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Best Friend〜姿を変えた君と〜


「よし」

そう言って当たり前のように健くんを抱き上げる翔くん。

余裕で抱けちゃうんだ。

「えっ?」

「深い夢の中へ」

寝ちゃうんだ。

泣き疲れて翔くんの腕の中で眠る健くんは、とても
可愛らしかった。

あの時とは、少し違った感じ。

今回は、あの時より安心してる気がする。

「ちょっと一緒に、良い?」

健くんが元気になったみたい。

顔も声もそっくり。

私は頷いた。





私達は健くんの部屋へ。

「なんか弟みたいな兄ちゃんだよな」

翔くんが眠る健くんの頬に残る涙の跡を消しながら
言った。

「別に良いんじゃない?」

私は健くんの寝顔に癒されながら言った。

「今は、そうしてあげて?」

「夕里さん?」

『さん』がついてた頃の健くんにそっくり。

健くんに呼ばれてるのかと思う程。

私はそんな翔くんに笑顔を見せた。

そして私はもう一度部屋を見渡してみる。

「時計なら無いよ」

私はそう言った翔くんを見た。

「ここにはね」

「ここ、だけ?」

「うん。時計があると落ち着かないんだって」

翔くんは優しく健くんの頭を撫でながら言った。

そして続けた。

「休日が終わる瞬間が見えそうで。平日が再び始まる瞬間が見えそうで」

「そっか……」

「小学校、健がね?小学校、3年くらいの頃に外したの」

小3でそんな恐怖感に。

「なのに、小学校の頃は頑張ってたんだね……」

そんな、時間の動きを感じる恐怖を知る程の状態で。

「親」

私は暗い声で言う翔くんを見た。

翔くんはそれに気付くと私を見て続けた。

「親が、そういうの許さない人だから……」

「二人とも?」

「父親は居ないね」

そして、今はその母親と……

「だから、小学の頃は頑張ってた。けど……」

中学の頃。

翔くんは眠る健くんに視線を移した。

私も下を向いた。

「もう良いよ……」

その、健くんにそっくりな声で聞き続けられる自信は
ない。

「けど……中学の頃…」

もう、泣くよ?

「ずっとここに。俺も入らなかった。入れなかった、
かな?」

外、出れなかったんだ。

どれだけ辛かっただろう。

とても幸せな事に私にそんな経験は一度もない。

「すぐ隣が俺の部屋なんだけどさ、聞こえんのよ。
泣いてんのが」

こんなに泣くの堪えたの初めて。

「聞こえてんのに、知ってんのに何も出来ないっていう」

それは翔くんも辛いよ。

何かしてあげたいのに、してあげられる事が見つからない。

「なんで今……」

「なんでだろうね。俺も分かんない」

家族も、兄弟も知らない何かが健くんに。

「翔も居ないから…」

私達の視線は同時に健くんへ。

「もう、甘えられる人も居ないから……」

そう言ってゆっくり起き上がる健くん。

「ったく。余計な事ベラベラ喋りやがって」

健くんは少し嬉しそうに言った。

「健…くん」

健くんは私に少し笑った。

笑ってくれた。

「いつから起きてた」

「中学の頃の話になったあたり」

結構前から。

「で?」

言わせちゃうんだね。

「そう、翔と学校違うし、会うこともないから……」

私達は健くんを見つめた。

「会ったら、変に安心しちゃうから……」

健くん……

「小学の頃はこんなんじゃなかったから行けてた。
中学の頃やたら人が嫌になって。
翔と会う可能性も無くはなかったし」

健くんにとって、翔くんってすごい存在なんだね。

「今は翔も居ないから大丈夫だと思ったんだけど……」

私達、かな。

「こうやって優しい人達が出て来んじゃん。もうね、
も〜ダメだよね」

今までなんとか耐えてた涙が一斉に溢れ出す。

「ハハハッ、優しいんだね」

翔くんかな。

よーく聞いてると翔くんの方が高いかも。

「夕里……なんかごめんね」

私は健くんの言葉に首を振った。

なんでこんなに。

健くんの今までの辛さを知ったから?

なかなか気付いてあげられなかったから?

どっちにしろなんで今泣くかな。

「健はもう大丈夫だよ?」

「翔がいらん事喋っから」

「よかったよ……」

私が言うと二人の視線は私に。

「今までの健くん、知れて」

「夕里……」

「ごめん。もう大丈夫」

私は腕で涙を拭い、二人に笑顔を見せた。

二人も安心したように笑ってくれた。

もうどっちか分からない。

やっぱり翔くんの方が自然かな。

けど二人とも最高に可愛い笑顔であることは間違いない。

「じゃあ、ごめんね」

私はそう言ってバッグを持ち、部屋を出た。

「帰るの?」

健くん……

私はその声に振り返った。

「うん……」

「いや、暗いから…」

健くんはカーテンの閉まった窓を見て言った。

「私は危険な目に遭うほど可愛くないわっ」

心配する健くんに笑顔でそう言い、階段の方へ向かった。

そんな私ついてきたのは翔くんだった。



「じゃあね」

「行くよ?」

「な〜に言ってんのよ。繊細なお兄ちゃんのそばに居て
あげなさい?」

私はそう言ってごめん、と頷く翔くんに手を振り、家に
向かった。

すっかり暗くなった、空の下で。


<2016/07/31 11:15 秋の空>消しゴム
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