やっぱり家が一番。
ベッドに飛び込んだ直後のこの感じ。
「あぁ〜っ」
満月、大丈夫かな。
その時、ミニテーブルで携帯が鳴る。
携帯を確認すると『陽希』の文字。
俺は何となく不安な気持ちでその電話に出た。
「陽……」
『昴っ!』
陽希の聞いたこともないくらい慌てた声。
「陽希、落ち着け。どうした」
『満月、満月……』
「満月がどうした」
『満月、ダメだ。とりあえず病院来い』
「病院?」
『いいから来い!』
「どこ」
『お母さんと同じとこ』
「分かった。すぐ行く」
俺は電話を切った。
『お母さんと同じとこ』
それがどこかを知りたいんだけどね。
満月が休み時間中に行けた場所……
「あそこか……」
俺は家を飛び出した。
鍵はちゃんと閉めて。
満月……
何があった。
「陽希っ」
「昴。早えな」
「満月は?」
そこに陽斗のは姿なかった。
「今……寝てる」
陽希が息を切らしながら言う。
「陽斗は?」
「大好きな満月ちゃんのとこに」
「そっか。んで満月には何があった」
陽希の表情が暗くなる。
「通り魔……」
「は?」
「通り魔に、刺されたらしい……」
満月……
「助かったんだろ?」
「それは大丈夫。浅かったし、場所もね」
今寝てるんだっけ。
「よかった……」
「じゃあ昴くんも大好きな満月ちゃんとこ行きますか」
「あ、おぉ」
俺らは満月のいる病室へ。
「陽斗っ」
「おっ、及川」
笑ってる……
「昴くんっ!来てくれたのぉ〜?」
「わざわざ女の子風に喋れるなら問題ねぇな」
「風?」
「あ、すいません」
俺と陽希も満月の隣へ。
「いやぁ、ビックリだよね」
「そりゃ俺らだし」
「だってさ、何か痛いと思ったらふわぁって」
笑ってるよ。
本当に軽傷なのかな。
まぁ笑ってるからな。
「一生のうちで最後だろうね」
「じゃなきゃ困る」
「俺、満月いなかったら……」
陽斗が泣きそうな声で言う。
満月はそんな陽斗の手を握った。
「大丈夫よ?言ったじゃん。あたしはずっと陽斗のそばにいるって」
「みづき……」
「いいよ。泣きな?」
満月はゆっくり体を起こした。
「陽斗っ、おいでっ」
「えっ、でも……」
「傷なら大丈夫っ!」
満月が陽斗に抱きついた。
「ハハッ。やっぱ陽斗には」
「満月だよなっ」
俺と陽希は自然と笑顔になった。
「陽斗〜っ、大丈夫だよ〜?あたし結構強いんだから」
「みづき……」
「陽斗っ」
「ごめん……」
「いいんだよ」
「すばる……」
「泣きたいときゃ泣け」
「はるき……」
落ち着いたと思ったら、陽斗は眠っていた。
「陽斗、いつもこうなんだよ」
俺と満月は陽希を見た。
「泣くと寝ちゃうの」
「うわうわ、何かそういう人知ってる〜」
「あたし知ーらないっ」
「へぇ〜っ」
「何よ……」
「別に?」
「ハハハッ」
「満月」
真面目な声で呼んでみた。
「な、なに?」
「お前、笑われてんぞ」
「はぁ?」
「ハッハッハッ」
「ちょ、そんなに笑わなくてもいいじゃん!」
「ハッハッハッハッ」
陽希の豪快な笑い声に目を覚ます陽斗。
「はるき、うるさい」
「弟くん、強烈」
「確かに」
満月の声に俺と陽希が同時に言う。
「あれっ……」
陽斗が不思議そうに辺りを見渡す。
「どこ?」
「病室」
「は?あっ、満月……」
「覚えてねぇんだ」
「まぁ、こいつぁそういうやつよ」
「陽希?」
「あっ……」
「弟くん慣れてきたなぁ?」
「あぁ〜っ、眠ーい」
「んじゃ帰るか」
「昴も?」
満月が珍しく女の子らしい声を出す。
俺はそれについ振り返った。
「昴も……行っちゃうの?」
「満月?」
「あっ、ごめん……」
これは反則。
満月もこんな感じだったのかな。
「しゃーねーからしばらくいてやるよ」
「大丈夫……」
「いいよ。俺らもいる」
陽斗は今すぐにでも寝たそうだけど。
