「…本当に貴女の能力って、便利なのかどうか分からないわね」
「はあ…。いや、そもそもこれが特別なのか知らないのでなんとも…」
「記憶が無いって不便ね。それだけは確かだわ」
そう言うとレミリアさんは、ちょっとの間私を見て、ニッと笑った。
「どうせ行くところも無いんでしょう?_____なら、此処に居るといい」
「_______えっ?」
「まあ、客では無くきっちり働いて貰うけどな。咲夜の時みたいに、名前つけられないのが残念だけど」
「……え?え?えええ?」
「じゃ、そういう訳だから。咲夜、色々と教えてやりなさい_____色々と、ね」
「…かしこまりました」
なんだかよく分からないけど、私は紅魔館のメイドになることになった。
……咲夜さんのあれを見せられたら、自信なんて全く起きないけど。
私は両手を上に上げて、うーんと伸びをした。ここ最近は昼間も肌寒いので、寝ようにも寝れない。そのまま軽くストレッチをして、門前に立ちっぱなしで強張った体をほぐしていく。
「_____ふう」
一通りやり終わって一息つくと、人が近付いてくる気配がした。
その人はゆっくりと、こちらに向かって歩いて来る。そして、近くの茂みの間から姿を現した。
「…もし、一つ聞きたいのだが」
そして唐突に口を開く。女性にしては低く、しかし美しくあたりに凛と響く声音だった。
「はい、いいですよ」
「『紅魔館』に行きたいのだが、この辺りで間違いないか?」
「ここですよ。何か御用ですか?」
するとその人物は、ごそごそと手持ちのやや大きい巾着袋から何かを取り出した。
「やはり人間が作る物は丈夫で良いものだな_____あったあった。これを、返さなければいけないのだ」
その人が私に見せたのは、真紅の扇だった。畳まれているので柄はよく分からないが、ちらりと見ただけでも、よほどの価値のある物だと分かる。持ち手の先には同じく緋色の編み紐が結び付けられている。
「…これを、誰に?」
するとその人は、一瞬考えてから言った。
「それは持ち主が分かるはずだ。『名前を忘れて居なければ』、だが」
「はい?」
「昔預かった物なのだが、そろそろ頃合いだろう。『あの子』にはこれが必要だ」
私の頭の中に、ある少女の顔が浮かんだ。
「…美咲さんと、どのようなご関係で?」
その人は、ちょっと驚いた顔をして、それからふっと微笑んだ。
「そうだな……。名付け親、とでも言っておこう。あの子は私と同類だからな。子の居場所が分からん親が何処に居る?____頼んだぞ」
そう言い残すと、その人はふわりと浮かび、音も無く去って行った。
「………なんだったんでしょう?」
「……っ!お、もっ…」
「貴女本当に非力ね…。先が思いやられるわ」
私は咲夜さんに付いて地下へ続く階段を降りていた。
そして、地下の図書館にもう一人住人が居るらしいので、その人に出す紅茶を運んでいるのだ。
が、そんなに重く無くても、長い間ずっとこぼさずに持っているのは正直かなり辛かった。一段降りる度に、紅茶の水面がゆらゆらと揺れて、私の足の運びを遅くする。
「はい、ご苦労様。此処が図書館よ。…パチュリー様は静かなのがお好きな方だから、くれぐれも大騒ぎしないでね。叫ぶなんてもっての他よ」
「は、はひぃ…」
さっきまでは私自身や咲夜さんの足音でかすかにしか分からなかったが、今改めて聞いて見ると誰かの足音やページをめくる音、小さく呪文(?)を唱えている声などが割とはっきり聞こえる。それだけ静かなのだろう。私は今これだけの音が『聞こえる』のだが、咲夜さんは違うのだろうか。私以外の人にとっては、こんな『色んな音がする』世界では無いのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、ふと誰かの声に気付いた。聞いたことのない声。
『…え、様……。お姉様、私も一緒にご本読む!』
『あらあら、しょうがない子ね…』
受け答えをしているのはレミリアさんの声。仲が良さそうだ。何処かで聞いたような言葉があったが…。
『お母さん、本読んで!』
『もう、一冊読んだらお終いって言ったでしょ?……しょうがないわねぇ、本当にこれでお終いよ?ちゃんと寝るのよ?』
『はーい!』
「き、……美咲?ボーッとしてる暇は無いわよ?」
「あっ、はいっ」
そして、図書館に一歩入ろうとしたその時______
あぶないよ。
にげなきゃ、ほら、はやく。
「_____誰?」
次の瞬間。
目が眩むほどの光が視界を埋め尽くし、
何も分からなくなった。
