『どした?』
昴のその声を聞いたら今までの泣きそうな気持ちは
吹き飛んだ。
「それはこっちのセリフよ!超鼻声じゃん!」
『あぁ、そんな?』
「えっ、大丈夫?」
『俺は。満月は大丈夫?』
「あたしは大丈夫だけど……」
何でこんな事になっちゃったんだろ。
こんな事がなければ今あたしは間違いなく昴のそばに
いる。
『満月?』
「ん…?」
『俺の心配なんかしてねぇで自分の心配しろ?』
「あたしは大丈夫」
『お前被害者だぞ?』
「実感ないけど」
『いや、実感とか……まぁいいや』
「やっぱり昴の声は落ち着くね」
『電話越しだけど』
「まぁまぁ、ね?」
『ハハッ。え?一人?』
「そうだよ?」
『夏月くんとかお父さんは?』
「夏月は多分家。お父さんは帰ってくるわけない
でしょ?」
『いや、知ってんの?』
「どーだろ?」
『いや、大丈夫かよ……警察は?』
「あー、大丈夫ですって言ってたらいなくなっちゃった」
『はあ?お前、もう何とも言えないバカだな』
「まぁねっ」
『認めてるよ……』
「早く会いたいなっ」
『朝んなりゃ会えっから』
「昴〜、何でこんなとこに一人でいなきゃいけないの?」
『いや、だから夏月くんとか呼べよ』
「無駄な心配させたくないし」
『無駄じゃねぇし』
「えぇ〜っ」
『ったく。俺が連絡してやろっか』
「それはもっといい」
『なら自分で呼ぶんだな』
「あぁー。つまんないんだけど」
『うーん』
「満月っ」
お母さん。
あたしは軽く手を振った。
「あ、ごめん。また掛けるねっ」
『あ、おぉ』
そして電話を切った。
「大丈夫?」
「そりゃこっちのセリフ」
「そっちのが大変でしょうよ。あたしは病院内フリー
だから」
「もー帰ろっかなぁ」
あたしは頭の後ろで手を組んだ。
「みーづきっ」
「えっ、夏月!?」
「呼ばれたの」
お母さんを指差しながら言う夏月。
「大丈夫?」
みんな言う。
「大丈夫。ここにいる理由も分かんないくらい」
「結構ニュースでもやってるよ」
「へぇ〜っ」
「軽くね?」
「帰りたい。他にこの部屋を必要としてる人がいるだろうに」
「どこ?この辺?」
そう言ってあたしの脇腹を触る夏月。
「バカ!」
「ならしばらくいるんだな」
「昴みたい」
「昴さん?あんなにかっこよければいいな」
やっぱりかっこいいよね。
昴は。
及川 昴。
あたしの幼馴染。
そして、初恋の人。
一番の友達。
「昴さん来た?」
「うん。夕方」
「どこにいた?」
「この辺?」
あたしは昴たちがいた辺りを指差した。
「すごーい。ここにいたんだぁ」
「いや、芸能人じゃないんだから。つーか怖いよ?」
「え?」
「そんな好きなんだ。うん。怖い」
「満月の命だからねっ」
あたしの命。
昴がいないと生きていけないのか。
そうかも。
だからどんな存在か分からなかったんだ。
「もう帰っちゃう?」
「んじゃお母さんいる間は我慢する」
「我慢って。あなたのが長いでしょ?」
「え?そうなの?」
「分かんないけど」
もう何も分かってないのね。
でもこれがあたしたち青山家。
「あぁ〜」
「ん?」
「もうか……」
「どんだけだよ」
夏月も最後まで言わせない人。
「ほんと昴みたい」
「性格だけでもなりたいよね」
「うわほんと怖い。女じゃなくてよかったね」
「そう?」
「すんごいめんどくさい彼女になるよ?」
「いや、すんごいめんどくさい彼氏になるかもよ?」
「あぁ、そっかぁ」
「いや否定してよ」
「否定できないんだって」
「ふふふっ」
「笑われてんぞ?」
「うわ、昴も言った!」
本当そっくり。
「超嬉しい」
「超怖え。最恐」
「もう昴さんに狂ってるから」
あたしも。
「嫌だ嫌だ。怖ーい」
「うーん。ここかな?」
「いった!お前ピンポイント禁止」
「ニヒッ」
笑い方も怖いし。
「あたし戻ってるわね」
