青山 満月。
このバカな、ほっとけない女は今日も寝た。
泣いて。
泣き疲れて。
俺はそんなバカ女を保健室へ。
「わっ、昴くん……」
この芸能人でも見たような反応。
面白くてしょうがない。
「あ、どうも……」
この人は男の子大好き。
この学校の男の子のことなら何でも知ってる。
怖い先生。
違った意味でどの先生より怖い。
「どうしたの?」
「いや、何か急に……」
ってことでいいよな。
「あぁ、とりあえずベッド……」
簡単な人。
俺は満月をベッドの上へ。
「えっ?何?どうしたの?」
もう満月のこと気にしてないし。
まぁそれでいいんだけど。
「どうしたんでしょう。何か音がしたと思って見たら……」
「倒れちゃったんだ?」
ちょっと嬉しそうだけど。
こんな人がこういうとこの先生で大丈夫かな。
「まぁ……」
「そっかぁ。うふふっ」
怖い怖い。
何考えてんだろ。
さっきから近いし。
「じゃあ……」
俺はドアの方へ歩いた。
「もう行くの?」
「えぇ」
「そっかぁ。休み時間になったらまた来てあげて?」
私のために。
「はい」
俺は笑って言った。
笑えてた、かな。
あっ……
「昴くん」
「何」
「ふふっ、今日もかっこいいのね」
嬉しくねぇけど。
俺は何も言わずに教室に向かった。
「昴く〜んっ」
この呼び方。
ムカつく。
女って感じ。
満月みたいなのが好きな俺にとってはこういう女の子
らしい子のよさが全くわからない。
「昴くん、今日暇?」
「さあ」
「そっかぁ。残念」
毎回こうしか答えねぇんだからもうよくね?
そして当たり前のように教室までついてきた。
「じゃあね」
木下亜矢の明るいその言葉に俺は何も言わず席に戻った。
「あれっ、彼女さんは?」
「寝た」
「はっ!?」
「深い眠りについてしまった」
「泣かせたんだ」
「勝手に泣いたのな?」
「もう昴に会えない〜って?」
「まぁ、そんな感じ?」
「ふーん」
続かない。
やっぱこういうのは青山コンビ。
あの人、見ないよね。
生徒の携帯。
あの時気付いたってことはバイブは止めてないんだろう。
満月、寝起き頭働かないんだよな。
「どした?」
「あ?いや、満月に言うこと教えてやろうと思うんだけど」
「メールじゃん?」
「さっきもやったら気づいたんだよ」
「いいじゃん」
「見ないよね」
「あの人じゃやりそうだけど。『男の子かもぉ〜』って」
すごい想像つく。
「はぁ」
「満月もそこまでバカじゃねぇだろ」
だといいけど。
『寝ちゃったぁ』とか言いそうだよな。
「あれっ、言ったっけ?」
「え?」
「満月の演技事件」
演技事件。
「いや」
「あいつ女優になれると思った」
そんな?
「あいつ開始5秒で泣ける」
「すげぇな」
「でまた泣き方も上手くてさ。あ、俺らの前で泣いてん
のは本気だよ?さすがになんとなく違うから」
「ふーん。で?何が言いたいの?」
「すいません。いや、だからなんとかしてくれん
じゃねっかなぁと」
「よっく分かんなかったわ」
「俺も思ったわ」
そういえばさっきから……
「陽斗?」
「えっ?」
「大丈夫?」
「うん…」
「満月と一緒に寝とけば?」
「大丈夫だよ?」
「まぁ無理すんな?」
「うん。あんま気にしないで?」
「俺ら優しいからさぁ」
陽希が俺の方に腕をまわす。
「はぁ」
「ハハッ」
「無理なら帰るべ」
「じゃあ俺無理」
「お前はいいんだよ」
「ハハハッ、大丈夫だよ」
「そっか」
陽斗は笑って頷き、前を向いた。
「あっ……」
陽斗?
俺も前を見た。
「あっ……」
陽斗より低い声で言った。
「お前ら何してんだ?」
「お話」
「丁寧」
「大切」
「ハハッ」
「あ、ダメだ」
「大人しくしろ」
別に騒いでたつもりはない。
「は〜い」
「陽希、バカにしてるよな」
「んなこたねぇよ」
んなことしかねぇんだよ。
あれっ、満月もこんな感じだったのかな。
「はーい」
はーい?
