「こうまかん…」
「そーなのだー」
私が呆然と呟くと、ルーミアは嬉しそうに頷いた。
「もんばんが居るから、中に降ろしてあげるのだー」
「あ…ありがとう」
ルーミアは私を抱えたまま軽々と塀を越え、中庭にふわりと着地した。
「本当にありがとう、ルーミア。すごく助かった」
「どういたしましてなのだー」
ルーミアが夜空にふよふよ飛んでいくのを見送ってから、私はお屋敷に向き直った。
夜空に、紅く重くそびえ立つ洋館は、訪れる者を拒んでいるようだった。パッと見て誰も居ない、大昔に忘れ去られた屋敷の様に見えるが、庭は隅々まで細かく手入れされているのが分かる。雑草一本、木の葉一枚落ちていないから。
何の前触れもなく、突然鐘の音が降って来た。頭の芯まで揺らすような音は、私を怯ませるには十分だった。
多分、このお屋敷には住んでいる人がたくさんいる。外からでも足音や、小さく話す声が聞こえるから。このお屋敷の住人も、ルーミアと同じ様に普通では無いだろう。でも、さっきルーミアに襲われそうになった、あの時みたいに意表を突ければ____相手が私に襲いかかってきても、逃げられるかもしれない。
あの時みたいに________。
そこまで考えてから、私はぶんぶんとかぶりを振った。ここには戦いに来たんじゃない。誰か人に会ったら、私は敵じゃないって分かってもらって、一晩ここに泊めてくださいって言えばいいだけ。
勝手に入ってごめんなさい、どうか一晩泊めて貰えませんか_____。私が言えばいいのはそれだけだ。
ゆっくりと歩いて、重厚そうな扉に手をかけた時、背後からざらっとした気配が忍び寄って来た。
さっと横に飛び退いて振り返ると、
「おや、気付きましたか。素人なら分からないと思ったんですが_____。……一度だけ聞きます。紅魔館に、何の御用でしょうか。………返答によっては、容赦しません」
赤い髪の、チャイナドレスに身を包んだ女の人が立っていた。月明かりの逆光で表情はよく分からないけど、多分、いや絶対に睨んでいる、私を。
凄まじい気迫を纏って。
「あ、の…か、勝手に入って…すみません、じゃなくて、ご、ごめんなさいっ!」
「…へ?」
「あの、なんでここに来たのか分かんら…っ、分かんなくて、ルーミアから逃げてたら夜になっちゃって、ルーミアに『こうまかん』に行けばなんとかなるんじゃないかって教えて貰って、それで、あの、ひっ、一晩ここに泊めてください!お願いします!」
ブルブル震えながら自分で何言ってるのか分からなくなるくらい早口でまくしたてて、一人で勝手に焦って、がばっと頭を下げた。
「………ぷっ」
「…?」
「あははははは!なんだ、そんなことでしたか。あー、すいません。真夜中に私に気付かれずに門を越えて入り込むなんて、ここに来てから初めてのことでしたから。いやー、さっき避けた時は思わず腕が立つのかと思って身構えちゃいましたよ。勘がいいんですね、霊夢さんみたいだ」
「…?……え…?え?」
「まあでも、私一人では決められないので、確認取って来ますね」
「…あ、ありがとうございます……」
御礼を言った途端、ふっと緊張が解けて…
__________気が付いたら、柔らかいベッドに寝かされていた。
「全く、気絶するほど怖がらせるなんて…。まあ貴女程度で気絶してちゃ幻想郷じゃあっという間に死ぬわね。お嬢様がパチュリー様と図書館に居たから良いものの、貴女らしくないじゃない、美鈴?」
「いやいや、きっちり気配を消して近付いてたんですよ?それなのに、五歩行かないうちに気付くって咲夜さんか霊夢さん並の超感覚じゃないですか⁉︎実際お二人とお嬢様以外で気付いた人なんて居なかったのに!あのパチュリー様でさえ振り向くに至らないくらい慎重にやってたのに…。…うぅ、不覚です。まだまだ私も未熟という事でしょうか…」
