。
「お兄ちゃんかっこいい〜っ」
「っせぇ。早く行くぞ」
かわいい兄弟ですこと。
「昴いる?」
「あの一瞬でどこに消える」
「夏月いる?」
「夏月は結構すぐどっか行っちゃうからぁ〜っ」
いた。
「よし。帰ろっか」
「陽斗さんの自転車は?」
「おまわりさんに見つかったら怒られそうだけどねっ」
「えっ?」
あたしたちは少し危険な方法で帰ってきた。
陽斗は陽希の後ろで。
陽斗の自転車はあたしが片手で引っ張ってきた。
「起きないんだね」
「一回寝たらもう起きねぇから」
「かわいいっすね」
「ずっと見てられんだけど」
「何?昴が言うと笑えんだけど」
「満月に言われるとムカつくんだけど」
あたしは陽斗に視線を戻した。
「ほんと癒やし」
「あ、起きた」
「おはよ」
「えっ?あれっ……」
陽斗は起き上がり、周りと自分が着てるものを見た。
「どうした?」
「自分がやらかしたこと何となく分かるわ……」
「そんな気にすんなって」
あたしは笑って言った。
「あぁ〜、ごめん……」
陽斗は恥ずかしそうに両手で顔を隠して言った。
「気にすんなって」
あたしはなんにもしてないけど。
「いやぁ、お前寝ながらすげぇ体重かけてくっからいつか落ちると思った」
「あ、陽希が連れてきてくれたの?」
「超頑張った」
「ならいっか」
「おいっ」
「ハハハハッ」
「まぁ仲いいってことで!」
その時陽斗がベッドから降りようとした。
「あっ、まだ寝てな?風邪引いてない?」
「大丈夫」
「って言いながら鼻すすったべ」
「ハハッ、バレた?でもほんとに大丈夫よ?」
「いいから無理すんなって」
あたしはもう一度陽斗をベッドに寝かせた。
それから少ししたら陽斗は寝た。
こんなすぐ寝れちゃうくせに。
一ヶ月以上あったのに。
いざ始まるとあっという間。
その間にいろいろあったし。
あたしは夏月の部屋へ。
「なーつきっ」
「んーん……」
「おーきーろーっ」
「寝たーい」
「大好きな昴さんに会えるよ?」
「昴さんねぇ……」
「夏月?」
「あっ何でもない。行くか」
「おぅ」
あたしたちは朝にやることを終え、家を出た。
「夏月、昴と何かあった?」
「何も?」
「そっか」
だといいんだけど。
でも昴も
『いい感じじゃん』って言ってたし。
何も、ないか。
待ち合わせのコンビニにはもう陽斗と陽希がいた。
「お二人早いね」
「陽斗が『待たせるよりいい』って」
陽斗はそういう人。
相手のことを考える。
「別に気にすんなよ」
「まぁまぁ、もう来ちゃったし」
いや、そうだけどね。
「あとは昴さんだけだね」
「だね」
「ハハッ」
「え?」
「やっぱり似てんね。陽斗と陽希」
「よーく言われた」
「よーく間違えられた」
あれっ、二人の新情報。
「いつ頃まで間違えられたの?」
「今も結構」
「ね?」
うん、似てる。
あまり関わらない人には同じ人に見えるかも。
そこまで、じゃないか。
「もう幼稚園の頃はヒドかったね」
「全然覚えてもらえなくてな」
「『大人しい方が陽斗だから』みたいな。
そんなこと言ってる時点で大人しくないんだけどね」
「陽斗もそんなこと言うんだ」
「小3くらいまでは言ってた」
へぇ〜。
「俺も言ったからね。『クールなのが陽希!』って。
これもこんなこと言ってる時点でクールじゃないけど」
「クールのと大人しいのねぇ。なんか面白い」
大して違いがわからないけど。
「それはよかった」
「ってか昴まだ?」
「はぁ。気付こうよ」
あたしはそんな声のした方へ振り向いた。
「昴……」
「つか昴が自転車とか、笑っちゃう」
「うっせぇ」
「かーわいっ」
「ヤメなさい」
「超かわいい。夏月っぽい」