to be continued…
「はあ…。いや、そもそもこれが特別なのか知らないのでなんとも…」
「記憶が無いって不便ね。それだけは確かだわ」
そう言うとレミリアさんは、ちょっとの間私を見て、ニッと笑った。
「どうせ行くところも無いんでしょう?_____なら、此処に居るといい」
「_______えっ?」
「まあ、客では無くきっちり働いて貰うけどな。咲夜の時みたいに、名前つけられないのが残念だけど」
「……え?え?えええ?」
「じゃ、そういう訳だから。咲夜、色々と教えてやりなさい_____色々と、ね」
「…かしこまりました」
なんだかよく分からないけど、私は紅魔館のメイドになることになった。
……咲夜さんのあれを見せられたら、自信なんて全く起きないけど。
私は両手を上に上げて、うーんと伸びをした。ここ最近は昼間も肌寒いので、寝ようにも寝れない。そのまま軽くストレッチをして、門前に立ちっぱなしで強張った体をほぐしていく。
「_____ふう」
一通りやり終わって一息つくと、人が近付いてくる気配がした。
その人はゆっくりと、こちらに向かって歩いて来る。そして、近くの茂みの間から姿を現した。
「…もし、一つ聞きたいのだが」
そして唐突に口を開く。女性にしては低く、しかし美しくあたりに凛と響く声音だった。
「はい、いいですよ」
「『紅魔館』に行きたいのだが、この辺りで間違いないか?」
「ここですよ。何か御用ですか?」
するとその人物は、ごそごそと手持ちのやや大きい巾着袋から何かを取り出した。
「やはり人間が作る物は丈夫で良いものだな_____あったあった。これを、返さなければいけないのだ」
その人が私に見せたのは、真紅の扇だった。畳まれているので柄はよく分からないが、ちらりと見ただけでも、よほどの価値のある物だと分かる。持ち手の先には同じく緋色の編み紐が結び付けられている。
「…これを、誰に?」
するとその人は、一瞬考えてから言った。
「それは持ち主が分かるはずだ。『名前を忘れて居なければ』、だが」
「はい?」
「昔預かった物なのだが、そろそろ頃合いだろう。『あの子』にはこれが必要だ」
私の頭の中に、ある少女の顔が浮かんだ。
「…美咲さんと、どのようなご関係で?」
その人は、ちょっと驚いた顔をして、それからふっと微笑んだ。
「そうだな……。名付け親、とでも言っておこう。あの子は私と同類だからな。子の居場所が分からん親が何処に居る?____頼んだぞ」
そう言い残すと、その人はふわりと浮かび、音も無く去って行った。
「………なんだったんでしょう?」
「……っ!お、もっ…」
「貴女本当に非力ね…。先が思いやられるわ」
私は咲夜さんに付いて地下へ続く階段を降りていた。
そして、地下の図書館にもう一人住人が居るらしいので、その人に出す紅茶を運んでいるのだ。
が、そんなに重く無くても、長い間ずっとこぼさずに持っているのは正直かなり辛かった。一段降りる度に、紅茶の水面がゆらゆらと揺れて、私の足の運びを遅くする。
「はい、ご苦労様。此処が図書館よ。…パチュリー様は静かなのがお好きな方だから、くれぐれも大騒ぎしないでね。叫ぶなんてもっての他よ」
「は、はひぃ…」
さっきまでは私自身や咲夜さんの足音でかすかにしか分からなかったが、今改めて聞いて見ると誰かの足音やページをめくる音、小さく呪文(?)を唱えている声などが割とはっきり聞こえる。それだけ静かなのだろう。私は今これだけの音が『聞こえる』のだが、咲夜さんは違うのだろうか。私以外の人にとっては、こんな『色んな音がする』世界では無いのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、ふと誰かの声に気付いた。聞いたことのない声。
『…え、様……。お姉様、私も一緒にご本読む!』
『あらあら、しょうがない子ね…』
受け答えをしているのはレミリアさんの声。仲が良さそうだ。何処かで聞いたような言葉があったが…。
『お母さん、本読んで!』
『もう、一冊読んだらお終いって言ったでしょ?……しょうがないわねぇ、本当にこれでお終いよ?ちゃんと寝るのよ?』
『はーい!』
「き、……美咲?ボーッとしてる暇は無いわよ?」
「あっ、はいっ」
そして、図書館に一歩入ろうとしたその時______
あぶないよ。
にげなきゃ、ほら、はやく。
「_____誰?」
次の瞬間。
目が眩むほどの光が視界を埋め尽くし、
何も分からなくなった。
to be continued…