「うーん、実力あるにしては今気絶してるし、矛盾してるわよねぇ…」
「あぅ……」
「あ、起きた」
「……?私、どうしたのかな…、ってわぁ⁉︎」
目を開けたらいきなり女の人の顔のドアップだったので、物凄くびっくりした。
「何よ、一応熱は無いか確かめただけよ。此処には人間を襲う妖怪はいない…はずだから、そんなにビクビクしなくてもいいわよ。あ、あと此処の主人__________私の仕えてる方なんだけど__________には一応内緒だから、私が話を通して来るまで静かにしてなさい」
「は、はい」
昨日の人とは違う、銀髪の綺麗な人がベッドの近くの椅子に座りながら言った。看病して貰った事もあるので、少々申し訳なく思った。そういえば昨日は暗くて分からなかったが、赤い髪の人もとても綺麗だ。
それにしてもさっきの、自信なさげなのがとても気になるけれど…。
「ところで名前は?私は紅美鈴と言います。どうも、昨晩はすみませんでした」
「私は十六夜咲夜。此処、紅魔館でメイド長をやってるわ。美鈴は門番ね。____ところで、彼女を見つけたのは門の内側だったそうだけど…、どういう事かしら?」
「え、あ、えーとそのー。あー、ね、寝てたわけじゃ無いんですよ?ちょ、ちょっと別の事を考えてまして…」
「本当は?」
「あっ、ルーミアに抱えて貰って飛んで入ったんです!か、勝手に入ったのは私なので、あ、その…」
ちょっと空気がまずい感じになって来たので、慌てて言いかけるが、二人の視線が一気に集まり、思わず黙ってしまう。
「それより、名前聞きましょう名前!」
「…まあ、そういう事にしておきましょうか。貴女、名前は?」
「はいっ?」
いきなり話題を振られて、思わず声が裏返ってしまう。
「……落ち着いてからでいいのよ?」
…すごく、恥ずかしいです……。美鈴さん声抑えて笑ってるし。
「…橘、美咲です」
「そーなのだー」
私が呆然と呟くと、ルーミアは嬉しそうに頷いた。
「もんばんが居るから、中に降ろしてあげるのだー」
「あ…ありがとう」
ルーミアは私を抱えたまま軽々と塀を越え、中庭にふわりと着地した。
「本当にありがとう、ルーミア。すごく助かった」
「どういたしましてなのだー」
ルーミアが夜空にふよふよ飛んでいくのを見送ってから、私はお屋敷に向き直った。
夜空に、紅く重くそびえ立つ洋館は、訪れる者を拒んでいるようだった。パッと見て誰も居ない、大昔に忘れ去られた屋敷の様に見えるが、庭は隅々まで細かく手入れされているのが分かる。雑草一本、木の葉一枚落ちていないから。
何の前触れもなく、突然鐘の音が降って来た。頭の芯まで揺らすような音は、私を怯ませるには十分だった。
多分、このお屋敷には住んでいる人がたくさんいる。外からでも足音や、小さく話す声が聞こえるから。このお屋敷の住人も、ルーミアと同じ様に普通では無いだろう。でも、さっきルーミアに襲われそうになった、あの時みたいに意表を突ければ____相手が私に襲いかかってきても、逃げられるかもしれない。
あの時みたいに________。
そこまで考えてから、私はぶんぶんとかぶりを振った。ここには戦いに来たんじゃない。誰か人に会ったら、私は敵じゃないって分かってもらって、一晩ここに泊めてくださいって言えばいいだけ。
勝手に入ってごめんなさい、どうか一晩泊めて貰えませんか_____。私が言えばいいのはそれだけだ。
ゆっくりと歩いて、重厚そうな扉に手をかけた時、背後からざらっとした気配が忍び寄って来た。
さっと横に飛び退いて振り返ると、
「おや、気付きましたか。素人なら分からないと思ったんですが_____。……一度だけ聞きます。紅魔館に、何の御用でしょうか。………返答によっては、容赦しません」
