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『俺、普通だよ?』

普通じゃないんだよ。

ダメだよ。

それが普通だなんて思っちゃ。

「陽斗……何を心配してるの?」

「満月?」

「あたしたちは陽斗がどんな人でもいいよ?
どんな人でも、陽斗が望むならあたしたちはずっと
陽斗のそばにいる」

「みづき、どうした?」

何でそこまで隠すの?

そんなに隠さなきゃいけないことでもあるの?

「はると……」

「満月、落ち着け」

みんな、何でそんなでいられるの?

「だって……陽斗……陽斗…」

「満月、俺は大丈夫。これが普通だよ?
これが、本当の俺」

「はると……もういいよ……もう……かくさないで…」

言葉がちゃんと出てこない。

言葉より、涙が出てきて。

「満月。大丈夫。いつか分かるよ?俺は何にも隠してないって」

「やだ……もういいんだよ……」

陽斗はもう辛い思いしなくて。

もういいの。

陽斗は十分辛い思いしてきた。

もうこれからは笑って過ごせばいい。

何も隠さないで、全部言い合って。

たまに喧嘩して、辛いことがあったら一緒に泣いて。

一緒に泣き合えるくらいの辛さでいいんだよ。

「はると……」

「なに?」

「もういいんだよ……なにも……」

こんなに言いたいことはあるのに。

何で同じことしか言えないんだろう。

「満月、俺のことは気にしないで?」

『気にしないで』

彼はそうだった。

彼は本当に辛い時はそう言ってた。

「やだ……あたし、はじめてなの……」

こんなに、笑ってほしいって。

こんなに幸せでいてほしいって思ったの。

「ん?」

「はじめて……はじめておもったの……」

「いいよ。ゆっくりで。俺はずっと満月のそばにいる」

あたしが言ってあげなきゃいけない言葉なのに。

あたしが、陽斗に言ってあげるべき言葉なのに。

あたしが、言えないから。

陽斗があたしに言ってくれた。

「はると……」

「満月、とりあえず落ち着けよ」

「だって……きづいて……あたしが……」

陽斗がいるのに。

陽斗の前では言っちゃいけないのに。

「すばる……」

「何?俺も陽斗も、陽希もいるよ?」

「みんな……」

優しくしないで……

じゃないと……もう…

夏月は?

夏月、まだ戻ってこないの?

せめて、夏月の前だけにしたかった。

こんなに泣くのは。

「満月こそ、何我慢してたの?」

「はると……」

あたしは我慢なんてしてない。

ただ、陽斗の思いに気付けなかったのが悔しいだけ。

その時、陽希が病室を出た。

「満月、大丈夫。泣きたい時は泣くんでしょ?
笑うのは、明日でも、明後日でもいいんでしょ?」

あたしは陽斗の言葉に何度も頷いた。

「満月……」

夏月の声に涙が勢いを増す。

「なつき……」

「陽斗さん……」

「夏月くん?」

「何で……なんで……そんなに…」

「も〜、みんなどうしたの?」

どうしたの?

