「川原 深月ちゃんね」
「満月?」
「あの子、何か……」
「え?」
「あの子、何かあったのかな」
「いや、何でそう思うんだよ」
俺は少し笑って言った。
「分かんないけど、そんな気がする」
「でも、満月の勘ってさ、当たってるときはピッタリ
だけど外れるときは綺麗に外れるじゃん?」
「まぁ、ね」
満月……
何かって何だよ……
その時、リビングで満月の携帯が鳴る。
満月はその音を聞き、リビングへ。
「あ、もしもし?」
俺は自分の部屋に行った。
『あの子、何かあったのかな』
何か…ね。
「夏月っ!」
満月が雑に部屋のドアを開け、俺を呼ぶ。
「どーしたんだよ」
「昴が……昴が」
「昴さん?」
「いいから!行くなら早くして!」
行かないわけにはいかないでしょ。
俺は満月の前に。
「行くよ」
満月は頷いた。
「えっ、どこ行くの?」
俺らは返事もせずにただ走った。
昴さんのいる、病院に……
「どうしよう……昴…」
「昴さんだろ?大丈夫に決まってんだろ」
そうだよね。
昴さん……
「陽希っ!」
白河 陽希かな。
「満月」
「昴は?何があったの?」
「落ち着け……」
いや、陽希さんもね。
「昴、事故に遭ったらしい」
事故……
「無事なんでしょ?だって……昴」
満月は俺の隣で泣き崩れた。
「あぁ、無事だ」
昴さん……
「よかった……」
「今は?」
「治療が終わって寝てる。ぐーっすり。誰かと違ってね」
誰か。
こいつか。
「陽斗……陽斗は?」
「あぁ、大好きな及川くんのところに」
「そっか」
「じゃあ満月ちゃんも行く?大好きな昴くんのところに」
「うん」
「やっぱ二人いい感じじゃん。昴も否定しなかったもん」
「いいから、どこ?」
「あ、はい。こちらですね」
ここに……昴さんが。
何でだろう。
満月の時よりショックな気がする。
「昴っ」
「満月」
「えっ?」
俺は隣にいる陽希って人の顔を見上げた。
「ん?」
「あ、いや……」
超似てる。
どっちがどっちか分かんないかも。
「すばる…?」
「ほらほら。誰かと違って薬効くから」
「弟?」
陽斗って人が俺を見て満月に訊く。
「え?あ、そう。夏月」
「夏月くん。そっくり」
「は?」
「あ、すいません」
みんなほどじゃないと思うけどね。
「おいで?」
「はい……」
俺はゆっくり眠る昴さんに近づいた。
「昴さん……」
「よく生きてたなって感じだったらしいよ?」
「何があったんですか?」
「なんか小さい子守るために飛び込んだんだってさ」
やりそう。
「やりそうだけど……あんま危ないことしないで……」
「運動ダメなくせにそういうことすっから」
「ダメじゃなくて苦手なんだって」
「あれっ?そういえば、昴……」
「どうしたの?」
「昴、風邪引いてた……すごい鼻声だったもん」
「んじゃ薬局でも行こうとしたのかな?」
「あっ!楓っ!」
女の人の声。
俺らは同時にその声がした方を見た。
「茜さん!?」
「えっ?」
俺ら三人の声が同時に言う。
「昴のお姉さん」
言われればなんとなく似てるような気もしないでもない。
「どうしたんですか?」
茜さんはため息を吐いた。
「あのね……」
茜さんによると
茜さん、楓ちゃんと一緒に買い物に出かけ、ひかれそうになった楓ちゃんを守るために飛び込んだ
らしい。
「運動ダメな上に風邪引いてる時にんなことすっから」
「んーっ、ったた……」
「昴さんっ」
「おっ、夏月くんじゃん」
「昴さん……よかったよ」
「俺 結構 強いぜ?」
「そうは見えないんすよ〜っ」
昴さんはゆっくり体を起こした。
「大丈夫なの?」
「いやー、俺誰かと違って薬効くからさぁ」
「ここかな?」
そう言って昴さんの傷を突く満月。
「バッ……いった!」
「えらいんだね」
「満月?」
「楓ちゃん守ったんでしょ?」
「そりゃあんだけちっさい子は」
ちっさい。
「あれ、風邪治ったの?」
「だから言ったろ?気味だって」
「いっちいち心配させやがって。このバカ王子!」
バカ王子。
「いったいから!触るな」
「はぁ?昴も触ってきたでしょ!?」
「お前は軽傷、俺は重傷」
