あたしの風邪が完璧に治ったのは、昴が都内へ行く
一日前の今日。
「よし。これなら行っていいだろ」
「だよね!もういいよねっ?」
「フッ、あぁ」
夏月、本当に弟っぽくない。
「夏月〜っ!」
あたしは夏月に抱きついた。
「うわっ、んだよ」
「うっふふ」
「だから笑い方が怖えんだって」
今まで何回も言われた。
「これで昴と会えるねっ」
「昴さんねぇ。何があったんだろ」
「ねぇ」
最近家にも呼んでくれなくなっちゃったし。
どうしたんだろ。
「都内かぁ。本当に気を付けてもらわないとね」
「満月は昴さんの何を心配してるの?」
「だって!あんだけかっこよかったら……」
「あんなかっこよかったら?」
「何でもないわよ」
「何恥ずかしがってんのさ。自分から言ったのに」
本当。
何でこんな急に。
「あぁ、陽希さんたちもよかったね」
「ん?」
「いろいろ大変だったじゃん。直ったんでしょ?」
「あ、そうなんだ」
初めて聞いたんですけど。
高校生でねぇ。
あたしたちも結構すごい高校生だよね。
交通量の多い道路に飛び込んだり、襲われたり。
それも全部あの夏休み前から夏休み中であったこと。
忘れられない夏休みだよね。
「あ、今日は大人しくしとけよ?」
「えぇ、今日も?」
「また引いたらどうすんだよ。俺は別にいいけど元気に
見送りてぇだろ」
夏月……
本当に大人な子。
あたしも見習わないと。
「あぁーっ!」
昴がもういなくなっちゃうのか。
教室で、後ろを向いても昴がいない。
先生と喧嘩しそうになっても椅子を蹴られない。
何かが落ちてもシャーペンで突かれない。
あれっ、優しさだけど結構ヒドいことされてない?
椅子蹴られたり突かれたり。
なんとなくヒドいし。
でも、やっぱりそんな昴、及川昴が大好き。
もう明日から、あの声も聴けない。
あの温もりを感じることも、あの安心感もなくなる。
ねぇ昴、あたしはあなたがいないこの田舎でどう過ごせばいいの?
昴がいない生活を考えたら涙が出てきた。
「満月?」
「あっ……なつき…」
「大丈夫。昴さんだよ?すぐ帰ってくるよ。満月を一番に考えてる、昴さんなら」
あたしは夏月が優しく言ってくれたその言葉に何度も
頷いた。
「もちろん昴さんみたいな存在にはなれないけど、
俺も、陽希さんも陽斗さんもいるから」
そうだよ。
あたしには昴だけじゃない。
何でそんな大切なこと忘れちゃうの?
あたしは一人じゃないじゃん。
周りにいっぱいいるじゃん。
「いいよ。今日は泣け。明日は、泣かないんだろ?」
夏月はあたしを優しく抱きしめてくれた。
そう。
あたしは決めたの。
明日は絶対に泣かないって。
絶対昴に心配させないって。
昴のことを考えて泣くあたしを、何も言わずに、そのまま優しく支えてくれてた夏月。
本当、家族とは思えないような仲。
「まぁた熱上がんぞ?」
何も言わずに、なんてこともなかった。
けどこれも、あたしを思っての言葉。
「帰ってくるよね?無事に。また話せるよね?また、
また……」
また五人でのあの時間は、流れるよね。
そう言おうとすると、涙が勢いを増す。
「すばる……」
「いいよ。難しいけど、昴さんだと思って泣け」
今のあたしには、とても簡単なことかもしれない。
「すばる……」
「大丈夫。絶対帰ってくるから」
そう。
昴は絶対。
絶対帰ってくる。
茜さんと、一緒に。
絶対。
「すばる」
「一人にしないよ?あの人は」
「また、バカ女って言ってくれる?」
「んなこと言わせてんだ」
あたしは頷いた。
「言ってくれるよ。絶対。昴さんだよ?昴さんのこと、
信じてるでしょ?」
『いいんだよ。心配させて。陽希のこと、信じてる
でしょ?』
いつか、あたしが陽斗に言った言葉。
それとなんとなく重なった。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
あたしは少し離れた。
「あっ、夏月……ごめん」
「そんな本気で思われちゃうと大変だね」
夏月は笑って言った。
なんとなく、陽斗と似たような笑顔で。
だから夏月のこともこんなにかわいいと思うのかな。
逆?
