「ねっ」
満月がやたら明るい声で言う。
「ん?」
「あたしの両親も、昴のお父さんも。あそから見てるん
だもんね」
「満月……」
「ふふっ、まぁうちの人たちはよく分かんないけど」
「分かんない?」
「あたしねぇ、なぁんも知らないのよ」
親の事を。
「何でいないかは知ってんだけど、それ以外何も知らないの」
「別に知らなくてもいいんじゃねぇか?」
満月が俺を見る。
目を合わせられなかった俺は窓の外に視線を移した。
目を合わせてわけのわからないことを言う自信はない。
「お前がいるってことはちゃんと本当の両親がいる。
この世界にはいなかったとしても、いつか守ってくれん
じゃねぇか?守護霊、的な?」
的な。
「ハハッ、昴霊嫌いなのにこういう話は出来んだ。
ウケる」
ウケるのテンションが違う。
満月のが落ち着いてる気がする。
「いや、でも嫌いだよ?ここにいるってなったらこの家の塩 全部撒く」
「大迷惑」
「取り憑かれた物件に住むならせめてお祓いくらいして
あげないと」
その物件が可哀想。
「ハハッ、あれ、昴お化け屋敷もダメだっけ?」
前に楓と入った時は本物になるかと思った。
「あんなの入るもんじゃない」
楓ギャン泣きだし。
こっちが泣きたかったし。
大泣きするいとこ抱いて化け物に囲まれて。
さらに途中で道に迷うという地獄。
そんな中楓は『早く出て』と無茶ぶり。
思い出しただけで嫌。
「入ったことあんの?」
それ訊くの?
「あるけど……」
「じゃあ今度……」
「バカ女」
「まだ何も言ってないじゃない!」
『じゃあ今度一緒に行こっ』これに間違いない。
「じゃあ何て言おうとしやがった」
「今度一緒に入ろっかなぁって」
何となく違うけど意味は一緒。
「バカ。殺す気か」
「ハハッ、そんなにダメ?」
あんなのどこが平気なんだよ。
俺はなんとなく後ろを振り返った。
「何もいないから」
「えっ、窓大丈夫?」
「どういうのがダメなのか分かんないし……キャッ!?」
「何何何っ!ちょちょ……」
「ハッハッハッ!そんなに?かわいい」
そう言って俺に手を差し伸べる満月。
「別に立てるし…」
そう言って床に手をついた時、何かに触れた。
「うわっ!?」
「何よ。何もないから」
「うわ、虫!」
「キャッ!どこどこ!?」
そう言って俺の上に倒れ込む。
「いって……運動神経いいんじゃねぇのかよ」
「んなことキャッ!」
「虫なんかいねぇし、早くどけし」
「バカッ!」
そう言って俺の膝に手をついて立ち上がる満月。
しかも遠慮なく体重かけて。
「あれっ?」
「何こんだぁ」
「大丈夫?」
真面目に心配されてる?
「えっ、大丈夫だけど……」
「いや、身体。元気?」
「うん……別に問題はないけど……」
問題、ないよね。
「そう……」
「えっ、何?」
「また痩せた?」
「また?」
「元からあんななのに」
あんな。
どんな。
「ちゃんと食べてた?」
「大丈夫だって」
え、膝でそんなに分かるもん?
そしてその心配が必要なのは、茜かな。
「多分あれだな」
「どれだ?」
「お前のこと背負いすぎたんだ」
「はぁ?まぁ心で背負わなくてよかったわ」
「俺は心身ともに健康だから」
俺はそう言ってやっと立った。
「ほんっとに縦はあるわよね」
誰かにも言われた。
強烈ガール・愛美。
「縦ねぇ。ある人は普通に180とかあるよ?」
「ねぇ。どう過ごしてたのか」
「満月どんなもん?」
「158とか9。たまに163とか言われっけど」
それ誤差の範囲じゃないでしょ。
どんな人に測ってもらってんの。
「昴は高いよね。175、6だっけ?」
「前測った時はそんなもんだった気がする」
「すごいよね。あいつぁどんなもんになんだか」
異常小学生ね。
何であんなに大人なんだろ。
「そういえばあの方は?」
「あの方?あっ!そうそう、深月ちゃんっていう
ガールフレンドの家に」
ガールフレンド。
『聞いとけば?深月ちゃん、変えてあげるんでしょ?』
あの子か。
顔は見たことないけど。
陽斗の友達の妹か。
「あの子ふっつーの子だった。なにか大変なことある
気がしたんだけどね」
大変なこと。
どんなこと?