「なんかごめんね?」
「ううん。ゆっくりしなさいよ?」
「はーい」
ゆっくり、ね。
していたくないけどするしかないよね。
「夏月」
「ん?」
「帰るの?」
「今日?」
「うん……」
「あらかわいい。寂しいの?」
「ぶっとばす」
「ハハハッ。いてやろっか?」
「フンッ」
「寂しいなら言えばいいのに」
夏月、あたしみたいなとこもある。
あの時、あたしも昴に言った。
「ねぇ?」
夏月が珍しい声を出す。
「どうした?」
あたしもつい優しい声になる。
「人って信じる?」
「夏月?」
「ハハッ。友達ってか同級生?にそうよく言う子がてさ」
「そっか……」
「いつも俺は信じないって答えてるんだけどさ……」
「本当に信じてないならいいんじゃない?」
「うん……でも俺も分かんないんだよね……」
「分かんない?」
「人を信じる人なのか、信じない人なのか……
自分でも分かんない」
あたしはただ下を向く夏月を見つめることしかできな
かった。
「その子、多分信じない方の子だと思うんだけど……」
「信じてほしいの?夏月は、その子に」
夏月は黙って小さく頷いた。
「そっか。じゃあ信じてあげないと。その子のこと」
夏月は顔を上げた。
あたしは笑った。
「信じてほしいなら、こっちもその人のこと信じて
あげないと。こっちが警戒してたら相手も心開けない
でしょ?」
夏月は頷いた。
「大丈夫。あたしができたんだから。夏月ならできるよ」
「満月……」
「大丈夫。自身持って?夏月嫌な人じゃないよ?
あたしも手伝うし」
「みづき……俺に、できるかな……」
「どうした〜?大丈夫だよ。夏月ならできる」
夏月、最近何か違うと思ってた。
このことずっと考えてたの?
「なつき」
あたしは夏月を抱きしめた。
「ずっとその子のこと考えてたの?」
夏月は小さく頷いた。
「あたしに言えばよかったのに。何が言えるわけじゃないけどさ」
「みづき……ダメだ……」
「いいよ。泣きたい時は泣いて?前から言ってた
でしょ?」
「みづき……大丈夫だよね?」
「大丈夫。できるよ。夏月も、その子も強いから」
小学生で。
何でそうなったんだろう。
前から人見知りだったとか?
それが悪化して……みたいな?
「明日、どう接したらいい?」
「ん?そうだなぁ。まずは挨拶くらいでいいんじゃん?」
「うん……」
「そして、もし少し慣れてきたらどんなことも聞いて
あげる」
「満月もそうしてたの?」
「そうだね。あ、ゆっくりだからね?
こっちは絶対必死になっちゃダメ。
相手も緊張してることを忘れないであげて?」
「わかった……」
あたしは優しく夏月の背中を叩いた。
ゆっくり、一定のテンポで。
「昴さんも、何か教えてくれるかな?」
「教えてくれるんじゃない?夏月のこと大好きだから」
「そうなの?」
「大好きだよ?『かわいいー』っていっつも言ってる」
「そうなんだ」
夏月は少し嬉しそうに笑った。
弟だけど、すごくかわいかった。
「明日、話しかけてみる」
「うん。『よく言う子がいる』って言ってたけど、それはもしかしたら夏月なら、って思ってるんじゃないかな?」
「そうかな?」
「分からないけどね。その子の普段の様子も知ってる
わけじゃないし」
「そっか」
夏月は笑って言った。
「男の子?」
「その子?」
「うん」
「女の子」
「夏月すごいじゃん!女の子が男の子に声かけてんの?」
「まぁなっ」
「じゃあいい友達になってあげないとね」
夏月は最高の笑顔で頷いた。
高学年とは思えないほど幼く見えた。
あたしも笑った。
気付いたら笑ってた。
窓の外を見ると暗くなっいた。
「暗くなっちゃったね。お父さんに迎え来てもらおっか」
「しかねぇわな」
あたしはお父さんに電話を掛けた。
『あ、満月?』
「そっ、満月」
『何』
ちょいと機嫌悪い感じ?
