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東方幻霊奏
- 第六話 その時 -

「…よし、これで大丈夫かしら」
「まあまあ楽しめたわ。…最後のあれは、残念だったけれど」
「目が回りました〜…」
大図書館、パチュリーさんと私が戦った、その後。パチュリーさんの2回目の必殺技(?)で私が虚しく吹き飛ばされた。幸い眩しさに目が回った程度で済んだけど_____
「なんですかあの弾の量!避けられるわけないですよ」
パチュリーさんの声が聞こえた瞬間、私の頭上は既に青と黄色の光で埋め尽くされていた。最初の2、3弾を避けた後、背中から巨大な手で叩かれたような衝撃があって、一気に床に倒れこんだのだ。立ち上がった時には遅く、十数弾が見事に命中したのだった。
「うーん、やっぱり飛べないのがねえ…。パチェ、なんとかならない?」
「レミィ。私は手を貸さないって言ったはずよ」
冷ややかな声でパチュリーさんは突き放した。でもレミリアさんは怯まない。
「彼女がどうやって貴女の『スペル』を一つ避け切ったのか、気にならないの?」
ぴくりとパチュリーさんの肩が震えた。図星のようだ。
「確かにまあ…、彼女の能力がどういうモノなのかは気になるけど。でもそれは私一人で調べるわ」
「貴女一人で?実際にどんなものか、自らの眼で確かめた方が早いんじゃなくて?」
レミリアさんは押しが強い。最初は強気だったパチュリーさんも、私の能力に対する興味が強いのだろうか、どんどんレミリアさんに押し切られていく。
私の力。
一体なんなんだろう?
それに、何か大切な事を忘れているような気がする。
今の私は思い出したいのに。
『何か』が邪魔をする。
段々私も変に感じるようになってきた。
その『何か』は、とても頑丈で、
とても大きくて、
古くて、
意思がある。
私は必死に思い出そうと、『何か』を確かめようとした。
その時、足音がした。
そーっと、見つからないように静かに歩いている。息を詰めて、バレないように、ゆっくりと近付いてくる。
そしてすぐ近くの本棚の陰で立ち止まって________
ひょっこり顔を出した。
目が合って、慌ててその子は頭を引っ込める。しかしすぐにまたそっと覗き込んできて、今度はじぃっと私のことを見つめた。
レミリアさんによく似ている。髪の色は違っていて、レミリアさんは水色なのにその子は金髪。ルーミアみたい。
レミリアさんそっくりな真紅の瞳が子供らしいあどけなさを残してこちらをじっと見つめている。そして、おもむろに唇の前で人差し指を立て、小さな声でシーッと言った。ばらさないで、とでも言うように。
「ああもう!分かったわよ、でも少しだけよ!」
とうとうパチュリーさんが折れたようだ。この二人仲良いんだなぁ、などと暢気にしていたら、パチュリーさんが私に向き直って言った。
「基本は教えてあげる。自分の身は自分で守れる程度にはなりなさい。……私はそんなに優しくないわよ、覚悟しておきなさい」
…確実に怒ってる。
「…はい、よろしくお願い致します」
お辞儀を返す。そして顔を上げると、唐突にレミリアさんがニッと笑った。
「フラン、出てらっしゃい。もう良いわよ」
背後で、さっきの金髪の子がはっと息を呑んだのが分かった。そして恐る恐る出てくる。
私は振り返って、改めて見た。
膝から少し上の短めのスカート、白いブラウスの上に赤いベストを着て、ブラウスの襟を黄色い幅広のリボンをネクタイのように結んで留めている。レミリアさんにそっくりな、でも少しだけ幼い顔。そして、
黒い長い枝のようなモノに尖った色とりどりの宝石がぶら下がった、なんとも奇妙で綺麗な羽根。
「紹介するわ。妹のフランよ。フラン、挨拶なさい」
フランと呼ばれたその子は、ちょっとスカートを持ち上げて、膝をほんの少し曲げてお辞儀をした。
「初めまして、フランドール・スカーレットよ。…お姉様、新しく来た人間ってこの人でしょう?」
割とはっきりした声が耳に届いた。しかし、私はその声に一抹の不安を感じた。なんだか危ういというか、やじろべえが微かに揺れているような、不安定さがあったから。
「ええそうよ。此処のメイドになったの」
「ふーん…。同じ人間でも、霊夢や魔理沙とは随分違うのね」
「同じ人間?私以外の人間に…。……えっと、お会いになったことがあるんですか」
私が少し詰まると、その子はくすっと笑って、言った。
「フランで良いわ。普通に妹様、でも。咲夜や美鈴はそう呼ぶもの」
「あ、はい。じゃあ、妹様で」
「うむ、よろしい」
おどけて冗談を言う様子から見ると、全く普通に見える。私はさっき感じた不安を忘れる事にした。きっと何かの間違いだ。
「もういいかしら。さっさと終わらせて研究に戻りたいんだけど」
「そうね、始めましょうか。早いほうがいいわ」
パチュリーさんの不機嫌そうな声が割り込んで来た。レミリアさんもそれに同意する。
「お姉様、私も見たい…」
「…まあ、大丈夫かしらね……。良いわよ」
「やった!」
これから始まるの、訓練なんですけど…。
「気にしないで、あの二人は四六時中退屈してるの」
パチュリーさんは相変わらず仏頂面のままだ。
あれ、そういえば。
「訓練って具体的に何をするんですか?」
「貴女が『弾幕』を使えるようにならないと、此処では話にならないわ。……貴女、もしかして『スペルカードルール』知らない?」
「スペルカードルール?なんですかそれ」
「幻想郷での決闘法よ。妖怪と人間が対等に戦う為の掟。意味のない攻撃をしてはいけない、弾幕の美しさに意味を持たせる、人に魅せる戦いをする…。あと避けられない攻撃はしないとか、色々と取り決めがあるわ」
…さっきの攻撃はいいんですか。
私の内心を知ってかしらずか、パチュリーさんは続けた。
「で、これから貴女は最低でも空を飛ぶ程度の力と弾幕やスペルカードを扱う技術くらいは身につけてもらう。じゃないと新参者に興味津々の妖怪達になぶり殺されるわよ」
容赦ない言葉に思わずぞくりとした。
妖怪。それに襲われる恐怖はもう充分経験済みだ。この訓練は私の力を実戦で使えるレベルにすることも目的なのだと気付いた。
「さて、まずはどうやって霊力やら魔力の元手を得るかだけど…」
「咲夜の時みたいに魔法球で慣らすのは?」
「人によって適性があるのよ。咲夜は魔法は使えても霊術は無理でしょう?」
「じゃ、まずどっちか確かめるのが先ね」
何やらレミリアさんもやる気だ。パチュリーさんは真剣に、レミリアさんは面白そうに話し合っている。ひとまず大人しくしておこうと黙っていると、フランがつんつんと私が着ているメイド服の裾を引っ張った。
「ね、美咲って此処に来る前何してたの?」
「……すみません、何も覚えてないんです」
「ふーん……。『きおくそーしつ』って言うんだよ、それ」
「そうなんですか?」
「うん、パチュリーに教えてもらった」
何気ない会話をしていると、レミリアさんがパチンと指を鳴らした。
「ああ!美鈴に渡されてた『アレ』、すっかり忘れてたわ」
「何か心当たりがあるの?レミィ」
パチュリーさんはきょとんとしている。
「ちょっとね。_____咲夜」
「はい、お嬢様」
「わっ」
レミリアさんの隣に、咲夜さんが突然現れた。やっぱりこれはまだ慣れない。
「アレ持って来て頂戴」
「はい。_____こちらでしょうか?」
「ああ、そうこれ。有り難う、仕事に戻って良いわよ」
レミリアさんが手にしているものを、私は見た。
「………緋扇…」
「え?」
たった今行こうとした咲夜さんも含めて、その場に居た全員が動きを止めた。
そうだ、なんでか分からないけど、知っている。あれは私の物だ。
『わあー、きれい』
『失くさないように、しっかり持ってるのよ?』
『パパとママからの御守りだ。何かあったらこれを使うんだぞ』
『うん、分かった!』
見える。
「…あ、あ、ああ………」
耳鳴りがする。見えかけた記憶が、濁っていく。
待って。あの人達は誰なの?
あそこは何処?
あの子は____________
「_____さ、き、美咲!」
身体を揺すぶられて我に返る。ぼやけた色しか見えない世界から焦点が定まって、徐々に巨大な本棚や大きな書斎机が形を成していく。
「大丈夫?」
身体を揺すぶっていたのはフランだった。心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「……大丈夫です。心配かけてすみません」
「貴女のなのね?」
「はい…。多分」
レミリアさんは何かを確信したようだった。目を細めてしばらく考えてから、私に緋扇を渡す。
「多分貴女はこれが無いと無力なのね______はい」
緋扇は、私の手に良く馴染んだ。ずっと前から使っていたような気がする割には何処にも汚れ一つ無い。それは美しく、そして静かに沈黙していた。
「…今思ったんだけれど、貴女もう飛べるんじゃない?」
唐突にパチュリーさんが言った。
「えっ?」
「それ、本当?パチェ」
「ええ。_____だって貴女の扇、充分過ぎるくらい霊力があるんだもの。それを使いこなせればあるいは」
そこで一旦言葉を切り、パチュリーさんは言い、少し微笑んだ。
「_____案外強くなるかも」


