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楽しかった夏休みは去ってしまった。

「はぁ」

「朝からため息なんか吐くなよ」

誰のせいよ。

昴がいなくなっちゃうからでしょうよ。

帰って来るって言ってるけどいつか分かんないし。

「あぁ眠い……」

「今日算数〜?」

「行きたくねぇなぁ〜」

あたしたちはこんなバラバラなことを考えながら一緒に
家を出た。

「夏月、勉強するって言ってなかった?あたしと一緒は
困るから」

「勉強しなくていいなら満月と一緒でもいいや」

「あんたに勉強以上に嫌いなものはないの?」

「そんなもんあっかよ〜っ」

「夏月は運動も虫もホラーも平気だもんね」

「ホラーは気分によって……あ、んじゃっ」

「頑張れ〜っ」

あたしたちは夏月と別れ、四人に。





特に会話はなく学校に。

「何の騒ぎ?」

昇降口の前にすごい数の人が。

「転校生が囲まれてたり」

「んなわけあっかよ」

「新たな王子様の登場か?昴の人気も落ち着いちまった
かもな」

「嬉しいことだ」

中にはあんたに憧れてる人もいるのに。

「キャーーーッ!」

「すんげぇなこれ」

「しばらくここで待ってっか」

いつ落ち着くのよ。

こんなにいっぱい。

うちの学校ってこんなに人いたっけ。

「みづきさーーんっ!」

「みづきって人が……みづき?満月のこと?」

「んなまさか……本気?」

なんかいっぱい女子がこちらへ。

男子も結構いる。

夏休み中に何があった。

「満月さん!」

「何あたし?」

「ヤバーイ」

ごめんなさい。

どっちがだよ。

「あの、あたしたち教室行くんで……」

あたしたちはなんとか人混みの中を抜けだした。

「なにこれ?」

「なんかすげぇな」

「満月さーーん!」

みんなが手を振る。

「振ってあげれば?」

さすが王子様。

ちょっとバカにしてるのね。

あたしはみんなに軽く手を振った。

「疲れんだけど。何朝から」

「人気者は大変だぜ〜?」

「何かムカつくし。あっ、陽斗いる?」

「いるよ」

陽斗をあんな人の中に……

考えたくもない。

「はぁ。教室行くか」

「はいっ」

三人が大人しい。

そしてあたしにはひとつ気になることが。

さっきから誰かに見られてる。

あたしと陽斗はこういうのは大体分かる。

一番わかんないのが陽希。

昴は絶対分かる。

「ねぇ、昴」

「木下 亜矢」

誰が見てるかまで。

「亜矢が?」

「たっぷりお説教されるだろうな」

説教?

何で?

あたし何かしたっけ。

気付かない間によく女の子を怒らせる。

一時期『気の使えない彼氏』というあだ名が。


あたしたちは誰もいない教室へ。

「陽斗、大丈夫だよ」

「えっ、うん……」

でも今まで一人で頑張ってたんだもんね。

「満月っ!」

教室のドアの方からあたしを呼んだのは、木下亜矢。

「亜矢……どうしたの?」

「みづ、ちょい、来て!」

「ふーん」

あたしは昴を見た。

「女。気を付けろ」

あたしは頷き、亜矢の方へ。

「どうしたの?」

「誰にも聞かれたくないの」

亜矢が何を言いたいかは分からない。

『女。気を付けろ』

女?気を付ける?

気を付けろって言われても、今一緒にいるし。

「ねぇ、満月」

あたしは亜矢に屋上に連れて来られた。

いつでも開いてるんだね。

さすがこの学校。

大体の学校は開いてないよね。

「何?」

「陽斗くんと仲よくなったみたいだね」

「えぇ、まぁ……」

『気を付けろ』

何に気を付けるのよ。

陽斗?

うわ、女。

そういう意味?

ならあたし得意分野。

「陽斗が何?」

その時、ポケットで携帯が振動する。

ならこうか。

あたしは何も気にせず携帯を確認した。

メール。

昴じゃん。

『そいつ 凝ってる』

何のこの検索ワードみたいな。

凝ってる。

どういう意味?