「えっ」
夏月のその声にみんなの視線は夏月へ。
「俺そんな優しくないよ?」
「えぇ?昴そんな優しくないよ?」
「ぶっとばす」
「怖い怖い」
「仲いいじゃん」
「ヤメなさい」
あたしと昴の声が同時に言う。
「ほら仲よし」
「はいっ。行きますよ〜っ」
「恥ずかしいんだぁ」
「はーい。静かに〜。行きますよ〜」
あたしは少し早めにコンビニを出た。
「あっ、満月っ、えぇ〜っ」
「満月ちゃ〜ん」
ちゃん怖いし。
「えっ、とばすの?」
「近いからっ」
昴、本当に運動ダメなんだね。
「白河〜っ行くよ〜っ!」
「ハルじゃないんだ」
「もうヤメて……恥ずかしい…」
「ハハハッ」
いつの間に隣にいたのよ。
「夏月さぁ、その静かに移動するのヤメてくれる?」
「音、出さないんじゃなくて出ないの」
「はいはい」
「えっ、陽希さんは?」
あたしたちは後ろを見た。
「あっ、昴ととばしてきた」
「昴さん、とばしてる?」
「昴の中では、かなり」
人それぞれ、だからね。
うん。
「えっ」
夏月が止まった。
「何?」
「陽斗さん、いる?」
「えっ、嘘でしょ?」
「んな嘘つくかよ」
そっか。
「どーしたの?」
陽希。
「もーゆっくり行こ?」
昴、限界。
「いや、陽斗は?」
「いない?」
陽希は辺りを見渡す。
「いたらこんなこと言わないさ」
「あ、そっか」
お兄ちゃん笑ってるよ。
「えぇ、どこ行った?」
「迷った?」
「嘘でしょ?迷ったって。この辺の道くらい分かる
でしょ」
「でもかなりの方向音痴だぞ?」
「そうなの!?」
初めて聞いたけど。
「探す?」
「昴、本気?どれくらいの範囲探すのよ」
「この辺?」
たまにとんでもないこと言い出すからなぁ。
「あの、四人じゃないからね?」
「え?」
「夏月も方向分かんないから」
「えっ……」
「ねっ?」
「ね?じゃねぇよ」
「かわいっ」
結局どうすんのよ。
「あっ、いた〜っ」
陽斗が坂を下りてきた。
「いやいやいや。ごめんね?」
「何してたのよ」
「何か落とした人いたから、渡してたの。したらみんな
いなくなっちゃって」
「まったく。行くよ?」
「よしっ」
あたしたちはやっと全員で海に向かった。
昴のために、ゆっくり。
「いやぁ〜っ、海はいいね」
「水が水って感じの温度じゃねぇけど」
昴が水を触りながら言う。
「昴、綺麗な手ぇしてんのね」
「王子様は常に何でも完璧だから」
陽斗が隣で言う。
「運動も完璧にダメだもんね」
「いやダメじゃない。苦手なのね?」
訂正も欠かさない。
「でも苦手なんでしょ?」
「ギャップ」
「でもないわよ?」
その時、少し多めの水が顔にかかった。
「うわっ、昴!」
「ハハハッ」
「ほんっとに。とことんSよね。Mは入ってないの?」
「入ってるように見えるかぁ?」
「陽希、いつの間に……」
「気づかぬ間に」
その時、昴が服にもかけ始めた。
「わっ!服?」
「ハハッ、着替え持って来たろ?」
「本気のいく?」
「あん時より濡らしてやる」
あ、昨日ね。
昴の話盛り盛り事件の。
「いいわよっ」
あたしも昴に水をかけた。
本当、水って温度じゃないけど。
風邪は引かなそう。
昴には適温かもね。
「昴 風邪引くなよ?」
「したらあたしが面倒見てあげる」
「ほんとに恩着せがましい女」
「『お前ほどじゃない』」
昴が少し驚いた顔であたしを見る。
それにあたしは笑顔を見せ、水をかけた。
「あっ」
「陽斗ほんとにかわいいのね」
「俺の弟……うわっ」
「ハハハッ」
「最後まで言わせろ」
「ハッハッハッ」
「バカにされてんぞ」
「まぁ、そこそこねっ」
おっ、陽希のスイッチも入ったかな?
