おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
君の笑顔を


「相原くん」

私は通路を挟んで隣の自席に座る相原くんに声を掛けた。

帰ってくるのは言葉でも笑顔でもない、なんとも綺麗な
無表情。

「どこ行ってたの?」

「別に」

「そっか」

本当に表情のない方。

冷静なんだね。

何があっても動じなそう。

やっぱり、気付かないよ。

私には。

私が、相原くんと隣の席になった、本当の理由なんてさ。

「やっぱ楓、相原の事好きだろ」

「なぁに言ってんのよ。私が相原くんに対する思いで
みんなと1つ違うのはそんなに怖いって思ってないって事
だけ」

「ほら、言葉が長いよ?嘘じゃね?」

そう思うならそう思っといて。

これ以上言えばさらに言われるだけ。

黙ったら黙ったで認めたって言われそうだけど。

「ほらっ!黙っちゃったよ?本気じゃね?」

そう思ってるそばから。

「はいはい。勝手に思ってて」

「噂流してあげよっか?」

「相原くんのためにヤメて」

「うわ〜、好きな人盾にした」

盾にした。

最低女に仕立て上げられる私。

って、まずまず相原くんの事好きじゃないから。

「いいなぁ、恋愛かぁ」

「あのねぇ〜」

「言い訳?聞いてあげてもいいけど?」

凄い上から。

私はそれに舌打ちを返した。

「楓さん、怖いっす」

「だから相原と隣になったのかもよ?」

それさ、本人の居るとこで言う?

やっぱりこの人達、普通じゃないね。

まぁ裏でコソコソってのも嫌だけどさ。

「なんか、ごめんね?気にしなくていいから」

私はとりあえず相原くんに謝ってみた。

「慣れてる」

呟くようにそう言って再び教室を出る相原くん。

初めて聞いた声かも。

出席とる時も答えないし。

喋るんだね。

少し安心した。

あんまり話さないと、声出なくなっちゃうよ?

「おっ、相原」

先生の声が廊下から聞こえる。

いつも教室に居ない時、廊下に居るの?



「大丈夫か?」

「はい」

わお。

先生とは話すんだね。

何だか新たな発見。

何故か少し嬉しかった。

「なぁに見てんのよ。やっぱ好きなの?」

「お前ら後で覚えとけ?」

「ら?あたしも?」

「グルだろ」

「グル……」

確かに少し変だったね。

私も分かった。

「奥寺ぁ〜!」

何よ。

そんな大袈裟に呼ぶことなくない?

凄い恥ずかしいんですけど。

「はい?」

「あぁ〜っ!来て来て!」

やっと私を見つけたように言う先生。

「あっ、はい」

「先生に好かれちゃった?少し融通聞くかもよ?」

融通って。

「るっせぇ。黙ってろ」

「怖ーい」

ですから、あなた達ほどじゃないんですって。

私はそんな事を考えながら先生の元へ。



「何ですか?」

「ちょっと、良いか?」

ダメって言わせる気ないですよね?

今まで何度か言った事あるから知ってる。

「えぇ、まぁ」

もうあのやり取りも面倒くさいから最初から大人しく
聞く。

「本当に大丈夫か?」

何、今回はダメって言わせたいの?

「えぇ。大丈夫ですよ?」

そんな事言ってる暇があったら早く話始めようよ。

「これから、大事な話をする。奥寺の、時間はもちろん
頭の中も落ち着いている時が良い」

頭の中って。

どれだけ大切な話しよ。

って、そんな事言ったら一生話せませんよ?それ。

「えぇ。どちらも大丈夫ですよ?」

「そうか。じゃあ、ちょっと」





そう言われ、連れて来られたのは何故か保健室。

保健室って。

保健室で大切なお話?

おかしくない?