『始めます』みたいな一言がない。
それがこいつ。
「はーい及川くーん」
普段名字でなんか呼ばないのに。
「はい」
「これ答えてーっ」
なにこれ。
「えっ、どこ?」
「昴ウケる」
俺ウケられる。
「ここっ」
こうなったら俺のラッキーナンバー。
「6」
「はいっ」
そうなんだ。
この学校の数学は基本6で通用する。
でもなぜ?
全く聞いてなかったし。
「何で?」
「はっ?」
「何でそうなった?」
こっちが訊きたいっすけど。
「昴くんのラッキーナンバー、通用せず」
初体験。
「まぁいいや」
いいんだ。
黙る、最強。
あれっ、俺 数学もダメなの?
数学、運動、国語。
終わったな。
「大丈夫。俺、学校でやること全部できねぇから」
何が大丈夫なんだよ。
「じゃあ今日は終わりぃ」
なんか軽いんだよなぁ。
別にいいけど。
「すばっち」
「すばっち?」
俺は隣の学校でやること全部できない人を見た。
「満月んとこ行くの?」
「あぁ」
「じゃあ白河も」
「陽斗?」
「えっ?」
陽斗は不思議そうに後ろを向く。
「行く?」
「どこ?」
「保健室」
「行く」
珍しく陽希が何か考えてる。
「すばるっチのがかわいいかな」
あ、そんなこと。
「別にかわいさ求めてねぇけど」
「冷たいねぇ」
よーく言われる。
俺らは保健室へ。
「あららっ」
あらら……
「満月ちゃんまだ起きないのよぉ」
だろうな。
「失礼します」
俺らは満月のそばへ。
「ふふっ、お見舞いみたいね」
いつも楽しそうな人。
羨ましいけど。
「んーーっ、あったたた……」
「おはよ」
「あぁぁ……」
「大丈夫?」
「あ、はい……」
満月ゆっくり起き上がった。
そして下を向く。
本当に上手いんだ。
「どっか痛いとこある?」
「大丈夫です……」
もう笑いそうになる。
陽希はそろそろ笑う。
「ハハッ」
「ん?」
やっぱり。
「あ、いや。ゴミ……髪キラッキラしてた」
この人は本当に何もできない。
髪キラッキラとか。
そんな笑うほどついてたら分かるし。
「大丈夫?」
「ちょっと頭痛いかも……」
へぇ〜。
陽斗に訊かれたときに言うのね。
「頭?しばらく休んで?」
なんか可哀想。
「すみません……」
慣れてる。
「熱は?」
「あ、大丈夫です…」
細工できないからね。
お手伝いいく?
俺は満月のおでこを触った。
「わっ……」
「満月ちゃん幸せねっ」
「うん。平熱」
あ、目が。
目がキレてる。
「そう?」
先生も触る。
でもこの人の場合ああ言っておいたほうが。
「熱くなぁい?」
なっ。
「あ、もうほんと大丈夫です……」
そう言ってベッドから降りる満月。
それも先生側に。
「あっ、大丈夫?」
ふらついた。
「いいわよ?今日は帰ったら?」
じゃあ俺が連れてきます。
で帰れたらいいんだけど。
「今日、家、誰もいなくて……」
まさかの。
「そうなの?何でいないの?」
「仕事、忙しいみたいです……」
「そっかぁ」
「じゃあうちで休む?」
「昴……」
「いいっすか?」
「別にいいけど……」
いいんだ。
普通ダメでしょ。
本当にこの人大丈夫かな。
「陽斗たちは…?」
いや、普通そんな辛かったらそんなこと訊かないし。
「いやっ、俺らは……」
「全然いいよ?先生が許してくれればっ」
この学校変すぎるだろ。
「そういえば陽斗も風邪っぽかったよな」
「えっ、大丈夫だよ?」
「じゃあもうみんな帰りなさい」
「いいんですか?」
「普通こんな先生いないでしょうけどね」
えぇ。
あなたが初めてです。
「まぁあたしだからねっ」
「えっ?」
「メイクってすごいわよねぇ。そっくりじゃない?」
なんか聞いたことある声。
「あか姉で〜す」
なんか今日おかしいことばっかだし。
「夢?」
「夢じゃないわよ。やってみたかったの。みんながいる
学校にサプライズ」
とんでもないサプライズ。
嬉しくない。
「え?本物は?」
「本物はほら、出張、的な」
的な。
「茜さんかわいかった」
「あら、満月ちゃんほどじゃないわよ。ってか、
よくみんな気付かなかったね」
「はーい。お家帰りますよ」
「お家。それやめてくれる?」
「えっ、ほんとに帰っちゃうの?」
「えぇ。今日まだ学校じゃないから」
俺らは携帯を確認した。
「ごめん。イジった」
「いつからズレてたの?えっ、さっきの生徒たちは?