「いや、あの、夏月病院にいるから迎え来てほしいんだけど」
『はぁ。お前さ』
何キレてんのさ。
「ん?」
『何で言わなかったかな』
「は?」
『ニュース観てマジ ビビったんだけど』
言葉が若くなってる。
「あぁ、ごめん。忙しいかなぁ、と。ねっ?」
『元気なのか?』
「声聞きゃ分かんだろ」
『みづきぃ……』
「えっ、どこにいるか知らないけど泣くのはやめろ」
『だって……あぁ』
「んじゃ迎え待ってまーす」
『あぁ、みづき』
あたしは一方的に電話を切った。
「ちゃんと来る?」
あたしは何も言わずに首を傾げた。
「したらここにいるわ。あいつと二人はキツイから」
確かに。
よーく分かる。
「超分かる!」
「満月っ!」
あたしはドアの方を見た。
「お父さん……」
「ハハッ。ずいぶん早えな」
「満月……」
お父さんはあたしの方に向かってきた。
「いや聞けよ」
そしてあたしを抱きしめる。
「うわっ、んだよ……悪化する」
「よかった……」
「えっ、確認っすけどニュース観たんすよね?」
「あぁ……」
「なら軽傷ってやってたはずだけど」
「そこまで聞いてるかよ〜っ」
そう言って涙を拭うお父さん。
「つか、んなにショックだったなら来りゃよかったのに」
「動けなかったんだよ〜っ」
「はぁ。帰るぞ」
さっきまでのかわいい弟はどこ行った。
「じゃ、ありがとな」
「頑張れよっ」
「おぅ」
「ちょっと?小さな息子一人で帰す気?」
「あいつは大丈夫だ……」
「あたしを襲った人が夏月も襲ったら!?
夏月と、もう話せなくなっちゃったら!?」
「それは困る」
そう言ってお父さんは病室を飛び出した。
「歳なのに動ける人ね」
「お母さん」
「ふふっ」
「夏月何かあったの?」
「どーだろうね。何で?」
「何か少し自信を持った顔してた」
そっか。
大丈夫。
夏月、あんたならできる。
あたしの弟だもん。
いつか、心から笑わせてやれ。
あたしはそう心で呟きながら窓の前に立った。
「立てるの?」
「脚じゃないから」
「満月……」
「お母さんこそ大丈夫?点滴までされて」
そりゃそうか。
「大丈夫。これ何か、水分みたいな感じだって」
「んじゃああたしたち帰ってよくない?」
「あたしもそう思うんだけどね」
あたしたちは笑った。
「満月ちゃん」
誰だろ。
何か病院の人。
こんな病院来たの初めてだからね。
「はい」
「大丈夫?」
「えぇ。あの、もう本当に大丈夫なんですけど……」
「じゃ帰っちゃう?」
「あ、いいですか?」
「ダメに決まってるでしょ」
決まってるんだ。
「もう走れますよ?」
「いいから明日まではいてちょうだい」
「はぁい」
彼女が部屋から出ようとしたとき、お母さんがいけない
ことを。
「あの、あたしは……」
「はい?」
「もう大丈夫なんですけど……」
「そっくりな母娘ですね」
「ダメ?」
「当たり前でしょ!」
友達みたいで笑ってしまった。
「ほんっとに」
「怒られちゃったね」
「ほんと。帰っていいんだけどなぁ」
「もっとあたしたちの部屋を必要としてる人がいるかも
しれないのにね」
「ねぇ」
お母さんも部屋に戻った。
あと何日ここにいるんだろう。
昴のその声を聞いたら今までの泣きそうな気持ちは
吹き飛んだ。
「それはこっちのセリフよ!超鼻声じゃん!」
『あぁ、そんな?』
「えっ、大丈夫?」
『俺は。満月は大丈夫?』
「あたしは大丈夫だけど……」
何でこんな事になっちゃったんだろ。
こんな事がなければ今あたしは間違いなく昴のそばに
いる。
『満月?』
「ん…?」
『俺の心配なんかしてねぇで自分の心配しろ?』
