「そういえばさ、姉ちゃんが前……」
「ハハハッ」
そういえば俺はいつからか、愛生の前では翔と居る時
以上に自分で居る気がする。
本気で笑ってる気がする。
やっぱり俺には愛生。
夕里は、やっぱり怖い。
愛生とは違うんだよな。
分かり方が。
明らかに分かってる感じが。
けど愛生は、なんだろう。
自然。
「あの頃の姉がどこかへ行ってしまったらしい」
「まぁ、人は変わるから」
「ねぇ。変わり過ぎだよな」
俺は窓の前に立つ愛生を見た。
「人って何がきっかけでどれくらい変わんだろうな」
「きっかけは人それぞれじゃん?」
「あたし等は何がきっかけでどう変わんだろう」
俺は愛生がきっかけで、良い方に。
「まぁ、あたしは多分健だと思う。健がきっかけで、
良い方に変わりそう」
「愛生?」
「あたし、健に会って変わったの」
幼稚園の頃、だけど。
「中学の頃、かな」
忘れられてるよ。
「幼稚園の頃は、まだ知らなかったから」
覚えてるんだ。
「本当の、宮河健を」
本当の俺か。
どんな人なんだろう。
「本当の自分って知りたい?」
「あたしは知りたくないかな。知ったら、
素直にならなきゃいけない気がして」
こんなに同じように考える人居るんだ。
もう一人の自分みたい。
「健は?」
「さっき愛生が言ったまんま」
「ねっ。おんなじなんだな」
「同じ?」
「もう一人のあたしみてぇだもん」
今思ってた。
「同じ事考えてんだもんさっ、素でいろよ?」
「えっ?」
愛生が男友達に見えてきた。
目の前に女の子らしい愛生の顔があるのに。
「あたしの前では。もちろんなんにも隠すなとは
言わない。けど、ある程度本当の健で居てほしい」
「愛生」
「ん?」
「泣かせたいの?」
「泣きたいの?泣けば?」
「この女……」
俺は下を向いた。
「あっ……」
俺の小さな声と共に、ひと粒の涙が制服のズボンに
落ちた。
「ハハハッ、良いよ?堪えちゃダメよ」
「愛生は堪えるくせに」
「堪えられないもん。あたしは誰かと違って周りに
気ぃ遣わないの」
「別に俺も遣ってねぇし」
「無意識に遣ってんだし」
「わっ」
愛生は俺を押してベッドに飛び込んだ。
「何」
「はぁ〜っ」
「怖いよ?」
「大丈夫?」
「はぁ?」
「軽かったよ?」
うわ、あん時。
「あたしより15センチはあるよね?」
「いや分っかんない」
「あとその制服、健に合わせて作ったの?」
「行ってはないけどサイズは……」
愛生は俺の何を心配してるんだか。
「あっ、そっか」
「え?あの、愛生?怖い……」
「あ、いや、ごめん」
愛生はベッドから降りた。
「何を心配してんの?」
「いやぁ、だってさ、抱けたんだよ?あたしに、健を」
「やっぱほら、愛生、凶暴だから」
「は?」
「ほら!」
「こっから投げてやっても良いけど?」
「着地なら慣れてる」
「どんなとこで生活してたんだよ」
「危ないとこ」
どんなとこだよ。
自分の発言に疑問が湧く。
「いやぁ、大変でしたね。それは」
「いやいや」
「誉めてねぇけどな」
「はい」
やっぱり愛生とこうしてる時間が好き。
愛生となら、何時間でも居られる気がする。
初めて出来た、最高の友達。
「あっ、今歩ける?」
「えっ、うん……」
愛生は何かを企んでるような笑みを浮かべる。
愛生が俺を連れて来たのは、あの場所だった。
夕里が気に入ってる、大切な、この場所。
唯一、大切なあの人に会える場所。
「ここに、あたしと夕里の友達が居るの」
「あの木でしょ」
愛生は少し驚いた顔で俺を見る。
「知ってんの?」
「夕里が連れて来てくれた」
「んだぁ〜。絶対知らないと思った」
「なんでここが大切な場所かも知ってる」
夕里が、全部教えてくれたから。
「はぁ。あたしが教えてやろうと思ったのに」
「聞いてやってもいいけど?」
「泣かせてあげよっか?」
「あっ……」
それが苦手なんだよな。
絶対泣く。
ちょっと自信ある。
要らない自信。
「ハハッ。あたしたち、中学の頃……」
勝手に話し始めちゃったよ。
「中学の頃に、ここに来たの。そしたら、そこそこ
かっこいい男の子が来て」
それは知らなかったかな。
「で、その人に名前と通ってる学校聞いたら、
同じクラスの子で」
それはなんとなく思ったって感じで聞いてはないね。
「で、その人も健みたいに、人が苦手で」
俺、苦手なのかな。
そんな重い?