「大丈夫……帰るとき……辛くなるから……」
「満月……帰ったらすぐ電話してやる」
「ほんと?」
そんな嬉しそうに言われたらかけねぇわけには
いかねぇな。
「あぁ」
「すばる……大丈夫だよね?あたし……一人でも…」
俺はそっと満月を抱きしめた。
「すばる……」
「何があった」
「え?」
「何かあったのか?」
「何もないけど、離れたくなかった……」
満月……
「あたしには、昴がいないとダメみたい……昴がいないと、あたしじゃない気がする」
「大丈夫。俺はずっと満月のそばにいる」
「すばる……」
「ふぁ〜あ」
あっ、陽斗。
「バカっ!」
陽希が強めに叩く。
「いっつぇ……」
「ごめんね。もう大丈夫。陽斗のためにも、もう帰って
いいよ」
「満月…絶対電話する」
満月は笑顔で頷いた。
「じゃあな」
俺は満月の髪をクシャクシャにして病室を出た。
「んじゃあ」
「またっ」
「明日……」
俺は二人と真逆の方向へ進んだ。
そして携帯が鳴る。
「もうちょっとなのに」
けど少し嬉しかった。
「満月」
『昴』
「大丈夫か?」
『うん。昴の声、聞こえてるから』
「そっか」
『明日は学校で会えないね』
「そうだな。ちゃんと安静にしてろよ?」
『えっ……』
「お前まさかっ!」
回りにいる人の視線が全て俺に。
「あっ、すみません」
俺は軽く頭を下げ、細い道に入った。
「抜け出す気だったのかよ……」
『昴いないとダメなの……本当に……ってかもう元気だし』
満月……
「大丈夫だよ。朝も帰りも寄ってくから」
『昴……』
「大丈夫。俺はずっと満月のそばにいる」
『うん……そうだよね。あたしには昴がいる……』
「泣きたかったら泣けよ?俺、そこにはいないけど……」
『バーカ。もう泣いてるよ……』
「ハハッ。ほんと素直なやつ」
『まぁねっ』
満月……何でそこまで俺を……
『昴』
「ん?」
『大好き。ずっとそばにいて……』
「満月……」
『ハハハッ。あっつい』
「俺も好き」
『初めての恋、こんなって幸せだね』
「だな……」
けど、俺よりも満月を必要としているやつがいる。
『昴?』
「ん?」
『でもあたしたちは、友達でいいよね』
「あぁ。それ以上になると俺らが俺らでいられなくなる」
『だよねっ。あたしも思った。ありがとねっ』
「大丈夫?」
『うんっ!バイバイ』
「おぅ」
電話を切った。
そして出てきたのは、答えでも笑顔でもなかった。
「友達か……」
俺はしばらく携帯の画面を見つめてた。
家に着き、鍵をさした。
「えっ……」
その鍵が回らない。
俺はそのままドアを開けた。
「あ……」
こいつらかよ。
「すーばるっ。ふふふっ」
「変な笑い方しやがって」
「おかえりっ。どこ行ってたのよ?」
「大切な、友達のところ」
友達の、な。
「そう」
「じゃあ部屋にいるから」
「えっ?」
「何?」
俺は振り返った。
「部屋行っても、怒らないでね?」
「は?」
「お客さんっ」
「誰だよ……」
俺はため息を吐き、部屋に向かった。
部屋のドアの前。
俺は深呼吸し、そっとドアを開けた。
「スバにぃっ!」
そこから勢い良く出てきたのはいとこの女の子。
「楓かぁっ!」
「スバにぃ、どこ行ってたの?」
「お友達のところ」
「お家?」
「そう」
で、いいよね。
俺は楓を抱き上げた。
「スバにぃ、ベッドつれてって」
「よいしょっ」
少し雑に楓をベッドに投げた。
「わっ!ハハハッ!スバにぃ〜っ!」
これくらいでよければ何回でもやってやる。
「起こしてぇ〜っ」
「はいっ」
楓の腕を引いてベッドの上に座らせた。
「スバにぃ?」
「ん?」
「何かあった?」
「何か」
「元気?」
「元気だよ?」
「そっか」
「ちょっと待っててね」
「うん」
俺は楓の頭をなでて部屋を出た。