それは陽斗の方でしょよ。

「俺は大丈夫。無理もしてないし、隠してもないよ?」

「そっか」

「満月?」

あたしと陽斗以外の三人があたしの名前を呼ぶ。

「陽斗……ありがとね。じゃあ昴、また来るね」

「あ、おぉ」

「夏月」

あたしはドアの方に向かった。

「あ、失礼します……」

夏月もついてきた。





「どうした?」

「何でもない」

「言わなくてよかったの?」

あたしは頷いた。

『うん』

そのたった二文字が言えなかった。

声より先に、涙が出そうだったから。

「満月」

「ん?」

振り向くこともできなかった。

夏月を、夏月を見たら、泣きそうだから。

泣くのは、帰ってから、部屋に行ってからでいい。

それが一番、誰にも心配させないから。

「おいで」

夏月……もういいよ。

優しくしないで。

「いいから……いくよ」

あたしは自分でも驚くほど低い声で言い、歩き出した。

「満月っ」

それを止めるようにあたしの名前を呼ぶ夏月。

それに止まってしまうあたし。

「隠してんのは、我慢してんのはどっちだよ」

違う。

あたしは隠しごとも我慢もしてない。

「いいから」

夏月、もうやめて。

「いいから、俺の前では……」

もう、帰ろうよ。

家に。

それぞれの、部屋に。

「俺の前では本当の満月でいてくれよ」

さっきまで耐えていた涙が溢れだす。

あたしは必死に声を抑えた。

「本当の、青山満月でいてくれよ……
俺…我慢される方がよっぽど嫌だ……」

小学生がそんなこと考えて……

小学生が高校生の姉のこと心配して。

「もう…帰ろう……家に」

あたしはそう言って再び歩き出した。

「満月っ!」

あたしに抱きつく夏月。

「ん?」

「帰ったら泣け。俺が全部受け止める」

「分かったよ。だから、帰ろう?家に。お母さんも
待ってる」

あたしが言うと夏月はそっと離してくれた。





気付いたら家の前。

何一つ会話はなかった。

「おかえり」

「ただいま」

夏月は明るく、あたしは消えそうな声で言った。

「んじゃ、俺ら部屋にいるから」

「あ、うん」


あたしは夏月と自分の部屋へ。

「満月……」

「ん?」

「もういいだろ。十分耐えたろ」

「けど、はると……もっと……」

やっぱり言葉より涙が出た。

「もういいよ。今日は泣こ?
したら、明日は今日の涙より多い笑顔が待ってんだろ?」

「なつき……ごめん……」

「いいんだよ。そんだけのことがあったんだから」

「なつき……」

夏月はあたしを何も言わずに優しく支えるようにして
くれた。

抱きしめるほど優しくなくて。

何もしないほど冷たくなくて。

きっとこれは、夏月にしかできない。

優しくしても、冷たくしても泣くあたしを知ってる、
夏月にしか。

「なつき……」

あたしが名前を呼べば、優しく背中を叩いてくれて。

夏月は、あたしの全てを知ってる。

『夏月みたいな彼がほしい』前は何度も思った。

「あたしたち……」

「ん?」

「なんで……かぞくなんだろ……」

「でも家族より、一緒にいられる関係はないよ?」

「なつき……そうだよね……」





あたしはしばらく泣いた。

夏月はずっとそばにいてくれた。





「おっ、満月」

「なつき」

「大丈夫?頑張ったね。お疲れ」

「なつき、ありがと」

夏月は笑って首を横に振った。

「寝てな?」

「もう大丈夫」

「そっか。何かほしい物ある?」

「ううん」

「お疲れ」

夏月はそう言ってあたしの頭をなでた。

「ちょっと待ってね」

夏月は優しくそう言って部屋を出た。



少しして戻ってきた。

「はい」

夏月は水の入ったペットボトルを差し出した。

「ありがと」

あたしはそのまま一口飲んだ。

「もう大丈夫だよ?」

「いいから。ずっといてやるよ」

本当に小学生なのかな。

あたしよりしっかりしてるところある。

「陽斗、今何してるんだろう……」

「家でゆっくりしてんじゃねぇか?」

「ゆっくり、できてるかな?」

「大丈夫。一回、陽斗さんのことは忘れな?」

「あたしが?あたしが陽斗を忘れるの?」

「いや、あの、一回何も気にしないで、さ」

夏月の笑顔にまた泣きそうになる。

「満月、もう一人で悩むな」

夏月……

またあたしを泣かせるの?

その、優しさで。

「うん……あたしには夏月がいる」

「そっ。忘れんなよ?」

夏月はかわいらしく笑ってあたしの頭をなでた。

本当、弟には見えない。

もう、お兄ちゃんみたい。

「陽斗、大丈夫?」

「陽斗さんは大丈夫。もう今日は寝よ?」

そう言ってあたしを寝かせた。

「ねっ?もう、明日まで寝ちゃお?」

陽斗、今どんな気持ちでいるんだろう。

隠したいのに、あたしは必死に聞こうとした。

夏月に言ったばかりなのに。

『相手も緊張してることを忘れないで』

さっきのあたしに言ってやりたい。

陽斗……ごめんね。

「あの」

「ん?」

「もう、これ以上関わらないほうがいいかな」

「陽斗さんと?」

あたしは頷いた。

「恩着せがましいけど満月がいたから、今の陽斗さんが
いるんでしょ?」

「陽斗はあたしといて大丈夫かな?」

「ん?」

「少しでも隠す人、少ないほうがいいよね」

「バーカ。茜さんも言ってたじゃん『あたしが言った
ことが全部ほんとだとは限らない』って。陽斗さんは、
本当に何も隠してないかもしれないよ?」

今日もだ。

今日も夏月に助けられてる。

「いつか、本当の陽斗見せてくれるよね」

夏月は笑顔で頷いた。

あたしは夏月に見守られて目を閉じた。

<2016/07/21 22:07 秋の空>消しゴム
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