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Best Friend〜姿を変えた君と〜


健くん、大丈夫かな。

愛生にも会わせちゃったし、今日はもう帰っちゃった
って。

今までは、なんとかでも頑張ってたのに。

もちろん頑張って欲しい訳じゃない。

無理だけは、絶対ダメだから。

だけど、そんなすぐ無理しちゃうような健くんが、
今日は帰った。

そんなの、あの日だけだった。

私が健くんをあの場所に連れて行った、あの日。

健くん、疲れちゃったのかな。

しばらく学校も来ないかもね。

別に私は健くんが来ようが休もうが悪いけどどうでも
良い。

どっちにしろ、彼が無理をしていないなら。

彼が、辛くないなら。

休んでも、辛いなら意味がない。

今、ここを抜け出して家に行くこともできる。

けど、きっと健くんはそんなの望んでない。

愛生も、断られたみたいだし。

愛生、本当に上手くいったのかな。

「ねぇ、愛生?」

「あら、夕里」

「健くん、どうだった?」

「あっ、そうそう、すんごい似た人と一緒に居たの!」

翔くんだろう。

なんでここに翔くんが?

学校、違うんだよね?

「もうね、健が二人いるのかと思った!」

「ってさ、知ってるよね。愛生」

「えっ?」

「健くんに弟がいること」

「んだぁ。夕里も知ってたの?」

「んなこた どーでも良いんだよ。愛生が会いに行った時
健はどうだったっ!」

周りの人の視線はほぼ全て私に。

私は周りの人に頭を下げた。

「うるさいよ。健?えっ、健って言った?」

「だから、んなこたどーでも良いんだよ。どうだった」

「いきなり行ったからちっとビックリしてたけど」

「そう……辛そうだったり無理してる感じはなかった?」

「あたしはぁ、全く感じられなかったよ?」

「そう……」

「夕里?」

「えっ?ごめん」

なんで私、こんなに必死になってるんだろう。

何故か放っておいちゃ、一人にしちゃいけないような、
そんな感じがした。

「ちょっ行ってくる」

「夕里っ!」

優?

優が私を呼び止めた?

「何?」

「どこ行くの?」

「あの人の所」

「そっか」

私は頷き、再び走りだそうとした。

「声」

まだ何かあるの?

「声掛けるときは、慎重にな」

「わあってるよ」

私はあの場所に向かって、再び走りだした。

大丈夫。

分かってる。

健くんの家には行っちゃいけないことくらい。

けど、あの場所に行けるくらいの、僅かながら余裕が
あれば。

少しくらいなら、大丈夫かもしれない。

そんな事を考えていたらもう着いた。

誰も居ない、この場所に。

「来て……ないか…」

相当辛いのかな。

そんな時、私にしてあげられることがあったら。

私は右手首の時計を確認し、今来た道を引き返した。

けど、さっきより全然急げなかった。

そんなに、大切な理由があって走ってるわけじゃない
から。

健くんくらいの大きな、大切な理由があればまだまだ
走れる。

いくらでも走れる自信がある。

健くん、本当にどうしたんだろう。

私は健くんの望んでること、何もしてあげられてないね。

こうして気にされるのも、嫌なんだろうに。

分かってるよ?

分かってるけど、そうもいかないの。

健くんが、辛いときにそばに居てあげたいから。

ウザいのもしつこいのも分かる。

けど、これが私なの。

私に、出来ること。

『関わるな』

そう言ってくれたらそうする。

けど、健くんはまだそれを言ってない。

だからきっとまだ、私達に出来ることはゼロじゃないん
だろう。

ゼロになったら、その時に言ってくれるはずだから。

『関わるな』

その、キツ目な一言を。

気付いたら教室に着いていた。

「宮田!」

あちゃ、先生怒ってらっしゃる。

「はい」

「何してた」

「すみません」

「ったく。いいから席もどれ」

良いんだ。

私は大人しく席についた。

隣に、健くんの居ない、寂しい席に。

私はそっと健くんの席に触れてみた。

うん。

怪しいね。

あれっ。

私は机の中に少し手を入れた。

ある。

持って帰ってない。

準備も出来なかったの?

私はもちろん持って行きたいけど、健くん……がね。

翔くんの連絡先は知らない。

あ、愛生。

私は愛生を見た。

愛生は良く分からないという顔をしていた。

私はそんな愛生に笑顔を見せた。

そして前を向いて、いけないものを発見した。

「みーやーた」

「はい」

「じゅーんーびー」

「すみません」

私は大人しく準備を始めた。

大人しかった、かな。

私の中ではかなり大人しかった。





しばらく眠気と健くんへの心配と闘いながら授業を
乗り切った。

「愛生 愛生 愛生っ!」

「何回呼んだ?」

三回。

「翔くんの連絡先教えて!」

「健の?」

弟の、ね。

「うん」

「あたしのから連絡したら?」

そう言いたかった気がする。

「今でもいい?」

「何そんなに慌ててんの?」

優が少し心配そうに言う。

「私はいつでも冷静よ?」

「そうは見えないんだって……」
「はい」

「おっ、ありがと」

「聞いて〜?」

私は優を放置してメールを打ち始めた。

『いきなりごめんね?

今日、帰り寄ってく。健くんの荷物、学校にあるから

夕里』


あらっ、男の子なのに返信早いのね。

『ありがとう。待ってます』

なんか優しい。

「あ、ありがとね」

「あぁ、はいはい。消せば?」

「えっ?」

「見ていいの?」

「そんなことしないくせに」

私は渡そうとしていた愛生の携帯をもう一度自分の方へ。

そしてさっきのメールを消して返した。

とりあえず、予測変換も。

「あらっ、予測変換も消してくれたのね」

「消すならとことん消さないとねっ」

「証拠隠滅」

「犯罪だよ?」

「真面目か」

「愛生さん早〜い」

「だろ〜?」

私はなんとなく時計を見た。

「え?」

「何?」

「もう1時間しかないの?」

「みたいだね」

なんか、すごい早い。

健くんのこと、考えてるからかな。










最後の一時間を乗り切り、私は健くんの家の前にいた。

呼び鈴を鳴らすわけにもいかず、その場で待ち続けた。

きっと健くんは外を見たりはしないだろう。

『休日が終わるのが見えそうで。平日が再び始まる瞬間が見えそうで』

そんな、健くんなら。

その時、静かに玄関が開いた。

「夕里」

「えっ…!」

あ、翔くんだ。

そりゃそうだよね。

「あっ、はい」

「ありがとね」

「ううん。じゃあねっ」

私はそのまま帰ろうとした。

「あっ……」

「ん?」

「いや、なんでもない」

「そう。じゃあねっ」

「ありがとう」

私は翔くんに首を振り、家に向かった。


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