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大丈夫


俺は泣いてしまった。

満月に、抱かれて。

絶対泣かないと決めてたのに。

絶対笑って会うと決めていたのに。

俺はいつからこんなにも満月を求めるようになっていたのだろうか。

こんなに満月がいないとダメ。

ただ、時間が過ぎるのを待つ日々。

そんな日々から、やっと抜け出せた。

それと同時に、ひとつ失ったものがある。

母親の存在を。

けど、最期は一緒にいられた。

茜と。

最後、家族が揃った。

できれば家で揃いたかったけど。

けど今の俺には満月が、いてくれる。

そんなふうに満月を頼ってる自分がすごく嫌。

俺が満月を頼るなら、満月にこれくらい頼ってほしい。

こんな俺を頼る人なんて、いないだろうけど。

「昴、大丈夫だよ」

さっきから俺の背中をさすってくれてる満月。

「頑張ったね。もう大丈夫。家に帰ればみんながる」

えっ。

「みんな?」

「呼んどいた」

「えっ、本当に?」

「嫌だった?」

「あ、いや……」

「ハハハッ、そうするか迷っただけ。呼んでないよ」

「バカ女」

「そんなに辛いのに我慢してるバカ王子には言われたく
ないわよ」

何で満月にはこんなに隠せないんだろう。

何でこんなに見抜かれるんだろう。

俺は小さい頃から嘘をつくのが得意だった。

かなりの人を騙してきた。

そして誰にも嘘であることを伝えずに来てしまった。

そんなに大きな嘘でなくてよかったと、最近やっと
思ってる。

「あの……」

「いいよ。言いたくないことは言わなくて」

満月が優しく言ったその言葉にまた涙があふれる。

「大丈夫。落ち着くまでここにいよう」

満月がさらに優しくなった。

あの愛美っていう強烈な女子といだからそう感じるだけ
だろうか。

そうであってほしいと願う自分もいる。

「大丈夫だよ。疲れたね。よく頑張った」

「あの、満月?」

俺が満月の顔を見ると満月は笑った。

「これ、全部あの小学生が言った言葉」

あの小学生、異常だろ。

「泣いた後の、よく頑張ったってのも、落ち着くまで
ここにいようってのも」

青山 夏月。

彼はただの小学生じゃない。

時代?

時代の問題?

なら最近の小学生、すごすぎない?

「ひとつ言っとく。時代じゃなくて、誰の弟かって問題」

「はいはい。帰りますよ」

「どこに行く?」

俺は少し迷った。

あの状態の茜と一緒にいられる自信はない。

「しょうがねぇからお前ん家行ってやる」

「恩着せがましい王子様!」

そう言って満月は俺の背中に飛びついた。

「お前の運動神経は猿並みだな」

「猿!?」

「お前のご先祖様を辿ってくとどこかで猿に会う」

「どこかってどこよ!」

「どこか」

「はぁ!?」

やっと、やっとこうして満月とふざけられる。

この時間を、ずっと待ってた。

その時、満月が俺の背中から降りた。

「昴」

満月にしては少し暗めの声で俺を呼んだ。

普段が明るすぎるのかな。

「ん?」

俺はその声に振り返った。

「元気じゃないなら、元気じゃないでいいんだからね?」

満月……

満月は俺の全てを知っているよう。

考えてることから、やってきたことまで。

そんなはず、ないのに。

こうして変な期待をすると、そのうち喧嘩の原因になる。

「あぁ。俺はもう決めたから」

「決めた?」

満月の声が少し明るくなった。

「もう無理も我慢もしねぇってな」

「そっか。えらいじゃん」

「ヤメなさい」

俺は再び満月の家に向かって歩き出した。

「ちょい昴〜っ」

そして俺の隣に走ってくる満月。

本当に、ずっと待ってた時間。

「何?バカ女」

「バカ女?」

「バカだろ」

「バカだけどさぁ、その基本何でもできる人に言われるとムカつくよね」

「基本?」

「運動 数学 国語ダメでしょ?」

「ダメじゃない。特に数学は」

こんな時間がずっと、長く続きますように。

「ちょい!及川!」

「あ?」

「どこ行くのさ」

俺はだいぶ後ろから聞こえた声に振り返り、
ゆっくり戻った。

青山コンビは走ってたけど。

俺にそんな気力、体力はない。

「まったく」

満月は玄関を開けた。

「おかえり」

男の人の声がそう言うと、満月の様子が少し変わった。

「満月?」

「あ、ごめん。何でもないよ」

そう言って少し急いで家の中に入る満月。

「昴もおいで?」

満月はその男の人を気にしながら階段の方へ。

俺も軽く頭を下げた。

この人が、満月の父親。

ふーん。

母親似、かな。





俺と満月は満月の部屋へ。

「満月?」
「あのさ」

お互いの目を見た。

「あ、何?」

訊いて、いいのかな。

「あの……さっきの………」

満月は笑った。

けどその笑顔は、とても自然とは言えなかった。

「そうだよね。昴は分かるよね……」

「いや、ごめん。満月は何言おうとしたの?」

「このことを……昴にだけでも伝えておこうと思ってね」

このこと。

俺は満月を見た。

「ひとつ、いい?」

「ん?」

「お願いだから、あたしがこれから言うことは誰にも
言わないで、気にしないで?」

俺は何も言わず、頷いた。

「あの人はね………」





満月は両親が亡くなり、今の親のような存在の人は両親の友達であることを教えてくれた。

「そっか」

「ふふっ、昴にはバレると思った」

似ていなすぎたから、ちょっと気になったけど。

別に訊こうとも思わなかった。

でも訊いたか。

「ごめんね。こんな変な話しちゃって」

俺は首を振った。

「昴は何でも受け入れてくれるからね」

俺にできることがそれしかないだけ。

それが、俺が満月に唯一してやれる事。

久々の満月の部屋。

前に来た時と、何ひとつ変わってない。

俺は窓の前へ。

「空ねぇ。いいよね。分かる」

俺は満月を見た。

満月はそれに気付くと、ニコッと笑った。

俺はまた、つられて笑った。

この笑顔が見たかった。

この笑顔が、消えるようなことは起きませんように。

俺には願い事が多い。

これ、いくつ叶えてくれるんだろう。

俺は、あの日満月が作ってくれたミサンガを見た。

だいぶ緩くなってきた、ミサンガを。

<2016/07/26 08:32 秋の空>消しゴム
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