「あら昴」
「あの茜?」
「何?昴」
「いや茜?ってもういい?」
「ハハッ。ごめん」
「あのお客様……」
「ふふっ、しばらくいるでしょうねっ」
「はぁ」
「ため息なんか吐かないで?あたしも遊ぶし」
じゃなきゃ困る。
「大丈夫?」
「え?うん」
「楓が寝たらお話ね」
お話。
公園行かねぇと。
陽斗、大丈夫かな。
「とりあえず上行きましょ?」
「あ、おぉ」
茜は階段を駆け上がった。
「ふぅ」
俺も二階へ。
「あ!スバにぃとあか姉だ!」
「かえで〜っ!」
楓は茜に飛びついた。
「ちょっとごめんね」
楓は自分の部屋の時計を確認した。
「まだこんな時間っ。公園でも行く?」
「ママ怒んないかな?」
「あたしたちがいれば大丈夫じゃない?」
「行くーっ!」
「よしっ!行こう!」
俺らは公園へ。
「何かあったんでしょ。何か無理なことした?」
無理なこと。
嘘だろ。
「いやぁ……」
「何かしたんだ」
「走っ、た?」
「運動ダメなんだから」
「ダメじゃない。苦手なだけ」
「どうでもいいけど何で走ったの」
「いや別に」
「大切な友達のとこ行ったんだ」
「分かるなら訊くな」
「あか姉っ!」
「楓ーっ!」
茜は楓のところに走って行った。
そして二人はブランコの方へ。
「昴?」
「え?」
「スバにぃ、元気ないよね?」
「うーん。お友達とケンカでもしたのかもねっ」
「スバにぃ優しい人なのに……」
「別にケンカなんかしてねぇし」
「ほんとに気配消すの上手いわよね」
別に消してるわけでもないけど。
気付いてもらえないっていう。
「スバにぃ押してーっ」
「落ちるなよ?」
「慣れてるーっ」
「そんなこと慣れなくていいのに」
「ハハッ」
「昴も落ちてたよね?」
「俺様にそんなことはない」
「俺様しょっちゅう落ちてたよ?その頃から運動ダメ
なんだね」
「ダメじゃない。苦手なの」
「変わんねぇし」
「二人って仲良しなんだね」
気付いたら自分でこいでた。
「仲悪かないけど怖いよね」
「まぁ昴よりは優しくないかな」
「あか姉がスバにぃ誉めた」
やっぱり珍しいんだ。
「何その滅多にない感」
「いや滅多にねぇし」
「はぁ?」
「ほらっ」
「後でお仕置きね」
お仕置き。
「お塩置こうかな」
「いや、意味わかんないし」
「俺も」
「つかもう塩は勘弁して」
「いや、あれは茜が優しすぎたからだろうが」
「何があったのー?」
あの日も茜たちはどこかへ行っていた。
俺は家に帰り、部屋にいた。
玄関が開く音がしたから下に行った。
『昴〜っ!』
俺に飛びつく茜。
『茜?』
『一人にしてごめんね?』
『いや、もう慣れてるし……』
『そんなこと、慣れなくていいのに』
なら行くなって話だけどね。
そしてこの優しい茜が怖かったから取り憑かれてるのかと思って玄関前に塩を撒き散らしたっていう。
「もうビックリよ!玄関前真っ白!」
「超怒ってるしさ。こっちのがビックリだぜ」
「そりゃ怒るわよ!あんなに塩……もったいない」
「だから『風でも吹けば無くなる』って言ったんだけどさ」
「それがもったいないっつってんの!」
「って怒ってんの」
「ハハハハッ。取り憑かれるって何?」
あ、楓 子供なんだった。
「まぁ良くないこと。で、塩撒けばそれがなくなる
的な?」
的な。
「後でママに教えてもらう」
うん。
それが一番。
「お腹すいたぁ」
「じゃあ帰る?」
「だね」
「ママ何か作ってるかな?」
「どうだろうね?作ってなかったらあたしが作って
あげる」
「えっ?」
「何?」
「あ、いや」
どうか何か作ってあることを願う。
「あっ、なかったら俺が作る」
「えぇ、昴?大丈夫かな」
茜よりはまともなの作れる。
そう、信じてる。
「あたし、昴よりはまともなの作れるわよ?」
えっ、茜以下?