したら最後はあの弟。
「夏月っ」
おっ、振り向いた。
そのタイミングで水をかける。
これで夏月のスイッチもオン。
「満月っ」
「ん?」
『あっ』そう言った時には遅かった。
「やってやったぜ」
今度は陽斗だね。
「うあっ」
もう かわいそうになってくる。
すごい悪いことしてる気分になるのね。
陽斗のりアクションって。
「ふふっ」
「もう入っちゃう?」
そんなおバカなことを言い出したのは陽希だった。
「はぁ?」
「一回濡れて諦める。勝負はそれから」
勝負。
その時、何かが水に落ちる音が。
「陽斗?」
「あったかい」
あったかいとか。
反則でしょうよ。
「あ、ほんとだ」
「えっ、昴も行ったの?」
「したら、俺ら三人も」
「行くしか?」
「しょうがないなぁ!」
そう言いながら一番最初に行ったのはあたし。
そしてすぐに夏月も陽希も来た。
「うん。安全な温度だね」
「いや、ある意味危険だぞ」
「え?」
「寝ちゃう」
「陽希ったら何かわいいこと言ってんのよ」
「あのかわいい系王子の兄だからな」
かわいい系王子。
陽斗、いつからそんなふうに。
「うわっ!」
かなりの量の水が集中的に降ってきた。
「何持ってんのよ」
「いや、砂に埋まってた」
紙コップ。
誰が使ったのよ。
「結構洗ったから」
海の水で。
「んも〜っ」
「はーい、起きてくださーい?」
そう言ってみんなに水をかけ始める昴。
「熱っ」
いや熱いほどじゃないと思うけど。
「わっ……多くない?」
「なんか埋まってた」
そう言って陽斗に拾った紙コップを見せる昴。
みんな小さな子供に見えてきた。
「なつきーっ」
夏月には優しいんだ。
「ああっ」
「はーい。起きてくださーい?」
「よしっ!」
「うわっ、ハハッ」
みんな全身濡れてる。
全て忘れてる。
子供になってる。
「満月」
「え?」
あ、いっつも忘れちゃう。
「顔は加減しなさいよ」
「俺様は加減などしない」
どんな名言の設定よ。
「んじゃあ あたしも!」
あたしは昴の整った顔に思い切り水をかけた。
「わっ、ちょいっ」
「言ったわよ?加減しないって」
「昴っ」
「うわ!」
王子様、狙われる。
「大丈夫。明日からまた大事大事されるから。
今日だけ一般人になって?」
「俺様は常に一般人だ」
俺様。
けど一般人。
難しいね。
あたしたちのテンションが落ち着いてきた頃には辺りは
オレンジ色に染まっていた。
あの時のオレンジとは、全く違った。
「いやー、濡れたね」
「濡れたね」
「寒い」
「さすが王子様。部屋は常に適温だから」
「ハハハッ」
「ねっ?」
「別に」
別に、何よ。
「そうだっ!」
「なんだ」
「今日うちに泊まらない?」
「満月、大丈夫?」
あたしは心配そうに言う夏月に笑顔で頷いた。
どうせ二人のことでしょ?
なら気にしないで。
「で、みんなどう?」
「行く側はいいけど」
「タオルなら大量にあるから」
「タオルとか、そういう問題?」
「違うの?」
「もう相手にしないのが一番」
「昴くーん、冷たいんじゃなーい?」
陽希がからかうように言う。
「冷たくねぇし くんヤメろ」
それに少し恥ずかしそうに答える昴。
そんな二人がたまらなくかわいかった。
「んーじゃ帰るかっ!」
あたしは立ち上がった。
「えっ、このまま?」
「いや、着替える?ならちゃっちゃと」
「満月がいいならいいけど」
「風に当たったら気持ちいいんじゃない?」
「寒いよ」
「熱帯夜だから」
「ハハッ、昴さん寒いの嫌いなんだ」
「寒いのは無理。なのに何であんな噂……」
あんな噂?
