私の隣の席には、健くんがいた。
健くん……
私は静かに席に座った。
「夕里…さん……」
さんなんて付けなくていいのに。
「ん?」
「えっ、あっ……何でもない……」
「そっか」
ゆっくりでいいよ。
少しずつ、健くんと仲良くなれたら。
いつか、少しずつ、健くんが心を開いてくれたら。
どれだけ時間が掛かったっていい。
健くんが、何も考えずに、本気で笑えるようになってくれたら。
健くんがそうなるのに、もしも私が必要なら、私は
いつまでもそばにいるし、その時、何でもする。
「健くん」
あっ目、合わせてくれた。
知ってからだと、ひとつひとつが嬉しい。
「無理に笑わなくて良いよ?」
健くんは斜め下辺りに目を逸らした。
「無理に笑っても、良い事なんてないよ?」
なのに、分かってくれない人は笑わせようとする。
「あと、無理な時は、来なくていいんだよ?」
「えっ……」
私は少し笑った。
「もう、こうしてるだけで頑張ってるんだもん。頑張り
過ぎてるんだもん」
健くんは笑った。
少し、無理してるように。
いつか健くんが、心から笑える事を願っている。
いつか、いろいろ言い合いたいね。
「あの……なんで……」
健くんは自分の手を握った手を包むようにして言う。
「ん?なに?」
こんなに優しく話したの初めて。
あの人にも、もう少し普通に話してた。
「いや……あの…」
「大丈夫。また言えるって思ったらまた教えて?」
もちろんそれが今なら、今。
何があってこんなふうになっちゃったんだろう……
まだ、教えてくれないだろうけどね。
もうなんだか、全身震えてる感じ。
唇も噛み、手の震えも必死に抑えてる。
私に、この震える手を包み込んであげられたら。
健くんの辛さを考えたら泣きそうになる。
触れてあげたいけど、まだダメだよね。
最初、何か悩んでるのかと思ったけど、悪化しちゃったんだね。
ごめんね。
なかなか気付いてあげられなくて。
呼吸も浅く早い。
過呼吸、か。
なんでそんなに辛いのに来たの?
休めば良かったじゃない。
「今日は帰る?」
「だい……じょうぶ……」
「じゃあ一回、保健室行こ?大丈夫。私もそばにいる」
健くんはお辞儀をするように頷いた。
私はちょっと待ってね、と言って通路の方へ。
「良いよ」
健くんはゆっくり立ち上がった。
えっ、支えてあげるには背が高い。
高すぎる。
だから私は健くんの腰の辺りを支えた。
「ゆっくりね」
「ごめん……」
「大丈夫だよ。気にしないで?」
「うん……」
あのクールな健くんは、作ってたんだね。
あんな感じなら、誰も声なんて掛けないだろうから。
私たちはゆっくり保健室に向かった。
あの人のことを連れて行った時も、これくらいゆっくり
歩いた。
きっと普通に歩いてたらもうとっくに着いてる。
「おっ、お疲れ」
私はそっと保健室のドアを開けた。
「わっ!あららどうしたの?」
あらら。
「ちょっと休んでいいですか?」
「あっ、はいはい」
私たちはベッドを囲んでるカーテンの中へ。
「寝な?」
先生が優しくそう言う。
「なんか……すいません…」
健くんは静かにベッドの上へ。
「大丈夫。疲れちゃったのよ。きっと」
この人も何か知ってるのかな。
「じゃ、すいませ〜ん」
私はそう言ってカーテンを閉めた。
健くんはベッドの上に座り、下を向いた。
「ごめんね。一人の方がいい?」
健くんはゆっくり首を振った。
私は笑ってベッドの隣に置いた椅子に座った。
「じゃあ今日はゆっくりしようね」
「ごめん……」
「大丈夫っ。気にしないで?」
私が言うと健くんは小さく頷いた。
私は何も言わずに健くんの長い脚から震える手までに
布団を掛けた。
そして健くんは私を見た。
私はそんな健くんに笑顔を見せた。
「ゆりさん……」
私は何も言わずに健くんの顔を見た。
「俺……ゆりさん…」
私は布団の上から健くんの手に触れた。
健くんは深めの呼吸をした。
そういえば呼吸、落ち着いてたね。
「ごめん……まだ…だめかも……」
「そっか。良いよ。いつでも」
健くんはなんとか笑っているような笑みを浮かべた。
無理に笑わないでよ。
もっと悪くなっちゃうよ?