それはまずい。
お勉強しないと。
「疲れたーっ」
「スバにぃとあか姉どっちがいい?」
えっ、そんなこと訊いたら……
「スバにぃっ!」
こうなっちゃうじゃん。
俺に飛びつく楓を見て嬉しそうに笑う茜。
少ししたら楓は寝ていた。
暴れられるよりいいけど。
「ちょ、茜開けて」
「はぁ?あっ、楓か」
楓いなかったら怖くて頼めないし。
「はい」
「あざっす」
俺は部屋に直行した。
そして楓をベッドに。
5歳。
ちっちゃいね。
「すばっ……」
「しっ」
「おぉ。ふふっ、ちっちゃいね」
「俺らもこんなだったんだぜ?」
「ねぇ。よく頑張ってるよね」
茜が優しい顔してる。
見たこともないくらい。
「何?」
そういう声もいつもより優しかった。
「何でもない」
小さい子ってすごいな。
あの茜を優しくする。
「風邪?」
「え?」
「鼻声だけど」
「マジか。茜の部屋つれてっていい?」
「移すよりマシ」
そう言って楓を自分の部屋につれて行った茜。
そしてもう一度俺の部屋に。
「大丈夫?走ったからじゃねぇの?」
「えぇ〜っ」
「ハハハッ。昴ならありえるかなぁと。
運動、ダメじゃん?」
「もういいわ」
「ハハッ」
そう言って一階に降りて行った茜。
少ししてまた戻ってきた。
「はい」
「はい」
スポーツドリンク。
そんなにすごい風邪なのかな。
気味じゃないの?
「今日は寝ときなさいよ?」
「いや、気味だし」
「移す気?」
「いや……すみません」
「あたしたちだけならいいけど」
優しいんだか怖えんだか。
怖えか。
ミニテーブルで携帯が鳴る。
本日二度目。
画面には『満月』の文字。
「どした?」
「大切なお友達ねっ」
「うっさい」
俺は部屋のドアを閉めた。
ベッドに飛び込んだ直後のこの感じ。
「あぁ〜っ」
満月、大丈夫かな。
その時、ミニテーブルで携帯が鳴る。
携帯を確認すると『陽希』の文字。
俺は何となく不安な気持ちでその電話に出た。
「陽……」
『昴っ!』
陽希の聞いたこともないくらい慌てた声。
「陽希、落ち着け。どうした」
『満月、満月……』
「満月がどうした」
『満月、ダメだ。とりあえず病院来い』
「病院?」
『いいから来い!』
「どこ」
『お母さんと同じとこ』
「分かった。すぐ行く」
俺は電話を切った。
『お母さんと同じとこ』
それがどこかを知りたいんだけどね。
満月が休み時間中に行けた場所……
「あそこか……」
俺は家を飛び出した。
鍵はちゃんと閉めて。
満月……
何があった。
「陽希っ」
「昴。早えな」
「満月は?」
そこに陽斗のは姿なかった。
「今……寝てる」
陽希が息を切らしながら言う。
「陽斗は?」
「大好きな満月ちゃんのとこに」
「そっか。んで満月には何があった」
陽希の表情が暗くなる。
「通り魔……」
「は?」
「通り魔に、刺されたらしい……」
満月……
「助かったんだろ?」
「それは大丈夫。浅かったし、場所もね」
今寝てるんだっけ。
「よかった……」
「じゃあ昴くんも大好きな満月ちゃんとこ行きますか」
「あ、おぉ」
俺らは満月のいる病室へ。
「陽斗っ」
「おっ、及川」
笑ってる……
「昴くんっ!来てくれたのぉ〜?」
「わざわざ女の子風に喋れるなら問題ねぇな」
「風?」
「あ、すいません」
俺と陽希も満月の隣へ。
「いやぁ、ビックリだよね」
「そりゃ俺らだし」
「だってさ、何か痛いと思ったらふわぁって」
笑ってるよ。
本当に軽傷なのかな。
まぁ笑ってるからな。
「一生のうちで最後だろうね」
「じゃなきゃ困る」
「俺、満月いなかったら……」
陽斗が泣きそうな声で言う。
満月はそんな陽斗の手を握った。
「大丈夫よ?言ったじゃん。あたしはずっと陽斗のそばにいるって」
