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何でこんな時に。

風邪?

最近濡れることが多かったから?

いや、夏だし。

こんなんじゃ昴が20日から心配じゃん。

『心配なんかしねぇし』とか言いそうだけど。

けど、内心絶対。

昴はそういう人。

いつも自分のことより人のこと、あたしのこと。

「ゲホッゲホ……」

「大丈夫かよ」

「大丈夫大丈夫。気にしないで」

なんて言っても気にするのはやめないだろうね。

昴はそういう人。

「ん」

昴がペットボトルをあたしに渡す。

「ん?」

「落ち着いたら飲め」

「ありがと……」

こういう細かい優しさやめてほしい。

これで20日から一人でしょ?

何であたしを一人にするかな。

やっぱり昴もバカ。

時間、正しい時間は7時半。

あれからだいぶ経ったね。

頭痛はひどくなってる気がするけど。

「昴……」

「ん?」

「ごめん……」

「いいから」

この少し冷たい言い方。

いつから昴をこんなふうに見るようになったんだろう。

どうしよう。

これが、好き?

まさかのあたしの初恋かも。

あれっ、前もこんなこと考えた気がする。

「昴……」

「ん?」

「今は、今はそばにいて……」

今だけでいい。

20日からは頑張れるから。

20日からは、陽希と陽斗、夏月がいれば大丈夫なくらい
強くなるから。

「人懐っこいやつだな」

「昴だから」

「えっ?」

「昴だから、こんなにそばに、一緒にいたいの」

「満月……」

「大好きなんだね。こんなんならいくらでもいると思うんだけど」

あたしは茜さんの言葉に首を振った。

昴だけ。

こんなに一緒にいたいの。

こんなにそばにいてほしいの。

今までかなりの男の子と関わってきたけど、そんなのは
昴だけだった。

「20日から、ごめんね」

茜さん……

あたしはもう一度首を横に振った。

「きっと、すぐ帰ってこれるからさ……」

茜さんが悲しそうに言った。

「茜さん……」

「ふふっ、だから、少しだけ待っててね」

あたしは頷いた。

笑顔で。

そう。

昴はすぐに帰ってくる。

冬じゃないから。

北じゃないから。

「ふふっ」

「満月?」

「ううん。何でもないよ」

寒がり王子ね。

かわいい。

頼りになるんだかならないんだか分からない人。

いや、なるよね。

あたし、今まで何度も昴に助けられた。

昴はあたしにかなりの勇気と自信をくれた。

陽斗を忘れようとした、あの日も。

今のあたしはあの時の自分を忘れようとしてる。

「大丈夫?」

茜さんが心配そうに言う。

「えっ?」

「すごい辛そうだけど……」

えっ、あんなこと考えたから?

嘘でしょ。

「大丈夫ですよ?」

「無理しないでね。何かほしい物ある?」

「大丈夫です」

「何かあったら言って?」

茜さんはそう言って部屋を出た。

「茜も満月のことは心配すんだよなぁ」

昴がすごく不思議そうに言った。

「えっ?」

「いやさ、俺にはあんななのに満月にはすげぇ優しい
じゃん?この差は何なんだろうなぁって」

えっ、それ真剣に考えてるの?

「っかしいなぁ〜っ。人によってあんなに変わる?」

嘘でしょ。

そんな本気に考えてるの?

「まぁ、あいつのことは一生分かんねぇだろうな」

一生、か。

あたしたちもいつか……

なのになんで辛いことも起こるんだろうね。

一回だけの人生。

楽しいことだけでいいのに。

そんな辛いことも起こる世界で、いかに楽しく過ごすか。

難しいね。

人間が絶対分からないこと。

きっと。

「満月、大丈夫?」

「あたしは大丈夫。昴こそあたしがいないと心配なん
じゃない?」

「んなことねぇし。お前が何をやらかすかは心配だけどな」

「はぁ?何よそれ……ゲホッゲホ……」

「大人しくしてろ」

「大人しくさせろ」

「ハハハッ」

昴は笑いながらあたしの背中を叩いてくれる。

ちょっとバカにしながら。

けどこれが及川 昴という王子様。

「はぁ〜っ、もう大丈夫」

「ハッハッハッ」

笑われてるよ。

「あの、俺らはどこにいたらいいっすかね」

腕を組んで呆れたように言う陽希とその隣で笑ってる
陽斗。

「えっ、あっ…」

「二人になります?」

「あ、いや……」

「本当に仲いいんだね。俺にはそんな幼馴染いない」

「もちろん彼女もな。いたこともないし」

「こんな元気じゃなかったからでしょ?今みたいなら
何人でも作れるわよっ!」

「ふーん」

陽希は陽斗の顔を覗き込んだ。

「えっ?何?」

「いや、俺そっくりだな」

「は?」

「ハハハッ」

陽斗、どんどん陽希に似てきてる。

『大人しい方が陽斗だから』

そんな頃から大人しかったんだ。

いつからあんなふうに?