いやいや。
「おつかれ」
「えっ?」
「泣くのって疲れるでしょ」
夏月はそう言って部屋を出た。
少しして戻ってきた。
ペットボトルを持って。
「はい」
「ありがと」
こういうところは昴にそっくり。
昴にも、陽斗にも似てるあたしの大切な弟。
一度も、守れたことはないけど。
守ってもらってばかり。
あと、これも昴と同じ。
勇気と自信をくれた。
「大丈夫。満月なら待ってられるよ」
「バカ。もうヤメなさい」
「今泣きたくなった?」
「かなり」
「じゃあまだ足りてないんだ」
「えっ?」
「まだ泣きたいなら泣いて?明日大泣きすっかもよ?」
それは困る。
けど、もう夏月には十分迷惑かけた。
あとは一人で泣く。
泣かないことはできなそうだから、誰もいないところで、一人でこっそりと。
その時、いつもより少し小さな手で頭を触られる。
顔を上げると夏月がいた。
「俺は大丈夫だから。もう慣れてる。満月に迷惑
かけられんのなんて」
「結局迷惑なんじゃん」
「冗談だ。気付きやがれ。バカ女」
昴みたいだった。
あの、『バカ女』の言い方。
あたしは夏月を見つめた。
「なになに?呪われるの?」
あたしは笑顔で首を振った。
「似てたの。昴に」
「昴さんに?」
夏月は少し嬉しそうに言った。
夏月も大好きだもんね。
あたしのために病院に来た時も。
芸能人がそこにいたみたいに喜んでて。
『どの辺にいた?』
みたいな。
かわいかったな。
「そっくりだったよ。『バカ女』の、バカの強調具合
とか、『女』の独特な声も、なんとなく」
夏月はすごい嬉しそうに笑った。
それが、どっちの意味でかは分からないけど。
『昴さんに似てるんだ』っていう感じか、
『俺も昴さんの代わりになれるかも』って感じか。
夏月ならどっちもあり得る。
「本当に頼れる弟」
「え?」
「すごいしっかりしてる。あたしなんかより、全然」
「満月よりしっかりしてるなんてこたねぇよ」
あたしは夏月を見た。
「満月は、強いから。俺はそんなに強くない。そんなに、強く生きられない」
「夏月っ!」
あたしはベッドから立ち、夏月に抱きついた。
「夏月は強いよ。もうすでに。あたしより、ずっと」
「いつか、そうなれたらいいけど」
もうなってるんだってば。
分かってないんだね。
もう十分なんだよ。
「夏月」
「満月?」
「ずっといてくれる?」
「ん?」
「そばに。そこは、昴に似ないで」
「みづき」
「あたしには、夏月が一番近い人だから」
「行かないよ。行けないよ。俺がひとり嫌いなの、よーく知ってんべ?」
べ。
どいつもこいつも。
「知ってるよ。だから、あたしのところ、たまには
来てね?」
「満月が寂しいの?」
「バカっ!んなことないわよ」
あたしは恥ずかしくなって水を飲んだ。
「ハハッ、素直じゃねぇな」
よく言われます。
「おもしれぇやつ」
それもよく言われます。
あたしはもう一度布団をかぶった。
夏月に笑われながら。
一日前の今日。
「よし。これなら行っていいだろ」
「だよね!もういいよねっ?」
「フッ、あぁ」
夏月、本当に弟っぽくない。
「夏月〜っ!」
あたしは夏月に抱きついた。
「うわっ、んだよ」
「うっふふ」
「だから笑い方が怖えんだって」
今まで何回も言われた。
「これで昴と会えるねっ」
「昴さんねぇ。何があったんだろ」
「ねぇ」
最近家にも呼んでくれなくなっちゃったし。
どうしたんだろ。
「都内かぁ。本当に気を付けてもらわないとね」
「満月は昴さんの何を心配してるの?」
「だって!あんだけかっこよかったら……」
「あんなかっこよかったら?」
「何でもないわよ」
「何恥ずかしがってんのさ。自分から言ったのに」
本当。
何でこんな急に。
「あぁ、陽希さんたちもよかったね」
「ん?」
「いろいろ大変だったじゃん。直ったんでしょ?」
「あ、そうなんだ」
初めて聞いたんですけど。
高校生でねぇ。
あたしたちも結構すごい高校生だよね。
交通量の多い道路に飛び込んだり、襲われたり。
それも全部あの夏休み前から夏休み中であったこと。
忘れられない夏休みだよね。
「あ、今日は大人しくしとけよ?」
「えぇ、今日も?」
「また引いたらどうすんだよ。俺は別にいいけど元気に
見送りてぇだろ」
夏月……
本当に大人な子。
あたしも見習わないと。
「あぁーっ!」
昴がもういなくなっちゃうのか。
教室で、後ろを向いても昴がいない。
先生と喧嘩しそうになっても椅子を蹴られない。
何かが落ちてもシャーペンで突かれない。
あれっ、優しさだけど結構ヒドいことされてない?
椅子蹴られたり突かれたり。
なんとなくヒドいし。
でも、やっぱりそんな昴、及川昴が大好き。
もう明日から、あの声も聴けない。
あの温もりを感じることも、あの安心感もなくなる。
ねぇ昴、あたしはあなたがいないこの田舎でどう過ごせばいいの?
昴がいない生活を考えたら涙が出てきた。
「満月?」
「あっ……なつき…」
「大丈夫。昴さんだよ?すぐ帰ってくるよ。満月を一番に考えてる、昴さんなら」
あたしは夏月が優しく言ってくれたその言葉に何度も
頷いた。
「もちろん昴さんみたいな存在にはなれないけど、
俺も、陽希さんも陽斗さんもいるから」
そうだよ。
あたしには昴だけじゃない。
何でそんな大切なこと忘れちゃうの?
