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Best Friend〜姿を変えた君と〜


『私も行っていい?』

その言葉に頷いてしまったがためにどこかへ連れてかれ
てる俺。

別にどこに連れて行かれても良い。

けど、この歳の男女が一緒に歩いているからかすれ違う人たちの視線がやたら気になる。

もっと明るい道なら周りの人も気にしないんだろうけど、ここは狭くて、なんか本当にどこに行ってるのか
分からないような道。

「ここっ!」

夕里さんの明るい声。

俺は夕里さんの指差す方を見た。

「えっ……」

そこは、一面緑に染まっていた。

まだ、銀杏の時期じゃないから。

そう。

夕里さんが俺を連れて来たのは、あの写真の場所。

「私の大切な場所」

俺は夕里さんを見た。

「私の、大切な人と会える場所」

「約束でもしてたの?」

「ううん。初めて、その大切な人に初めて逢った場所。
そしてその人と最後に来た場所」

そう言った夕里さんの頬を一筋の涙が伝った。

「俺もここ知ってる」

夕里さんは少し驚いた顔で俺を見る。

俺はそれに笑顔を見せた。

結構、自然な気がする。

「いつか、ここの写真を撮った」

「そうなんだ」

「その写真見ると、なんか落ち着くっていうか……」

言えないな。

「そっか。ここは私達の特別な場所だったんだね」

俺は夕里さんを見た。

夕里さんは優しく笑った。

凄く癒やされる笑顔で。

「結構学校から近いでしょ」

「うん……」

「だから私、毎朝ここ来てる。その人から、勇気をもらうために……」

その人、何があったんだろう。

「ちょ、もう全部言っていい?」

「えっ……うん……」

ちゃんと聞けるか、心配だけど。

「その人、中学で一緒になったんだけど、その人も健くんみたいな感じで」

人見知り、ってことかな。

「それで少しずつ仲良くなって。その頃に……」

何かが起きた。

夕里さんは深めに数回呼吸をした。

「その頃に、その人に病気が見つかってね。
それからここに来るようになったの。その人も、銀杏が大好きだったから」

これダメなやつだ。

「で、その人と最後に来たのが、ここ」

「っか……」

「ふふっ、変な話しちゃってごめんね?健くんはなんで
ここが?」

ただ、写真撮って、それを見ると落ち着く。

それだけ。

良い話でも何でもない。

「えっ、あ、何も……」

「そうなの?」

言えば、少しは空気変わるかな。

「あっ、前に、ここの写真撮って、その写真見ると、ただ
落ち着くってだけ」

「そっか。あるよね?そういう場所。分かる〜っ」

夕里さんが辛いのを耐えてるように明るく言った。

これで先に俺が泣くという。

絶対そうなる。

もう泣いていいなら泣いてる。

「私……」

「ゆりさん?」

もう俺の声は震えていた。

「いつになったらここに来ても泣かなくなるんだろうね」

「そのうち、そうなるよ」

どんなに必死になったって、現状は変わらない。

将来が変わるわけでもない。

なら、今はその状態でいればいい。

「健くんも良い人だね……泣かせるの上手い人だ」

泣かされんのも上手いけど。

もう泣けるし。

こんな風にでも考えていないと泣きそうだった。

そんな俺に、そっと抱きつく夕里さん。

こんな、近くに人が居る。

「夕里さん……えっ、ちょ……」

さっきまでの泣きそうだったのが一気に吹き飛び、それが緊張に変わった。

「健くん?」

「はい……」

えっ、『このままでいい?』は無理だけど……

「あっ!ごめん……」

夕里さんは慌てて俺から離れた。

「いや、こちら…こそ……」

「ほんとごめん……大丈夫?」

「あっ、はい……」

「いやぁ、ビックリビックリ」

それは俺も負けてないと思う。

一気に羽織るものが欲しくなってきた。

「あ、ごめんね?帰ろっか」

「はい……」

俺らは来た道を戻り、再び学校へ。

そしてそこで別れた。


その時俺は、不安と安心が混ざったような感覚だった。

安心はなんとなく分かる。

けど、不安って……

俺は自分の気持ちに疑問を抱きながら家に向かった。


<2016/07/30 14:43 秋の空>消しゴム
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