亜矢は?」
「呼んだらみんな来てくれた。及川昴の姉って言ったら
みんな大人しく言う事聞いたわ」
「みんなは携帯イジって、他のみんなはあたしが
電話してね」
「何でそこまでしたかな」
「夢を叶えるためよ」
夢。
「今何時?」
「まだ6時」
「無駄な早起き」
「えっ、時計もイジったの?」
「そうそう。夏じゃなきゃできないわよね。冬じゃまだ
暗いし」
ずいぶん大掛かりないたずら。
よく学校側も許してくれたこと。
「先生たちには何て言ったの?」
「及川昴の姉って言うだけでみんな優しく聞いてくれた」
「昴くんはもう学校のイメージキャラみたいな」
いつからいたんだか。
「イメージキャラ」
どんなイメージだよ。
「この辺の学校で一番かっこいいでしょうね」
「はぁい。帰りますよ」
「恥ずかしいのねっ」
恥ずかしくねぇわけないだろ。
姉がこんな事やらかして。
「すばるんっ」
「すばるっチ」
すばるんだのすばるっチだの。
「ちょい昴〜っ。ほらっ、白河くんも行くよっ」
「はいっ」
三人も追ってきた。
「うわっ」
「背負ってって?」
「バーカ」
「何よ」
「黙れ」
「すばるーっ」
「バカっ!暴れんな」
「楓ちゃんに言うみたいに優しく言ってよ」
「バッカじゃねぇのオメ」
「何よ」
「いいから黙れバカ女」
「黙れバカ女……ヒドくない?」
どっちがだよ。
「うぅ」
「何今度は」
「頭痛い……」
「えっ、本気?」
「んん……」
「はぁ、帰ったら寝ろ」
「えっ、うち行くの?」
「あぁ」
「ヤメて!昴ん家がいい」
「満月?」
俺は背負ってる満月の顔を見た。
「あ、ごめん……」
「いいよ。俺ん家で」
「すばる……」
あんな必死に止められたら自分の家行くしかねぇよな。
家に何があるんだか……
茜も思ってるだろう。
「ゴホッゴホッ……」
「風邪うつすなよ?」
「しょうがないでしょ」
「はぁ」
本当に20日から大丈夫かな。
「あっ!」
「なに?」
「えっ、俺ん家?」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど……」
「何昴、部屋散らかした?」
これは茜のOKの意味。
「俺様がそんなことするわけねぇだろ」
「俺様だってぇ。引くわぁ〜っ」
「ドン引いたわ」
ドン引いた。
「んだ、あんまり揺らさないで……」
「はぁ?」
「痛いのぉ〜っ」
そんなに、か。
「えっ、ちょ、いい?」
「うん……落ちる……」
「よっ」
俺は背中の満月の体の位置を上げた。
「彼氏も大変ね」
「んっとだよ」
けど俺には、こんな満月がいないとダメなんだよな。
「ハハッ、寝ちゃった」
陽斗が小さな動物でも見ているように言う。
「えっ、満月ちゃん本気だったんじゃないの?」
「は?」
「保健室で言ってたの」
満月……
何で気付かなかったかな。
「はぁ」
「まぁまぁ、帰ったら看病してあげればいいじゃない」
陽斗が笑って言う。
「嫌でもそうなるだろうけど……」
俺らはしばらく歩き、家に着いた。
「保健室行くまでは何があったの?」
「あの教室に来た女に呼ばれて屋上行ってそんでなんか
いろいろあって……」
「うーん。なるほど」
うん。
伝わってないな。
「屋上に行ったってことしか新しい情報がなかった気が
したのはあたしだけ?」
「じゃない?」