「はぁ?そう言えてる時点で軽傷だから」
「でもよかったじゃん!及川も楓ちゃんも何ともなくて」
「俺重傷だから」
「はぁ?もっかい寝かせとく?」
「あー、いいね」
「茜?」
「何」
「昴さん、敵わないって」
「夏月?っつったっけ?」
目、怖い。
俺は目を逸らした。
「かわいい子ねっ。あたしこういう子好き」
「えっ……」
「ちっちゃいね。中学くらい?」
「いや、小6っす」
「変わんねぇじゃん」
「今度スバにぃにお塩撒いとこっ!」
「塩?」
「そう!あか姉が言ってたの!お塩を撒くと悪いことが
起きないって」
茜さん、何教えてんだよ。
「えっ、何でそんな話になったの?」
「陽希、嗅ぎつけたな?」
「昴の失敗談大好き」
「長くなるけど、いいかしら」
茜さん怖い。
「前、あたしたちが旅行 行った時、
んまぁ帰って来んじゃん」
ですね?
「んで、したらコイツ、『茜がおかしい』って
騒ぎ始めて?」
騒ぎ始める。
「んで、玄関の外に塩撒いたのよ!」
あ、これは茜さん……
「んもぉね、玄関の外真っ白!」
あぁ、止まらない。
「んでもちろん言ったのよ!『もったいない』って。
したらコイツなんて言ったと思うよ?」
えっ。
俺は昴さんを見た。
笑ってる。
「『風でも吹けば飛んでく』」
「そう!そう言いやがったの!んも〜、信じらんない
でしょ!?」
昴さん、そんなことするんだ。
「しかもさ」
まだあるんだ。
「『これ茜にやったら怒るでしょ?』って!
『怒んないわけ無いでしょ?』っつって」
「一人ですげぇ怒ってんの」
昴さん超バカにしてる。
「んだから塩買ってこいっつって。したら今度は」
今度は。
「『今怖いこと考えたばっかなんだけど』って!」
「昴さん……」
笑ってるよ。
「そう、茜のやつね」
あ、昴さんの始まった。
「『昴が捨てるから』って言ったの」
昴さんがすごく大人しく感じる。
「『捨ててねぇし』っつって」
でも話し方似てる。
「なのに何か分かんないみたいでさ」
「分っかるわけ無いでしょ!?」
「いやいや、捨てたらそのままじゃん。
けどあの時はちゃんと祓ってくれてからの、じゃん?」
「本当にダメなんすね」
「霊だよ?誰だかわかんないんだよ?嫌だ嫌だ」
昴さんかわいい。
「スバにぃお化け嫌いなんだよ」
お化けね。
かわいい。
お化け。
言わなくなったな。
「そういえば前」
満月のやつ、思い出しやがった。
「何?」
陽斗さんが食いついてる。
「ちっちゃい頃はもうね、夜は一人の時間ないから」
「えっ、それ」
「お化けが怖いから」
「ハハッ。お化けね」
「かわいすぎぃ〜っ!」
「茜も夏月くん大好き」
「こんなやつのどこがいいのか」
こんなやつ。
「かわいかったんだけどね」
「かった?」
「えぇ。過去形よ」
「優しかったのにね……」
「夏月?」
「ハハハッ。この言い方効くよね」
「チッ。あとで覚えとけ」
怖い怖い。
生きた人間以上に怖いものはないね。
「いやぁ、昴さんが元気でよかったっ!」
「昴に持ってってもダメよ?」
「っすか」
「あたしも昴帰ってきたらいろいろやってやんないと」
「えっ、俺最近何かしたっけ?」
「昴くんのお塩事件思い出した」
お塩事件。
丁寧なのね。
「あんな前のこと引きずってんの?」
「あったりまえでしょ?塩、捨てちゃったんだから」
捨てちゃった、強調。
「捨ててねぇって。お祓いっ」
昴さん、それはダメだって。
かわいい。
あれ。
「陽斗さん?」
「えっ?何?」
「大丈夫っすか?」
「うん」
「っすか。無理、しないでくださいね?」
「夏月くん、満月みたい」
「よく言われます」
深月にも。
「あっ!」
「何よ?いきなり大きい声出して」
「満月の勘ってどれくらいの確率で当たります?」
「極端なんだよねぇ」
「当たるときは予知してたみたいに当たるのに」
「外れるときはもうグッダグダ……」
「あん時のはひどかった」
「何やらかしたんすか?」
「陽斗のことなんだけど……」
「えっ?俺?」
昴さんは頷いた。
「陽斗、人見知りなんだけどさ、こいつ、何だっけ?