「あたしの勘があたったのは、陽斗の事だったね」
「でも、今は元気になってきたし」
「もう、陽斗でいれてるかな」
「大丈夫じゃないかな」
「うーん……」
深月が少し心配そうに下を向く。
「なにかあった?」
深月は笑って首を振った。
嘘女。
深月のあの笑顔は嘘の時。
無理に言わせる気もないけど。
「ふふっ、公園行く時、雨降ってなかったね」
「えっ?あぁ、だな」
「でももういいや。昴がいてくれるから。案外強い昴が」
案外ね。
けど俺は強くなんかない。
俺には、満月はもちろん、陽希、陽斗、夏月がいないと。
普通なら『満月だけいれば……』とでも思うんだろうけど。
「また、昴が落ち着いたら五人で集まろうねっ」
俺が落ち着いたら。
どうかその言葉に、深い意味がないことを願う。
そしてまた願う。
俺はどれだけ願えば気が済むのだろうか。
「あぁ」
「五人で一人ね。いつかあたしたちに一人で生きていける日は来るのかな」
「今のままでは、無理だろうな」
「変われるかな。あたし……」
「変わる必要なんてねぇんじゃねぇか?」
満月は俺を見た。
俺はそれに笑った。
そして続けた。
「今は今のままでいいんだよ。変わるべき時が来れば
自然に変わってく。それが人間ってやつなんじゃね?」
満月は俺が言うと俺に抱きついた。
「昴、何者?」
「陽斗にも言われた」
「本当、分かりすぎなんだよ」
本当に、そうならいいけどな。
本当に、分かりすぎてるくらい分かってやりたい。
分かりすぎてるくらいなら、必要以上に優しくすることも、何もしてやれないこともない。
「バカ王子」
俺はただ笑って満月の綺麗な髪をなでた。
「今日はあたしもダメかも」
「『誰だって泣きたいときはある』」
満月は俺の顔を見上げた。
「そう言ったのはどこのどいつだ」
満月は笑った。
「優しいね」
「まぁな」
「認めなければもっといい」
「まぁな」
「んっか言ってよ」
「言ってんべ」
「バカ……」
「お前ほどじゃない」
俺ら五人は本当にバカかも。
こんなにも一人の力は小さいのに。
そんなうちの一人に抱きついて泣く。
俺らにはお互い何もしてやれることなんてないのに。
僅かな優しさを求めて抱きつく。
抱きつかれた側はそんな僅かな優しさで全力で受け止める。
俺らには、それしかできない。
けど、俺らにはそれだけで十分。
十分すぎるくらい。
「昴」
「どうした?」
「しばらく、このままでいいかな」
「いいよ」
いつまででも。
これで、満月が落ち着くなら。
満月が後で心から笑えるなら。
俺はいつまでもこうしてる。
満月がやたら明るい声で言う。
「ん?」
「あたしの両親も、昴のお父さんも。あそから見てるん
だもんね」
「満月……」
「ふふっ、まぁうちの人たちはよく分かんないけど」
「分かんない?」
「あたしねぇ、なぁんも知らないのよ」
親の事を。
「何でいないかは知ってんだけど、それ以外何も知らないの」
「別に知らなくてもいいんじゃねぇか?」
満月が俺を見る。
目を合わせられなかった俺は窓の外に視線を移した。
目を合わせてわけのわからないことを言う自信はない。
「お前がいるってことはちゃんと本当の両親がいる。
この世界にはいなかったとしても、いつか守ってくれん
じゃねぇか?守護霊、的な?」
的な。
「ハハッ、昴霊嫌いなのにこういう話は出来んだ。
ウケる」
ウケるのテンションが違う。
満月のが落ち着いてる気がする。
「いや、でも嫌いだよ?ここにいるってなったらこの家の塩 全部撒く」
「大迷惑」
「取り憑かれた物件に住むならせめてお祓いくらいして
あげないと」
その物件が可哀想。
「ハハッ、あれ、昴お化け屋敷もダメだっけ?」
前に楓と入った時は本物になるかと思った。
「あんなの入るもんじゃない」
楓ギャン泣きだし。
こっちが泣きたかったし。
大泣きするいとこ抱いて化け物に囲まれて。
さらに途中で道に迷うという地獄。
そんな中楓は『早く出て』と無茶ぶり。
思い出しただけで嫌。
「入ったことあんの?」
それ訊くの?
「あるけど……」
「じゃあ今度……」
「バカ女」
「まだ何も言ってないじゃない!」
『じゃあ今度一緒に行こっ』これに間違いない。
「じゃあ何て言おうとしやがった」
「今度一緒に入ろっかなぁって」
何となく違うけど意味は一緒。
「バカ。殺す気か」
「ハハッ、そんなにダメ?」
あんなのどこが平気なんだよ。
俺はなんとなく後ろを振り返った。
「何もいないから」
「えっ、窓大丈夫?」
「どういうのがダメなのか分かんないし……キャッ!?」
「何何何っ!ちょちょ……」
「ハッハッハッ!そんなに?かわいい」
そう言って俺に手を差し伸べる満月。
「別に立てるし…」
そう言って床に手をついた時、何かに触れた。
「うわっ!?」
「何よ。何もないから」
「うわ、虫!」
「キャッ!どこどこ!?」
そう言って俺の上に倒れ込む。
「いって……運動神経いいんじゃねぇのかよ」
「んなことキャッ!」
「虫なんかいねぇし、早くどけし」
「バカッ!」
そう言って俺の膝に手をついて立ち上がる満月。
しかも遠慮なく体重かけて。
「あれっ?」
「何こんだぁ」
「大丈夫?」
真面目に心配されてる?
