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東方幻霊奏
- 第五話 訓練 -

第五話 訓練
「うーん…」
「あら、目が覚めた?」
目を開けると、知らない人が私を見下ろしていた。咲夜さんより微妙に白が強い色の髪、左右で赤と青の布が合わさったようなワンピース。そして、外見年齢より深い知性を感じさせる目。
「初めまして、ね。私は八意永琳。此処、永遠亭で薬師をやってるわ。いきなり倒れたそうだけど、平気かしら?」
「…ちょっと、クラクラします」
「そう。じゃ、やっぱりあれね。普通なら意識が戻っても目眩と吐き気が酷すぎてそれくらいじゃ済まないけど、すぐ薬を飲ませたのが良かったみたいね。……うどんげー?ちょっと来てくれるー?」
八意永琳と名乗ったその人は、テキパキと話す人だ。そして、かなり聡い人だと分かった。今だって、ほんの少し顔色を確かめた程度で大丈夫だと判断を下し、次の作業に移っている。少しだけ仕事中の咲夜さんに似てる、とぼんやり思った。と同時に、妙に頭が重いことに気付く。なんだかふわふわと意識だけが漂っているような、不思議な感覚だ。
「はい、師匠。お呼びですか?」
「うどんげ、これから問診するから、記録取ってちょうだい」
うどんげと呼ばれた人は、私より少し年上のようだった。淡い赤紫の腰まで届く長髪、レミリアさんみたいな真紅の瞳、そして_____
頭からぴょこんと生えた、白いウサギの耳。
「はい。…あっ、どうも初めまして。鈴仙・優曇華院・イナバといいます。妖怪兎です。気軽に、鈴仙って呼んでください。此処で師匠の助手をしてます」
鈴仙さんが丁寧にお辞儀をした。反射的にお辞儀を返す。
「橘美咲です。紅魔館でつい最近メイドになりました」
「つい最近というか、あれから今日で二日目だけれどね」
永琳さんがよく通る声で言った。わずかに笑っている。
「薬の効果では無いんだけど、貴女丸一日こんこんと眠ってたのよ。どうせこっちに来てからまともに睡眠とってなかったんでしょ?紅魔館でも気絶してたみたいだし」
そういえば、まだ此処に来てから四日しか経ってないんだな_____と今更思った。なんだか随分長い間此処にいたような気がする。
「ま、いいわ。軽い目眩がまだ残ってて、その他に何かある?」
「少しだけ頭が重いです」
「頭部に鈍痛、と…。うん、今日一日安静にして、夕方診た時に良くなってれば大丈夫かしらね」
「あの」
「何?」
「私、なんで倒れたんでしょうか」
ふむ、と永琳さんはペンの頭をこめかみに当てて言った。
「突然大量の負荷がかかった事によるショック、ね。紅魔館の魔女は魔力がずば抜けてるから…。貴女が今まで魔力や霊力の存在が少ない顕界で住んでいた証拠ね」
あ、もう一人の住人って魔女さんだったんだ。______うん?
「レミリアさんと会った時は平気だったんですけど、なんででしょう」
「魔女と吸血鬼じゃ周りに纏ってる超常の力の強さが違うからよ」
「はあ。…レミリアさんって吸血鬼だったんだ……」
「吸血鬼っていうのは妖怪の中でもオールラウンダーだから。物理で攻めるも良し、魔法で攻めるも良し…。一方魔女は魔法一辺倒だからね。身体はいくらか丈夫だけど、殴る蹴るで戦えるかは人による。その代わり魔法だとなかなか勝たせてくれないわ。持ってる量がとにかく違うの。引き出しの多さかしら」
「……………」
近付くだけで人が倒れるという事は、それだけ魔力が強いという事なのだろう。そして永琳さんが言っているのは、魔女に限って言うと魔力の強さとその人自身の強さは比例するという事。
永琳さんはその後すぐに出て行ってしまったけれど、鈴仙さんはまだしばらく病室に残っていてくれた。
「ふうん、幻想入りした時には記憶が既に無かったんですか。覚えてないのって不安になりませんか?」
長いウサミミをぴこぴこ動かしながら、鈴仙さんは不思議そうに言った。
「うーん、なんと言うか、特には」
確かに此処に来てすぐの時には、焦りもした。何も分からなかったから。
でも、今は此処がどんなところか知っているし……それに。
なんだか、前居たところより、ほっとできる気がする。
「……っふふ」
何も覚えてないのに。変なの。
「?」
鈴仙さんは首を傾げていたが、次第につられて笑い始めた。
橘美咲という少女が、幻想となってから四日。
彼女は初めて、心から笑った。


