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君の笑顔を


相原くん、元気ないけど大丈夫かな。

昨日、やっぱり疲れたんだろうね。

そう、自分に言い聞かせた。

でも、言葉も顔も少し前みたいだった。

相原くんが、また白くなっていく。

少しずつ色づき始めた相原くんが。

「楓、相原にフラれてショックなんだ?」

「だからなぁ、言ってんだろーが」

「相原く~ん、私以外の、誰を好きなのぉ~?みたいな」

「本気で後で覚えとけ」

「どうしたのよ?元気なくない?相原、何か変だった?」

「ううん。少し、疲れたんだろうね」

無理、し過ぎちゃったんだね。

私の前で見せてくれたあの笑顔は、やっぱり作られた
もの。

そう考えるのが、自然だよね。

おかしいと思った。

大川先生があんなに必死になって私に相原くんを笑わせろって言った。

二人の関係は親の兄弟と兄弟の子供。

そんなに親しい人が言うなんてよっぽど。

なのに彼は、相原くんは数ヶ月というかなり短い期間で
私に笑顔を見せた。

きっと、もう関わりたくなかったんだよね。

笑いたくないから、笑ってしまうから。

彼は笑わない、笑えないんじゃない。

もう、笑う事が怖いんだろう。

彼をそこまでの状態にしたのが何かは知らない。

あの大川が教えてくれないから。

相原くんから聞けるわけがない。

相原くんが自分の事を他人に言う人に見えますかね。

私には見えない。

「ちょ、楓?楓?ヤバいヤバい」

「あっ、何?」

「大丈夫?何か、取り憑かれてた、みたいな?」

「うそぉ~?お祓い行こうかしら?」

「それが良いと思う」

あ、そんなに本気で変だったんだ。

とりあえずこの子たちの前では普通で居ないと。

あまり何度も聞かれると、私も言ってしまいそうだから。

少し、彼女達を信じてる自分もいる。

けど、相原くんの事を他人に言うのは絶対ダメ。

私が、初めてだったみたいだから。

今まで、ずっと一人で。

まぁ、大川も居たんだろうけど?

あんまり頼りにならなそうだし。

「ちょっと、ごめんね?」

私は彼女達にそう言って教室を出た。





そして何となく向かったのは、中澤さんのクラスの教室。

先輩たちはすぐに私に気付いた。

「奥寺?どうした?」

そう優しく言って出てきたのは大木先輩。

彼には1つ言いたい事が。

『私は漫画の世界のキャラではない』と。

まぁ、今はそんな事はどうでもいい。

「いきなりすみません。中澤さん、居ますか」

「中澤?気を付けろよ~?」

やっぱり怖い人なのかな。

けど、相原くんの友達でしょ?

きっと、大丈夫だよね。

「何」

うわ、相原くんそっくり。

この言い方。

「今、時間、とか大丈夫、ですか?」

何この緊張。

全然上手く話せないんですけど。

「別に良いけど、あんま長いのはキツイわ」

「ありがとうございます」

教室からは、

『恋愛系?』

『告っちゃう系?』

『ヒューヒュー』

などと冷やかす声が。

「失礼しました~」

私は中澤さんと一番近くで一番誰も来ない空き教室に。


「何」

もう、何聞こうとしたか忘れた。

「あっ、いや、えっと……」

「まずは落ち着くとこからだな」

優しめにそう言い、壁に寄りかかる中澤さん。

そして腕を組み、少し遠くを見つめるその横顔は、どこか相原くんに似ていた。

髪型から制服の着方まで全部違うのに。

中澤さんは明らかに悪そうな感じ。

相原くんは、かなり真面目な感じ。

それなのに、その横顔は似ていた。

「で、何」

「あぁ、えっ、あの、いや……」

「別に良いんだけどさぁ、1年から遅れんのはマズいだろ」

えっ、この人、私の心配してるの?

私は、本当、大丈夫ですから。

ただ、言葉が出てこないんす。

「えっ、と、相原、くんと……」

相原くんの名前を出したら、中澤さんの顔つきが少し
変わった。

「相原くんと、仲が、良いって……聞いて、少し……」

「俺、相原とは別に仲良くないよ?」

「悪いん、ですか?」

「悪いまでは行かねぇけど……」

けど、何よ。

そこ、一番気になります。

先輩、そこをどうかこの私に。

「俺とあいつが仲良くなるかならないかはあいつ次第」

「相原くん、ですか?」

中澤さんは軽く頷き、続けた。

「あいつ、常に表情無いだろ」

「はい…」

「とりあえず言っておくがこれは俺が勝手に考えた事だ」

「はい」

「相原のあれ以外の顔、見た事あるか」

「何度か、少し笑ってくれました」

中澤さんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの
かっこいい顔に戻った。

「ならお前」

そう言って私の名札を確認して微笑み、続ける中澤さん。

「奥寺楓はあいつ、相原翼を変えられる唯一の人だ」

「中澤さんは、相原くんに表情が無い理由を知ってるん
ですか?」

「俺が思ったのは、人見知りとかその辺じゃねぇかと」

人見知り、か。

「否定する訳じゃないですよ?ですけど、相原くんに緊張した様子は見えないんですよね……」

「まだあいつの事分かってねぇみてぇだな」

中澤さんは楽しそうに笑って言った。

まぁ、まだ数カ月ですし?

あれ、中澤さんの方が関わる機会少ないか。

いやいや、友達でしょ?

だいぶ前から仲良かったって事も。

「あいつは自分を出さねぇんだよ……」

一気に暗くなる中澤さんの声と表情。

「自分を、出さない?」

「出さないんだか出せないんだか、難しいこたぁ分かん
ねぇが、自分の気持ちや状態を上手く伝えられないのが
あいつだ」

出さないんだか出せないんだか。

笑えないんだか笑わないんだか。

難しい事ばかり。

もう、世の中自体が難しいもんね。

そんな大きな難しさの塊で生きる、私達の小さな命。

よく頑張ってるぞ、私。

頑張れ、負けるな?

自分を応援したくなる。

「まぁ、奥寺には笑顔も見せてるみたいだし?もっと
関わっていけば、いつか本当の相原翼に会えると
思うぜ?」

そう言って教室に戻ってしまった中澤さん。

この空き教室には、私しか居なくなった。

そして少し安心し始めたその時。

「奥寺、何してんだ?」

「キャッ!」

私は男の人の声がした方を見た。

なんだよ。

大川先生じゃん。

「ハハハッ、そう驚くなって」

驚かせたのはどっちよ。

私、絶対この人苦手だわ。

「で、何してる」

「この辺にハンカチを落としてしまって。
すぐに戻ります」

「そうか」

信じちゃうんだね。

私はそんな素直すぎる大川先生の後ろ姿を見つめていた。


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