「…来たか」
幻想郷のとある場所。そこに彼女は立っていた。
「ええ。_____まさか貴女が直々に来るとは思いもしませんでしたわ」
何処からともなく現れたのは紫だった。
「最初から薄々気付いていたんじゃないのか?『妖怪の賢者』ならあり得なくもない」
紫は扇子で目以外の部分を隠し、はっきりと言った。
「それは買い被りというものですわ。ご立派な名で呼ばれていても所詮はしがない隙間妖怪。未来を見通す事は出来ません」
「…まあ、いい。何の用だ?私としてはあまりお前に教えるつもりは無いのだが」
「ええ、一つだけ…。一つだけお聞きしたいことがあります」
紫は目を細めて、小さく訊いた。
「彼女の姓……『橘』というのは」
彼女は少し目を見開いて、紫を見た。そして言った。
「驚いた…。そこまで気付いたか」
「と言っても、私も多くを知りません。単なる推測に過ぎない…」
彼女はふっと微笑んだ。
「そう、大方間違ってはいない。あの子は『それ』だよ」
紫がふうとため息をついた。
「これでようやく合点がいきましたわ……。あの子が何故何も覚えていないのか、何故貴女があの子にそこまで執着するのかも」
そしてくるりと後ろを向き、スキマを開いて立ち去る寸前、紫はこう言い残した。
「此処には、『その時』から存在する妖怪が多く居ます。……あの子が全てを知るのも、そう遠い未来では無いでしょう。その時…貴女は、あの子を止められますか」
彼女は、一言を短く返した。
「あの子に任せる。それだけだ」
既にそこには、彼女一人しか居なかった。
to be continued…

はい、どうも。あまなつみかんです。
お待たせしました。第六話、やっと投稿できました。
そろそろ美咲に遠出させようかな…なんて考えてみたり。
次回もお楽しみに。
<2016/10/08 10:27 あまなつみかん>消しゴム
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