「で、少しずつ仲良くなっていったんだけどさ、
その頃に」
あぁ、もう危ない。
溜まってきてる。
「その子に、病気が……」
「ちょい待って」
「何よ!今イイとこじゃん」
それがダメなんだって。
俺は溜まりまくった涙を目全体に広げ、目を潤した。
今の俺に目薬は絶対要らない。
「で、いい?」
「はい……」
えっ、まだ続けるの?
「あれ、初めから話していい?」
「バカ。その人に何が起こった?」
こっちは泣かないように必死なのに。
このS女。
「そう。その子に、病気が見つかって」
あぁ、ダメダメ。
集中しない。
「それから、毎日ここに来ててね」
毎日、禁止。
「それで、何度か来た頃に彼はこの木になった」
「うあっ」
「ハハハッ、あたしの勝利!」
どんな勝負だよ。
最後がダメ。
この木になったはダメでしょうよ。
「それからもあたしたちはここに来て、その子にいろいろもらってるの」
まだ続けるのかよ。
「辛い時も、そばにいてくれたから」
知らない知らない。
俺には関係ない。
「ううっ……」
「ハハハッ!涙腺ヤバくね?ウケる」
楽しそうで何より。
俺はなんとかこれ以上出ないように耐えながら、
木のそばに。
そして、そっとその木に触れてみた。
「健おもしろいね。触るのね。一回もしたことなかった」
えぇ、普通大切な人の木なら触らない?
「えっ、俺真っ先に触るけど。その人なんでしょ?」
「そうだよ。あの太陽みたいに眩しい笑顔をばら撒く
イケメンくん」
愛生は明るい空を見上げて言った。
俺も見上げた。
そしてなんとなく眩しい、明るい太陽に両手を伸ばした。
「夕里そっくり」
「は?」
「いや、なんでもない」
愛生も右手を伸ばした。
「なんかもらえる気がするんだよなぁ」
「分かる気がする」
安心というか、自信というか。
今の俺に必要なものを、もらえるような。
そして何故か眠くなってきた。
睡眠足りてない?
寝れてるんだけどな。
誰か来る。
「えっ、健?」
「いや、なんでもない」
「なんか、放つオーラ半端ねぇけど……」
こうすれば良かったんだ。
「戻んぞ」
「すごい切り替え。だもんあんときゃビビるわ」
愛生、本当にごめん。
ダメだ。
集中出来なくなってる。
俺は下を向き、伸びてきた前髪で顔を隠した。
愛生は普通の女の子になってる。
そしてあの誰かとすれ違った時、俺はつい振り返った。
その人は振り返っていなかった。
「健?」
「いや……」
俺は再び愛生の家に向かった。
「あっ、うちなんだね」
夕里だ。
間違いない。
あの、全部分かられてるような、見られてるような感じ。
「えっ、健速い……」
「えっ?あ、ごめん」
愛生の限界を伝える声でやっと俺は振り返った。
「ハァ、ハァ……もぉ!何急いでんのさ」
「夕里……」
「はぁ?」
「今すれ違った人、夕里」
「夕里?んで分かったの」
「なんか、分かんだよ……」
俺は再び愛生の家を目指した。
「もうちょっとゆっくり行こうよ?マラソンじゃないん
だから」
マラソン。
そんなに速くないけど。
「もう脇腹痛い」
俺は歩く速さを少し遅めた。
「はぁ、はぁ。健くん優しいっ」
「無駄に喋んな」
「はい」
言い方が異常にキツかったのは分かってる。
「やっと着いた……」
愛生はなんとか立っているような感じで玄関を開けた。
「だぁ〜〜っ」
「倒れてる」
「も〜無理だ〜っ!」
「一回仰向けんなって」
愛生は驚くほど大人しく仰向けになった。
俺はその愛生をそっと抱き上げた。
「キャッ!?」
「暴れんな。落とすぞ」
「痛いからやめて?」
「なら大人しくしとけ」
「なぁんか、かっこいいね」
そう言って全身の力を抜ききる愛生。
軽いのはどっちだよ。
俺は愛生をベッドの上へ。
「宮河様最高!」
「起きてんのかよ」
「お姫様抱っこ初体験」
「可哀想な女」
「は?」
「初体験幼馴染とか」
「良いよ別に。健様大好きだから」
「様ヤメろ」
「かわいっ」
「うわっ」
女の上に乗っちゃったよ。
というか、乗せられちゃった?