「あたしは大丈夫」
『お前被害者だぞ?』
「実感ないけど」
『いや、実感とか……まぁいいや』
「やっぱり昴の声は落ち着くね」
『電話越しだけど』
「まぁまぁ、ね?」
『ハハッ。え?一人?』
「そうだよ?」
『夏月くんとかお父さんは?』
「夏月は多分家。お父さんは帰ってくるわけない
でしょ?」
『いや、知ってんの?』
「どーだろ?」
『いや、大丈夫かよ……警察は?』
「あー、大丈夫ですって言ってたらいなくなっちゃった」
『はあ?お前、もう何とも言えないバカだな』
「まぁねっ」
『認めてるよ……』
「早く会いたいなっ」
『朝んなりゃ会えっから』
「昴〜、何でこんなとこに一人でいなきゃいけないの?」
『いや、だから夏月くんとか呼べよ』
「無駄な心配させたくないし」
『無駄じゃねぇし』
「えぇ〜っ」
『ったく。俺が連絡してやろっか』
「それはもっといい」
『なら自分で呼ぶんだな』
「あぁー。つまんないんだけど」
『うーん』
「満月っ」
お母さん。
あたしは軽く手を振った。
「あ、ごめん。また掛けるねっ」
『あ、おぉ』
そして電話を切った。
「大丈夫?」
「そりゃこっちのセリフ」
「そっちのが大変でしょうよ。あたしは病院内フリー
だから」
「もー帰ろっかなぁ」
あたしは頭の後ろで手を組んだ。
「みーづきっ」
「えっ、夏月!?」
「呼ばれたの」
お母さんを指差しながら言う夏月。
「大丈夫?」
みんな言う。
「大丈夫。ここにいる理由も分かんないくらい」
「結構ニュースでもやってるよ」
「へぇ〜っ」
「軽くね?」
「帰りたい。他にこの部屋を必要としてる人がいるだろうに」
「どこ?この辺?」
そう言ってあたしの脇腹を触る夏月。
「バカ!」
「ならしばらくいるんだな」
「昴みたい」
「昴さん?あんなにかっこよければいいな」
やっぱりかっこいいよね。
昴は。
及川 昴。
あたしの幼馴染。
そして、初恋の人。
一番の友達。
「昴さん来た?」
「うん。夕方」
「どこにいた?」
「この辺?」
あたしは昴たちがいた辺りを指差した。
「すごーい。ここにいたんだぁ」
「いや、芸能人じゃないんだから。つーか怖いよ?」
「え?」
「そんな好きなんだ。うん。怖い」
「満月の命だからねっ」
あたしの命。
昴がいないと生きていけないのか。
そうかも。
だからどんな存在か分からなかったんだ。
「もう帰っちゃう?」
「んじゃお母さんいる間は我慢する」
「我慢って。あなたのが長いでしょ?」
「え?そうなの?」
「分かんないけど」
もう何も分かってないのね。
でもこれがあたしたち青山家。
「あぁ〜」
「ん?」
「もうか……」
「どんだけだよ」
夏月も最後まで言わせない人。
「ほんと昴みたい」
「性格だけでもなりたいよね」
「うわほんと怖い。女じゃなくてよかったね」
「そう?」
「すんごいめんどくさい彼女になるよ?」
「いや、すんごいめんどくさい彼氏になるかもよ?」
「あぁ、そっかぁ」
「いや否定してよ」
「否定できないんだって」
「ふふふっ」
「笑われてんぞ?」
「うわ、昴も言った!」
本当そっくり。
「超嬉しい」
「超怖え。最恐」
「もう昴さんに狂ってるから」
あたしも。
「嫌だ嫌だ。怖ーい」
「うーん。ここかな?」
「いった!お前ピンポイント禁止」
「ニヒッ」
笑い方も怖いし。
「あたし戻ってるわね」
「なんかごめんね?」
「ううん。ゆっくりしなさいよ?」
「はーい」
ゆっくり、ね。
していたくないけどするしかないよね。
「夏月」
「ん?」
「帰るの?」
「今日?」
「うん……」