どんな噂だろ。
「あっ!」
あれか。
「引っ越すとかってやつ?」
「もうビックリだよな。満月も何もなく信じてたし」
だって……まだ陽斗もいなかったし。
陽斗がいればいいってわけじゃないけど……
「だって……とりあえず寂しいでしょうよ」
「もうそれはどーっでもいいんだけど」
どうでもいいんだ。
「何でこの俺があんな北に行かなきゃいけないのかっつーことだよ」
「あ、どこに行くってことになってたの?」
「何か、北」
北。
それだけは覚えてるのね。
「はーい。じゃあ暖かいお家に行きますよ?」
「満月さん?」
あ、さん。
「なぁに?昴くん」
「いいから行くぞ」
「昴かわいい〜っ」
「だろ〜っ?」
昴、静かになってきた。
本当にかわいいんだから。
「行こっか」
「おぅ!」
「誰が昴に飛びつけるか!」
「行くぞっ!」
あたしたちは昴に向かって走りだした。
「うわっ、あれ?満月じゃない」
「ちょい!どういう意味よ」
「軽い」
「ぶっとばす」
「やべ。えっ、誰?」
「は・る・と〜っ」
女の子みたいな声で言う陽斗。
「やっば。陽斗超かわいい」
「あたしも、そう思った」
「眠ーい」
幼稚園くらいの子みたい。
「あたし乗せてってあげてもいいよ?」
「なんって恩着せがましい女」
「あら、なんって失礼な男」
「俺様はただ事実を言っただけだ」
事実ねぇ。
どこがよ。
「なんか陽斗ってほっとけないよね」
「分かる。なんか一人にできないっていうか」
「俺の弟だからさっ」
いや、よく分かんないけど。
「えっ?陽斗?はーると……マジか」
「昴?」
「充電切れた」
「えっ?寝ちゃったってこと?」
昴は笑って頷いた。
「そんなとこで?」
「ほんっとに子供みてぇだよなぁ」
そう言って自分の自転車の後ろに陽斗を乗せる陽希。
「お兄ちゃんかっこいい〜っ」
「っせぇ。早く行くぞ」
かわいい兄弟ですこと。
「昴いる?」
「あの一瞬でどこに消える」
「夏月いる?」
「夏月は結構すぐどっか行っちゃうからぁ〜っ」
いた。
「よし。帰ろっか」
「陽斗さんの自転車は?」
「おまわりさんに見つかったら怒られそうだけどねっ」
「えっ?」
あたしたちは少し危険な方法で帰ってきた。
陽斗は陽希の後ろで。
陽斗の自転車はあたしが片手で引っ張ってきた。
「起きないんだね」
「一回寝たらもう起きねぇから」
「かわいいっすね」
「ずっと見てられんだけど」
「何?昴が言うと笑えんだけど」
「満月に言われるとムカつくんだけど」
あたしは陽斗に視線を戻した。
「ほんと癒やし」
「あ、起きた」
「おはよ」
「えっ?あれっ……」
陽斗は起き上がり、周りと自分が着てるものを見た。
「どうした?」
「自分がやらかしたこと何となく分かるわ……」
「そんな気にすんなって」
あたしは笑って言った。
「あぁ〜、ごめん……」
陽斗は恥ずかしそうに両手で顔を隠して言った。
「気にすんなって」
あたしはなんにもしてないけど。
「いやぁ、お前寝ながらすげぇ体重かけてくっからいつか落ちると思った」
「あ、陽希が連れてきてくれたの?」
「超頑張った」
「ならいっか」
「おいっ」
「ハハハハッ」
「まぁ仲いいってことで!」
その時陽斗がベッドから降りようとした。
「あっ、まだ寝てな?風邪引いてない?」
「大丈夫」
「って言いながら鼻すすったべ」
「ハハッ、バレた?でもほんとに大丈夫よ?」
「いいから無理すんなって」
あたしはもう一度陽斗をベッドに寝かせた。
それから少ししたら陽斗は寝た。
こんなすぐ寝れちゃうくせに。