赤い髪の、チャイナドレスに身を包んだ女の人が立っていた。月明かりの逆光で表情はよく分からないけど、多分、いや絶対に睨んでいる、私を。
凄まじい気迫を纏って。
「あ、の…か、勝手に入って…すみません、じゃなくて、ご、ごめんなさいっ!」
「…へ?」
「あの、なんでここに来たのか分かんら…っ、分かんなくて、ルーミアから逃げてたら夜になっちゃって、ルーミアに『こうまかん』に行けばなんとかなるんじゃないかって教えて貰って、それで、あの、ひっ、一晩ここに泊めてください!お願いします!」
ブルブル震えながら自分で何言ってるのか分からなくなるくらい早口でまくしたてて、一人で勝手に焦って、がばっと頭を下げた。
「………ぷっ」
「…?」
「あははははは!なんだ、そんなことでしたか。あー、すいません。真夜中に私に気付かれずに門を越えて入り込むなんて、ここに来てから初めてのことでしたから。いやー、さっき避けた時は思わず腕が立つのかと思って身構えちゃいましたよ。勘がいいんですね、霊夢さんみたいだ」
「…?……え…?え?」
「まあでも、私一人では決められないので、確認取って来ますね」
「…あ、ありがとうございます……」
御礼を言った途端、ふっと緊張が解けて…
__________気が付いたら、柔らかいベッドに寝かされていた。
「全く、気絶するほど怖がらせるなんて…。まあ貴女程度で気絶してちゃ幻想郷じゃあっという間に死ぬわね。お嬢様がパチュリー様と図書館に居たから良いものの、貴女らしくないじゃない、美鈴?」
「いやいや、きっちり気配を消して近付いてたんですよ?それなのに、五歩行かないうちに気付くって咲夜さんか霊夢さん並の超感覚じゃないですか⁉︎実際お二人とお嬢様以外で気付いた人なんて居なかったのに!あのパチュリー様でさえ振り向くに至らないくらい慎重にやってたのに…。…うぅ、不覚です。まだまだ私も未熟という事でしょうか…」
「うーん、実力あるにしては今気絶してるし、矛盾してるわよねぇ…」
「あぅ……」
「あ、起きた」
「……?私、どうしたのかな…、ってわぁ⁉︎」
目を開けたらいきなり女の人の顔のドアップだったので、物凄くびっくりした。
「何よ、一応熱は無いか確かめただけよ。此処には人間を襲う妖怪はいない…はずだから、そんなにビクビクしなくてもいいわよ。あ、あと此処の主人__________私の仕えてる方なんだけど__________には一応内緒だから、私が話を通して来るまで静かにしてなさい」
「は、はい」
昨日の人とは違う、銀髪の綺麗な人がベッドの近くの椅子に座りながら言った。看病して貰った事もあるので、少々申し訳なく思った。そういえば昨日は暗くて分からなかったが、赤い髪の人もとても綺麗だ。
それにしてもさっきの、自信なさげなのがとても気になるけれど…。
「ところで名前は?私は紅美鈴と言います。どうも、昨晩はすみませんでした」
「私は十六夜咲夜。此処、紅魔館でメイド長をやってるわ。美鈴は門番ね。____ところで、彼女を見つけたのは門の内側だったそうだけど…、どういう事かしら?」
「え、あ、えーとそのー。あー、ね、寝てたわけじゃ無いんですよ?ちょ、ちょっと別の事を考えてまして…」
「本当は?」
「あっ、ルーミアに抱えて貰って飛んで入ったんです!か、勝手に入ったのは私なので、あ、その…」
ちょっと空気がまずい感じになって来たので、慌てて言いかけるが、二人の視線が一気に集まり、思わず黙ってしまう。
「それより、名前聞きましょう名前!」
「…まあ、そういう事にしておきましょうか。貴女、名前は?」
「はいっ?」
いきなり話題を振られて、思わず声が裏返ってしまう。
「……落ち着いてからでいいのよ?」
…すごく、恥ずかしいです……。美鈴さん声抑えて笑ってるし。
「…橘、美咲です」
