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君の笑顔を


『大丈夫。奥寺なら分かってくれるし、誰にも言わない』

確かに口軽そうではないけど。

あんだけしょっちゅう笑って笑わせて?

そんな人と何故隣に。

もう少し、居たはずだろ。

もう少し、大人しいような。

こいつにはいつか笑わせられる。

そんな、気がしてる自分がいる。

こいつは笑うのも笑わせるのも慣れてる。

そんな慣れた笑顔を見ていて今の俺がつられない訳が
ない。

こいつは簡単に人を笑わせる。

簡単に笑い、簡単に笑わせる。

それが、奥寺 楓。

そんな奴が今、俺の隣の席で突っ伏してる。

「帰りたーい」

もうこの姿に笑いそう。

なんか、猫みたい。

「疲れない?」

「別に」

こう、答えるしかない。

これが一番話を続けさせない答えだから。

「笑いたいのに、笑えないなんてさ」

あいつ、本当に言いやがった。

俺はつい奥寺を見た。

奥寺は少し笑っていた。

その顔が、とても可愛らしく見えた。

「別に」

「んな事に慣れんなよ〜っ、あぁ〜!」

なんて賑やかな女。

俺は奥寺から逃げるように教室を出た。

「翼」

出た。

大川 清。

「ごめん。そのうちお互い慣れるだろ。気にすんな」

なら言うな。

「はい」

俺は誰も来ないような階段の踊り場へ。



誰とも関わらなければ笑う事もないんだよな。

そんな事を考えながら壁に寄りかかった。

「確かにそうだよ?」

奥寺楓。

絶対居ると思った。

「確かに、誰とも関わらなければ笑う事もない。
笑いたくないのに、笑う事も……」

奥寺のその言葉に何となく意味を感じた。

「笑いたくないのに笑うって嫌だよね」

奥寺はそう言って俺の隣に寄りかかった。

「楽しく過ごすのに必要な事って、心からの笑いだよね」

こいつ、いちいち気になる。

「偽りの笑いでもなく、見られたくない、笑いでもない…」

心からの笑い、か。

「いつか私達も、心から笑えたらいいね」

隣の奥寺を見た。

教室とは逆の隣に居る、奥寺を。

「良いよ。一緒に笑おう?」

そんな日が来ればいいけど。

彼等が居る限り、来ないだろう。

そんな、心から笑う日なんて。

俺には。

奥寺は本当の笑顔じゃないのかな。

「私もさぁ、もう良いかなって」

「ん…?」

「笑いたくもないのに笑うなんて、バカらしい事……」

俺は奥寺のその言葉に頷いた。

「私達さ、よくよく考えてみ?」

俺は奥寺を見続けた。

目は、合わないけど。

「まだ私達は高校生。それも1年。まだまだじゃね?」

俺が何も言わずに居ると、奥寺は勝手に続けた。

「笑うようになるのも、話すようになるのも」

こいつも随分強い心をお持ちで。

何を言っても返事なんて無いのに。

それを必要以上に待つことなく話し続ける。

「話し掛けろって言われたの…?」

「まぁ、そうねっ。じゃっ」

そういった奥寺の声はやたら明るかった。

こんなに自分に向けられた声を聞いたの、久々だった。


<2016/08/05 13:13 秋の空>消しゴム
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