あれ。
俺はその声がした方を見た。
「茜かよ」
「かよって何よ」
「あっ」
「ハハッ。今日は誰もいないの?」
「あ?あぁ」
しばらく、いないかな。
その人は。
「あぁ、20日かぁ。嫌だなぁ」
「俺がいんじゃん」
「陽希〜?」
「十分だろ」
「えぇ〜っ」
「後でお仕置きだな」
この辺の人はお仕置き好きなのかな。
「あぁ……」
「おっ、満月」
俺らの視線は全て満月へ。
「ごめん……」
「大丈夫?ゆっくりして」
「あ、茜」
「ん?昴」
「さっき声、どうしてたの?」
「すごいでしょ?あたしの声。頑張って高くしてたの」
茜低いもんね。
「うぅぅ……」
「大丈夫〜?」
「あ、はい……すみません…」
満月が少し辛そうに言う。
「気にすんな」
「気にしないで」
俺らはお互いを見た。
「ハハハッ、仲いいのね」
「もうこれ陽斗いなかったら……」
「大っ変なことになってるわね」
「怖っ。二人って結構本気で行くもんね」
「あったりめぇだろ」
「当たり前でしょ?」
「そのピッタリ感も怖い」
「こんだもん旅行から帰ってきて優しかったら塩撒くべ」
「べ」
「田舎生まれの田舎育ちだから」
「20日から都内かぁ。流行とかついていけないん
じゃね?」
「ついてかねぇし」
「かっけぇ〜っ」
「まぁなぁ〜っ」
俺らはいつまで都内にいることになるのだろうか。
それは彼女の頑張り次第、だな。
俺は空を見た。
「空〜?」
「おっ、陽斗」
「ハハッ」
本当に陽斗の笑顔は癒される。
「綺麗じゃん」
満月がベッドから言う。
「俺の部屋だから」
「はいはい」
いつまでもこうしていたいけど、一番そばにいるべき
人は、こいつらじゃない。
最後は、そばにいてやりたい。
最後は、絶対。
茜と、二人で。
このバカな、ほっとけない女は今日も寝た。
泣いて。
泣き疲れて。
俺はそんなバカ女を保健室へ。
「わっ、昴くん……」
この芸能人でも見たような反応。
面白くてしょうがない。
「あ、どうも……」
この人は男の子大好き。
この学校の男の子のことなら何でも知ってる。
怖い先生。
違った意味でどの先生より怖い。
「どうしたの?」
「いや、何か急に……」
ってことでいいよな。
「あぁ、とりあえずベッド……」
簡単な人。
俺は満月をベッドの上へ。
「えっ?何?どうしたの?」
もう満月のこと気にしてないし。
まぁそれでいいんだけど。
「どうしたんでしょう。何か音がしたと思って見たら……」
「倒れちゃったんだ?」
ちょっと嬉しそうだけど。
こんな人がこういうとこの先生で大丈夫かな。
「まぁ……」
「そっかぁ。うふふっ」
怖い怖い。
何考えてんだろ。
さっきから近いし。
「じゃあ……」
俺はドアの方へ歩いた。
「もう行くの?」
「えぇ」
「そっかぁ。休み時間になったらまた来てあげて?」
私のために。
「はい」
俺は笑って言った。
笑えてた、かな。
あっ……
「昴くん」
「何」
「ふふっ、今日もかっこいいのね」
嬉しくねぇけど。
俺は何も言わずに教室に向かった。
「昴く〜んっ」
この呼び方。
ムカつく。
女って感じ。
満月みたいなのが好きな俺にとってはこういう女の子
らしい子のよさが全くわからない。
「昴くん、今日暇?」
「さあ」
「そっかぁ。残念」
毎回こうしか答えねぇんだからもうよくね?