「みづき……」
「いいよ。泣きな?」
満月はゆっくり体を起こした。
「陽斗っ、おいでっ」
「えっ、でも……」
「傷なら大丈夫っ!」
満月が陽斗に抱きついた。
「ハハッ。やっぱ陽斗には」
「満月だよなっ」
俺と陽希は自然と笑顔になった。
「陽斗〜っ、大丈夫だよ〜?あたし結構強いんだから」
「みづき……」
「陽斗っ」
「ごめん……」
「いいんだよ」
「すばる……」
「泣きたいときゃ泣け」
「はるき……」
落ち着いたと思ったら、陽斗は眠っていた。
「陽斗、いつもこうなんだよ」
俺と満月は陽希を見た。
「泣くと寝ちゃうの」
「うわうわ、何かそういう人知ってる〜」
「あたし知ーらないっ」
「へぇ〜っ」
「何よ……」
「別に?」
「ハハハッ」
「満月」
真面目な声で呼んでみた。
「な、なに?」
「お前、笑われてんぞ」
「はぁ?」
「ハッハッハッ」
「ちょ、そんなに笑わなくてもいいじゃん!」
「ハッハッハッハッ」
陽希の豪快な笑い声に目を覚ます陽斗。
「はるき、うるさい」
「弟くん、強烈」
「確かに」
満月の声に俺と陽希が同時に言う。
「あれっ……」
陽斗が不思議そうに辺りを見渡す。
「どこ?」
「病室」
「は?あっ、満月……」
「覚えてねぇんだ」
「まぁ、こいつぁそういうやつよ」
「陽希?」
「あっ……」
「弟くん慣れてきたなぁ?」
「あぁ〜っ、眠ーい」
「んじゃ帰るか」
「昴も?」
満月が珍しく女の子らしい声を出す。
俺はそれについ振り返った。
「昴も……行っちゃうの?」
「満月?」
「あっ、ごめん……」
これは反則。
満月もこんな感じだったのかな。
「しゃーねーからしばらくいてやるよ」
「大丈夫……」
「いいよ。俺らもいる」
陽斗は今すぐにでも寝たそうだけど。
「大丈夫……帰るとき……辛くなるから……」
「満月……帰ったらすぐ電話してやる」
「ほんと?」
そんな嬉しそうに言われたらかけねぇわけには
いかねぇな。
「あぁ」
「すばる……大丈夫だよね?あたし……一人でも…」
俺はそっと満月を抱きしめた。
「すばる……」
「何があった」
「え?」
「何かあったのか?」
「何もないけど、離れたくなかった……」
満月……
「あたしには、昴がいないとダメみたい……昴がいないと、あたしじゃない気がする」
「大丈夫。俺はずっと満月のそばにいる」
「すばる……」
「ふぁ〜あ」
あっ、陽斗。
「バカっ!」
陽希が強めに叩く。
「いっつぇ……」
「ごめんね。もう大丈夫。陽斗のためにも、もう帰って
いいよ」
「満月…絶対電話する」
満月は笑顔で頷いた。
「じゃあな」
俺は満月の髪をクシャクシャにして病室を出た。
「んじゃあ」
「またっ」
「明日……」
俺は二人と真逆の方向へ進んだ。
そして携帯が鳴る。
「もうちょっとなのに」
けど少し嬉しかった。
「満月」
『昴』
「大丈夫か?」
『うん。昴の声、聞こえてるから』
「そっか」
『明日は学校で会えないね』
「そうだな。ちゃんと安静にしてろよ?」
『えっ……』
「お前まさかっ!」
回りにいる人の視線が全て俺に。
「あっ、すみません」
俺は軽く頭を下げ、細い道に入った。
「抜け出す気だったのかよ……」
『昴いないとダメなの……本当に……ってかもう元気だし』
満月……
「大丈夫だよ。朝も帰りも寄ってくから」
『昴……』
「大丈夫。俺はずっと満月のそばにいる」
『うん……そうだよね。あたしには昴がいる……』
「泣きたかったら泣けよ?俺、そこにはいないけど……」
『バーカ。もう泣いてるよ……』
「ハハッ。ほんと素直なやつ」
『まぁねっ』
満月……何でそこまで俺を……
『昴』
「ん?」