何かすんごい大事にしようとしたの」
すんごい大事。
それは大変。
「いや、あれはさ、陽希が」
人のせい。
「今度は俺?」
「そう。陽希がさ、
すんごい悩んであたしたちに言いました感出してさ」
すんごい悩んであたしたちに言いました感。
「どんな感じだよ」
「あんな感じ」
「あっ、こんな感じ」
「そっ。そんな感じ」
いやいや、どんな感じだよ。
「んであんな感じ出すからさ」
「結局どんな感じだよ」
「いやもう分っかんない」
まとまんねぇ。
「んで結局どう大事にしようとしたのさ」
「何とか恐怖症って」
何とか。
そこが知りたいね。
「対人」
みんな茜さんを見た。
「でしょ?」
「それだ!痛っ……そう、それ!」
「あたしそんな難しいこと言った?」
「言ってたんだよ。すんげぇ本気感出して」
〇〇感出すの好きだね。
「えぇ?覚えてない」
「でも……」
「茜、さん?」
「近いもんはあると思うよ」
「えっ?」
「本人は寝ちゃったみたいだけどね」
みんなの視線は陽斗さんへ。
「ねっ?」
そして茜さんに戻る。
「ちょっと嫌なこと言うけど、みんなの前ですごい明るくしてるでしょ。彼」
俺は陽斗さんを見た。
「んでまた上手いんだよね。ほとんどの人が気付かない
でしょ」
「あっ……そういえば茜も」
も?
え、俺ここにいていいのかな。
俺は部屋を出ようとした。
「夏月っ」
「ん?」
満月の声に振り返った。
「聞いとけば。深月ちゃんのこと、変えるんでしょ?」
俺は頷き、さっきの場所へ。
茜さんも笑ってる。
「えらいのね。そんなに小さいのに」
俺は軽く頭を下げた。
「満月ちゃんが思ったやつかは分かんないけど、
彼には気を付けたほうがいいよ」
気を付ける。
「ふふっ、そして夏月くん、敏感ね」
「えっ?」
「彼に言ってたじゃん。『大丈夫?』『無理しないで』
って」
「あ、なんとなく……」
「あ、満月ちゃん、ごめんね?『聞いとけば』ってほど
あたしから言うことはないのよ」
「あっ、十分です。なんか、すいません」
「全然」
「楓お腹すいたぁっ!」
「帰る?」
「うんっ!」
「なんか変な空気にしといてごめんね。まぁあたしが
言ったことが全部ほんとだとは限らないし」
茜さんはそう言って楓ちゃんと帰った。
「陽斗……あんなに言ったのに……」
「満月……」
「こんなに一緒にいるのにな。陽斗、ごめんな」
昴さんが眠る陽斗さんの頭を優しくなでる。
「陽斗さん、何隠してるんでしょう……」
「夏月?」
「俺らの前で明るかったのも全部作ってたとしたら
なんのためにそんなこと……」
俺らの表情とは全く違い、気持ちよさそうに眠る
陽斗さん。
「このかわいい顔がまた辛いよね」
満月が少し悲しそうに言う。
「陽斗……家で俺といる時も学校と変わらなかった……」
そんなにガッツリ隠してるんだ。
陽希さんにはいいじゃん。
「別にいいのに……何でそういう人って心配させたくない
とか考えるんだろうね」
「夏月……」
「深月もそうなんだよ……満月も思ったろ?」
「あ、名前一緒なんだ」
「思った。あの子、何かあるって」
「それで訊いたんす。満月の勘ってどれくらい
当たるのか……」
深月に何かあるなんて、信じたくなかったから。
何もないって、信じたかったから。
「夏月くん、優しいんだね」
陽希さんが笑って言う。
「そんなことありません」
俺は、笑えなかった。