「ちょ、愛生……」
「そう緊張すんなって」
緊張はしてないけど。
「ちょっ、愛生折れる…」
「あたしが健の上に乗るより安全よ?」
「ん〜なわけあっか」
「ハハハッ。あっ、そういえば夕里、どうしたんだろう」
「え?」
「さっきすれ違った人、夕里だったんでしょ?」
俺は頷いた。
あの感じは間違いない。
そして、夕里も俺らに気付いてた。
なのに、夕里は俺らに声を掛けなかった。
なんで。
「夕里はあたしらに気付いてたのかな」
「気付いてたよ」
「随分自信あるのね?」
「間違いない」
「違ったらタダじゃ置かないわよ?」
そんなことしないくせに。
「けど、気付いたならなんで声掛けなかったんだろう」
「分からない……」
「ほんとに夕里だったの?」
「それは間違いない。気付いたのも、多分」
「まぁあんな独特な雰囲気醸し出してたら気付くわ」
そんなに変な雰囲気出してたつもりはなかった。
ちょっと冷たい感じだそうとは思ったけど。
「俺これからあんな感じで居る」
「はぁ!?」
愛生はかなり驚いている。
きっと俺はそれ以上に驚いてるけど。
「作るの?」
「あれなら、そう声掛ける奴もいないだろ」
「ゼロだろうな」
なら俺はそうする。
人と関わるのは必要最低限で十分。
「ならそれが一番っしょ」
「疲れるよ?」
「別に寝ればいい」
「悪夢を見ても?」
「現実にならなければいい」
「じゃあ、お願いだから翔の前では健でいて」
愛生は起き上がり、俺の肩を掴み、前後に軽く揺さぶる。
「えっ……愛生?」
「どこか一つでいいから、素でいる場所を作って……」
少し震えた愛生の声。
「えっ、愛生?」
何か大事に。
「でも、作ってたほうが楽じゃない?」
「えっ…?」
「素でいるのも難しいよ?」
今みたいに愛生と居る時は素なんだけどね。
「健……ダメだよ?作るのが当たり前になっちゃ」
「大丈夫。まだなってないから」
「そのこれからが心配なんだよ」
「ねぇ愛生、どうした?」
愛生は何も言わず、首を振った。
涙、堪えてるの?