そして当たり前のように教室までついてきた。
「じゃあね」
木下亜矢の明るいその言葉に俺は何も言わず席に戻った。
「あれっ、彼女さんは?」
「寝た」
「はっ!?」
「深い眠りについてしまった」
「泣かせたんだ」
「勝手に泣いたのな?」
「もう昴に会えない〜って?」
「まぁ、そんな感じ?」
「ふーん」
続かない。
やっぱこういうのは青山コンビ。
あの人、見ないよね。
生徒の携帯。
あの時気付いたってことはバイブは止めてないんだろう。
満月、寝起き頭働かないんだよな。
「どした?」
「あ?いや、満月に言うこと教えてやろうと思うんだけど」
「メールじゃん?」
「さっきもやったら気づいたんだよ」
「いいじゃん」
「見ないよね」
「あの人じゃやりそうだけど。『男の子かもぉ〜』って」
すごい想像つく。
「はぁ」
「満月もそこまでバカじゃねぇだろ」
だといいけど。
『寝ちゃったぁ』とか言いそうだよな。
「あれっ、言ったっけ?」
「え?」
「満月の演技事件」
演技事件。
「いや」
「あいつ女優になれると思った」
そんな?
「あいつ開始5秒で泣ける」
「すげぇな」
「でまた泣き方も上手くてさ。あ、俺らの前で泣いてん
のは本気だよ?さすがになんとなく違うから」
「ふーん。で?何が言いたいの?」
「すいません。いや、だからなんとかしてくれん
じゃねっかなぁと」
「よっく分かんなかったわ」
「俺も思ったわ」
そういえばさっきから……
「陽斗?」
「えっ?」
「大丈夫?」
「うん…」
「満月と一緒に寝とけば?」
「大丈夫だよ?」
「まぁ無理すんな?」
「うん。あんま気にしないで?」
「俺ら優しいからさぁ」
陽希が俺の方に腕をまわす。
「はぁ」
「ハハッ」
「無理なら帰るべ」
「じゃあ俺無理」
「お前はいいんだよ」
「ハハハッ、大丈夫だよ」
「そっか」
陽斗は笑って頷き、前を向いた。
「あっ……」
陽斗?
俺も前を見た。
「あっ……」
陽斗より低い声で言った。
「お前ら何してんだ?」
「お話」
「丁寧」
「大切」
「ハハッ」
「あ、ダメだ」
「大人しくしろ」
別に騒いでたつもりはない。
「は〜い」
「陽希、バカにしてるよな」
「んなこたねぇよ」
んなことしかねぇんだよ。
あれっ、満月もこんな感じだったのかな。
「はーい」
はーい?
『始めます』みたいな一言がない。
それがこいつ。
「はーい及川くーん」
普段名字でなんか呼ばないのに。
「はい」
「これ答えてーっ」
なにこれ。
「えっ、どこ?」
「昴ウケる」
俺ウケられる。
「ここっ」
こうなったら俺のラッキーナンバー。
「6」
「はいっ」
そうなんだ。
この学校の数学は基本6で通用する。
でもなぜ?
全く聞いてなかったし。
「何で?」
「はっ?」
「何でそうなった?」
こっちが訊きたいっすけど。
「昴くんのラッキーナンバー、通用せず」
初体験。
「まぁいいや」
いいんだ。
黙る、最強。
あれっ、俺 数学もダメなの?
数学、運動、国語。
終わったな。
「大丈夫。俺、学校でやること全部できねぇから」
何が大丈夫なんだよ。
「じゃあ今日は終わりぃ」
なんか軽いんだよなぁ。
別にいいけど。
「すばっち」
「すばっち?」
俺は隣の学校でやること全部できない人を見た。
「満月んとこ行くの?」
「あぁ」
「じゃあ白河も」
「陽斗?」
「えっ?」
陽斗は不思議そうに後ろを向く。
「行く?」
「どこ?」
「保健室」
「行く」
珍しく陽希が何か考えてる。
「すばるっチのがかわいいかな」
あ、そんなこと。
「別にかわいさ求めてねぇけど」
「冷たいねぇ」
よーく言われる。
俺らは保健室へ。
「あららっ」
あらら……
「満月ちゃんまだ起きないのよぉ」
だろうな。
「失礼します」
俺らは満月のそばへ。
「ふふっ、お見舞いみたいね」
いつも楽しそうな人。
羨ましいけど。
「んーーっ、あったたた……」
「おはよ」
「あぁぁ……」
「大丈夫?」
「あ、はい……」
満月ゆっくり起き上がった。
そして下を向く。
本当に上手いんだ。
「どっか痛いとこある?」
「大丈夫です……」
もう笑いそうになる。
陽希はそろそろ笑う。
「ハハッ」
「ん?」
やっぱり。
「あ、いや。ゴミ……髪キラッキラしてた」
この人は本当に何もできない。
髪キラッキラとか。
そんな笑うほどついてたら分かるし。
「大丈夫?」
「ちょっと頭痛いかも……」
へぇ〜。
陽斗に訊かれたときに言うのね。
「頭?しばらく休んで?」
なんか可哀想。
「すみません……」
慣れてる。
「熱は?」
「あ、大丈夫です…」
細工できないからね。
お手伝いいく?