「優しい人はみんなそう言う。あいつも、言ってた。
言わされたこともいっぱいあったけどな」
「でもあたしたちが彼に言ったのは本当のことだから」
昴さんと満月に何があったんだろう。
「陽斗……全部言ってよ。何で一人で抱え込むの……」
満月が今にも泣き出しそうな声で言う。
「あぁ〜っ、首痛い……」
「はると……」
「うわっ!満月?えっ、何?どうしたの?」
「お願い。あたしたちには言ってよ。
あたしたち、普段こんなんだけどさ、中学の頃、
学校一の人見知りと仲良くなったから……」
そうだったんだ…。
「は?」
満月が?
あの、満月が?
信じられない。
「ふふっ。夏月にも言ってなかったもんね」
「言う必要もなかったけど……えぇ〜っ」
「陽斗、あたしたち、どんな陽斗でもいいよ?
どんな陽斗も、受け入れてみせる」
満月……
「みんなどうしたのさ?俺、普通だよ?」
それが普通になっちゃったんだね。
「なんでそんな暗い顔してんのさ」
ついに涙は頬を伝った。
「夏月くん?」
「ちょ、飲みのもの買ってきます」
俺はそう言って病室を出た。
何でそんなに明るくするんですか……
辛いなら辛いでいいのに。
涙は止まりそうになかった。
「満月?」
「あの子、何か……」
「え?」
「あの子、何かあったのかな」
「いや、何でそう思うんだよ」
俺は少し笑って言った。
「分かんないけど、そんな気がする」
「でも、満月の勘ってさ、当たってるときはピッタリ
だけど外れるときは綺麗に外れるじゃん?」
「まぁ、ね」
満月……
何かって何だよ……
その時、リビングで満月の携帯が鳴る。
満月はその音を聞き、リビングへ。
「あ、もしもし?」
俺は自分の部屋に行った。
『あの子、何かあったのかな』
何か…ね。
「夏月っ!」
満月が雑に部屋のドアを開け、俺を呼ぶ。
「どーしたんだよ」
「昴が……昴が」
「昴さん?」
「いいから!行くなら早くして!」
行かないわけにはいかないでしょ。
俺は満月の前に。
「行くよ」
満月は頷いた。
「えっ、どこ行くの?」
俺らは返事もせずにただ走った。
昴さんのいる、病院に……
「どうしよう……昴…」
「昴さんだろ?大丈夫に決まってんだろ」
そうだよね。
昴さん……
「陽希っ!」
白河 陽希かな。
「満月」
「昴は?何があったの?」
「落ち着け……」
いや、陽希さんもね。
「昴、事故に遭ったらしい」
事故……
「無事なんでしょ?だって……昴」
満月は俺の隣で泣き崩れた。
「あぁ、無事だ」
昴さん……
「よかった……」
「今は?」
「治療が終わって寝てる。ぐーっすり。誰かと違ってね」
誰か。
こいつか。
「陽斗……陽斗は?」
「あぁ、大好きな及川くんのところに」
「そっか」
「じゃあ満月ちゃんも行く?大好きな昴くんのところに」
「うん」
「やっぱ二人いい感じじゃん。昴も否定しなかったもん」
「いいから、どこ?」
「あ、はい。こちらですね」
ここに……昴さんが。
何でだろう。
満月の時よりショックな気がする。
「昴っ」
「満月」
「えっ?」
俺は隣にいる陽希って人の顔を見上げた。
「ん?」
「あ、いや……」
超似てる。
どっちがどっちか分かんないかも。
「すばる…?」
「ほらほら。誰かと違って薬効くから」
「弟?」
陽斗って人が俺を見て満月に訊く。
「え?あ、そう。夏月」
「夏月くん。そっくり」
「は?」