「まぁ俺より全然大人しいわな」

「陽希より賑やかな人はいないわよ」

「昴は?」

「俺様は王子様だから。アイドルはもっと明るいだろう
けど」

え、違うの?

王子様とアイドルって。

存在は同じでしょ?

「王子様もアイドルもおんなじだろ」

「いやいやいや、何っか違うじゃん」

「いや、分っかんない」

あたしも。

「まぁ、分かんないよ。あたしたちには。
昴説明できないから」

「国語もダメだもんな」

「えっ?も?」

「こいつ数学もダメだった」

こいつ。

昴のこと大好きなくせに。

「学校でやること何もできない人が俺様のことディスるんじゃないの」

ディスる。

「ディスるって何?」

「あの、昴説明できないから」

「あぁ、そっか」

「納得すんなよ」

「納得できちゃった。ごめんね?」

「ったく」

昴って怒るのかな?

「ねぇ昴?」

「何さ」

「昴って怒るの?」

「常に怒ってんじゃん」

「あ、そうか」

「だから納得すんなよ」

「あぁ、ごめん」

「見たことないかも。昴が怒ってるの」

だよね。

あたしも見たことない。

「そんなにないからなぁ」

「そんなに?」

「ほら、常に怒ってるから」

「ぶっとばす」

「ほらっ」

ほら。

「ったく。あ、満月大人しくしとけ」

「暴れちゃいないわよ?」

「暴れちゃいかんって。家壊れちゃう」

「どんだけ家弱いのよ」

「いやさ、壁が薄いんだかすごいんだよねぇ」

「あっ、前夜中に業者ごっこしてたよな」

夜中に業者ごっこ。

ごっこ。

「何それ?ウケる」

「ウケられた」

「前俺らが泊まったとき、夜中に突然壁叩きだしたん
だわ」

「狂っちゃった?」

「みたいに」

「いや、あれは、原因が……」

「いいよ。国語もダメなんだから」

あたしは少し『も』を強調した。

「後でお仕置きな」

「茜さんといい昴といい。お仕置き好きね」

「あっ……」

「かわいいねぇ。子供の頃どんなだったのよ」

「今も成人じゃねぇけどな」

まぁ、そうなんだけどさ。

「しょうがねぇから写真見せてやるよ」

「自信あるのねぇ〜っ」

「我が家はこの辺の癒やしスポットになったからな」

嘘でしょ。

昴に癒やされるためにこの家に来る人がいたとでも言うの?

「ほれ」

昴が渡した写真にはとてもかわいい男の子が写っていた。

「昴?」

「昴の子供の頃見たいんだろ?昴渡すだろ」

いや、そうなんだけど。

「超かわいい。変わんないねぇ、昴くん」

「くんヤメろ。何度言ったら分かる」

「分からなぁい」

「ったく」

こんなだったんだ。

すごいかわいい。

「あれっ」

「ん?」

「この隣の」
「茜」

相変わらず返事が必要以上に早いのね。

「はぁ〜っ。みんなかわいいのね」

「俺の姉だから」

あたしたちは昴を見た。

そんなこと言うんだ。

こういうのは陽希じゃないと流せない。

「ハハハッ。に、似てんべ」

べ。

「そっくり」

この頃から綺麗な顔してるのね。

だもん今は学校の王子様だわ。

「昴、気を付けてね?」

「え?」

「スカウトされちゃうかもよ?」

「何言ってんだオメ」

「それ何回言えば気が済むわけ?」

「気が済むことはねぇだろうな」

「何よっ。ったく」

「男同士みたい」

「はぁ?」

「ほらほら、女の子がそんなこと言わないのっ」

女の子ねぇ。

男の子でいいんだけど。

「満月もかわいいのにもったいないよ?」

「は?何言ってんだオメ」

「事実」

もうヤメて。

今どれだけ顔赤いだろう。

暑い。

風邪、治るかな。

いや、悪化するか。

これは。

「りんごみたい」

「形はいちごだけどな」

いちご。

可愛いのばっかりだしてきて。

りんごだの いちごだの。

「つーかいちごとか。ちっさすぎでしょうよ」

「近いもんはあるよ?」

「もーヤメろ。もーお十分だべ」

「あ、満月も『べ』が付いた」

「あっ……」

「はぁい。寝てください?治りませんよ?」

昴があたしを寝かせた。


もう治らなくてもいいよ。

これで、昴とずっといっしょにいられるなら。

20日以降も、昴といられるなら。

昴……ずっと一緒にいたいよ。

そばにいたい。

いつか、あたしのこの夢を叶えて。


やっと恋愛要素が帰ってきました。
<2016/07/25 13:56 秋の空>消しゴム
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