「愛生、ごめんね?大丈夫だよ?」
「けん〜っ……」
俺は抱きつく愛生の頭をそっと撫でた。
「愛生、俺、愛生と居る時は素だよ?」
「マジで?」
「こんな嘘つかねぇよ」
「健っ!」
愛生は俺に抱きつく力を少し強めた。
「健」
「ん?」
「どこも、行かない?」
「行けないよ」
俺は、愛生が居ないとダメなんだから。
「ケホッケホッ……」
「愛生も同じじゃん」
「は?」
「咳」
「健のはさ、ほら」
ほら。
「もっとこう、ほら」
ほら。
「何」
「もっと、可愛いの」
可愛い。
「よく分かんないわ」
「まぁいいや」
「えっと、大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、また」
俺は愛生を離し、バッグを肩にかけた。
「帰るの?」
「まぁ、どうせさっきんとこに居っから」
「また行くの?じゃああたしも行く」
「別に良いけど風邪うつんぞ」
「それで帰るの?」
「別に?」
「嘘おっしゃいっ。あたしも行く!」
「ったく」
俺らは結局一緒にさっきの所へ。
「ハハハッ」
そういえば俺はいつからか、愛生の前では翔と居る時
以上に自分で居る気がする。
本気で笑ってる気がする。
やっぱり俺には愛生。
夕里は、やっぱり怖い。
愛生とは違うんだよな。
分かり方が。
明らかに分かってる感じが。
けど愛生は、なんだろう。
自然。
「あの頃の姉がどこかへ行ってしまったらしい」
「まぁ、人は変わるから」
「ねぇ。変わり過ぎだよな」
俺は窓の前に立つ愛生を見た。
「人って何がきっかけでどれくらい変わんだろうな」
「きっかけは人それぞれじゃん?」
「あたし等は何がきっかけでどう変わんだろう」
俺は愛生がきっかけで、良い方に。
「まぁ、あたしは多分健だと思う。健がきっかけで、
良い方に変わりそう」
「愛生?」
「あたし、健に会って変わったの」
幼稚園の頃、だけど。
「中学の頃、かな」
忘れられてるよ。
「幼稚園の頃は、まだ知らなかったから」
覚えてるんだ。
「本当の、宮河健を」
本当の俺か。
どんな人なんだろう。
「本当の自分って知りたい?」
「あたしは知りたくないかな。知ったら、
素直にならなきゃいけない気がして」
こんなに同じように考える人居るんだ。
もう一人の自分みたい。
「健は?」
「さっき愛生が言ったまんま」
「ねっ。おんなじなんだな」
「同じ?」
「もう一人のあたしみてぇだもん」
今思ってた。
「同じ事考えてんだもんさっ、素でいろよ?」
「えっ?」
愛生が男友達に見えてきた。
目の前に女の子らしい愛生の顔があるのに。
「あたしの前では。もちろんなんにも隠すなとは
言わない。けど、ある程度本当の健で居てほしい」
「愛生」
「ん?」
「泣かせたいの?」
「泣きたいの?泣けば?」
「この女……」
俺は下を向いた。
「あっ……」
俺の小さな声と共に、ひと粒の涙が制服のズボンに
落ちた。
「ハハハッ、良いよ?堪えちゃダメよ」
「愛生は堪えるくせに」
「堪えられないもん。あたしは誰かと違って周りに
気ぃ遣わないの」
「別に俺も遣ってねぇし」
「無意識に遣ってんだし」
「わっ」
愛生は俺を押してベッドに飛び込んだ。
「何」
「はぁ〜っ」
「怖いよ?」
「大丈夫?」
「はぁ?」
「軽かったよ?」
うわ、あん時。
「あたしより15センチはあるよね?」
「いや分っかんない」
「あとその制服、健に合わせて作ったの?」
「行ってはないけどサイズは……」
愛生は俺の何を心配してるんだか。
「あっ、そっか」
「え?あの、愛生?怖い……」
「あ、いや、ごめん」
愛生はベッドから降りた。
「何を心配してんの?」
「いやぁ、だってさ、抱けたんだよ?あたしに、健を」
「やっぱほら、愛生、凶暴だから」
「は?」
「ほら!」
「こっから投げてやっても良いけど?」
「着地なら慣れてる」
「どんなとこで生活してたんだよ」
「危ないとこ」
どんなとこだよ。
自分の発言に疑問が湧く。
「いやぁ、大変でしたね。それは」
「いやいや」
「誉めてねぇけどな」
「はい」
やっぱり愛生とこうしてる時間が好き。
愛生となら、何時間でも居られる気がする。
初めて出来た、最高の友達。
「あっ、今歩ける?」
「えっ、うん……」
愛生は何かを企んでるような笑みを浮かべる。
愛生が俺を連れて来たのは、あの場所だった。
夕里が気に入ってる、大切な、この場所。
唯一、大切なあの人に会える場所。
「ここに、あたしと夕里の友達が居るの」
「あの木でしょ」
愛生は少し驚いた顔で俺を見る。
「知ってんの?」
「夕里が連れて来てくれた」
「んだぁ〜。絶対知らないと思った」
「なんでここが大切な場所かも知ってる」
夕里が、全部教えてくれたから。
「はぁ。あたしが教えてやろうと思ったのに」
「聞いてやってもいいけど?」
「泣かせてあげよっか?」
「あっ……」
それが苦手なんだよな。
絶対泣く。
ちょっと自信ある。
要らない自信。
「ハハッ。あたしたち、中学の頃……」
勝手に話し始めちゃったよ。
「中学の頃に、ここに来たの。そしたら、そこそこ
かっこいい男の子が来て」
それは知らなかったかな。
「で、その人に名前と通ってる学校聞いたら、
同じクラスの子で」
それはなんとなく思ったって感じで聞いてはないね。
「で、その人も健みたいに、人が苦手で」
俺、苦手なのかな。
そんな重い?