「あ、すいません」
みんなほどじゃないと思うけどね。
「おいで?」
「はい……」
俺はゆっくり眠る昴さんに近づいた。
「昴さん……」
「よく生きてたなって感じだったらしいよ?」
「何があったんですか?」
「なんか小さい子守るために飛び込んだんだってさ」
やりそう。
「やりそうだけど……あんま危ないことしないで……」
「運動ダメなくせにそういうことすっから」
「ダメじゃなくて苦手なんだって」
「あれっ?そういえば、昴……」
「どうしたの?」
「昴、風邪引いてた……すごい鼻声だったもん」
「んじゃ薬局でも行こうとしたのかな?」
「あっ!楓っ!」
女の人の声。
俺らは同時にその声がした方を見た。
「茜さん!?」
「えっ?」
俺ら三人の声が同時に言う。
「昴のお姉さん」
言われればなんとなく似てるような気もしないでもない。
「どうしたんですか?」
茜さんはため息を吐いた。
「あのね……」
茜さんによると
茜さん、楓ちゃんと一緒に買い物に出かけ、ひかれそうになった楓ちゃんを守るために飛び込んだ
らしい。
「運動ダメな上に風邪引いてる時にんなことすっから」
「んーっ、ったた……」
「昴さんっ」
「おっ、夏月くんじゃん」
「昴さん……よかったよ」
「俺 結構 強いぜ?」
「そうは見えないんすよ〜っ」
昴さんはゆっくり体を起こした。
「大丈夫なの?」
「いやー、俺誰かと違って薬効くからさぁ」
「ここかな?」
そう言って昴さんの傷を突く満月。
「バッ……いった!」
「えらいんだね」
「満月?」
「楓ちゃん守ったんでしょ?」
「そりゃあんだけちっさい子は」
ちっさい。
「あれ、風邪治ったの?」
「だから言ったろ?気味だって」
「いっちいち心配させやがって。このバカ王子!」
バカ王子。
「いったいから!触るな」
「はぁ?昴も触ってきたでしょ!?」
「お前は軽傷、俺は重傷」
「はぁ?そう言えてる時点で軽傷だから」
「でもよかったじゃん!及川も楓ちゃんも何ともなくて」
「俺重傷だから」
「はぁ?もっかい寝かせとく?」
「あー、いいね」
「茜?」
「何」
「昴さん、敵わないって」
「夏月?っつったっけ?」
目、怖い。
俺は目を逸らした。
「かわいい子ねっ。あたしこういう子好き」
「えっ……」
「ちっちゃいね。中学くらい?」
「いや、小6っす」
「変わんねぇじゃん」
「今度スバにぃにお塩撒いとこっ!」
「塩?」
「そう!あか姉が言ってたの!お塩を撒くと悪いことが
起きないって」
茜さん、何教えてんだよ。
「えっ、何でそんな話になったの?」
「陽希、嗅ぎつけたな?」
「昴の失敗談大好き」
「長くなるけど、いいかしら」
茜さん怖い。
「前、あたしたちが旅行 行った時、
んまぁ帰って来んじゃん」
ですね?
「んで、したらコイツ、『茜がおかしい』って
騒ぎ始めて?」
騒ぎ始める。
「んで、玄関の外に塩撒いたのよ!」
あ、これは茜さん……
「んもぉね、玄関の外真っ白!」
あぁ、止まらない。
「んでもちろん言ったのよ!『もったいない』って。
したらコイツなんて言ったと思うよ?」
えっ。
俺は昴さんを見た。
笑ってる。
「『風でも吹けば飛んでく』」
「そう!そう言いやがったの!んも〜、信じらんない
でしょ!?」
昴さん、そんなことするんだ。
「しかもさ」
まだあるんだ。
「『これ茜にやったら怒るでしょ?』って!
