おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
Best Friend〜姿を変えた君と〜


この日、あたしにとって大事件が起きた。

今はそんな日の帰り道。

しかも、健と一緒に。

「『あたしと健を隣にするぅ〜』」

健がバカにしたように言う。

「俺の隣、優なんだけど」

「はい……いや、ほらっ」

あたしは必死に言い訳の引き出しを開ける。

「あたしも、夕里の隣……」

「だから」

「んで、ほらっ、あたし、夕里見るから」

もう自分でも何言ってるか分からない。

「まぁ夕里と隣じゃなくて良かった」

「でもね、なんか分かった気もしないでもない」

「何が?」

健の話し方が優しくなった。

「夕里の、視線」

「愛生?」

「何かあの、言えないんだよね。強烈な」

「そう、強烈な」

分かりたくはなかった。

「えっ」

あたしたちは同時に振り返った。

「まさか、だって、ここ、えっ」

「居ない……よね…」

「前、向ける?」

あたしは思い切って前を向いた。

「キャーッ!」

「ちょっ、んだよ。猫じゃん……」

こんなに猫に驚いたの初めて。

けど、今回はきっと居ない。

夕里は、ここに。

健の表情に、全然余裕がある。

「も〜、驚かせてくれちゃって」

「勝手に驚いたんじゃん」

「そーだけど。つか健も十分ビビッてたわよ?」

「ビビってねぇし」

そういえば健、今日は元気かも。

何か良い事でもあったかな。

たまにはね。

健にとっての良い事も起きてくれないと。

「えっ、健?どこ行くの?」

「帰んだけど」

「寄ってってよ」

「はぁ?」







「結局来たくせに」

「呼ばれたから」

可愛いね。

あ、今日なら平気かな。

「健」

「ん?」

「嫌なら答えなくて良いんだけどね?」

「なら答えない」

「とりあえず言わせなさいよ」

「何」

「何があったの?」

健はすぐにその言葉の意味が分かったらしく、
鼻で笑った。

「なんだろうね」

えっ、鼻で笑ったくせに話し方優しい。

「分かんない。気づいたら、って感じ?」

気づいたら、でここまでなるものなのかな。

「そう、か」

「そんな気にしなくて良いよ?」

なんか他人事なんだよな。

「それが出来たらそうしてる。それを、健が心から
望まない限りね」

「愛生……」

少し驚いた顔であたしを見る健にあたしは笑顔を見せた。

健もつられるように笑った。

その笑顔は最高に、誰よりも可愛いものだった。

「まぁどぅーでもいいけど、辛かったり無理なら
言いなさいよ?」

「どぅーでも……」

あたしの言い方。

「そばに居てあげるくらいしか、できないけどね」

「十分」

「健っ!」

あたしは窓の前に立つ健に後ろから抱きついた。

「愛生?」

「ずーっとそばに居ろよ?」

「愛生が拒絶反応起こさなきゃいくらでも居てやる」

そんな日は来ない。

あたしには、健が居ないと。

「あたしもしょうがないから居てやる」

「恩っ着せがましい女」

「それがあたし」

「そこが好き」

うわっ、暑っ。

あたしは健から離れた。

「まぁ、イケメンくんが怒んなきゃな?」

「は?」

「銀杏の彼」

銀杏の彼。

「銀杏の彼は付き合ってたわけじゃないから」

『あたしたちも付き合うわけじゃない』

そう、続けたかった。

「俺はしょうがないから付き合ってやってもいいよ?」

「バーカ。あたしが嫌」

「まぁ人生初のお付き合いが幼馴染ってのもな」

別に良いよ。

健なら。

最高の友達なんだから。

「フンッ」

「何」

「べ、別に?」

「漫画みてぇな奴」

「バカ!るっさい!」

「ハハハッ」

笑った。

健が笑った。

普段も笑ってるのにね。

いつも嬉しい。

あの、独得な笑い声を聞く度に。

「何笑ってんのよ」

「別に?」

「フンッ」

「ハハハッ、ほんとに変な奴」

「健にだけは言われたくないわよ!」

そう言って振り返った時、健の笑顔がオレンジ色の太陽に照らされていた。

なんとなく、寂しかった。

何故かは分からない。

本当に、なんとなく。

「愛生も結構急に変わんぞ?」

「バカ!健ほどじゃない!」

「ふーん」

健は壁の時計を確認した。

自分の部屋じゃなければ平気なんだ。

「じゃっ」

「帰んの?」

「嫌?」

かなり。

「別に?何言ってんのよ」

「ハハハッ」

笑い方が自然。

学校でも笑ってくれるけど、声も出さないし、
一番笑っても鼻で。

「あっ、ちょっ」

あたしは階段を駆け下りた。





「また明日」

「無理すんなよ?」

「わあってっから」

「よろしい」

あたしは健の後ろ姿を見つめた。

あの、細いのに頼れる、後ろ姿を。

たまには人のことも頼れよ?


<2016/08/02 12:15 秋の空>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.