「で、少しずつ仲良くなっていったんだけどさ、
その頃に」
あぁ、もう危ない。
溜まってきてる。
「その子に、病気が……」
「ちょい待って」
「何よ!今イイとこじゃん」
それがダメなんだって。
俺は溜まりまくった涙を目全体に広げ、目を潤した。
今の俺に目薬は絶対要らない。
「で、いい?」
「はい……」
えっ、まだ続けるの?
「あれ、初めから話していい?」
「バカ。その人に何が起こった?」
こっちは泣かないように必死なのに。
このS女。
「そう。その子に、病気が見つかって」
あぁ、ダメダメ。
集中しない。
「それから、毎日ここに来ててね」
毎日、禁止。
「それで、何度か来た頃に彼はこの木になった」
「うあっ」
「ハハハッ、あたしの勝利!」
どんな勝負だよ。
最後がダメ。
この木になったはダメでしょうよ。
「それからもあたしたちはここに来て、その子にいろいろもらってるの」
まだ続けるのかよ。
「辛い時も、そばにいてくれたから」
知らない知らない。
俺には関係ない。
「ううっ……」
「ハハハッ!涙腺ヤバくね?ウケる」
楽しそうで何より。
俺はなんとかこれ以上出ないように耐えながら、
木のそばに。
そして、そっとその木に触れてみた。
「健おもしろいね。触るのね。一回もしたことなかった」
えぇ、普通大切な人の木なら触らない?
「えっ、俺真っ先に触るけど。その人なんでしょ?」
「そうだよ。あの太陽みたいに眩しい笑顔をばら撒く
イケメンくん」
愛生は明るい空を見上げて言った。
俺も見上げた。
そしてなんとなく眩しい、明るい太陽に両手を伸ばした。
「夕里そっくり」
「は?」
「いや、なんでもない」
愛生も右手を伸ばした。
「なんかもらえる気がするんだよなぁ」
「分かる気がする」
安心というか、自信というか。
今の俺に必要なものを、もらえるような。
そして何故か眠くなってきた。
睡眠足りてない?
寝れてるんだけどな。
誰か来る。
「えっ、健?」
「いや、なんでもない」
「なんか、放つオーラ半端ねぇけど……」
こうすれば良かったんだ。
「戻んぞ」
「すごい切り替え。だもんあんときゃビビるわ」
愛生、本当にごめん。
ダメだ。
集中出来なくなってる。
俺は下を向き、伸びてきた前髪で顔を隠した。
愛生は普通の女の子になってる。
そしてあの誰かとすれ違った時、俺はつい振り返った。
その人は振り返っていなかった。
「健?」
「いや……」
俺は再び愛生の家に向かった。
「あっ、うちなんだね」
夕里だ。
間違いない。
あの、全部分かられてるような、見られてるような感じ。
「えっ、健速い……」
「えっ?あ、ごめん」
愛生の限界を伝える声でやっと俺は振り返った。
「ハァ、ハァ……もぉ!何急いでんのさ」
「夕里……」
「はぁ?」
「今すれ違った人、夕里」
「夕里?んで分かったの」
「なんか、分かんだよ……」
俺は再び愛生の家を目指した。
「もうちょっとゆっくり行こうよ?マラソンじゃないん
だから」
マラソン。
そんなに速くないけど。
「もう脇腹痛い」
俺は歩く速さを少し遅めた。
「はぁ、はぁ。健くん優しいっ」
「無駄に喋んな」
「はい」
言い方が異常にキツかったのは分かってる。
「やっと着いた……」
愛生はなんとか立っているような感じで玄関を開けた。
「だぁ〜〜っ」
「倒れてる」
「も〜無理だ〜っ!」
「一回仰向けんなって」
愛生は驚くほど大人しく仰向けになった。
俺はその愛生をそっと抱き上げた。
「キャッ!?」
「暴れんな。落とすぞ」
「痛いからやめて?」
「なら大人しくしとけ」
「なぁんか、かっこいいね」
そう言って全身の力を抜ききる愛生。
軽いのはどっちだよ。
俺は愛生をベッドの上へ。
「宮河様最高!」
「起きてんのかよ」
「お姫様抱っこ初体験」
「可哀想な女」
「は?」
「初体験幼馴染とか」
「良いよ別に。健様大好きだから」
「様ヤメろ」
「かわいっ」
「うわっ」
女の上に乗っちゃったよ。
というか、乗せられちゃった?