その後、咲夜さんに怒られて、心配されながら私は永遠亭から戻り、紅魔館のメイドとして、忙しく働いていた。 時にコケて、しょっちゅう怒られて、たまに褒められて。
でも翌日、今回のは予想外だった。
「……訓練?」
夕方、丁度レミリアさんが起きた頃、突然部屋に呼ばれたのだ。そして、まず第一声が「訓練を始めましょう」だった。
「ええそうよ、訓練。貴女がちゃんと自分で自分を守る程度のことは出来るようにね」
「……戦うのに使えるんでしょうか、私の能力なんて」
「あら、察しが良いじゃない。せっかく能力があるんだし、使いこなせなければね。勿体ないでしょ?」
「…お嬢様は私の能力に興味があるだけじゃあ……」
「結構言うようになったわねぇ、貴女も」
レミリアさんが笑いながら言った。笑顔がとても朗らかで、こっちの方が自然に見えた。
「まず何をするべきかしらね…」


レミリアさんは少し考えて、私を地下に連れて行った。あの事があってから、私は地下には極力近付かないように、と言われていたからちょっと緊張した。
「パチェ〜、いる?」
今度は大丈夫、光も起きないし気分も悪くない。そう思ってもやっぱり身体が強張ってしまう。レミリアさんはスタスタと歩いて行ってしまう。どうにか足を動かして、慌てて後を追った。
地下の図書館は思っていたよりずっと広くて、上半分は濃密な闇が、図書館全体を冷たい空気と来る者を怯ませる重々しい静寂が支配していた。
数々の巨大な本棚の間を通り抜けて行く間、私はキョロキョロと周りを見回してばかりだった。首が痛くなるほど見上げても上が見えないほど高く巨大な本棚をいくつも通り過ぎて行く途中で、本の整理をしていた赤い髪の女の人とばっちり目が合ってしまい、びくっと肩を竦ませる。
そうしてしばらく進むうちに、小さなくぐもった声が聞こえた。
「居るわよ、レミィ。分かりきってるでしょうに………あら」
答えたのは、紫の髪に合わせたのか、身を同じく紫のゆったりした服に包んだ女の子だった。歳は私と同じくらいだろうか。そうはいってもレミリアさんが見た目の割に私より難しい事を言ったりするので、はっきりとは言えないが。
「貴女がこないだ来たメイドね。私はパチュリー・ノーレッジ。…前は悪かったわね、あそこまで耐性がないとは思わなかったものだから」
「……っ、は、はい。もう何とも無いので、お気になさらず」
「で、レミィ?なんで彼女を連れて来たの?_____まあ、そういう事なんでしょうけど」
私とレミリアさんを交互に見ながら、パチュリーさんは怪訝そうに訊いた。
「ふふ、そういう事よパチェ。この子、磨いたらどんなふうに光るのか…。気にならない?」
「別に。魔法を教えろっていう事ならお断りよ。私は忙しいの。前にも言ったでしょう?もうすぐ『コレ』が出来上がるのよ」
パチュリーさんが指差した先には、大きめの机の上に広げられた羊皮紙があった。私には全く分からない数式やら、複雑で、かつ精緻に描かれた魔法陣が、パチュリーさんが指差した事で反応したのか、淡く光を放つ。
レミリアさんが呆れたようにため息をつく。
「ふう、少しは協力してくれても良いんじゃないの?」
「なら『コレ』が片付いてからにして頂戴。今は無理。それにいつも咲夜みたいに上手く行くわけじゃないわ」
一方パチュリーさんは取り付く島も無い。
と、いきなりレミリアさんが爆弾を落とした。
「惜しいわねぇ、いつか追い抜かれるわよ?」
ぴくっ、とパチュリーさんの整った眉が跳ね上がる。あ、怒った、と嫌でも分かった。
「………何とでも言いなさい。私は手を貸すつもりは無い。魔法だったら貴女だって出来るでしょ。レミィが教えれば良いのよ」
「あら?私の方が魔法に優れているのかしら」
パチュリーさんが怒っている事ぐらい、レミリアさんにも分かるはずなのに、むしろこの状況を面白がっているように意地の悪い笑顔を崩さない。
あのう、これって私がパチュリーさんと戦うなんて事になりませんよね。
私の嫌な予感は、
憎らしいほどに的中した。
全くどうして、どうしてこうなった。