『怒んないわけ無いでしょ?』っつって」
「一人ですげぇ怒ってんの」
昴さん超バカにしてる。
「んだから塩買ってこいっつって。したら今度は」
今度は。
「『今怖いこと考えたばっかなんだけど』って!」
「昴さん……」
笑ってるよ。
「そう、茜のやつね」
あ、昴さんの始まった。
「『昴が捨てるから』って言ったの」
昴さんがすごく大人しく感じる。
「『捨ててねぇし』っつって」
でも話し方似てる。
「なのに何か分かんないみたいでさ」
「分っかるわけ無いでしょ!?」
「いやいや、捨てたらそのままじゃん。
けどあの時はちゃんと祓ってくれてからの、じゃん?」
「本当にダメなんすね」
「霊だよ?誰だかわかんないんだよ?嫌だ嫌だ」
昴さんかわいい。
「スバにぃお化け嫌いなんだよ」
お化けね。
かわいい。
お化け。
言わなくなったな。
「そういえば前」
満月のやつ、思い出しやがった。
「何?」
陽斗さんが食いついてる。
「ちっちゃい頃はもうね、夜は一人の時間ないから」
「えっ、それ」
「お化けが怖いから」
「ハハッ。お化けね」
「かわいすぎぃ〜っ!」
「茜も夏月くん大好き」
「こんなやつのどこがいいのか」
こんなやつ。
「かわいかったんだけどね」
「かった?」
「えぇ。過去形よ」
「優しかったのにね……」
「夏月?」
「ハハハッ。この言い方効くよね」
「チッ。あとで覚えとけ」
怖い怖い。
生きた人間以上に怖いものはないね。
「いやぁ、昴さんが元気でよかったっ!」
「昴に持ってってもダメよ?」
「っすか」
「あたしも昴帰ってきたらいろいろやってやんないと」
「えっ、俺最近何かしたっけ?」
「昴くんのお塩事件思い出した」
お塩事件。
丁寧なのね。
「あんな前のこと引きずってんの?」
「あったりまえでしょ?塩、捨てちゃったんだから」
捨てちゃった、強調。
「捨ててねぇって。お祓いっ」
昴さん、それはダメだって。
かわいい。
あれ。
「陽斗さん?」
「えっ?何?」
「大丈夫っすか?」
「うん」
「っすか。無理、しないでくださいね?」
「夏月くん、満月みたい」
「よく言われます」
深月にも。
「あっ!」
「何よ?いきなり大きい声出して」
「満月の勘ってどれくらいの確率で当たります?」
「極端なんだよねぇ」
「当たるときは予知してたみたいに当たるのに」
「外れるときはもうグッダグダ……」
「あん時のはひどかった」
「何やらかしたんすか?」
「陽斗のことなんだけど……」
「えっ?俺?」
昴さんは頷いた。
「陽斗、人見知りなんだけどさ、こいつ、何だっけ?
何かすんごい大事にしようとしたの」
すんごい大事。
それは大変。
「いや、あれはさ、陽希が」
人のせい。
「今度は俺?」
「そう。陽希がさ、
すんごい悩んであたしたちに言いました感出してさ」
すんごい悩んであたしたちに言いました感。
「どんな感じだよ」
「あんな感じ」
「あっ、こんな感じ」
「そっ。そんな感じ」
いやいや、どんな感じだよ。
「んであんな感じ出すからさ」
「結局どんな感じだよ」
「いやもう分っかんない」
まとまんねぇ。
「んで結局どう大事にしようとしたのさ」
「何とか恐怖症って」
何とか。
そこが知りたいね。
「対人」
みんな茜さんを見た。
「でしょ?」
「それだ!痛っ……そう、それ!」
「あたしそんな難しいこと言った?」
「言ってたんだよ。すんげぇ本気感出して」
〇〇感出すの好きだね。
「えぇ?覚えてない」
「でも……」
「茜、さん?」
「近いもんはあると思うよ」
「えっ?」
「本人は寝ちゃったみたいだけどね」
みんなの視線は陽斗さんへ。
「ねっ?」
そして茜さんに戻る。
「ちょっと嫌なこと言うけど、みんなの前ですごい明るくしてるでしょ。彼」
俺は陽斗さんを見た。
「んでまた上手いんだよね。ほとんどの人が気付かない
でしょ」
「あっ……そういえば茜も」
も?