俺は満月のおでこを触った。
「わっ……」
「満月ちゃん幸せねっ」
「うん。平熱」
あ、目が。
目がキレてる。
「そう?」
先生も触る。
でもこの人の場合ああ言っておいたほうが。
「熱くなぁい?」
なっ。
「あ、もうほんと大丈夫です……」
そう言ってベッドから降りる満月。
それも先生側に。
「あっ、大丈夫?」
ふらついた。
「いいわよ?今日は帰ったら?」
じゃあ俺が連れてきます。
で帰れたらいいんだけど。
「今日、家、誰もいなくて……」
まさかの。
「そうなの?何でいないの?」
「仕事、忙しいみたいです……」
「そっかぁ」
「じゃあうちで休む?」
「昴……」
「いいっすか?」
「別にいいけど……」
いいんだ。
普通ダメでしょ。
本当にこの人大丈夫かな。
「陽斗たちは…?」
いや、普通そんな辛かったらそんなこと訊かないし。
「いやっ、俺らは……」
「全然いいよ?先生が許してくれればっ」
この学校変すぎるだろ。
「そういえば陽斗も風邪っぽかったよな」
「えっ、大丈夫だよ?」
「じゃあもうみんな帰りなさい」
「いいんですか?」
「普通こんな先生いないでしょうけどね」
えぇ。
あなたが初めてです。
「まぁあたしだからねっ」
「えっ?」
「メイクってすごいわよねぇ。そっくりじゃない?」
なんか聞いたことある声。
「あか姉で〜す」
なんか今日おかしいことばっかだし。
「夢?」
「夢じゃないわよ。やってみたかったの。みんながいる
学校にサプライズ」
とんでもないサプライズ。
嬉しくない。
「え?本物は?」
「本物はほら、出張、的な」
的な。
「茜さんかわいかった」
「あら、満月ちゃんほどじゃないわよ。ってか、
よくみんな気付かなかったね」
「はーい。お家帰りますよ」
「お家。それやめてくれる?」
「えっ、ほんとに帰っちゃうの?」
「えぇ。今日まだ学校じゃないから」
俺らは携帯を確認した。
「ごめん。イジった」
「いつからズレてたの?えっ、さっきの生徒たちは?
亜矢は?」
「呼んだらみんな来てくれた。及川昴の姉って言ったら
みんな大人しく言う事聞いたわ」
「みんなは携帯イジって、他のみんなはあたしが
電話してね」
「何でそこまでしたかな」
「夢を叶えるためよ」
夢。
「今何時?」
「まだ6時」
「無駄な早起き」
「えっ、時計もイジったの?」
「そうそう。夏じゃなきゃできないわよね。冬じゃまだ
暗いし」
ずいぶん大掛かりないたずら。
よく学校側も許してくれたこと。
「先生たちには何て言ったの?」
「及川昴の姉って言うだけでみんな優しく聞いてくれた」
「昴くんはもう学校のイメージキャラみたいな」
いつからいたんだか。
「イメージキャラ」
どんなイメージだよ。
「この辺の学校で一番かっこいいでしょうね」
「はぁい。帰りますよ」
「恥ずかしいのねっ」
恥ずかしくねぇわけないだろ。
姉がこんな事やらかして。
「すばるんっ」
「すばるっチ」
すばるんだのすばるっチだの。
「ちょい昴〜っ。ほらっ、白河くんも行くよっ」
「はいっ」
三人も追ってきた。
「うわっ」
「背負ってって?」
「バーカ」
「何よ」
「黙れ」
「すばるーっ」
「バカっ!暴れんな」
「楓ちゃんに言うみたいに優しく言ってよ」
「バッカじゃねぇのオメ」
「何よ」
「いいから黙れバカ女」
「黙れバカ女……ヒドくない?」
どっちがだよ。
「うぅ」
「何今度は」
「頭痛い……」
「えっ、本気?」
「んん……」
「はぁ、帰ったら寝ろ」
「えっ、うち行くの?」
「あぁ」
