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大丈夫


『あたしたちって、何?』

『昴にとって、あたしは何?』

考えたこともなかった。

いつも、気付けばそばにいたから。

そばにいるのが当たり前になっていた。

当たり前の事なんて、ないのに。


俺は廊下に出た。

「及川さん……」

俺に声をかけたのは陽斗だった。

「どうした?」

「いや、どこ行くのかなって……」

「上行こうかな。行く?」

「じゃあ、行こっかな」

陽斗はかわいく笑った。





「いつも来てるの?」

「ここなら誰も来ねぇからな」

「そっか。及川さんも人と関わるの嫌い?」

初めて訊かれた。

「まぁ、好きじゃねぇかな」

「やっぱり。似てるとこありそう」

俺は陽斗を見た。

陽斗は俺と目を合わせて軽く笑い、空を見た。

「及川さん、そんなに強い人じゃないよね」

「え?」

「弱いってわけでもないけど、意外と傷つきやすいって
いうか」

「ハハッ。よく見てんな」

「見てなくても分かるよ。及川さんが、すごい綺麗な心の持ち主ってことは」

「ハハッ、面白いやつだな」

「及川さんたちほどじゃないけどね。
三人のこと見てると、なんか落ち着くんだっ」

「いくらでも見てろ」

それで、陽斗が落ち着くなら。

少しでも笑顔になれるなら。

「及川さんと満月って、本当にただの友達なの?」

「と思ってる」

「満月も言ってた。でも、俺が見た感じだと、二人その
うち何かあるよ」

何か。

陽斗みたいな人が言うと怖い。

陽斗は付け加えるように笑って言った。

「いい意味でね」と。

「ひとつ、いいか」

「ん?」

「無理に笑うな」

陽斗は少し驚いた顔で俺を見た。

「笑いたくない時は笑わなくていい。笑いたい時だけ
笑え」

「及川さん……」

「ハハッ。人生一回だけだぜ?無理して笑う人生より
本気で笑う人生のが楽しいだろ」

「及川さん、何かあった?」

「何にもないよ?」

ただ、陽斗の笑顔が、あの時のあいつに似てただけ。

中学の頃の、あいつに。

今あいつは笑えてるだろうか。

「そろそろ戻る?」

「だなっ」

俺らはゆっくり起き上がり、教室に向かった。





教室に戻ると、室内はやたら騒がしかった。

「どーしたの?これ」

俺は教室内を見渡して言った。

「なぁんか噂話で盛り上がってるらしいよ?」

満月が少しバカにしたように言う。

「転校生だってさ」

「ふーん」

こんな時期に転校生、か。

俺と陽斗は席についた。

「こんな時期に転校生なんて珍しいよね。高3でだよ?」

「あいつかもなっ」

「んなまさかっ。ハハッ。んなわけないでしょ」

「だよなっ」

あいつは都内に行った。

俺らはこの田舎に。

「え?いつ来んの?」

「ハハハッ、昴ったら気になんの?」
「別に」

「何でそんな早く答えるかな」

「及川さん、特技なのかもね」

「変な特技ですこと」

「ハハッ」

二人は前を向いた。

「転校生、かっこいいといいね」

「こんなとこにイケメンなんていないよ〜」

「そっか」

「ってか男の子なの?」

「え?女の子?この学校の女子は怖いよ〜?」

やっぱ女、めんどくさい。

男に産んでくれた母親に感謝。

「早く終わんないかなぁ。もー疲れたぁ」

「んじゃ帰っちまえ」

「なんっか冷たいのよね」

「俺はこういう人だ。性格は変わらない」

「ほんっとに現実的」

「あんまり夢見てても、現実に帰ってきた時がね」

陽斗の発言はいちいち気になる。

というか、心配になる。

「でぇもあの後ろの男みたいに現実ばっか見てても
つまらんよ?」

夢の世界か。

そんなところで過ごせたらどんなにいいだろうか。

俺は視線を窓の外に。

「天国ってどんなところなんだろうね」

「陽斗…?」

「ハハッ」

白河 陽斗。

彼は一人にしてはいけない。

それこそ、何をするか……

「本当にみんなに会えてよかった」

「陽斗、どうした?」

満月が心配そうに訊く。

「俺、変わったんだ。今日、この一日だけで」

変わった。

「初めて、この人にはそばにいてほしいって思ったの」

満月は陽斗を抱きしめた。

「大丈夫。あたしたちはずっと陽斗のそばにいるよ」

「こんなに優しくされたの初めてだからなんか不思議。
その前にこんなに人と関わったことがないからね」

「これからいろんなことしようね。
楽しいことも、辛いことも。どんな時もあたしたちが
いるから」

「満月…」

「ふふっ。陽斗大好き!」

「ずっとそばにいて」

「もちろんだよ。あっそうだ、ちょっとごめんね?」

そう言って満月は陽斗から離れた。

そして紙に何かを書く。

「はいっ。いつでも連絡して」

早いねぇ。

「ありがと」

そう言って陽斗も。

「俺にも、いつでも連絡して」

「分かった」

俺もノートの一部を切り、連絡先を書いた。

「じゃあ俺のも」

「及川さん」

陽斗忙しいね。

「あれっ」

「何」

「あたし陽希の知ってるっけ?」

「いや、お前が知らねぇこと俺ら知らねぇし」

「あれ〜? って、陽希は?」

俺は隣の席を見た。

「いない」

「どーこ行ったんだろ」

全然心配してないし。

「はい。あ、多分 陽希、屋上じゃない?」

「屋上、好きなの?」

「及川さんみたいでしょ」

「そっくり」

屋上。

大丈夫……だよな。

俺はなんとなく心配になり、屋上に向かった。





俺は今までにないくらい緊張して屋上のドアを開けた。

「えっ……」

何で閉まってたの?