あたしは一人じゃないじゃん。
周りにいっぱいいるじゃん。
「いいよ。今日は泣け。明日は、泣かないんだろ?」
夏月はあたしを優しく抱きしめてくれた。
そう。
あたしは決めたの。
明日は絶対に泣かないって。
絶対昴に心配させないって。
昴のことを考えて泣くあたしを、何も言わずに、そのまま優しく支えてくれてた夏月。
本当、家族とは思えないような仲。
「まぁた熱上がんぞ?」
何も言わずに、なんてこともなかった。
けどこれも、あたしを思っての言葉。
「帰ってくるよね?無事に。また話せるよね?また、
また……」
また五人でのあの時間は、流れるよね。
そう言おうとすると、涙が勢いを増す。
「すばる……」
「いいよ。難しいけど、昴さんだと思って泣け」
今のあたしには、とても簡単なことかもしれない。
「すばる……」
「大丈夫。絶対帰ってくるから」
そう。
昴は絶対。
絶対帰ってくる。
茜さんと、一緒に。
絶対。
「すばる」
「一人にしないよ?あの人は」
「また、バカ女って言ってくれる?」
「んなこと言わせてんだ」
あたしは頷いた。
「言ってくれるよ。絶対。昴さんだよ?昴さんのこと、
信じてるでしょ?」
『いいんだよ。心配させて。陽希のこと、信じてる
でしょ?』
いつか、あたしが陽斗に言った言葉。
それとなんとなく重なった。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
あたしは少し離れた。
「あっ、夏月……ごめん」
「そんな本気で思われちゃうと大変だね」
夏月は笑って言った。
なんとなく、陽斗と似たような笑顔で。
だから夏月のこともこんなにかわいいと思うのかな。
逆?
いやいや。
「おつかれ」
「えっ?」
「泣くのって疲れるでしょ」
夏月はそう言って部屋を出た。
少しして戻ってきた。
ペットボトルを持って。
「はい」
「ありがと」
こういうところは昴にそっくり。
昴にも、陽斗にも似てるあたしの大切な弟。
一度も、守れたことはないけど。
守ってもらってばかり。
あと、これも昴と同じ。
勇気と自信をくれた。
「大丈夫。満月なら待ってられるよ」
「バカ。もうヤメなさい」
「今泣きたくなった?」
「かなり」
「じゃあまだ足りてないんだ」
「えっ?」
「まだ泣きたいなら泣いて?明日大泣きすっかもよ?」
それは困る。
けど、もう夏月には十分迷惑かけた。
あとは一人で泣く。
泣かないことはできなそうだから、誰もいないところで、一人でこっそりと。
その時、いつもより少し小さな手で頭を触られる。
顔を上げると夏月がいた。
「俺は大丈夫だから。もう慣れてる。満月に迷惑
かけられんのなんて」
「結局迷惑なんじゃん」
「冗談だ。気付きやがれ。バカ女」
昴みたいだった。
あの、『バカ女』の言い方。
あたしは夏月を見つめた。
「なになに?呪われるの?」
あたしは笑顔で首を振った。
「似てたの。昴に」
「昴さんに?」
夏月は少し嬉しそうに言った。
夏月も大好きだもんね。
あたしのために病院に来た時も。
芸能人がそこにいたみたいに喜んでて。
『どの辺にいた?』
みたいな。
かわいかったな。
「そっくりだったよ。『バカ女』の、バカの強調具合
とか、『女』の独特な声も、なんとなく」
夏月はすごい嬉しそうに笑った。
それが、どっちの意味でかは分からないけど。
『昴さんに似てるんだ』っていう感じか、
『俺も昴さんの代わりになれるかも』って感じか。
夏月ならどっちもあり得る。
「本当に頼れる弟」
「え?」
「すごいしっかりしてる。あたしなんかより、全然」
「満月よりしっかりしてるなんてこたねぇよ」
あたしは夏月を見た。
「満月は、強いから。俺はそんなに強くない。そんなに、強く生きられない」
「夏月っ!」
あたしはベッドから立ち、夏月に抱きついた。
「夏月は強いよ。もうすでに。あたしより、ずっと」
「いつか、そうなれたらいいけど」
もうなってるんだってば。
分かってないんだね。
もう十分なんだよ。
「夏月」
「満月?」
「ずっといてくれる?」
「ん?」
「そばに。そこは、昴に似ないで」
「みづき」
「あたしには、夏月が一番近い人だから」
「行かないよ。行けないよ。俺がひとり嫌いなの、よーく知ってんべ?」
べ。
どいつもこいつも。
「知ってるよ。だから、あたしのところ、たまには
来てね?」
「満月が寂しいの?」
「バカっ!んなことないわよ」
あたしは恥ずかしくなって水を飲んだ。
「ハハッ、素直じゃねぇな」
よく言われます。
「おもしれぇやつ」
それもよく言われます。
あたしはもう一度布団をかぶった。
夏月に笑われながら。