「ちょ、愛生……」
「そう緊張すんなって」
緊張はしてないけど。
「ちょっ、愛生折れる…」
「あたしが健の上に乗るより安全よ?」
「ん〜なわけあっか」
「ハハハッ。あっ、そういえば夕里、どうしたんだろう」
「え?」
「さっきすれ違った人、夕里だったんでしょ?」
俺は頷いた。
あの感じは間違いない。
そして、夕里も俺らに気付いてた。
なのに、夕里は俺らに声を掛けなかった。
なんで。
「夕里はあたしらに気付いてたのかな」
「気付いてたよ」
「随分自信あるのね?」
「間違いない」
「違ったらタダじゃ置かないわよ?」
そんなことしないくせに。
「けど、気付いたならなんで声掛けなかったんだろう」
「分からない……」
「ほんとに夕里だったの?」
「それは間違いない。気付いたのも、多分」
「まぁあんな独特な雰囲気醸し出してたら気付くわ」
そんなに変な雰囲気出してたつもりはなかった。
ちょっと冷たい感じだそうとは思ったけど。
「俺これからあんな感じで居る」
「はぁ!?」
愛生はかなり驚いている。
きっと俺はそれ以上に驚いてるけど。
「作るの?」
「あれなら、そう声掛ける奴もいないだろ」
「ゼロだろうな」
なら俺はそうする。
人と関わるのは必要最低限で十分。
「ならそれが一番っしょ」
「疲れるよ?」
「別に寝ればいい」
「悪夢を見ても?」
「現実にならなければいい」
「じゃあ、お願いだから翔の前では健でいて」
愛生は起き上がり、俺の肩を掴み、前後に軽く揺さぶる。
「えっ……愛生?」
「どこか一つでいいから、素でいる場所を作って……」
少し震えた愛生の声。
「えっ、愛生?」
何か大事に。
「でも、作ってたほうが楽じゃない?」
「えっ…?」
「素でいるのも難しいよ?」
今みたいに愛生と居る時は素なんだけどね。
「健……ダメだよ?作るのが当たり前になっちゃ」
「大丈夫。まだなってないから」
「そのこれからが心配なんだよ」
「ねぇ愛生、どうした?」
愛生は何も言わず、首を振った。
涙、堪えてるの?
「愛生、ごめんね?大丈夫だよ?」
「けん〜っ……」
俺は抱きつく愛生の頭をそっと撫でた。
「愛生、俺、愛生と居る時は素だよ?」
「マジで?」
「こんな嘘つかねぇよ」
「健っ!」
愛生は俺に抱きつく力を少し強めた。
「健」
「ん?」
「どこも、行かない?」
「行けないよ」
俺は、愛生が居ないとダメなんだから。
「ケホッケホッ……」
「愛生も同じじゃん」
「は?」
「咳」
「健のはさ、ほら」
ほら。
「もっとこう、ほら」
ほら。
「何」
「もっと、可愛いの」
可愛い。
「よく分かんないわ」
「まぁいいや」
「えっと、大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、また」
俺は愛生を離し、バッグを肩にかけた。
「帰るの?」
「まぁ、どうせさっきんとこに居っから」
「また行くの?じゃああたしも行く」
「別に良いけど風邪うつんぞ」
「それで帰るの?」
「別に?」
「嘘おっしゃいっ。あたしも行く!」
「ったく」
俺らは結局一緒にさっきの所へ。