『大好き。ずっとそばにいて……』
「満月……」
『ハハハッ。あっつい』
「俺も好き」
『初めての恋、こんなって幸せだね』
「だな……」
けど、俺よりも満月を必要としているやつがいる。
『昴?』
「ん?」
『でもあたしたちは、友達でいいよね』
「あぁ。それ以上になると俺らが俺らでいられなくなる」
『だよねっ。あたしも思った。ありがとねっ』
「大丈夫?」
『うんっ!バイバイ』
「おぅ」
電話を切った。
そして出てきたのは、答えでも笑顔でもなかった。
「友達か……」
俺はしばらく携帯の画面を見つめてた。
家に着き、鍵をさした。
「えっ……」
その鍵が回らない。
俺はそのままドアを開けた。
「あ……」
こいつらかよ。
「すーばるっ。ふふふっ」
「変な笑い方しやがって」
「おかえりっ。どこ行ってたのよ?」
「大切な、友達のところ」
友達の、な。
「そう」
「じゃあ部屋にいるから」
「えっ?」
「何?」
俺は振り返った。
「部屋行っても、怒らないでね?」
「は?」
「お客さんっ」
「誰だよ……」
俺はため息を吐き、部屋に向かった。
部屋のドアの前。
俺は深呼吸し、そっとドアを開けた。
「スバにぃっ!」
そこから勢い良く出てきたのはいとこの女の子。
「楓かぁっ!」
「スバにぃ、どこ行ってたの?」
「お友達のところ」
「お家?」
「そう」
で、いいよね。
俺は楓を抱き上げた。
「スバにぃ、ベッドつれてって」
「よいしょっ」
少し雑に楓をベッドに投げた。
「わっ!ハハハッ!スバにぃ〜っ!」
これくらいでよければ何回でもやってやる。
「起こしてぇ〜っ」
「はいっ」
楓の腕を引いてベッドの上に座らせた。
「スバにぃ?」
「ん?」
「何かあった?」
「何か」
「元気?」
「元気だよ?」
「そっか」
「ちょっと待っててね」
「うん」
俺は楓の頭をなでて部屋を出た。
「あら昴」
「あの茜?」
「何?昴」
「いや茜?ってもういい?」
「ハハッ。ごめん」
「あのお客様……」
「ふふっ、しばらくいるでしょうねっ」
「はぁ」
「ため息なんか吐かないで?あたしも遊ぶし」
じゃなきゃ困る。
「大丈夫?」
「え?うん」
「楓が寝たらお話ね」
お話。
公園行かねぇと。
陽斗、大丈夫かな。
「とりあえず上行きましょ?」
「あ、おぉ」
茜は階段を駆け上がった。
「ふぅ」
俺も二階へ。
「あ!スバにぃとあか姉だ!」
「かえで〜っ!」
楓は茜に飛びついた。
「ちょっとごめんね」
楓は自分の部屋の時計を確認した。
「まだこんな時間っ。公園でも行く?」
「ママ怒んないかな?」
「あたしたちがいれば大丈夫じゃない?」
「行くーっ!」
「よしっ!行こう!」
俺らは公園へ。
「何かあったんでしょ。何か無理なことした?」
無理なこと。
嘘だろ。
「いやぁ……」
「何かしたんだ」
「走っ、た?」
「運動ダメなんだから」
「ダメじゃない。苦手なだけ」
「どうでもいいけど何で走ったの」
「いや別に」
「大切な友達のとこ行ったんだ」
「分かるなら訊くな」
「あか姉っ!」
「楓ーっ!」
茜は楓のところに走って行った。
そして二人はブランコの方へ。
「昴?」
「え?」
「スバにぃ、元気ないよね?」
「うーん。お友達とケンカでもしたのかもねっ」
「スバにぃ優しい人なのに……」
「別にケンカなんかしてねぇし」
「ほんとに気配消すの上手いわよね」
別に消してるわけでもないけど。
気付いてもらえないっていう。
「スバにぃ押してーっ」
「落ちるなよ?」
「慣れてるーっ」
「そんなこと慣れなくていいのに」
「ハハッ」
「昴も落ちてたよね?」
「俺様にそんなことはない」
「俺様しょっちゅう落ちてたよ?その頃から運動ダメ