私は布団の上から健くんの手をそっと叩いた。
その時、布団が濡れた。
私はつい健くんの顔を見る。
その顔がいつもと違うのは、頬が濡れてるか濡れてないかだけだった。
なんて静かに泣く人なんだろう。
健くんは布団から手を出し、涙を拭った。
その時も、表情は無かった。
「大丈夫」
健くんの涙は、布団と健くんの制服をどんどん濡らして
いった。
ずっと我慢してたんだね。
辛かったね。
今日は、全部流して。
「健くん……」
私が言った時、健くんが鼻をすすった。
健くんの涙が溢れ始めてから、健くんが初めて出した音。
「んっ、うぅっ……」
「大丈夫」
私は健くんの背中を優しくさすった。
「ゆり……はっ…うぅ……」
「良いよ。大丈夫」
これが、初めて私が見た、最高に人間らしい
健くんの姿だった。
健くん……
私は静かに席に座った。
「夕里…さん……」
さんなんて付けなくていいのに。
「ん?」
「えっ、あっ……何でもない……」
「そっか」
ゆっくりでいいよ。
少しずつ、健くんと仲良くなれたら。
いつか、少しずつ、健くんが心を開いてくれたら。
どれだけ時間が掛かったっていい。
健くんが、何も考えずに、本気で笑えるようになってくれたら。
健くんがそうなるのに、もしも私が必要なら、私は
いつまでもそばにいるし、その時、何でもする。
「健くん」
あっ目、合わせてくれた。
知ってからだと、ひとつひとつが嬉しい。
「無理に笑わなくて良いよ?」
健くんは斜め下辺りに目を逸らした。
「無理に笑っても、良い事なんてないよ?」
なのに、分かってくれない人は笑わせようとする。
「あと、無理な時は、来なくていいんだよ?」
「えっ……」
私は少し笑った。
「もう、こうしてるだけで頑張ってるんだもん。頑張り
過ぎてるんだもん」
健くんは笑った。
少し、無理してるように。
いつか健くんが、心から笑える事を願っている。
いつか、いろいろ言い合いたいね。
「あの……なんで……」
健くんは自分の手を握った手を包むようにして言う。
「ん?なに?」
こんなに優しく話したの初めて。
あの人にも、もう少し普通に話してた。
「いや……あの…」
「大丈夫。また言えるって思ったらまた教えて?」
もちろんそれが今なら、今。
何があってこんなふうになっちゃったんだろう……
まだ、教えてくれないだろうけどね。
もうなんだか、全身震えてる感じ。
唇も噛み、手の震えも必死に抑えてる。
私に、この震える手を包み込んであげられたら。
健くんの辛さを考えたら泣きそうになる。
触れてあげたいけど、まだダメだよね。
最初、何か悩んでるのかと思ったけど、悪化しちゃったんだね。
ごめんね。
なかなか気付いてあげられなくて。
呼吸も浅く早い。
過呼吸、か。
なんでそんなに辛いのに来たの?
休めば良かったじゃない。
「今日は帰る?」
「だい……じょうぶ……」
「じゃあ一回、保健室行こ?大丈夫。私もそばにいる」
健くんはお辞儀をするように頷いた。
私はちょっと待ってね、と言って通路の方へ。
「良いよ」
健くんはゆっくり立ち上がった。
えっ、支えてあげるには背が高い。
高すぎる。
だから私は健くんの腰の辺りを支えた。
「ゆっくりね」
「ごめん……」
「大丈夫だよ。気にしないで?」
「うん……」
あのクールな健くんは、作ってたんだね。
あんな感じなら、誰も声なんて掛けないだろうから。
私たちはゆっくり保健室に向かった。
あの人のことを連れて行った時も、これくらいゆっくり
歩いた。
きっと普通に歩いてたらもうとっくに着いてる。
「おっ、お疲れ」
私はそっと保健室のドアを開けた。
「わっ!あららどうしたの?」
あらら。
「ちょっと休んでいいですか?」
「あっ、はいはい」
私たちはベッドを囲んでるカーテンの中へ。
「寝な?」
先生が優しくそう言う。
「なんか……すいません…」
健くんは静かにベッドの上へ。
「大丈夫。疲れちゃったのよ。きっと」
この人も何か知ってるのかな。
「じゃ、すいませ〜ん」
私はそう言ってカーテンを閉めた。
健くんはベッドの上に座り、下を向いた。
「ごめんね。一人の方がいい?」
健くんはゆっくり首を振った。
私は笑ってベッドの隣に置いた椅子に座った。
「じゃあ今日はゆっくりしようね」
「ごめん……」
「大丈夫っ。気にしないで?」
私が言うと健くんは小さく頷いた。
私は何も言わずに健くんの長い脚から震える手までに
布団を掛けた。
そして健くんは私を見た。
私はそんな健くんに笑顔を見せた。
「ゆりさん……」
私は何も言わずに健くんの顔を見た。
「俺……ゆりさん…」
私は布団の上から健くんの手に触れた。
健くんは深めの呼吸をした。
そういえば呼吸、落ち着いてたね。
「ごめん……まだ…だめかも……」
「そっか。良いよ。いつでも」
健くんはなんとか笑っているような笑みを浮かべた。
無理に笑わないでよ。
もっと悪くなっちゃうよ?
私は布団の上から健くんの手をそっと叩いた。
その時、布団が濡れた。
私はつい健くんの顔を見る。
その顔がいつもと違うのは、頬が濡れてるか濡れてないかだけだった。
なんて静かに泣く人なんだろう。
健くんは布団から手を出し、涙を拭った。
その時も、表情は無かった。
「大丈夫」
健くんの涙は、布団と健くんの制服をどんどん濡らして
いった。
ずっと我慢してたんだね。
辛かったね。
今日は、全部流して。
「健くん……」
私が言った時、健くんが鼻をすすった。
健くんの涙が溢れ始めてから、健くんが初めて出した音。
「んっ、うぅっ……」
「大丈夫」
私は健くんの背中を優しくさすった。
「ゆり……はっ…うぅ……」
「良いよ。大丈夫」
これが、初めて私が見た、最高に人間らしい
健くんの姿だった。