あれっ、やっぱこの学校変だ。

屋上自由に出入りできるとか。

ゆるい。

あ、そうだ陽希だ。

「陽……希?」

「ん?あ、昴じゃん」

陽希は笑って振り向いた。

「陽希……」

「どーした?」

「いや、教室にいなかったから……」

「昴に心配させるとか俺天才かも」

「はるき……」

「昴?マジどうした?」

「ふぅ〜っ。何でもない」

「そう……」

俺は陽希の隣へ。

「何かあったか?」

「別に?」

「いや、珍しいじゃん?陽希がんなとこ来るなんて」

「なんとなく来てみたかったんだよねぇ。
昴みたいでかっこいいかなって」

陽希は笑って言った。

「ハハッ。んだそれ」

「昴って男にも人気だもんな」

「陽希もじゃん」

「昴ほどじゃねぇよ。
だから俺、及川昴として一日を過ごしてみたい」

「いやいや、怖えし」

「女子はみんなそう思ってるぜ?」

「お前は男だろ」

「まぁな〜」

陽希、何があった。

さっきから目が合わない。

陽希は何かを隠してる時や心配してる時は目が合わない。

素直なやつ。

「なぁ陽希」
「あのさ」

やっと目が合った。

「陽希、いいよ」

「満月、何かあったのかな」

「満月?」

「なんか最近違くねぇか?」

「俺は思わなかったけど」

「そっか……あ、昴は?」

「何隠してる」

「は?」

「って言いたかっただけ。もう聞けたからいい。
んじゃあ、先戻ってるわ」

「おぉ」

『満月、何かあったのかな』

『最近違くねぇか?』

満月……

陽希でも気付いた満月の変化に俺は全く気付かなかった。





「満月っ」

「及川くん」

教室には陽斗しかいなかった。

「陽斗、満月は?」

「なんか『ちょっと行ってくる』ってどっかに……」

「マジか……みんなは?」

「気付いたらいなかった」

「あっ、マジか……」

「あっ!」

「あ?」

「満月、電話かかってきてた」

電話……

「『今行く』って言って切ってたけど……」

今行く……

急用か。

「そう言った満月の様子は」

「慌ててたっていうか、ショックっていうか……」

「そっか……」

「及川くん、どうしたの?」

「陽希が言ってたんだよ。満月が最近違うって。
で、戻ってきたら……って感じ?」

「そっか……」

陽斗は何かを考えている。

多分、俺と同じこと。

 
電話、急用、ショック。

「そこかっ!」

俺は教室を飛び出した。

「及川っ!」

それを陽斗が呼び止める。

「陽斗?」

俺は振り返った。

「俺らは関わることじゃない」

「陽斗……」

「あっ、ごめん……」

俺は教室に戻った。

「フッ、んっとに優しいやつなんだな」

「えっ?」

「だいったいのやつは俺みたいに行くだろうに」

「ただ……ただ自信がないだけ……」

陽斗は下を向いた。

「俺が行ったところで変わらないって、諦めてるだけ……」

「陽斗?」

「まぁ、俺なんてこんなもんよ」

「バーカ。無理に笑うな」

「及川……」

俺は陽斗に笑顔を見せた。

陽斗も笑った。

自然に。

「あぁーっ!疲れたぁ!超無駄に走ったわ」

「満月っ!」

俺と陽斗の声が同時に言う。

「あぁ、んもーさ、ビックリよ」

「いや、あの」

「落ち着けって。なっ?」

「十分落ち着いてるわよ」

そう見えないのは俺だけだろうか。

「はぁ〜っ。あのさ、ちょ、愚痴いい?」

「どうぞ?」

「愚痴って感じかはわかんないけど」

「もういいから、何?」

「さっきさ、電話あってお母さん倒れたっつーから急いで行ったわな?したらまさかの貧血か寝不足だってよ」

満月、怖い。

「ハハハッ。よかったじゃん。
何ともなかったんでしょ?」

「そぉーだけどさぁもっとこう、分かってからで
よくない?」

「まぁまぁ、イライラすんなって」

「んもぉーっ!超心配したんだから……」

満月……

やっぱ何かあったんだろうか。

「何かあった?」

優しく訊く陽斗。

「お母さん、最近調子よくなかったから」

「そりゃ心配するよね。お疲れ」

陽斗、優しすぎ。

俺にはできないだろう。

「はるとぉ〜っ」

「ん?」

満月は陽斗に抱きつき、泣いた。

ふと廊下を見ると、陽希がいた。

これだいぶ誤解するやつだよね。

いつからいたか知らないけど。

俺は陽希のところへ。

「満月、やっぱ何かあったのか?」

「いや、さっきお母さんが倒れたって聞いたらしくて」

「はぁっ……」
「しっ!」

俺は陽希の口を塞いだ。

「わりぃ」

「んで行ったら貧血か寝不足って言われたらしくて。
安心したんだろうな」

「ほーん」

どうか、本当に何もないことを願う。





「あっ、陽希」

「満月。お疲れ」

「ふふっ。陽斗も言ってくれた」

満月は涙を拭いながら言った。

「優しい兄弟かぁ。俺も欲しいぜぃ」

「昴のお姉さん優しいよ?」

「わっかんない。お前はまだ彼女の本性を知らない
だけだ」

「本性」

あれのどこが優しいのかわからない。

よく言われるけど。










そして今日も無事に長い学校の一日が終わった。

夕陽に照らされ、俺と白河兄弟はそれぞれ自分の家に、
満月は病院に向かった。

明日の満月が、元気でありますように。

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