『どういう意味?』

『後で教えてやる』

結構返信早いのね。

『王子様は常に何でも完璧だから』

昨日陽斗が言ってた。

本当にそうかもね。

『了解』

「で?陽斗が何?」

「今、満月が陽斗くんと仲よくなって、有名なの」

有名。

そんなに?

「で、陽斗くん、すごいかっこいいでしょ?」

かっこいいってタイプじゃないけどね。

誰もがかわいいって言う。

「だから、女子たちが……」

嫉妬してるのぉ。

「嫉妬してる子もいて……コソコソ話してるの聞いちゃって……」

『そいつ 凝ってる』

凝ってる。

凝ってるって何よ。

「だから……気を付けてね」

「亜矢っ」

「私、先戻る」

亜矢はドアの影に隠れる昴に気づかずに教室へ。

それを確認して昴が出てくる。

「怖い怖い」

「どっちがよ」

「『嫉妬してる子もいてぇ……』自分のこと言うとはな」

昴が少しバカにしたように言う。

「なるほどね」

「『コソコソ話してるの聞いちゃってぇ…』あいつが
考えてる事な」

「は?」

「裏で怖ーい事考えてんじゃねぇか?」

怖い事。

どんな事?

「女はめんどくせぇな。いや〜、男でよかった」

「あたしも生まれ変われんなら絶対男になる」

「だろうと思った」

「えっ、怖いことって何?」

「なぁんだろうな。あいつは体には手ぇ出さねぇだろ」

「体?」

「殴る、蹴る?みたいな?」

いや、怖っ。

殴るとか。

避けるけどね。

前お父さんと信じてた人にやってもらった。

おかげで普通の人のなら避けられるように。

プロはどう来るかわかんないから。

「あいつぁ口だな」

「昴と違って国語得意みたいだからね」

「なっ」

認めちゃった。

「あの」

昴がさっきとは全く違う、少し暗い声で言った。

「え?」

「いろよ?」

「え?」

「陽斗と。一緒にいろよ?」

「昴?」

「やっぱバカ。あいつに何て言われても陽斗といろって
言ってんの」

「あぁ、最初からそう言いなさいよ。バカとか。
どっちがよ」

「お前ほどじゃない」

昴だね。

この、ちょっと独特な言い方。

真似するのは少し難しい。

「昴だっ」

あたしはなんとなく昴に抱きついた。

「満月?」

これが、あと少しでできなくなる。

昴が、遠い遠い都内へ。

あたしたちをこの田舎に残して。

「すばる………」

「満月」

昴は優しくあたしの頭をなでてくれた。

「昴……」

昴がいない。

どんな世界なんだろう。

昴がいないとあたしの世界は変わる。

この安心感も、温もりも感じられないんでしょ?

「やだ……」

「満月……」

「昴、いなくなるの……やっぱ嫌だよ……」

「大丈夫。北の方じゃないし、冬じゃないからちゃんと
帰ってこれる」

えっ、季節の問題?

あたしが昴の顔を見ると、昴は笑った。

あたしも笑った。

「泣け」

「は?」

「言ったろ。泣くの耐えてんのは可愛くねぇから泣け
って。俺に似合う女になるために」

「すばる……」

バーカ。

あたしはもう十分昴に似合いますから。

そう言ったら、何て返ってくるんだろう。

けど、あたしは今日も言葉より涙が出てる。

「あっ!忘れてた……」

昴がそう言う頃にはあたしは眠気に襲われていた。

「やーばい。ねーむい」

「えっ、寝るの?寝るの?寝ちゃうの?えっ、おーい」

「もう寝ていい?」

「しょうがねぇな」

そう言って昴はあたしを抱き上げた。

「わっ……」

「黙れ。喋れんなら歩け」

「運動ダメなのに、ありがと」

「チッ」

舌打ち。

怖いんだけど。

なのに、何でこんなに落ち着くんだろう。

あたしは昴の腕の中で眠りについた。

深い眠りに。

<2016/07/25 09:47 秋の空>消しゴム
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