「あらかわいい。寂しいの?」
「ぶっとばす」
「ハハハッ。いてやろっか?」
「フンッ」
「寂しいなら言えばいいのに」
夏月、あたしみたいなとこもある。
あの時、あたしも昴に言った。
「ねぇ?」
夏月が珍しい声を出す。
「どうした?」
あたしもつい優しい声になる。
「人って信じる?」
「夏月?」
「ハハッ。友達ってか同級生?にそうよく言う子がてさ」
「そっか……」
「いつも俺は信じないって答えてるんだけどさ……」
「本当に信じてないならいいんじゃない?」
「うん……でも俺も分かんないんだよね……」
「分かんない?」
「人を信じる人なのか、信じない人なのか……
自分でも分かんない」
あたしはただ下を向く夏月を見つめることしかできな
かった。
「その子、多分信じない方の子だと思うんだけど……」
「信じてほしいの?夏月は、その子に」
夏月は黙って小さく頷いた。
「そっか。じゃあ信じてあげないと。その子のこと」
夏月は顔を上げた。
あたしは笑った。
「信じてほしいなら、こっちもその人のこと信じて
あげないと。こっちが警戒してたら相手も心開けない
でしょ?」
夏月は頷いた。
「大丈夫。あたしができたんだから。夏月ならできるよ」
「満月……」
「大丈夫。自身持って?夏月嫌な人じゃないよ?
あたしも手伝うし」
「みづき……俺に、できるかな……」
「どうした〜?大丈夫だよ。夏月ならできる」
夏月、最近何か違うと思ってた。
このことずっと考えてたの?
「なつき」
あたしは夏月を抱きしめた。
「ずっとその子のこと考えてたの?」
夏月は小さく頷いた。
「あたしに言えばよかったのに。何が言えるわけじゃないけどさ」
「みづき……ダメだ……」
「いいよ。泣きたい時は泣いて?前から言ってた
でしょ?」
「みづき……大丈夫だよね?」
「大丈夫。できるよ。夏月も、その子も強いから」
小学生で。
何でそうなったんだろう。
前から人見知りだったとか?
それが悪化して……みたいな?
「明日、どう接したらいい?」
「ん?そうだなぁ。まずは挨拶くらいでいいんじゃん?」
「うん……」
「そして、もし少し慣れてきたらどんなことも聞いて
あげる」
「満月もそうしてたの?」
「そうだね。あ、ゆっくりだからね?
こっちは絶対必死になっちゃダメ。
相手も緊張してることを忘れないであげて?」
「わかった……」
あたしは優しく夏月の背中を叩いた。
ゆっくり、一定のテンポで。
「昴さんも、何か教えてくれるかな?」
「教えてくれるんじゃない?夏月のこと大好きだから」
「そうなの?」
「大好きだよ?『かわいいー』っていっつも言ってる」
「そうなんだ」
夏月は少し嬉しそうに笑った。
弟だけど、すごくかわいかった。
「明日、話しかけてみる」
「うん。『よく言う子がいる』って言ってたけど、それはもしかしたら夏月なら、って思ってるんじゃないかな?」
「そうかな?」
「分からないけどね。その子の普段の様子も知ってる
わけじゃないし」
「そっか」
夏月は笑って言った。
「男の子?」
「その子?」
「うん」
「女の子」
「夏月すごいじゃん!女の子が男の子に声かけてんの?」
「まぁなっ」
「じゃあいい友達になってあげないとね」
夏月は最高の笑顔で頷いた。
高学年とは思えないほど幼く見えた。
あたしも笑った。
気付いたら笑ってた。
窓の外を見ると暗くなっいた。
「暗くなっちゃったね。お父さんに迎え来てもらおっか」
「しかねぇわな」
あたしはお父さんに電話を掛けた。
『あ、満月?』
「そっ、満月」
『何』
ちょいと機嫌悪い感じ?