私は色々な疑問を抱えたまま、話を聞き始めた。

頭の中落ち着いてる時が良いって言われたのにね。

なら落ち着かせてって感じ。

「はっ!?」

「何か、あったか?」

「いや、鍵、閉めるんですね……」

「誰にも聞かれたくないからな」

なら空き教室とか荷物置き場みたいな、誰も来ないとこにしようよ。

「良いか」

「えぇ」

頭の中落ち着かせたいならこの緊張感やめて頂きたい。

「昨日、席替えしてその結果の事なんだがな……」

結果って。

まぁ、くじだったからそうとも言うか。

「奥寺が相原と隣になったのは当たり前なんだ」

この人が私を名前で呼んでる。

結構本気の話だ。

絶対お前って呼ぶのに。

何か、新鮮。

すみません、全然集中出来ないですわ。

「えっ、私が相原くんと、あの席で隣になったのが
当たり前なんですか?」

先生は首を振った。

「あの席で、ではないが必ず隣になるようにした」

どうやって。

あんなの本当に、運っていうかさ。

「何ですか?先生、メンタリストか何かですか?」

「まぁ、そんなとこだ」

は?

本気?

「って、んなわけねぇだろ」

です、よね?

「問題はその理由だ」

あ、どうやってそうしたかは教えてくれないんだ。

やられた側としてはそこが気になるんですけど。

「相原を、笑わせてほしい」

「は?」

先生の意外過ぎるお願いについ素が出る。

「相原くん、笑えないんですか?」

先生はそれにも首を振った。

この人、縦には振らないの?

「笑えないんじゃない、笑わないんだ」

「はぁ?」

ますます意味が分からない。

「って、それと席が何か関係あるんですか?」

「席の事は忘れて良い」

まあ難しい事言う先生ですこと。

「はあ」

で?この私に何をしろと。

「相原に、もう一度笑うことを思い出して欲しい」

そんな重症の方を私に託すとは。

先生も間違えましたね。

「で、あの、笑わないというのは?」

「笑えないと笑わないの違いが分かるか」

こんなに真面目なこの人の顔見た事ない。

もう、頭の中余計な事でいっぱい。

「えぇ、何となく、なら?」

「説明してみろ」

は?

あなた、国語担当ですよね?

文章にはうるさいのでは?

「今、ここで、ですか?」

「しかないだろ」

なんか言葉も丁寧になってきた。

「えっ、笑えないのは、状況にもよりますけど、どんなに面白い事があっても、笑顔になれない。
笑わないは、笑おうと思えば笑えるけど、それをしない。みたいな?」

あっ、やっと頷いた。

「まぁそこまで分かっていれば良いだろう」

何のテスト?

テストなら教室で良いじゃない。

「その違いを理解しているかと、相原くんが何か関係
あるんですか?」

「それを分かっていそうなのは、奥寺しか居なかった」

いやいや、全く状況が読み込めないんですけど?

頭の中ごちゃごちゃ。

私の部屋以上かも。

「で、相原はさっき奥寺の言った後の方だ」

笑えるのに、それをしない。

私は先生を見続けた。

目、逸らされたけど。

「笑わない、笑ってはいけないと思ってるんだ」

先生はそう言って椅子に座った。

そしてそのすぐ隣に視線を移した。

私が首を振ると先生は軽く何度か頷き、続けた。

「その理由は、相原が望んでいないから言わないが、笑わなくなったのは相原自身が小学校3年生の頃」

「そんな小さい頃から?」

先生は頷き、さらに続けた。

「そして、笑わないように過ごしていくうちに話もしなくなった。それで今はあんなふうに」

で?

あなたは彼の何を知ってるの?

「あの、先生と相原くんの関係ってのは…?」

「奥寺と木下みたいな感じだ」

木下先生。

保健室の先生。

私のお母さんの妹。

「そう、ですか……」

「だから小さい頃の相原はよく知ってる」

「すごい小さい頃は、笑ってたんですか?」

「よく笑う子だったよ。輝きをばら撒くような子だった」

何いいこと風に言ってんの?

笑いそう。

あっ、相原くん……

この気持ちを殺してきたんだ……

「分かったろ」

「はい?」

「相原の気持ち、ほんの少しは。笑いたいのに、笑ってはいけないからそれを押さえる」

こいつ、そのためにああ言いやがったのか。

さすが国語担当教師、大川 清。

えっ、でもこれ、笑わないより笑えないんじゃないの?

もうなんてまとまりのない会話。

あなた国語の先生でしょ?

「それで?何故私なんですか?」

「奥寺だけなんだよ。相原を、怖いと言わないのは」

別に本当に怖くないし。

「それだけ?」

「あとは俺が勝手に感じた何かだ」

そう言って大川先生は教室か職員室に戻った。

きちんと閉めた鍵を忘れずに開けて。


<2016/08/05 12:00 秋の空>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.