なんだね」
「ダメじゃない。苦手なの」
「変わんねぇし」
「二人って仲良しなんだね」
気付いたら自分でこいでた。
「仲悪かないけど怖いよね」
「まぁ昴よりは優しくないかな」
「あか姉がスバにぃ誉めた」
やっぱり珍しいんだ。
「何その滅多にない感」
「いや滅多にねぇし」
「はぁ?」
「ほらっ」
「後でお仕置きね」
お仕置き。
「お塩置こうかな」
「いや、意味わかんないし」
「俺も」
「つかもう塩は勘弁して」
「いや、あれは茜が優しすぎたからだろうが」
「何があったのー?」
あの日も茜たちはどこかへ行っていた。
俺は家に帰り、部屋にいた。
玄関が開く音がしたから下に行った。
『昴〜っ!』
俺に飛びつく茜。
『茜?』
『一人にしてごめんね?』
『いや、もう慣れてるし……』
『そんなこと、慣れなくていいのに』
なら行くなって話だけどね。
そしてこの優しい茜が怖かったから取り憑かれてるのかと思って玄関前に塩を撒き散らしたっていう。
「もうビックリよ!玄関前真っ白!」
「超怒ってるしさ。こっちのがビックリだぜ」
「そりゃ怒るわよ!あんなに塩……もったいない」
「だから『風でも吹けば無くなる』って言ったんだけどさ」
「それがもったいないっつってんの!」
「って怒ってんの」
「ハハハハッ。取り憑かれるって何?」
あ、楓 子供なんだった。
「まぁ良くないこと。で、塩撒けばそれがなくなる
的な?」
的な。
「後でママに教えてもらう」
うん。
それが一番。
「お腹すいたぁ」
「じゃあ帰る?」
「だね」
「ママ何か作ってるかな?」
「どうだろうね?作ってなかったらあたしが作って
あげる」
「えっ?」
「何?」
「あ、いや」
どうか何か作ってあることを願う。
「あっ、なかったら俺が作る」
「えぇ、昴?大丈夫かな」
茜よりはまともなの作れる。
そう、信じてる。
「あたし、昴よりはまともなの作れるわよ?」
えっ、茜以下?
それはまずい。
お勉強しないと。
「疲れたーっ」
「スバにぃとあか姉どっちがいい?」
えっ、そんなこと訊いたら……
「スバにぃっ!」
こうなっちゃうじゃん。
俺に飛びつく楓を見て嬉しそうに笑う茜。
少ししたら楓は寝ていた。
暴れられるよりいいけど。
「ちょ、茜開けて」
「はぁ?あっ、楓か」
楓いなかったら怖くて頼めないし。
「はい」
「あざっす」
俺は部屋に直行した。
そして楓をベッドに。
5歳。
ちっちゃいね。
「すばっ……」
「しっ」
「おぉ。ふふっ、ちっちゃいね」
「俺らもこんなだったんだぜ?」
「ねぇ。よく頑張ってるよね」
茜が優しい顔してる。
見たこともないくらい。
「何?」
そういう声もいつもより優しかった。
「何でもない」
小さい子ってすごいな。
あの茜を優しくする。
「風邪?」
「え?」
「鼻声だけど」
「マジか。茜の部屋つれてっていい?」
「移すよりマシ」
そう言って楓を自分の部屋につれて行った茜。
そしてもう一度俺の部屋に。
「大丈夫?走ったからじゃねぇの?」
「えぇ〜っ」
「ハハハッ。昴ならありえるかなぁと。
運動、ダメじゃん?」
「もういいわ」
「ハハッ」
そう言って一階に降りて行った茜。
少ししてまた戻ってきた。
「はい」
「はい」
スポーツドリンク。
そんなにすごい風邪なのかな。
気味じゃないの?
「今日は寝ときなさいよ?」
「いや、気味だし」
「移す気?」
「いや……すみません」
「あたしたちだけならいいけど」
優しいんだか怖えんだか。
怖えか。
ミニテーブルで携帯が鳴る。
本日二度目。
画面には『満月』の文字。
「どした?」
「大切なお友達ねっ」
「うっさい」
俺は部屋のドアを閉めた。