「いや、あの、夏月病院にいるから迎え来てほしいんだけど」
『はぁ。お前さ』
何キレてんのさ。
「ん?」
『何で言わなかったかな』
「は?」
『ニュース観てマジ ビビったんだけど』
言葉が若くなってる。
「あぁ、ごめん。忙しいかなぁ、と。ねっ?」
『元気なのか?』
「声聞きゃ分かんだろ」
『みづきぃ……』
「えっ、どこにいるか知らないけど泣くのはやめろ」
『だって……あぁ』
「んじゃ迎え待ってまーす」
『あぁ、みづき』
あたしは一方的に電話を切った。
「ちゃんと来る?」
あたしは何も言わずに首を傾げた。
「したらここにいるわ。あいつと二人はキツイから」
確かに。
よーく分かる。
「超分かる!」
「満月っ!」
あたしはドアの方を見た。
「お父さん……」
「ハハッ。ずいぶん早えな」
「満月……」
お父さんはあたしの方に向かってきた。
「いや聞けよ」
そしてあたしを抱きしめる。
「うわっ、んだよ……悪化する」
「よかった……」
「えっ、確認っすけどニュース観たんすよね?」
「あぁ……」
「なら軽傷ってやってたはずだけど」
「そこまで聞いてるかよ〜っ」
そう言って涙を拭うお父さん。
「つか、んなにショックだったなら来りゃよかったのに」
「動けなかったんだよ〜っ」
「はぁ。帰るぞ」
さっきまでのかわいい弟はどこ行った。
「じゃ、ありがとな」
「頑張れよっ」
「おぅ」
「ちょっと?小さな息子一人で帰す気?」
「あいつは大丈夫だ……」
「あたしを襲った人が夏月も襲ったら!?
夏月と、もう話せなくなっちゃったら!?」
「それは困る」
そう言ってお父さんは病室を飛び出した。
「歳なのに動ける人ね」
「お母さん」
「ふふっ」
「夏月何かあったの?」
「どーだろうね。何で?」
「何か少し自信を持った顔してた」
そっか。
大丈夫。
夏月、あんたならできる。
あたしの弟だもん。
いつか、心から笑わせてやれ。
あたしはそう心で呟きながら窓の前に立った。
「立てるの?」
「脚じゃないから」
「満月……」
「お母さんこそ大丈夫?点滴までされて」
そりゃそうか。
「大丈夫。これ何か、水分みたいな感じだって」
「んじゃああたしたち帰ってよくない?」
「あたしもそう思うんだけどね」
あたしたちは笑った。
「満月ちゃん」
誰だろ。
何か病院の人。
こんな病院来たの初めてだからね。
「はい」
「大丈夫?」
「えぇ。あの、もう本当に大丈夫なんですけど……」
「じゃ帰っちゃう?」
「あ、いいですか?」
「ダメに決まってるでしょ」
決まってるんだ。
「もう走れますよ?」
「いいから明日まではいてちょうだい」
「はぁい」
彼女が部屋から出ようとしたとき、お母さんがいけない
ことを。
「あの、あたしは……」
「はい?」
「もう大丈夫なんですけど……」
「そっくりな母娘ですね」
「ダメ?」
「当たり前でしょ!」
友達みたいで笑ってしまった。
「ほんっとに」
「怒られちゃったね」
「ほんと。帰っていいんだけどなぁ」
「もっとあたしたちの部屋を必要としてる人がいるかも
しれないのにね」
「ねぇ」
お母さんも部屋に戻った。
あと何日ここにいるんだろう。
