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Best Friend〜姿を変えた君と〜


俺は今日も来た。

この、大量に他人の居る、この場所に。

そして少し違った意味で一番怖いのがこの隣の人。

教室に来るまでもなんとなく間隔あったし、さっきから
やたら自然で。

今度の席替えはいつになるのだろうか。

どうか今の愛生の席になることを願う。

ここは窓際のちょうど真ん中辺り。

それも通路側。

前後左右人が居る。

これ以上に最悪な状況は俺の中では無い。

真ん中の列の真ん中あたりは絶対無理。

「今日も疲れたね」

「えっ……あっ…」

急に来るのやめてほしい。

俺は軽く頭を下げた。

夕里さんは優しく笑った。

いつからか真冬並みに手が冷えてる。

「大丈夫」

こういう時はなんて返すんだろう。

「ごめんね」

「えっ…」

「急に話し掛けて」

「あっ、いや……」

もう良いよ。

話し掛けないで……  

「あっ……」

「健くん?」

担任。

この音は、間違いない。

俺は制服のズボンを掴んだ。

「行く?保健室」

俺は少し迷ったけど首を振った。

「いや、行こ?」

夕里さんは俺を立たせた。

「ちょっ、ゆり……」

夕里さんは俺の腕を少し強めに引いた。

俺らは廊下に出た。

「ごめんね?行こっか」

「えっ……」

夕里さんはニコッと笑った。

「いやぁ、あの人結構静かに来んだよね」

夕里さんは昨日のようにゆっくり歩きながら言った。

「夕里……さん?」

夕里さんは可愛らしくわらった。

俺らは気付いたら保健室の前まで来てた。

「おっ、宮田さん、健くん」

俺らは軽く頭を下げた。

「ゆっくりしてって」

先生、が笑って言う。

先生でもないけど。

俺らは今日もあのカーテンの中へ。

そしてそのカーテンの中には、俺と夕里さんだけ。

室内には、あいつも居るけど。

こんなとこに居たら悪化しそうだけど。

教室よりはまだマシ。

「ゆっくりしてこうね」

「ごめん……」

「ったく。気にすんなって」

こういう人でもあるんだ。

やっぱ他人、分からない。

あいつも。

カーテン越しに視線を感じる。

大体こういう当たらなくていいことは当たる。

これも今までずっとそうだった。

「どうした?」

「あっ……いや…」

夕里さんがカーテンを少し開けて外を見た。

「先生、何してるんですか」

やっぱり。

「何でもないわっ」

赤の他人じゃ考えられない。

意地でも教室に居る。

関係はよく分かんないけど、全く関係のない人ではない
らしい。

あの人の名字も宮河。

父親の方の誰かだろうか。

「仕事してください?」

「ごめんなさいねぇ。これが仕事なの」

「はいはい」

夕里さんはカーテンを閉め、ベッドのそばにある椅子に
座った。

夕里さんが居ると、何故か少し安心する。

他人なのに。

結局何考えてるかなんて分からないのに。

今日も夕里さんは脚に布団を掛けてくれた。

そして今日もその中に手を入れる。

その俺の手の上に優しく手をのせる夕里さん。

今日も言えないのかな。

何度か言おうとした、あの言葉。

「今日も頑張ったね」

俺は首を振った。

「十分だよ?よく来たよ」

俺は夕里さんを見れなかった。

「来るのが当たり前とか言う人居るけど、もう十分
すぎてるからね?」

うちの親。


あっ、来た。

鼻の下辺りに腕を当てた。

「我慢しないで?」

「あっ……」

涙と同時に出た俺の声は、想像以上に弱々しく、震えて
いた。

俺はこれ以上泣かないよう、耐えながら両手でベッドの
シーツを握った。


<2016/07/30 12:20 秋の空>消しゴム
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