「えっ、大丈夫だけど……」
「いや、身体。元気?」
「うん……別に問題はないけど……」
問題、ないよね。
「そう……」
「えっ、何?」
「また痩せた?」
「また?」
「元からあんななのに」
あんな。
どんな。
「ちゃんと食べてた?」
「大丈夫だって」
え、膝でそんなに分かるもん?
そしてその心配が必要なのは、茜かな。
「多分あれだな」
「どれだ?」
「お前のこと背負いすぎたんだ」
「はぁ?まぁ心で背負わなくてよかったわ」
「俺は心身ともに健康だから」
俺はそう言ってやっと立った。
「ほんっとに縦はあるわよね」
誰かにも言われた。
強烈ガール・愛美。
「縦ねぇ。ある人は普通に180とかあるよ?」
「ねぇ。どう過ごしてたのか」
「満月どんなもん?」
「158とか9。たまに163とか言われっけど」
それ誤差の範囲じゃないでしょ。
どんな人に測ってもらってんの。
「昴は高いよね。175、6だっけ?」
「前測った時はそんなもんだった気がする」
「すごいよね。あいつぁどんなもんになんだか」
異常小学生ね。
何であんなに大人なんだろ。
「そういえばあの方は?」
「あの方?あっ!そうそう、深月ちゃんっていう
ガールフレンドの家に」
ガールフレンド。
『聞いとけば?深月ちゃん、変えてあげるんでしょ?』
あの子か。
顔は見たことないけど。
陽斗の友達の妹か。
「あの子ふっつーの子だった。なにか大変なことある
気がしたんだけどね」
大変なこと。
どんなこと?
「あたしの勘があたったのは、陽斗の事だったね」
「でも、今は元気になってきたし」
「もう、陽斗でいれてるかな」
「大丈夫じゃないかな」
「うーん……」
深月が少し心配そうに下を向く。
「なにかあった?」
深月は笑って首を振った。
嘘女。
深月のあの笑顔は嘘の時。
無理に言わせる気もないけど。
「ふふっ、公園行く時、雨降ってなかったね」
「えっ?あぁ、だな」
「でももういいや。昴がいてくれるから。案外強い昴が」
案外ね。
けど俺は強くなんかない。
俺には、満月はもちろん、陽希、陽斗、夏月がいないと。
普通なら『満月だけいれば……』とでも思うんだろうけど。
「また、昴が落ち着いたら五人で集まろうねっ」
俺が落ち着いたら。
どうかその言葉に、深い意味がないことを願う。
そしてまた願う。
俺はどれだけ願えば気が済むのだろうか。
「あぁ」
「五人で一人ね。いつかあたしたちに一人で生きていける日は来るのかな」
「今のままでは、無理だろうな」
「変われるかな。あたし……」
「変わる必要なんてねぇんじゃねぇか?」
満月は俺を見た。
俺はそれに笑った。
そして続けた。
「今は今のままでいいんだよ。変わるべき時が来れば
自然に変わってく。それが人間ってやつなんじゃね?」
満月は俺が言うと俺に抱きついた。
「昴、何者?」
「陽斗にも言われた」
「本当、分かりすぎなんだよ」
本当に、そうならいいけどな。
本当に、分かりすぎてるくらい分かってやりたい。
分かりすぎてるくらいなら、必要以上に優しくすることも、何もしてやれないこともない。
「バカ王子」
俺はただ笑って満月の綺麗な髪をなでた。
「今日はあたしもダメかも」
「『誰だって泣きたいときはある』」
満月は俺の顔を見上げた。
「そう言ったのはどこのどいつだ」
満月は笑った。
「優しいね」
「まぁな」
「認めなければもっといい」
「まぁな」
「んっか言ってよ」
「言ってんべ」
「バカ……」
「お前ほどじゃない」
俺ら五人は本当にバカかも。
こんなにも一人の力は小さいのに。
そんなうちの一人に抱きついて泣く。
俺らにはお互い何もしてやれることなんてないのに。
僅かな優しさを求めて抱きつく。
抱きつかれた側はそんな僅かな優しさで全力で受け止める。
俺らには、それしかできない。
けど、俺らにはそれだけで十分。
十分すぎるくらい。
「昴」
「どうした?」
「しばらく、このままでいいかな」
「いいよ」
いつまででも。
これで、満月が落ち着くなら。
満月が後で心から笑えるなら。
俺はいつまでもこうしてる。