「…貴女も苦労するわね」
パチュリーさんの視線が痛い。怒りは私に向けていないけど、憐れみにも似た、疲れた視線はまっすぐ私にぶつかる。
本当に、どうしてこうなった。
頭を抱えたくなるのを必死に堪え、私は言った。
「…死なない程度に、お願いします……」
「努力するわ。…別に、貴女が私を本気にさせなければ良い事よ」
そう言うと、パチュリーさんは椅子から立ち上がった姿勢のままふわりと浮かんだ。
私の背後で、レミリアさんが面白そうに見つめている。
「別に遠慮はいらないわ。貴女はやれる事を全てやりなさい」
誰のせいだと思ってるんですか、全く。
「準備はいい?_______行くわよ」
その瞬間、パチュリーさんの周りに半透明の光り輝く魔法陣が出現し、くるくると回り出した。
__________来る。
「わ!」
いきなりパチュリーさんを中心に十字型にレーザーが放たれて、ゆっくりと回転して私の目の前の床を焼いた。ギリギリで躱す。
「まだよ」
今度は赤い弾がかなりのスピードで撃ち出されて来る。私は音だけを頼りに、ひたすらすれすれで避け続ける。そして、今度はレーザーと弾が共に襲いかかってきた。
「ぁっ…ぶ、ない」
床を蹴って跳び上がり、最後の弾を避ける。
「水符『プリンセスウンディネ』」
休む暇もなく、パチュリーさんが何かの名前を宣言する。最初のよりは短く細い光線が、巨大な光のピックのように飛んでくる。それもたくさん。避けようとすると、周りの丸い弾が邪魔をする。光のピックと弾を、同時に避け切らなくてはならない。
私はパチュリーさんの攻撃を避けるだけで、私からは攻撃できない。しかも相手は空に浮かんでいて、上から悠々と眺めていられるのに、私は地面をただ走り回るだけ。
_____弾を吹き飛ばせたら。
ルーミアから一瞬の隙を勝ち取ったあの時みたいに、パチュリーさんの意表を突けたなら。
そう考えている間も、身体はひたすら逃げ惑う。
やるしかない。
私は息を吸い込んで____
言った。
『吹き飛ばせ!』
ドォン!と大きな音がして、思わず目をつむった。すぐに目を開け、辺りを見回すと、あれだけあった無数の光のピックと丸い弾は一つ残らず消え去っていた。
「な…………」
パチュリーさんが息を呑んだ。上手くいった事に私自身も驚いている。その後ろで、レミリアさんが満足そうに微笑んだ。


_______有り得ない‼︎
私は心の中で叫んだ。だって彼女はただの人間で、図書館に一歩入ったくらいで倒れてしまうほど魔法とは縁遠い、そのはずなのに。
現に、ある程度手加減をしていたとはいえ、私のスペルカードを、たった一言で、全て掻き消してしまった。
これは……油断できない相手ね。
思考を無理矢理引き戻し、私は彼女をじっと見つめた。
彼女自身、こんなことが出来るのを知らない。良く音が聞こえるだけだと思っていた。
おそらく、彼女の力は……。
私は新たに、二枚目のスペルカードを高らかに宣言した。
「木符『シルフィホルン』!」


私は、本を読んでいた。パチュリーから借りたご本。面白いはずだけど、今は集中できない。視線が虚しく文字の上を滑って行く。
お姉様は言っていた。
人間が来た、と。
見てみたいって言ったら、まだダメだって。
なんでダメなのか分からないけど、きっとそのうち会えるよね。
その時、上から振動が伝わって来た。
パチュリーがまた魔理沙と弾幕ごっこしてるのかな。
でもすぐにそうじゃないって分かった。
悲鳴が聞こえた。
魔理沙の声じゃない。
パチュリーの声でもない。
あの人間だ。
……ねぇ、お姉様。
少しだけ、見に行っちゃダメかな?
to be continued…

はい、どうも。あまなつみかんです。
おまたせしました。東方幻霊奏、第五話です。
次回、皆さんお待ちかねの「あの人」が出てきます!
<2016/10/01 13:54 あまなつみかん>消しゴム
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