え、俺ここにいていいのかな。
俺は部屋を出ようとした。
「夏月っ」
「ん?」
満月の声に振り返った。
「聞いとけば。深月ちゃんのこと、変えるんでしょ?」
俺は頷き、さっきの場所へ。
茜さんも笑ってる。
「えらいのね。そんなに小さいのに」
俺は軽く頭を下げた。
「満月ちゃんが思ったやつかは分かんないけど、
彼には気を付けたほうがいいよ」
気を付ける。
「ふふっ、そして夏月くん、敏感ね」
「えっ?」
「彼に言ってたじゃん。『大丈夫?』『無理しないで』
って」
「あ、なんとなく……」
「あ、満月ちゃん、ごめんね?『聞いとけば』ってほど
あたしから言うことはないのよ」
「あっ、十分です。なんか、すいません」
「全然」
「楓お腹すいたぁっ!」
「帰る?」
「うんっ!」
「なんか変な空気にしといてごめんね。まぁあたしが
言ったことが全部ほんとだとは限らないし」
茜さんはそう言って楓ちゃんと帰った。
「陽斗……あんなに言ったのに……」
「満月……」
「こんなに一緒にいるのにな。陽斗、ごめんな」
昴さんが眠る陽斗さんの頭を優しくなでる。
「陽斗さん、何隠してるんでしょう……」
「夏月?」
「俺らの前で明るかったのも全部作ってたとしたら
なんのためにそんなこと……」
俺らの表情とは全く違い、気持ちよさそうに眠る
陽斗さん。
「このかわいい顔がまた辛いよね」
満月が少し悲しそうに言う。
「陽斗……家で俺といる時も学校と変わらなかった……」
そんなにガッツリ隠してるんだ。
陽希さんにはいいじゃん。
「別にいいのに……何でそういう人って心配させたくない
とか考えるんだろうね」
「夏月……」
「深月もそうなんだよ……満月も思ったろ?」
「あ、名前一緒なんだ」
「思った。あの子、何かあるって」
「それで訊いたんす。満月の勘ってどれくらい
当たるのか……」
深月に何かあるなんて、信じたくなかったから。
何もないって、信じたかったから。
「夏月くん、優しいんだね」
陽希さんが笑って言う。
「そんなことありません」
俺は、笑えなかった。
「優しい人はみんなそう言う。あいつも、言ってた。
言わされたこともいっぱいあったけどな」
「でもあたしたちが彼に言ったのは本当のことだから」
昴さんと満月に何があったんだろう。
「陽斗……全部言ってよ。何で一人で抱え込むの……」
満月が今にも泣き出しそうな声で言う。
「あぁ〜っ、首痛い……」
「はると……」
「うわっ!満月?えっ、何?どうしたの?」
「お願い。あたしたちには言ってよ。
あたしたち、普段こんなんだけどさ、中学の頃、
学校一の人見知りと仲良くなったから……」
そうだったんだ…。
「は?」
満月が?
あの、満月が?
信じられない。
「ふふっ。夏月にも言ってなかったもんね」
「言う必要もなかったけど……えぇ〜っ」
「陽斗、あたしたち、どんな陽斗でもいいよ?
どんな陽斗も、受け入れてみせる」
満月……
「みんなどうしたのさ?俺、普通だよ?」
それが普通になっちゃったんだね。
「なんでそんな暗い顔してんのさ」
ついに涙は頬を伝った。
「夏月くん?」
「ちょ、飲みのもの買ってきます」
俺はそう言って病室を出た。
何でそんなに明るくするんですか……
辛いなら辛いでいいのに。
涙は止まりそうになかった。