「ヤメて!昴ん家がいい」
「満月?」
俺は背負ってる満月の顔を見た。
「あ、ごめん……」
「いいよ。俺ん家で」
「すばる……」
あんな必死に止められたら自分の家行くしかねぇよな。
家に何があるんだか……
茜も思ってるだろう。
「ゴホッゴホッ……」
「風邪うつすなよ?」
「しょうがないでしょ」
「はぁ」
本当に20日から大丈夫かな。
「あっ!」
「なに?」
「えっ、俺ん家?」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど……」
「何昴、部屋散らかした?」
これは茜のOKの意味。
「俺様がそんなことするわけねぇだろ」
「俺様だってぇ。引くわぁ〜っ」
「ドン引いたわ」
ドン引いた。
「んだ、あんまり揺らさないで……」
「はぁ?」
「痛いのぉ〜っ」
そんなに、か。
「えっ、ちょ、いい?」
「うん……落ちる……」
「よっ」
俺は背中の満月の体の位置を上げた。
「彼氏も大変ね」
「んっとだよ」
けど俺には、こんな満月がいないとダメなんだよな。
「ハハッ、寝ちゃった」
陽斗が小さな動物でも見ているように言う。
「えっ、満月ちゃん本気だったんじゃないの?」
「は?」
「保健室で言ってたの」
満月……
何で気付かなかったかな。
「はぁ」
「まぁまぁ、帰ったら看病してあげればいいじゃない」
陽斗が笑って言う。
「嫌でもそうなるだろうけど……」
俺らはしばらく歩き、家に着いた。
「保健室行くまでは何があったの?」
「あの教室に来た女に呼ばれて屋上行ってそんでなんか
いろいろあって……」
「うーん。なるほど」
うん。
伝わってないな。
「屋上に行ったってことしか新しい情報がなかった気が
したのはあたしだけ?」
「じゃない?」
あれ。
俺はその声がした方を見た。
「茜かよ」
「かよって何よ」
「あっ」
「ハハッ。今日は誰もいないの?」
「あ?あぁ」
しばらく、いないかな。
その人は。
「あぁ、20日かぁ。嫌だなぁ」
「俺がいんじゃん」
「陽希〜?」
「十分だろ」
「えぇ〜っ」
「後でお仕置きだな」
この辺の人はお仕置き好きなのかな。
「あぁ……」
「おっ、満月」
俺らの視線は全て満月へ。
「ごめん……」
「大丈夫?ゆっくりして」
「あ、茜」
「ん?昴」
「さっき声、どうしてたの?」
「すごいでしょ?あたしの声。頑張って高くしてたの」
茜低いもんね。
「うぅぅ……」
「大丈夫〜?」
「あ、はい……すみません…」
満月が少し辛そうに言う。
「気にすんな」
「気にしないで」
俺らはお互いを見た。
「ハハハッ、仲いいのね」
「もうこれ陽斗いなかったら……」
「大っ変なことになってるわね」
「怖っ。二人って結構本気で行くもんね」
「あったりめぇだろ」
「当たり前でしょ?」
「そのピッタリ感も怖い」
「こんだもん旅行から帰ってきて優しかったら塩撒くべ」
「べ」
「田舎生まれの田舎育ちだから」
「20日から都内かぁ。流行とかついていけないん
じゃね?」
「ついてかねぇし」
「かっけぇ〜っ」
「まぁなぁ〜っ」
俺らはいつまで都内にいることになるのだろうか。
それは彼女の頑張り次第、だな。
俺は空を見た。
「空〜?」
「おっ、陽斗」
「ハハッ」
本当に陽斗の笑顔は癒される。
「綺麗じゃん」
満月がベッドから言う。
「俺の部屋だから」
「はいはい」
いつまでもこうしていたいけど、一番そばにいるべき
人は、こいつらじゃない。
最後は、そばにいてやりたい。
最後は、絶対。
茜と、二人で。
