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君の笑顔を


私は大川先生が居なくなった保健室にまだ居た。

『相原に、もう一度笑うことを思い出して欲しい』

『笑わない、笑ってはいけないと思ってるんだ』

先生の、相原くんが辛いということを伝える言葉が頭の中で繰り返される。

『その理由は、相原が望んでいないから言わないが』

その理由、いつか私に言ってくれるかな。

教えて、くれるかな。

えっと、大川先生は?

私に相原くんの笑顔を取り戻せと?

私に、相原くんの笑顔を。

難しいよ。

無理だよ。

何か、大川先生の前でも笑わないみたいな言いっぷり
だったし。

私は急に暗くなった気分で保健室を出た。

「楓ちゃん?」

「わっ!あっ、和菜ちゃん」

木下 和菜(きのした かずな)

お母さんの妹。

「うん。学校ではそれに先生くらい付けようね」

「和菜先生。馴れ馴れしくね?」

「良いじゃない。親の姉妹よ?」

まぁ、そうなんだけどさ。

「何かあったの?」

「別にぃ?」

「そう……相原くん、よろしくね」

和菜先生先生は私の方に手をのせた。

「うん」

えっ、相原くん?

私は和菜先生の顔を見た。

その顔は、優しい笑みを浮かべていた。

『楓ちゃんなら大丈夫』とでも言いそうな、優しい
笑顔を。

相原くんが抑えてる笑顔を、こんなに簡単に。

私はそれに頷き、教室に向かった。





教室に戻ればいつものように相原くんが居た。

すごく冷たいオーラを放った、いつもの相原くんが。

『笑わないように過ごしていくうちに話もしなくなった』

話をすると、ふとした時に笑ってしまいそうだから。

何でそこまでして……

あの顔に笑みが浮かんだら、とても可愛くて素敵だと
思う。

私はそんな相原くんの隣の席に座った。

何かを仕組まれて隣になった、自分の席に。

何をしてくれたのかな?

凄い気になるんですけど。

「大丈夫?」



しばらく待ってみたけど返事はない。

そうだよね。

この何気ない会話が弾んだら。

もし、相手が笑うような事を言ったら。

何故そこまで笑えなく、笑わなくなったかは知らない
けど、辛いよね。

よく、笑う子だったみたいだし。

輝きを、ばら撒くように。

その言葉も笑えなくなってきた。

笑いたいなら笑えばいいのに。

本当に、何があったのよ。

こっちは、笑いたくもないのに笑ってるっていうのにさ。

別に相手が言ったことは面白くない。

そんな中笑ってんのに。

笑いたいのに笑わないなんて。

笑う。

一言で言ってもいろんな笑いがあるよね。

私みたいに作って笑うのと、小さい頃の相原くんみたいに心から笑うのと。

「あぁ〜っ」

私は机に突っ伏した。

『何かアピってる』

『声掛けて欲しいんじゃね?』

なんて言ううるさい女の子の声を聞きながら。

こっちは彼の大事な秘密を知ったの。

何故そんなタイミングであんな話になったかな。

もう。

そういえばさっき。

というか、先生に呼ばれる前。

何か話してたよね。

あの事を私に言っても良いかって事だったのかな。

ならば知っていることを伝えた方が相原くんは気を
遣わない。

けど、もしそうじゃなかったら『知られちゃったんだ』
ってなるよね。

こういう時、どうすりゃ良いの?

何で私だったかな。

『あとは俺が勝手に感じた何かだ』

勝手に感じた何かって何よ。

勝手に感じたとか。

凄く嫌なのですが。

相原翼。

笑えない王子様。

あれ絶対笑わないんじゃなくて笑えないんだよね。

本当に国語の先生なのかな。

何かあの人ダメだ。

相原くんの前では言えないけど。

こんな事も、冗談として言い合えるようになったら
いいな。

んで?

相原くんは知ってるの?

私があの事をあいつから聞いた事。

それくらい言っておいて頂かないと、困るんですよね。

こっちも接し方が分からないと言いますか……

「だ〜り〜っ」

身体が。

身体がベッドを欲してる。

助けて。

眠りたい。

「聞いた」

何となく、そんな声が聞こえた気がした。

私は隣の相原くんを見てみた。

その相原くんは、ただ前を見て、いつものように表情は
無かった。

「何を?」

「いや」

何を?

あっ、あれを?

聞いたよ。

何故気付かなかったかな。

もう自分が嫌になる。

「ごめん。聞いたよ?」

「そ……」

相原くんは下を向いた。

なるべく言葉も短く。

会話をなるべく早く終わらせる。

相手が、自分を笑わせる前に。


<2016/08/05 12:41 秋の空>消しゴム
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